どん兵衛を朝から食べたい人が9割もいるわけないだろ
何気なくテレビを見ながら夜食を食べていたら、番組の合間に偶然にも『どん兵衛』のCMが流れ始めた。
よくあるCMかと思って見ていたら、途中、画面にデカデカと円グラフが表示され、さらに「朝どん兵衛食べたい」人の割合が93%という数字もデカデカと映し出され、男の声で「朝にどん兵衛を食べたいっていう人、実は9割もいるらしいですよ」という音声が流れてきた。
すかさず、僕はツッコミを入れる。
「そんなにいるわけねーだろ」
僕の感覚とのズレがひどすぎて、一瞬、僕は異世界に迷い込んでしまったのかと錯覚したほどだ。
……もちろんウソだけど。
しかしまぁ、そもそも朝から好き好んで『どん兵衛』を食べたいなんていうヤツが、果たしてこの日本にどれだけいるだろうか。
まともな感覚の持ち主であれば、朝から『どん兵衛』なんか食べたいとは思わないはずだ。
仮に朝から『どん兵衛』を食べるヤツがいたとしても、それはべつに好き好んで食べているわけではなく、手軽に作れるからとか、食費を節約したいからといった別の理由で仕方なく食べているに違いない。
現代日本は食べ物に溢れている。
そんな中、朝にどん兵衛を食べたいっていう人が9割もいるなんて、ウソもたいがいにして欲しい。
よくもこんなウソを堂々とCMで流したものである。
呆れてモノが言えない。
ところが、次にまた『どん兵衛』のCMが流れて円グラフが表示されたとき、右下に小さい文字で何やらごちゃごちゃと注釈らしきものが書いてあることに気付いた。
だが文字が小さすぎて、何と書いてあるのかが読めない。
気になってYouTubeで改めてCMを見たところ、そこにはこう書かれてあった。
「※出典:WEBアンケート2024年9月実施
全国/男女25-54歳 200名
日清のどん兵衛 きつねうどんを週1日以上自費購入自喫食かつ
何かしらの朝食を週3日以上喫食者/自社調べ」
なるほど、これは国民の9割以上という話ではなく、「どん兵衛をよく食べている人のうち、朝にどん兵衛を食べたいっていう人が9割以上いる」という話なのだ。
そういえば、CMを見るとたしかに『どん兵衛ヘビーユーザーの9割以上が』と書かれている。
だったら、「どん兵衛ヘビーユーザーには、朝にどん兵衛を食べたいっていう人、実は9割もいるらしいですよ」と言えばいいのだが、当然そんなことは言わない。
このCMを見ている視聴者をミスリードしたいという意図がみえみえである。
とはいえ、これはこれでまた、いろいろとツッコミどころが満載だ。
まず、朝にどん兵衛を『食べている人』が9割もいるのではなく、『食べたいっていう人』が9割もいると表現している点である。
つまりその9割は、『食べたい』っていう人だけで、実際に『食べている』とは言っていない。
食べたいと思うだけなら、いくらでもそう思うことができる。
しかも、特別にそれだけを思っているわけでもない。
朝にどん兵衛を食べたいと思う人は、それとは別に、朝に温かいご飯を食べたいとも思うだろうし、朝にパンやシリアルを食べたいとも思っているであろう。
あるいはもしかすると、『どん兵衛』以上に赤いきつねを食べたいとか、富士そばを食べたいとか思っているかも知れない。
要するに、このアンケートは本質的には「朝にどん兵衛しか食べるものが無いとしたら、どん兵衛を食べたいか」というアンケートに等しく、ここから得られる情報としては、「それしか食べるものが無い状況で、食べたいか食べたくないかと聞かれれば、そりゃ9割以上の人が食べるだろ」という程度の情報しか得られないわけである。
このようなアンケートに、いくら93%という細かい数字を持ち出しても、そんなものは見掛け倒しでまったくのナンセンスだ。
大袈裟に言うなら、統計学に対する冒涜と言ってもいい。
公正なアンケートをするのであれば、「朝にどん兵衛を食べたいか、食べたくないか」という二択ではなく、「朝にどん兵衛を食べたいか、どん兵衛以外を食べたいか」という二択にしなければならない。
(無論、そんなアンケートをすれば、どん兵衛以外を食べたいという回答がほぼ100%になり、朝にどん兵衛を食べたいという回答が1%未満になるのは目に見えているが)
さらに深読みすれば、「日清のどん兵衛 きつねうどんを週1日以上自費購入自喫食かつ何かしらの朝食を週3日以上喫食者」などと細かい条件を付けているということは、そうでもしなければ9割以上にはならないからそういう条件を付けたのだと推測でき、もっと言うと、『どん兵衛』のヘビーユーザー(週に一食しか食べない人をヘビーユーザーと呼ぶのもどうかと思うが)であるにもかかわらず、「もし仮に朝、どん兵衛しか食うものが無かったとしても、朝にどん兵衛を食うのはイヤだ」という人が7%いた、とも受け取れるわけだ。
キミは朝、どん兵衛を食べたいと思うだろうか。
温かいご飯やパン、お粥、サンドイッチ、コーンフレーク等、無数の朝食のバリエーションがある中で、わざわざ朝に『どん兵衛』を食べたいと思うだろうか。
僕はこのCMに、視聴者を騙そうとする明確かつ悪質な意図を感じる。
設問が不適切、かつ、細かい条件を付けることでアンケート結果を捻じ曲げ、視聴者をミスリードしようとしているからだ。
こんなCMはさっさと打ち切ってもらいたい。
ま、どんなにCMで騙そうとしても、実際に朝から『どん兵衛』を食べるような物好きは、ごく少数だと思うけど。
……さて、最後に一般的に行われるアンケートについても少しコメントしておくことにしよう。
まず、基本的にアンケートの対象者の選定は無作為でなければならない。
これは大原則だ。
アンケートの対象者に有意な条件を付けてしまっては、一般性が失われ、意味をなさなくなる。
ピザが好きな人ばかりを選んで「ピザが食べたいか」と聞けば、ほぼ全員がYesと答えるのは当たり前であって、そんな情報は何の役にも立ちはしない。
また、たとえアンケートの対象者を無作為に選んだとしても、得られる結果は純粋な無作為には基づかないことにも留意すべきだ。
アンケートで集まる回答とは、アンケートをお願いされてそれに答える人の回答だけの集まりである。
つまり、アンケートをお願いされて回答するのを面倒に感じるような人の回答は最初から除外されてしまっているのであり、その時点でアンケートの回答は無作為ではなくなっている。
これはアンケートの宿命であって、どんなに対象者を無作為に選んでも、集まる回答は無作為には基づいておらず、自ずと条件付けされてしまうということだ。
それは、付き合おうとしてどんなに無作為に女性に声を掛けてナンパしたとしても、付き合えるのはナンパされてフラフラと付いてくるような女性だけであって、軽々しくナンパに応じない慎重な女性とは決して付き合えないのと同じことである。
ナンパで付き合えるのはナンパに応じる女性だけであり、合コンで付き合えるのは合コンに参加するような女性だけであり、婚活で出会えるのは婚活している女性だけである。
純粋に無作為なアンケートなど、この世に存在しない。
読んで頂き、ありがとうございました。