ジョーク
セインの八人乗りワゴン車の助手席に俺は乗り込み、二人で俺の自宅まで向かう。もうすっかり夜中だ。セインはとても上機嫌で
「えいなりに何の才能もないと言ったが、運や血筋も才能と言えなくはないな」
「あんまり嬉しくないなあ……」
努力となんにも関係ないところだ。
「そう言うな。実は私もある国の貴族の姫の生まれだ」
「マジで!?」
思わず大声を出してしまうとセインは嬉しそうに笑って
「しかしな、容姿も生まれも完璧だった私は愚かだった。とてつもなくな」
「全然そんな感じしないけどなあ」
どう考えても、やり手の外国人ビジネスマンだ。日本語も俺より上手いかもしれない。
セインは空いている国道を制限速度を正確に守りながら運転しつつ
「その後、私は社会に出て、想像を絶する苦労をしたんだよ。そして少しだけ賢くなれた」
「そっか……大変だったんだね」
セインは笑いながら
「どんな苦労をしたかというとな。星一個分の不動産を友達の妖精に譲渡したり、宇宙を巡る強情な男女の神々の争いに巻き込まれたりしたんだよ」
「セインさんの母国のジョークいまいちだなあ」
セインは爆笑し始めた。しばらく笑ったあとに
「確かに、繊細に構築されたニホンのお笑いには勝てないな。私はアップタウンブルーはオルタナロックの二千万売れた名盤みたいに思えるよ」
二人組のお笑い界の帝王だ。俺は世代的にはもっと下のエイティーエイトフォー……というより最近売れてるラバラバウトが好きだ。ボケの阿木矢が天才すぎる。黙って聞いていると
「とはいえ、私はトリュフダース世代だからな。トリュフのタンさんが亡くなった時は泣きながら東京に献花に行ったものだ」
もうメンバーがほぼ高齢者の伝説のお笑いグループを出してきた。
「セインさんって……」
いくつなのと聞こうとして失礼かなと黙ると
「……こっち来て確か五十年で……そうだなあ二百歳くらいか?」
「だから、セインさんの国のジョークヤバいって」
セインはまた爆笑しだした。
その後セインのトリュフダースのビスターズの武道館公演の前座でのバンド演奏の、タンさんの弾くベースのスウィング具合がヤバいので最近できた動画サイトに違法アップロードされてるから、ちゃんとイヤホンつけて聞け。などとよくわからないマニアックな話を聞かされていると、あっという間に自宅についた。
爺ちゃんがゲッソリした顔で出迎えてくれて
「セイン、えいなり」
と手招きをしてきたので二人で爺ちゃんと自宅に入り、仏間に向かうと婆ちゃんの生首が顔を真っ赤にして
「ううううううう!口惜しやあああ」
と悪霊みたいなことを言っていた。
「……爺ちゃん……これ」
セインがスッと仏間に入って婆ちゃんの唸っている生首を抱え上げると、首の虹色に輝く切断面を見て
「あー……普通じゃない交わり方するからだ。ミイ、諦めろ。ケイオスが漏れて霧散している」
「セインちゃーん……えいなりーあとは任せたわ。タカユキ!アイルビーバック!」
「ひええっ」
腰を抜かした爺ちゃんに婆ちゃんの生首は宣言するとセインの腕の中から消え失せた。
爺ちゃんはホッとした表情で
「行ったか」
と呟いた次の瞬間、仏壇が開いて婆ちゃんの遺影が勢いよく飛び出してきて、爺ちゃんはセインに抱きついて震えだした。セインは今日は怯える爺ちゃんと仏間で朝まで飲むと苦笑いして、俺に約束の1万円を渡してくれた。
色々とよくわからなかったが、1万もらったのでヨシ!と自分に言い聞かせ、俺は自室に戻る。




