プロテクト
というわけで、目深にキャップを被ったショラと共に電車に乗って夜の街に出てきた。街の駅から大体十五分歩いた場所に、雑居ビルが立ち並ぶ路地があり、そのうちの一つの狭いロビーからエレベーターで5階へと上がる。そして奥の部屋の扉をショラが開けると、殺風景な廊下の先の部屋の真ん中に、黒シャツと黒ジーンズ姿のセインがあぐらをかいて座っているのが見えた。
二人でセインに近づくとこちらを見てきて
「ああ、来たのか」
と近くに座るように促してくる。
「えいなり、ニュース見てるか、大騒ぎだな」
「学校でも話してるやついたけど、みんな何か諦めてる感じだったよ」
要するにパーくんのことだ。俺はそれほど耳に入ってはこなかった。疲れているらしい。
セインはニヤリと笑い
「このビル全体をショラゲンドールの事務所にする予定なんだが、違和感に気付けるか?」
「わかんないなあ」
セインは満足そうに頷いて
「ここは時空間が歪んでるんだよ。幽霊ビルとか言われて、安く買えたな」
ショラが苦笑いして
「3.5次元と繋げやすいから、移動拠点として使えるってことやろ?」
セインが楽しげに頷くと
「如行南番線とはさっき契約してきた。ほら猿の顔の電車な」
「あれで移動するのかあ」
悪くはない。渋滞とかそういうことは無縁だと思う。俺が頷いているとセインが真剣な表情で
「このビルの三階真ん中の部屋に居座ってるのを退けて貰えないか?」
と言ってきた。
「なにがおるんや?」
というショラの問いにセインは
「めんどいやつだ。ニホンの言葉で言うと悪霊だな」
俺が嫌な顔をするとセインは
「大丈夫だ。えいなりには見えないからな」
とニヤリと笑う。
三階中央の部屋を開け電気をつけると、玄関先の廊下は埃とダンボールだらけだった。整理はされていたようなので辛うじてゴミ屋敷的な感じではないが、セインも立ち入っていないのは積もった埃でわかる。土足でいいとセインが、言ったので、俺先頭でひんやりした廊下の埃に靴跡をつけながら奥の部屋の扉を開ける。
次の瞬間、ショラは舌打ちをした。
カーテンの閉め切られた、薄暗いその部屋には大量のダンボールに囲まれるように、真ん中に一体の裸のマネキンが寝ていた。俺の背後のセインがショラに
「ダンボールの中は女ものの下着や制服、リコーダーの吸い口とかだらけだ」
ショラが深くため息をつき
「特殊能力もった変態泥棒の倉庫やったんやな。ヤバい番人がおるわ」
「えいなり、何か感じるか?」
セインに問われたので、室内を見回してみるが何も感じない。俺が首を横にふるとセインは悪い笑顔を浮かべ
「まず、カーテンを開け、窓を開けろ」
言われたとおりにして、空気を入れ替えると廊下から見ていたセインがニヤリとして
「マネキンを抱き上げろ」
少し不気味だったがやっても何も起きなかった。ショラが感心した顔で
「とんでもないプロテクトやなあ。一体何重になっとるんや」
セインがニヤニヤしながら
「えいなりはただの人間だが、あいつの親族に人間は一人も居ないからな。とてつもない守られ方してるよ」
俺は思わずマネキンを落とす。マネキンは床でバウンドして手足が取れてしまった。
「いや、婆ちゃんとナニコおばさんはたしかに怪しいけど、他は人間だろ」
セインは笑いながら
「冗談だよ。私もタカユキもお前の親も人間だ。せせこましく生活をする、か弱い人間だな」
そう言いながら部屋に入ってきて、ダンボールの一つを開けると、体操服とブルマが大量に入っていた。セインがさらに別のダンボールを開けると女性ものの下着だらけだった。セインは鼻で嗤って
「中身は全部燃やすべきだな」
「犯人も恐らく何年も前に死んどるわな」
ショラがそう言って、足元を見るとマネキンの離れた手が足首を握っていた。俺は手招きされたので、近寄るとマネキンの手は力無く床に落ちる。セインが
「観測しない、認知しない力だな」
ショラも頷いて
「えいなり君の中で本当に無いものになっていることは、近づくと消えるんやな」
何か嬉しくなって
「それが、俺の特殊能力なのか……」
というと、二人は同時に首と手を横に振り
「君の家族親族のかけたプロテクトや」
「えいなりには特別な力なんてないぞ」
否定された。何か悔しいのは何でだろう……。




