表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/38

8.なんか既視感あるんですけど

 勇者の武器として、それはいかがなものなのか。


 そう思わないでもなかったが、効果は絶大だった。

 エーリクは危なげなく地面に着地し、空の裂け目を見上げる。魔族の姿はもう完全になくなっていて、空に浮かぶは巨大な裂け目ばかり。


「げ、撃退できた……?」


 喜ぶ私に、エーリクが静かに首を横に振った。


「いいや――まだだ」


 エーリクの言葉通り、空の裂け目から再び魔族の手が伸びてきた。


 ……いや、正確には指の先だけが。様子を探るように、恐る恐る一本指をぴょこぴょこ左右に動かす。


「はああッ!」


 バコーーーーン


『イデッ』


 指が引っ込む。


「やああッ!」


 バコーーーーン


『イデッ』


 次に出てきたのは固く握られたこぶしだったが、やっぱりエーリクが間髪入れずにぶっ飛ばした。

 その後もバコーン、からのイデッ、を双方飽きることなく繰り返す。お前らモグラ叩きか。


 しかし魔族もとうとう諦めたのか、ようやく空が静けさを取り戻した。

 それでもエーリクは警戒を解かず、厳しい目で虚空を睨み続ける。これだけ激しいモグラ叩きを繰り返したというのに、さすがというべきか息ひとつ乱していなかった。


「見て、エーリク。裂け目が小さくなっていく!」


 広がるばかりだった亀裂が、気づけばその動きを止めていた。

 ややあって、できたときよりゆっくりしたスピードで、少しずつ空間が塞がり始める。


(やった……!)


 魔界と人間界との境界の揺らぎは、これから先この世界の各地で頻発していく(そしてそれを解決するのが、エーリクたち勇者一行の役目なのだ)。


 初期のころの亀裂の特徴は、時間の経過とともに閉じていくこと。

 だから今回村を救うにあたっては、必ずしも魔族を倒す必要はなかった。()()()()に出てこられないように、押し戻してしまえばいい。きっと二人はそう考えたのだろう。

 完全にエーリクとシンちゃんの作戦勝ちだった。


「エーリク、シンちゃん!」


「――まだだ、アリサ!」


 エーリクの一喝に、私は駆け寄ろうとした格好のまま凍りつく。


 刹那、空全体がごうっと揺れた。


 閉じかけた裂け目に真っ赤な両手を割り込ませ、魔族が力ずくでこじ開けようとしている――!


「……っ」


 みしみしと気味の悪い音が鳴り響く。


 声もなく見上げる私たちの前に、初めて魔族がその全貌を現していく。飛び出た眼球は一つだけ、裂けた口は頰に達するほどに長い。


 血走った目をギョロつかせ、魔族はニイィと私たちを嘲笑った。


『ググググ、虫ケラにモ等しキ人間ど』

「ていっ」



 バゴォォォォォンッ!!



『アイッデ!』


「…………」


 眉間に容赦ない一撃。

 めちゃくちゃ見事に決まった。


 魔族はぬおおおお、とかオオオウ、とか叫びながら魔界へと戻っていく。

 裂け目がぴったりと閉じるその瞬間まで、えぐえぐという悲痛な泣き声が響いていた。


「…………」


 これだけバカスカ叩かれまくったというのに、よく顔なんて出そうと思ったな。何と言うか、敵ながらアッパレなチャレンジ精神……。


「ふう。なんとか押し戻せたな」


「すっげぇ力技だったけどな!」


 着地したエーリクとシンちゃんが互いを称え合う。

 へたり込む私にエーリクが手を差し伸べ、私はその手を取りながら噴き出してしまった。


「あははっ、なんかいろいろ予想外だったけど、すごく強かったよエーリク!」


「そうか。路線変更して正解だったな」


 エーリクが頬をゆるめる。


 どうやら最初はエーリクも、普通に剣で戦い魔族を倒すつもりだったらしい。

 けれど、どうしても不安がぬぐえなかったのだという。

 もしも食い止めきれず魔族に逃げられ、村人たちに危害を加えられたらどうしたらいい――?


「ならば、そもそも人間界に入れないようにしたらいい。シンちゃんとそういう結論に達して、武器もそれに相応しいものに変えることにしたんだ」


「うんうん、大正解だったよ!」


 勇者っぽいかと聞かれたら微妙だけどね!


 いたずらっぽく笑い、私とエーリクは手を繋いで歩き出す。早く村に戻って、みんなにもう心配はいらないと教えてあげなくちゃ。


「それが終わったら、エーリクはすぐに旅立ちの準備を始めなきゃね。ゲームの通りだと、もうじき空の異変を調べに領主様直属の騎士がシールズ村にやって来るの」


 壮年の騎士が村に到着したときには、もう全てが終わっていた。

 無惨に滅ぼされた村の真ん中に、一人の少年――エーリクと、小さな竜が身を寄せ合っているの発見する。騎士は二人から事情を聞くと、すぐに自分と同行して領主様に直接報告するよう命じるのだ。


「でも、エーリクはそれを断るの。村人たちの弔いが終わるまで、自分はここを離れる気はない、って」


 騎士はしぶしぶエーリクの言い分を受け入れた。

 必ず訪ねて来るようにとくどいほどに念を押し、先に帰路へとつく。エーリクはシンちゃんと協力して(ここでシンちゃんの魔法がおおいに活躍する)、村人たちを埋葬した。


 木の棒を立てただけの簡素な墓標に囲まれて、エーリクが声もなく立ち尽くす。悲しみに震える彼に、シンちゃんが静かに尋ねた。



 ――行くのか? 少年


 ――……ああ。俺は、魔族を許せない。二度とこんな惨劇を繰り返さないためにも、あいつら全員をこの手で根絶やしにしてやる……!



 瞳に復讐の炎を燃え立たせるエーリクに、シンちゃんがふっと息を吐く。そして彼の肩に飛び乗って、「じゃあオレも一緒に行こっと!」と頼もしく宣言するのだ。



 ――これからよろしくな、相棒っ!



「……で、ここからシンちゃんが正式に仲間に加入するってわけ。どうどう、感動的じゃない!?」


 大興奮で説明する私に、二人の反応は至ってドライだった。


「そうか?」


「もうとっくの昔に仲間になってる身としては、別になんとも~」


「…………」


 いや温度差よ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ