意思を持った次元の歪み
せんとうに はいった
という文字と共に3D画面とフルオーケストラBGMに切り替わり、ひしゃげた顔が三つあるタコが映し出される。
もみもみ
まにゅまにゅ HP7285
そうにゅう
ちょうひっさつ
と変化したコマンドが表示され、一瞬戸惑うが、隣で腕を組んだショラに
「迷わんでええ。こいつをうまく扱えるのはみーちゃん夫婦くらいや」
そう言われ、多分みーちゃんって婆ちゃんのことだよな……と思いながら ちょうひっさつを選択した。同時に全身に悪寒が走る。チリが椅子に座っている俺の膝の上に登ってきて抱きついてきて、ファイ子も青い顔をして椅子にしがみついた。3D画面内の異形のタコまでも背中を向けて逃走しかけて、いきなりその巨体を、さらに巨大な漆黒の霧状の右手に掴まれた。なぜかちょうひっさつの技名も表示されない。
異形のタコは霧状の右手に形が歪むほど揉みしだかれて、その三つの顔の長い口から虹色の物質を吐き出していく。BGMもいつの間にか逆回転フルオーケストラの気色悪いものに変化していた。
ショラが腕を組んだまま
「みーちゃん、そこにおったんかあ」
俺は吐きそうになりながら必死にコントローラーを握っている。チリも震えだして、ファイ子も俺の右肩に頭を突っ伏して、長い腕を俺の体に回して抱きつきながら
「全知全能なるマ・イカ神様……哀れなる我らをお助けください……我らの罪をお赦しください……」
とブツブツとエリンガ人たちの神に祈り始めた。たぶん三十秒ほどの時間だったが、永遠にも感じる気持ち悪さが消えるのと同時に画面上の右手も消え、三つの顔が白目を向いたタコが力なく浮いていた。
おそうじスコア−100点 きょうりょう
元に戻ったフルオーケストラBGMに乗せて婆ちゃんの多重コーラスが
「きょうりょうよーきょうりょうよーせまいりょうけんよーあたまつかってー」
と歌ってきて、何とか頭をあげたファイ子が
「……狭い、目盛りの量で狭量ですねえ……恐らくはチート技みたいなものを使って簡単にクリアするなと言われているのかとお……」
「なんだったんだよ今の……」
俺にしがみついたままのチリは今にも吐きそうだ。ショラが軽く咳払いすると
「意思をもった次元の歪みや。詳しくは面倒やから説明せんけど、ヤバいもんやな」
「と、とにかく休憩しよう……」
画面はドットの海図とチープなBGMに切り替わった。タコも消えている。
チリを抱えあげてくれたショラ以外フラフラの状態で薄暗いバーにたどり着き、別々のソファに三人とも横になる。ずっと、とんでもないゲームをさせられているのは間違いない。ショラは三人それぞれのリクエストに沿って飲み物を作ってくれたあと、カウンター席に腰掛けて
「チリちゃんから聞いたんやけど、ナニコちゃんとか言うスーパー人間探しとるんやな」
近くのソファで横たわった俺が
「どこにいるか知りませんか?」
ショラは少し黙ったあとに
「龍のパーくんの体内やないかな。あの子の肛門内にはイボボボンガツーっていう寄生生物が巣を作っててな。そこにおるんやないかなあ?」
「……なんですかそれ……」
「パーくんの話では、最初のイボボボンガたちは宇宙に旅立ったんやけど、また似たようなのが発生して困っとるらしいで」
「全く言ってる意味がわからないですけど……」
まだ気持ち悪いのも相まって1ミリもわからない。ショラは黒頭巾を捲り骸骨の顔で笑うと
「休んだら行ってみたらええよ。わしも新しい体作ってもらわんといけんし」
「あっ……今更だけど……」
上半身を起こして謝ろうとすると、手を横に振って止められて
「いらんいらん。そろそろ変えたかったとこや。気にせんでええ」
と言われ落ち着く。




