エネルギー源
すぐにチリと祭壇に駆けつけ
「ファイ子!大丈夫か!」
「ファイ子ちゃん!」
と声をかけると、ファイ子は薄目を開けて
「水を……」
とだけ言って目を閉じた。俺はすぐにファイ子を担ぎ上げて、チリはエレベーターのある柱のスイッチを押し、素早い連携でファイ子をバーまで連れて行った。壁際のソファに俺がファイ子を寝かせた時には、チリが水の入ったコップを差し出してきていて、ファイ子の上半身を起こして飲ませると、猛烈にむせたあと
「塩を……」
と言ってきて、カウンター裏からあっという間にチリが塩の袋を掴んでくると 、ファイ子は受け取って、パラパラと水に塩をまぶして一気に飲み干した。
瞬く間に血色の良くなったファイ子にチリと安堵していると、ファイ子は何も着ていない自分に気付いた表情で自分の胸と股間を腕と手で隠した。チリと回れ右してバーの裏に走り 、倉庫から毛布やらバスタオルを引っ張り出してチリにまとめて渡し、ファイ子に渡してもらう。
バスタオルを体に巻いたファイ子は
「とんでもないことが起きましたあ」
と俺たちに語り始めた。
「エネの一部を取り込んでから、とにかく私は脱ぎたくて、えいなりのお爺さんと愛し合いたくて仕方ありませんでしたあ」
そこまでは知ってる。と思いながら聞く。
「私はいつの間にか、全身を管に繋がれてえ、機械の中にはいましたあ」
多分祭壇と共に床下に吸い込まれたあとのことだろう。
「管は私の体のあらゆる穴に繋がれていて、そこから覚えているだけで3回、猛烈な勢いで、エネルギーのようなものが吸われていきましたあ。一回目は大量に一回で、二回目は少しで、三回目は少しの量を何度も吸われましたあ」
……三回放ったちょうひっさつの感じと明らかに似ているが、チリと目を合わせて口を閉じる。
ファイ子はそこで塩入りの水を飲み、しばらくうつむいたあと
「……吸われるたびに私の変態欲求と、お爺さんへの愛は薄れていきましたあ。どうやら私は拉致されてえ、無断でエネの人格をすわれていたようですう」
そして複雑な表情になり
「……私は正常に戻りましたがあ……エネの人格の一部があ……」
チリがファイ子のむき出しの肩を優しく叩きながら
「ファイ子ちゃんが治ってよかったよ。エネさんの人格も、きっとまた見つかるよ」
いやどう考えても、ちょうひっさつのエネルギー源として化け物三体に残らずぶち込んで二度と戻らない感じだと思うんだが、俺も優しい顔を作り、ファイ子の横にしゃがむと
「ファイ子、大丈夫だ。またエネは脱ぎたくなるし、爺ちゃんを好きになる」
「そうでしょうかあ……」
いつの間にか俺の背後に居たスーツケースが
「お前何言っとん」と言いたげに
背中に何度もあたってくるが気にせずに
「エネの変態性癖がちょっと吸われたくらいで消えるわけないだろ。安心しろ」
ファイ子は花のように微笑んで
「安心しましたあ……」
俺に強く抱きついてきた。チリも対抗して抱きついてきて、スーツケースは背中にコツコツ当たり続けている。
バーでしばらく休憩することにする。何故かスーツケースは荒ぶり続けていたので、チリが倉庫で見つけた漬物石をありったけ中に詰め、荒縄でグルグル巻きにして、上の階に持っていき、祭壇に乗せてスイッチを押し、床下に沈めてきたと言っていた。
缶詰のカニカマを食べながら
「あのスーツケースなんだったんだろうな」
と隣でビーフジャーキーを齧るチリに尋ねると
「わかんない。なんで勝手に動いてたんだろっ?」
逆隣のファイ子が不思議そうに
「お婆さんはどこですかあ?」
「電車で地球に帰ったんじゃないの?」
「そうですかあ……もっと話したいことがあ」
ファイ子は真剣に残念そうな顔になる。俺とチリは今の状況を正気に戻ったファイ子に説明し始めた。




