手懐けた
「ファイ子、悪いけど……」
断ろうとするとナニコから思いっきり背中を押されてファイ子のワンピースに突っ込む。柔らかい二つの何かが当たって、ファイ子が体勢を崩しそうだったので、とっさに抱きかかえると
「え、えいなり……まだ早いですう……」
ファイ子が何かを勘違いしてきた。黒キャップを被って金髪を後ろにまとめ、いつものTシャツとジーンズ姿のナニコが
「さあ!若者三人でお出かけだね!」
と夏の日差しを見上げながら言う。ファイ子は何か言いたげだったが、俺と共にナニコの両脇に抱えられて浮き上がった時には、完全に沈黙していた。
「ナニコさん……電車でいいのでは……」
風を浴びながら俺が言うとナニコはニコッと笑い
「こっちのが速いよ!」
善意に満ちた表情で言ってくる。ファイ子は必死に麦わら帽子が飛ばされないように手で押さえていた。
ナニコは目的地まで直線で飛び、十分もかからずに人けの無い砂浜に着地した。
「ふー……パーくんのおかげで、ケイオス粒子が濃くなったから、未来予測しやすいね」
キャップを外し、ハンカチで額の汗を拭いまた被り直す。ファイ子は不思議そうな表情で
「あんなに飛ばしたのにい……ダメージがありませんねえ」
「未来予測してたからねー。飛んでる所、撮影もされてないよ?」
ナニコは得意げにそう言うと
この砂浜の遠くを一人で歩いている体操服姿の女児を見て
「あっ、いましたねー話しかけにいこー」
そちらに向かい始めた。
ツインテールを揺らしながら俯いて歩いている女児へとナニコは突進するといきなり抱きかかえて
「ミイちゃんいえーい!」
そのままグルグル回り始めた。俺とファイ子も駆け寄ると、女児はナニコから飴玉を貰ってモグモグと舐め始めた。
「誰?」
俺にナニコは
「近所の女の子です!手懐けた!」
得意げに言ってくる。それ、色々とヤバくないかと俺が思っていると、ファイ子が
「つまり、ナニコさんはこの町に何度も来たことがあるのですねえ。その子も実は関係者なのでしょう?」
さっそく頭の良さを発揮して、感性全振りのチリとばかり最近話していた俺は少し嬉しくなる。




