何の才能もないけれど
上下左右からビルが突き出して、そこら中に建物が浮いている超巨大宇宙船内を俺たちの乗るUFOは進んでいく。
歴史の授業でエイリアン共のこと習ったっけと首を傾げて考えていると、微かに全体が揺れた。驚いてモニターを見上げると俺たちが乗るUFOがそれこそUFOキャッチャーのように吊られて、整然と似たようなUFOが並ぶ、格納庫内に移動していた。上空からだが、外からの光景もモニターに映るということは、そこら中に監視システムがあって、ネットワークで繋がれているんだろうなと、少し嫌な気分になる。
完全に停止したUFO内から降りるとタラップの先に、ゴルフとか野球のテレビ中継で見るような4人乗りの移動用カートが置いてあって俺チリが前、ファイ子爺ちゃん後ろで乗り込む。ファイ子はホッとした顔で
「元老院のジョークですねえ」
と言って、爺ちゃんが苦笑いして
「変な笑いどころをもっとるなあ」
トロトロとカートは自動操縦で格納庫内を進み始めた。
格納庫の壁や床は恐らく金属製で鈍く鉄色に光る。人けは全く無い。大きな通路に入ると、左右に四メートルくらいの表面が傷だらけのロボットが無数に宙吊りにされていて驚いていると
「船外作業用の宇宙服ですう」
ファイ子が事もなげに言う。
「過酷な旅だったようじゃな」
「我々は資源を大事にするクセがついていますー」
チリが俺の手を握って
「早くしてよ!お父さん死んじゃうよ!」
と堪えきれずに言った瞬間、急にカートは爆走し始めた。
爺ちゃんは落ちそうになった俺とチリを後方から簡単に支えて座らせると
「随分と気を使ってくれとるようじゃわ。ずれとるが」
とため息を吐いた。
カートは長い通路を爆走し続け、全く何も通っていない交差点のような場所で右折し
そのまま透明なパイプに入ると、桃色の泡に包まれてさらに速度を上げる。爺ちゃんは嫌な顔で
「もうテストはいらんぞ」
と言うと、俺たち4人は薄い膜に包まれた。ファイ子は困惑した表情で
「旧式の移動装置は船内では排除されているはずですがー」
「わしの力を測りたいんじゃろうよ」
俺は二人の会話を聞きつつ、とにかく震えるチリの手を握っていた。
パイプは途中で切れて、桃色の泡に包まれたカートは宙を舞い、そのまま前方に見えているまるで悪魔城のような、巨大な突起を何本も持ち、辺りをプラズマが覆う漆黒の建造物に突っ込んでいく。
「5番船のセンターですううう」
と言うファイ子の声がして、俺は気絶した。
……
「えいなり」
「婆ちゃん?」
目を覚ますと自宅の仏間に座っていた。婆ちゃんは正座して目の前で微笑んでいる。いつもの夢らしい。どうしたのと目線を向けると
「チリちゃんのお父さんの容態が安定しました。あとはナニコさんを探せばいいだけです」
「なんでナニコおばさんは必要なの?」
「全身麻痺の障がいが残ります。彼女でないと直せません」
「マジか」
婆ちゃんはいきなり見た目が若くなると、ツインテールを揺らして俺に迫ってきて、顔を近づけ
「あとさーあいつ家から遠ざけられない?」
「エネさんのこと?」
「うん。敷地外……いやできれば集落外まで出してくれないと、私、全部視えちゃうんですけど」
何か急に怖くなってきたので、とにかくフォローしようと
「で、でも爺ちゃんは手を出してないだろ?」
若くなった婆ちゃんは難しい表情で腕を組んで、天井を見上げると
「あの人は昔からモテるのよねえ。悪い虫が山ほど寄ってくるの」
ふと爺ちゃんの少し前の言葉を思い出し
「ナニコおばさんは婆ちゃんの子じゃないの?」
尋ねてしまって猛烈に後悔する。
婆ちゃんは顔面の穴という穴から血の涙やら涎を噴き出して、そのまま一度服ごと身体全て溶け、畳に吸い込まれるように消え失せると、何事もなかったかのように仏間の入口から戻ってきて、俺の前に座り直し
「ふー」
大きく息を吐いて
「えいなりが居てくれて良かったわ。あなたはナニコちゃんの真逆で、何の才能もないけれど、だからこそ私たちの自慢の孫よ」
「言ってる意味がわかんないんだけど」
「爺ちゃんに、容態は安定したと伝えて。あいつに関しては、こっちで何とかするから」
俺が何か言おうとする前に辺りがブラックアウトしていく。




