松町中央公園無限フェス
アルハルファデパートの3.5次元側ゲームセンターでヘラナは遊んでいた。
「あーお久しぶりですわー」
腕を上げて元気そうな姿のヘラナに俺とチリは安堵して、同伴してくれた爺ちゃんは微笑む。まだうちの高校の制服姿のヘラナは得意げに
「ここでは汚れません」
と言ってきた。
「トイレとかお風呂はっ?」
チリの言葉にヘラナはさらに得意げに
「たまーに元の世界に戻ってやりますわ。こっちですると、ややこしいことになるんですわね?」
尋ねられた爺ちゃんが頷いて
「できれば痕跡は少ないほうが良いわな。同時に自分が二つの世界に存在することになりかねん」
「私駅のおトイレ行ったよ?」
不安そうになったチリに爺ちゃんは
「アレはちゃんとこっちと繋がっとるんじゃ。エリンガ人は抜かりないからな」
「そっか、駅はよく使うからな」
ヘラナは遠巻きに見ている色鮮やかな人々を見回して
「皆とお友達になりましたわ。エリンガ人の不良と思念体と半々ですわね。思念体の方は触れてはいけません」
「確かに前一人消しちゃったな」
ヘラナはニコッと笑うと
「消えたくなったら向こうから近づくことも多いですから、気にしないでよいですよ。そんなことより、松町中央公園無限フェスが楽しいですわ」
そう言ってきた。
デパート近くの市内中央付近には直径五百メートルほどの四角い公園がある。二つに区切られた公園の東側は石造りのステージとなっており、そこでは時折プロやアマ主催の野外音楽イベントなどが開かれる。俺たち側の世界では。
行ってみて驚いた。公園に入った瞬間から下手なパンクバンドの演奏とガナリ声が聞こえる。ヘラナは得意げに
「エリンガ人のキャンバーターズですわ。毎日練習代わりに出ていますね」
「誰でも出れるのっ?」
チリが期待に満ちた目で尋ねた。それもそのはずでステージの近くは満員だ。そしてパンダメイクとシャレなのかパンダの着ぐるみの男女半々のバンドには、歓声しか浴びせられていない。爺ちゃんが苦笑いして
「野次は飛ばさぬルールじゃ。準備が十分間で持ち時間は二十分。時間も厳守じゃな」
ステージではノリにのって、曲のアウトロで下手なギターカッティングを始めたギタリストが消えた。同時にすべての演奏者と楽器とコードやエフェクターが綺麗に消え失せた。そして丸ごと俺達の近くに出現してきてビビる。ギタリストは残念そうにギターをおろして片付け始めた。他メンバーも静かに片付け出す。
ヘラナは誰もいないステージを見て
「珍しく予約がないようです!飛び入りで行きましょう」
と俺の腕を引っ張ってステージの方へ連れて行く。
ステージにあがった……というか、ヘラナに連れ込まれた俺たちが戸惑っていると、俺の手元に影でできたギター、チリの手元に影のマイク、そして爺ちゃんの手元にはベース、そしてステージ後方には見たことある影でできたドラムセットとドラマーが出現した。爺ちゃんは仕方なさそうに、アンプもコードもないベースを弾くと、デカい重低音がステージから鳴り響く。ヘラナは満足げに
「タカユキさんは面白いベーシストですわ。今日のセットリストは、残念な神が差配する。と、エキドナの結び、あとはそうですわね……」
ヘラナはしばらく考えて
「百万の夜景と千億の金でどうですか?」
爺ちゃんは何とも言えない顔で
「ベースのコード感のみでは限界があるぞい」
「えいなりは自動でコードが合うようにしますわ」
いやまて!何か一切弾けないギターを数百人の前で唐突に演奏させられそうになってるだろこれ!チリはノリノリで
「私も歌うのっ?」
などと尋ねている。大丈夫かこれ!?




