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挑戦☆墓場のダンジョン③

 ゲームでの勇者パーティは最大四人編成。

 しかし当然と言うべきか、どうやら私は頭数に含まれてはいないらしい。特にダンジョンに弾かれることなく、私たちは地下迷宮へとすんなり足を踏み入れた。


(よかった~)


 本当ならレグロにはお留守番を提案してもよかったんだけど、念のため付いてきてもらって正解だった。怖がりのレグロには悪いけど、私じゃどう考えたって戦力にならないからね。


 ……なんて、安堵していたのも束の間。


「ひいいいッ!!」


「ぎぃやああああッ!!」


「おっ、お助けぇ~~~っ!!」


「――ああもうっ、やかましすぎるわよレグロ!?」


 ゾンビや幽霊タイプの魔物が出るたび、レグロはまめまめしく戦慄の悲鳴を上げる。

 ブランカがすかさず魔術の爆発で倒して、ついでのようにレグロに蹴りを入れた。


「だって……だってよ、怖いじゃねぇかよ。うううブランカ、どうかオレを守ってくれよぉっ」


「ちょっ、ちょちょちょコラコラ! 馴れ馴れしく抱きついてこないのっ!!」


 腰にすがりつかれ、ブランカが真っ赤になってレグロを怒鳴りつける。

 なんか……やっぱりレグロには、お留守番しておいてもらった方がよかったかも? レグロ可哀想だし、ブランカもあんなに怒ってるし。


 ちょっぴり反省していたら、エーリクが二人の様子をじっと観察しているのに気がついた。


「エーリク?」


「……そうか。恐怖を感じれば気も弱る。そして守ってくれる相手が頼もしく見えてくる、と」


 ぶつぶつと独り言をつぶやくなり、エーリクがさわやかに私を振り返った。


「アリサ。お前も怖いだろう、よければ手を繋ごうか」


「や、剣士が手を塞いでたら駄目でしょう。私のことなら心配しないで、こう見えてお化け屋敷は大好きなんだから」


 即座に断り、元気にガッツポーズを決めてみせる。

 ちなみに強がりじゃなくて本当だ。レグロが派手に怯えてくれているお陰か、逆に私は冷静になってしまった。


(それに……)


 エーリクが側にいてくれれば、何も恐れることはない。

 初めてのダンジョンだというのに、私は何の不安も感じていなかった。鼻歌交じりで進む私に、マリアがくすりと笑みをこぼす。


「アリサ、とても楽しそうですね」


「うっ、不謹慎だったらごめん。でもね、冒険っていったらやっぱりダンジョンだと思うの。古びた建造物特有の湿った空気に、足音が反響する長い通路……。ああほら、石壁の隙間から透明の幽霊がにょろっと出てきたよ」


「ぎょえええええっ!!」


「はい、浄化。なるほど、ロマンというわけですね」


 マリアが納得したように頷いた。


(……ん?)


 ふと、何かが聞こえたような気がして足を止める。

 けれどすぐにレグロの野太い悲鳴にかき消され、エーリクが怪訝そうに私を見た。


「アリサ? やはり怖くなったのか、手を繋ごうか」


「まあアリサ、この奥は行き止まりみたいです! アリサの言っていた通り宝箱がありますよっ!」


 マリアが私の腕に抱きついて引っ張ってくれる。

 私も嬉しくなって足を早めた。そうだ確か、最初の行き止まりにある宝箱は……!


「――はい、オープン! やったぁ、【破邪の短剣】発見~!」


 大きな宝箱には不釣り合いな、華奢な剣が入っていた。

 飾り彫りされた金の(つか)に、まっすぐで優美な刀身。

 この【破邪の短剣】はアンデット系の魔物に効果てきめんで、特にこの墓場のダンジョンでは大活躍するのだ。


 私は大得意でみんなを見回した。


「しかも、だよ? 剣を振れば聖なるビームが発射されるから、遠隔攻撃だって可能なの! 見ててね、こんな感じで――」


 ブンッと勢いよく振れば、頼りない光がふよふよと前方に飛んだ。

 息も絶え絶えといった風情で進み、やがて石壁に当たって四散した。ぽへ、と間抜けな音を立て、光の余韻すら残さず消えてしまう。


「…………」


「よし。素晴らしい装備も手に入れたことだし、引き続きアリサは俺の後ろに隠れていてくれ」


 ……了解です。


 戦力外通告にどんよりしつつも、短剣を腰のベルトに差し込んだ。

 ちなみに今日の私の服装は、ぴったりしたニットにショートパンツ、足元は黒のニーハイソックスに焦げ茶のショートブーツ。長い銀髪はマリアが大ぶりの三つ編みにしてくれた。

 女戦士をイメージしてみたんだけど、やっぱりモブはモブでした。


「ま、仕方ないかぁ。次行こう、次!」


 あっさり切り替え、来た道を戻ることにする。と、またも耳に何かの音が響いてきた。

 伸びやかな低音。落ち着いたメロディ――……って、もしかしてこれって。


 はっとしてエーリクに手を伸ばした。


「待って、エーリク! それからみんなも、この『歌』が聞こえる!?」


「歌?……いいや、俺には何も」


「わたくしもです」


「ヒイィッ!? まさかお化けが歌ってるってかぁっ!?」


「レグロ、うっさい」


 どうやらみんなには聞こえていないらしい。

 確かこの歌は、原作のゲームでは――


「……ヨハンにだけ聞こえたはずなの。歌声の響いてくる方向に進めば、ダンジョンの最奥にたどり着ける。お墓に眠る吟遊詩人の魂が楽器まで導いてくれたんだ、ってオチだったと思う」


 けれどなぜ、私にもこの歌が聞こえるのだろう。

 もしやヨハンがいないから? 必然的に、パーティの余り者である私に役目が移った、とか……?


 悩んでいたら、マリアが高らかに手を打った。


「素晴らしいです! さすがはアリサ、やはりあなたには神の加護が宿っているに違いありません。わたくしにはわかります!」


「ええっ? 違うよ、私には加護なんてないってば。ていうか、神に選ばれたっていうならマリアでしょ?」


「ふふっ。アリサとお揃いなら嬉しいな、と思いまして。アリサは? わたくしと一緒で嬉しくない?」


 そ、そんなの嬉しいに決まってるし!!


 ヒロインのマリアとお揃いだなんて、私ってばなんという果報者。

 赤くなりながらも肯定すれば、マリアも幸せそうに微笑んだ。私は照れてしまって、慌てて廊下の奥を指し示す。


「じゃ、じゃあ早速進もうか! 歌声は向こうから響いてくるよ!」


「ええ、参りましょう」


 笑い合い、マリアと連れ立って先頭に立った。

 勇ましく腕を振って進む後ろから、押し殺した話し声が聞こえてくる。


「……なー相棒、マリアに思いっきり遅れを取ってない?」


「あっこら、竜に戻るなシンちゃん!……心配するな、きっと奥に行けば行くほど、どんどん魔物も恐ろしくなっていくに決まっている」


「エーリクあんたねぇ、勇者のくせにセコいわよ。吊り橋効果狙ってんじゃないわよ」


「うっうっ、もう嫌だよぅ。帰りたいよぅ……」


 とうとうレグロが泣き出してしまった。……ゴメンネ?

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