おはようございます
ショラがチャンネルをリモコンで変えていると、かなりの遠方から宇宙空間に爆発や無数のレーザー照射がなされている映像が見つかった。英語で何かボソボソ喋っているが意味は分からない。ショラがⅡ
「全くダメージを与えられていないって、言うとるわ」
「この映像は……」
「攻撃用宇宙船のメインモニターやろなあ。そろそろ11分過ぎるか?」
「たぶん……」
いきなり全ての攻撃が止まり、既に龍の半身が霧状のワームホールから出ているのが映ると
「オーマイガッ!」
と言う英語と舌打ちが聞こえた。映像内の龍は虹色に光り輝きながらスルスルと身体を霧から出していき、そのまま青く光る地球へと、長大なそのドラゴンボディをくねらせて、宇宙空間を泳いでいく。背後では虹色の霧が薄れて消えていった。
散発的なレーザー照射や、爆発はあるが全く意に関せず地球に向かう龍に、絶望した声色の英語での複数の祈りのような声がが聞こえてきた。
震えながらしがみついているチリが
「え、えいなり、トイレ行きたい……」
同じく震えながら逆にしがみついているファイ子が
「チ、チリさんが1人で行ってくださいー……」
力無く文句を言う。仕方ないので左右からしがみつかれながらトイレに向かいチリを便座に乗せて扉を閉める。しかし何をやってるんだろうな。帰ったら世界大戦は始まってたとか絶対嫌だ。何とか平和に終わって欲しいと震えるビキニのエイリアンに抱きしめられ、トイレの水が流れる音を聞きながら考える。
また左右をしがみつかれたままソファに戻ると、婆ちゃんも室内に戻って来た。そして立ったまま画面を悠々と泳ぐ、発光する龍を見てため息をついて
「ホントに手間がかかる子よ」
そう言うとソファに沈み込む。ショラが
「そろそろワームホール開いて、みーちゃんと旦那に家に戻れる距離やろ?」
婆ちゃんはダルそうに頷くと
「あとはナニコちゃんがやってくれるわ」
と立ち上がろうとした瞬間にサッと横に避ける。今まで婆ちゃんが居た場所に焦った顔のナニコはワープしてきた。
「パーくんお腹痛いって!こんなに嫌われるとは思わなかったんだって!」
婆ちゃんは顔を覆ってソファに座り込み、ショラが苦笑いしながら
「まあ、なんもせんと分かったら、地球人たちもパーくんがおる日常に慣れるやろ」
婆ちゃんがダルそうに
「それまでは散々ちょっかいかけられるだろうけどね。無知な地球人とエリンガ人が諦めるまでは放っておけ、慣れたあとには仲良くなれるからって、ショラちゃんが言ってたと伝えてくれる?」
「わしも同意見やからそれでええで」
ナニコは安心した表情で頷いて、その場から消えた。
しばらく呆然とテレビを眺めていると、元ゴリラ達からしがみつかれている俺を婆ちゃんは見て
「えいなり、チリちゃん帰るわよ。ついでにそこの宇宙人も来なさい」
「わしとヘラナちゃんもええよな?」
ショラに婆ちゃんは頷いて立ち上がり、部屋の壁を見回すとトイレの扉を指さして、パチッと右手の指を鳴らし、そして近づいて扉を開けた。なんと、扉の向こうには夜の街灯に照らされたうちの庭が広がっていた。いつの間にかヘラナを背負っていたショラが足早に入っていき、左右を元ゴリラにしがみつかれている俺が身体を横にして、開いた扉をくぐると、そこは月明かりと街灯に照らされたうちの庭だった。
既に自宅の仏間の縁側から出てきたらしき作務衣を着た爺ちゃんが、ショラと話し込んでいて、俺たちを見ると安堵した顔で近づいてきた。
「よう帰った。大変じゃったじゃろ?」
俺が元ゴリラ2名にしがみつかれたまま頷くと、爺ちゃんは俺の背後を見て
「なんてことじゃ……再び、身体を……手に入れてしまったのか……」
いや、そこまで狼狽する?というくらい驚いて、尻もちをついてしまった。
俺達の後ろからは
「あっ、タカユキー見てえ、前よりお胸が大きいわよー」
なんだよそのノリ!孫の前で止めてくれよ!という甘えて媚びた声の婆ちゃんが座り込んだ爺ちゃんに覆いかぶさるように抱きついた。若い婆ちゃんから頬ずりされている爺ちゃんは真っ青な顔をしていた。仏間から父親と母親が顔を出してきて、父親が驚くより呆れた顔で
「母さん、父さん、家に戻らないともうパーくんが日本を視界に入れる頃ですよ」
「そうねっ!タカユキ!今夜は寝かさないから!」
「……」
爺ちゃんは白目を剝いて婆ちゃんから抱え上げられ、縁側から仏間に入っていった。エプロンをしている母親から
「えいなり、チリちゃんとファイ子ちゃんと家に入りなさい。お二人もどうぞ」
落ち着き払って言われたので、ああ両親もこうなると知ってたんだな理解する。
仏間に長く足の低いテーブルが置かれ、うちの両親と俺達全員、ちなみにヘラナは寝たままだ。それから憔悴している爺ちゃんに抱きついたというか、もはや絡みついている若くなった婆ちゃんが周囲を囲んだ。そこにナニコもワープしてくる。俺の母親を一瞥すると
「ポスィちゃん、パーくん落ち着いたよ。地球にかなり近づいたからあのドカーンってする核兵器?使えないみたいだね」
「ナニコさん、スイですよ」
「あっ、ごめーん……」
母親は頷くと、婆ちゃんを見て
「お義母さん、いよいよ計画を発動するのですね?」
婆ちゃんはニコニコしながら頷いて
「時空間ギャップを埋めるための地球安定化計画を発動するわ」
父親も頷いて、モジャモジャの癖毛をかくと
「まあ、僕もこのときのために長い間、奔走してきたわけですし」
婆ちゃんは苦笑いして
「シゲヒコ、あなたは頭が切れすぎるからもう動かなくて良いわ。あとはえいなりがやってくれるから」
爺ちゃんも頷いて
「お前は儂らを欺くくらい賢すぎるからのう。わしや、えいなりくらいが丁度良いわ」
いきなり縁側からセインが入ってきて
「十年早いと思うんだがー。私、これからのサブスク文化の興隆を楽しみにしてたんだがな」
とよくわからない文句を言って、爺ちゃんと婆ちゃんの隣に座った。
婆ちゃんは爺ちゃんに絡みついたまま笑いながら
「というわけで!子供は寝なさい!スイさん!よろしく!」
母親が立ち上がるとヘラナを軽々と背負い、俺とチリとファイ子を仏間から出るように促す。ナニコも一緒に出ようとするがサッとセインから手を取られて
「おい、とっくに大人枠だろ」
と言われ渋々と座り直した。
元ゴリラ勢たちとヘラナは母親が客間に布団を敷いて泊まらせることになり、俺は久しぶりに1人で自室に戻った。テレビをつけるとどこの局も地球周辺の軌道上に虹色に光る巨竜が居着いたという話題しかやっていない。携帯のネットに繋いで、うちの学校の掲示板を見ても不安と興奮の書き込みばかりでパケット代がもったいないのですぐ閉じた。寝る前に歯でも磨こうかと一階に降りて仏間の前を通ると
「だからさーもう無理だってえ」
「いやケイオスの降下速度を上げればな」
「ニャンヒカルは逮捕されそうかのう」
「もう国際警察に指名手配されてるわ。帰還と同時でしょうね」
「時空間の並べ直しを……」
などと何か怖い話が聞こえてきたので聞かなかったことにして仏間の前の廊下を通り過ぎる。
気付いたらベッドで寝ていて朝になっていた。何かとても長くて馬鹿らしくて怖いシュールな夢を見ていたなと上半身をベッドから起こすのと同時に、部屋の扉が開いて
制服姿のチリ、ファイ子、ヘラナが声を揃え
「おはようございます!」
と元気よく言ってきた。夢じゃなかったらしい……うわー……何かヘラナもうちの高校の制服着てるし……。