挑戦☆墓場のダンジョン②
「で、ここかよ……?」
レグロが嫌そうにそっぽを向き、チッと大きく舌打ちした。
心なしか顔色が悪いような気がするが、たぶん気のせいだろう。うんきっと。
「やだぁ、なんだか肝試しみた~い!」
「ゾクゾクしちゃいますね、皆さんっ!」
ふてくされるレグロとは違い、ブランカとマリアは大はしゃぎしていた。
シンちゃんはエーリクの肩から首を伸ばすと、ふんふんと鼻をうごめかせる。ややあって、ぱあっと瞳を輝かせた。
「魔力の匂いがすっごい濃い! きっと中の魔物は強者ばっかりだろうな、腕が鳴るぜぇ~! なっ、相棒!」
「そうだな。良い武器が手に入りそうだ。……で、どこへ行くレグロ」
エーリクから肩を鷲掴みにされ、レグロがギクッと足を止めた。いつの間にやら、抜き足差し足で後退していたらしい。
私はあえて怪訝そうな顔を作り、彼を振り返る。
「レグロさん、どうしたの? まさかまさか、このダンジョンに入るのが怖いとかー?」
「バッ、んなわきゃねぇだろっ。あっははははぁ~!」
ふんぞり返って高笑いする。
けれど、その額に汗が浮かんでいるのに私はちゃんと気づいていた。いつもはち切れんばかりに元気な筋肉も、今日は心なしかぷるぷるしてるし。
しかしエーリクは特に気にしたふうもなく、レグロの肩を放して攻略本に目を落とす。
「墓場のダンジョン――……その最奥には、高名な吟遊詩人が愛用していたとされる伝説の楽器が眠っている。他にもここでしか手に入らない武器や防具が盛りだくさんの、別名『お宝ダンジョン』だそうだ」
エーリクの説明にうんうんと頷き、私もすかさず補足する。
「道はまあまあ複雑で迷路みたいなんだけど、行き止まりには絶対宝箱があるからお得なんだよ。だからむしろ最短コースでクリアするんじゃなく、行き止まりを目指して進もうね!」
「了解よ。古代魔術の手掛かりもあるといいわね」
「わたくしは素敵なローブを期待しておきます。……アリサのお目当ては、吟遊詩人の伝説の楽器とやらですか?」
マリアが可愛らしく首を傾げたが、私は笑ってかぶりを振った。
「ううん、私に楽器の心得はないから。そうじゃなくて途中にある宝箱の、【破邪の短剣】を狙うつもりなの」
ちなみに最奥にある楽器はリュートである。
前世の私はリュートどころか、ギターすら触ったことがない。楽器の経験なんて小学校のころの音楽の、ハーモニカとピアニカ、リコーダーに木琴と鉄琴ぐらいのものである。
「伝説のリュートは本来なら、勇者パーティの吟遊詩人『ヨハン』の最強武器になるはずなんだけどね。……ヨハン、もしかしなくても仲間にしてないよね?」
控えめに確かめれば、エーリクたちは「ああ」と言わんばかりに顔を見合わせた。
「してないな。仲間にしてくれとは頼まれたが、丁重に断った」
「激しく歌いながら自己アピールしてくるんだもの。悪いけどドン引きしちゃったわ」
「気障ったらしい野郎だったぜ。ジャンジャンガシャガシャ楽器をかき鳴らして、ブランカとマリアを同時に口説いてきやがるし」
「はんッ。わたくし彼が仲間になっていたら、発狂していた自信がありますね」
あ、あんまりな言われよう……。
私は思わず肩を落としてしまった。
ヨハン、言うほど悪くないと思うんだけどなぁ。吟遊詩人の歌にはいろんな効果があるし、何より愛すべきお馬鹿キャラだったし。
というか、ゲームだったらヨハンは強制的に仲間に加入したはずだ。仲間にしますか?という選択肢に、「はい」を選ぼうが「いいえ」を選ぼうが意味はなかったと思うんだけど。
私の疑問に、シンちゃんがぷっと噴き出して答えてくれた。
「何度頼まれても、相棒が顔色も変えずに断り続けたんだよ。『いや』『いらん』『結構だ』『だが断る』『間に合ってる』ってな感じで、延々と。めちゃくちゃ粘り強く」
「そ、それで通用したんだ……! ヨハン、納得してた?」
「しょんぼりしてた。オレはちょびっとは可哀想って思ったぞ?」
うん、本当に可哀想……。
どうしよっかな。
リュートの宝箱は開かずに帰ろうと思ってたけど(宝の持ち腐れになっちゃうし)、せっかくだから入手しておこうかな。ヨハンにプレゼントしたら、彼の傷ついたココロも癒されるかもしれない。
そう提案してみたら、エーリクがカッと目を剥いた。
「駄目だ、アリサ! 下手に情けを見せて、あの気障男がお前に惚れたらどうするんだ!」
「そんな簡単には惚れないかと……や、あり得るかも? なにせあのヨハンだもんねぇ……」
仕方なく、ヨハンへのプレゼント作戦はあきらめることにして。
気を取り直し、そろそろ出発しなければ。どんよりした不吉な曇り空から、ぽつぽつ小雨も降り始めたことだしね。
墓場のダンジョンは地下に広がる迷宮で、入口は墓地で一番大きなお墓の下だ。
花を供えて祈りを捧げれば、地響きと共に墓石がズレていく。石造りの長い階段が姿を現した。
「う……っ」
レグロが顔を引きつらせるが、勇者パーティは元気いっぱいだった。
「さて、行くか」
「がんばりましょうね、皆さんっ!」
「うううううっ」
私はもちろん知っていた。
その外見とは裏腹に、レグロが大のお化け嫌いだということを――




