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エリンガ人緊急ホットライン

ファイ子は一度大きく深呼吸をすると

「不純異性交遊はいけませんよお」

といつもの調子で言ってきた。

でも全身は濡れているし、格好も変だしそもそも俺の家に勝手に上がり込んでいるしで、どこから言ってやろうかと俺が思っているとチリがスッと立ち上がって、ファイ子の目の前に立って、黙って扉を閉めた。するとファイ子が扉を開けて、またチリが閉めるといったことが十数回続いたあとに、ファイ子はチリを押しのけて入ってきて、座布団に正座で座った。


チリは俺に抱きついて、ファイ子を睨んでいる。

「いいですかあ?思春期の男性が女性と後尾などしたら男性ホルモンが脳と身体に活発に働いてしまいますよお?もっと男性的になってしまいますけれどー」

ファイ子は真剣な眼差しで言ってくる。

「それで困るのはあんただけでしょっ!」

チリが涙目で文句を言うと、ファイ子はいつもの動じない顔で

「私は、彼の身を心配しているのですよお。せっかくの魅力が減ってしまいますがあ」

俺とチリは絶句する。ファイ子は続けて

「とにかくですねえ。駄目ですよお?」

真面目な表情で俺たちを見つめてきた。

とりあえず話題を変えようと俺が

「なんで濡れてるんだよ」

ファイ子は一瞬固まって

「……培養液から急いで出てきたんですが」

とだけ言って俯いた。

チリが少し怯えながら

「き、聞いたことある……エリンガ人は本当は人型じゃないって……」

ファイ子は真顔で

「私は違いますよー。この姿が本当ですがあ。でも体はメンテしないと……。」

と言った瞬間に、丸机に突っ伏して動かなくなった。

「し、死んだの……?」

「そ、そんなわけ無いだろ……」

俺達は、恐る恐るファイ子に近寄る。

そして突っ伏した頭に近寄ると寝息が聞こえてホッとした。とりあえずバスタオルを持ってきて、水着ごと体をチリに拭いてもらっている間、俺のベッドのシーツを急いで代え、ファイ子を寝かせて布団を被せた。

そして二人で並んで見下ろしながら

「こいつ、このままじゃまずいよな」

「うん。私たちのお泊りの邪魔になる」

俺はチリを思わず見てしまう。どうやら最初から泊まるつもりだったらしい。しかもここまで混ぜっ返されても、まだ諦めていないようだ。

「……と、とにかく、どこかに連絡しないと」

「確か、エリンガ人緊急ホットラインってあるでしょ?」

「あ、ああ、エリンガ人と地球人が問題起こしたら電話するやつだよな……」

学校で定期的に市役所が作ったプリントが配られるので番号はよく覚えている。

チリは学生カバンから携帯電話を出してカパッと開くと番号を素早く押していた。

「お前、携帯持ってたのか……」

初めて知った俺の横でチリは冷静に

「ええ、そうです。田畑高校のファイ子さんです。住所も言わなくて良いんですか?ではお願いします」

と電話を切ったあとに

「何か、何も言わなくても、全部わかってたみたい。すぐ向かうって」

「なんだよそれ……こええな……」

とにかく待つことにする。


3分もすると、空から車4台分ほどの大きさの鈍く光る円盤型の飛行物体が俺の家の前に降下してきた。二階の自室の窓から見下ろして呆然とする。

「まじで迎えがUFOじゃねえか……」

チリは感心した顔で

「あれって逆に地球人に分かりやすい形にしてるんだってよー?」

「映画とかの宇宙人らしくってこと?」

と話していると、UFOの横が開き、中から真っ赤な髪を肩まで伸ばして、紺色の作業服を着た長身で細面のイケメンが降りてきて、二階の俺たちを見上げ、目が合ったと思った瞬間には信じられない高さを跳躍して、窓からこの部屋に上がり込んで来ていた。

「あの……」

「申し訳ありませんが、日本政府との条約の関係で、二分以内に回収しないといけないので。痕跡は残しません。ご安心を」

低く魅力的な声色でそう言いながら、赤髪のイケメンは素早くファイ子を抱き上げると窓から連れ去って、UFOに乗り込み。扉が閉まるのと同時に空の果てまで上昇して消えて行った。

きっと俺はアホみたいな顔でそれを見上げていただろう。

チリが俺の手を握って

「これで、お泊りできるね」

と嬉しそうに言った言葉も右耳から左耳に流れていった。

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