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転生天使の異世界交流  作者: 水色みなも
第三章 エムニアに娯楽を
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35 地球の曲を演奏しよう

途中から三人称視点になります。


 エビンスさんのお屋敷の談話室(サロン)


 交渉のあと、私の交渉練習に付き合ってくれたお礼と地球文化の紹介を兼ねて、地球の音楽から一曲、披露することになった。


 エレクから「交渉で必要になるから」と言われて猛練習したけど、こういうことだったんだね…


 私はペンダントに手を触れて、地球で貰ったお土産の楽器を取り出す。


 エレクにはヴァイオリン。


 服装も着替えて(とは言っても黒いジャケットを羽織っただけだけど)ちょっとフォーマルな感じにしている。

 うん、爽やかイケメンは何を着せても似合うね。

 ビシッと決まっていて、なかなかカッコイイ。


 マーロィにはフルート。


 小柄なマーロィにはちょっとサイズが大きくて、指で抑えながら息を吹き込むのが難しかったので、代わりに風の魔法を使って吹くそうだ。

 本人曰く、「その方が音も安定する」んだって。細かな魔法制御が得意なマーロィらしい。

 大雑把な私には真似できない魔法の使い方だ。


 彼女は珍しく魔女っぽいローブを脱いで、下に着ていた薄い紫色の可愛らしいドレス姿になっている。

 以前、式典用の衣装を買いに一緒にお出かけしたときに私がプレゼントした一品だ。

 うん、妖精みたいでよく似合ってる!


 そして私の楽器はタンバリン。

 

 はい、タンバリンです。

 ちょっと試したけど、私に繊細な指使いが必要な楽器はムリでした。


 エレクとマーロィの邪魔をしないようにがんばろう。シャンシャン。

 いいもんね、私にはとっておきの楽器があるから!


 ちなみに私の衣装は、いつもの天使族の正装、背中の大きく開いた白いワンピースにドレス用の白いストールを肩に羽織っただけ。

 お手軽にフォーマル感が出せるので、私のお気に入りの組み合わせだ。


 

 ちょっぴり衣装替えをして、それぞれで楽器の確認を終えると頷きあった。

 それからエビンスさんと執事さん、それにせっかくだからご一緒にと参加してくれたエビンスさんの奥さんに向き直る。


 「皆さん、お待たせしました!」


 「おぉ! 皆さん相変わらずお美しい。それに変わった道具をお持ちだ、それが地球の?」


 「はい、これは地球の”楽器”という音を奏でるための道具です。 これからこの楽器の音を組み合わせて、声ではなく音を使って、魔法歌のように一つの曲を奏でます」


 私は一度言葉を切って、エレクとマーロィに視線を送る。

 マーロィはこくりと頷き、エレクは楽器を構えて、パチリとウィンクを送ってきた。


 「…それではお聞きください。 地球の音楽から一曲、題は『木星』といいます」 





~~~




 ティアラたち3人による演奏が始まった。


 はじまりは、エレクのヴァイオリン。

 弓に弾かれた弦が空気を震わせ、暖かな日差しの中を駆け回るような明るい音が響く。


 ティアラが今回演奏する曲として選んだのは、地球のクラシック音楽、組曲「惑星」のうちの一つ。

 「木星」だ。


 日本では木星の英名をタイトルにした別の曲の方が馴染み深いかもしれない。


 しかし、今回ティアラが選んだのは、原曲のクラシックの方だった。


 彼女がこの曲を選んだ理由は、そんな大層なものではない。


 よく知っている曲だから。

 昔、学校の演奏会で何度も練習した曲だったから。


 そして、好きな曲だからだ。

 彼女はこの曲の中で最も有名であろう、優しくて雄大な、まさに木星のようなフレーズが大好きだった。


 それにアニメ関連の曲を中心に聞いていた彼女にとって、珍しく馴染みのあるクラシックだったというのもあるだろう。




 エレクの明るいヴァイオリンの音色に惹かれるように、マーロィの奏でるフルートの音色が加わった。

 魔法による息の吹き込みは自然で、音色も柔らかい。


 二人の演奏に、ミスらしいミスは見当たらなかった。

 音を奏でる指には迷いがなく、とても数日前に初めて楽器に触った人物とは思えない。


 エレクの場合は、魔力で身体強化した五感をフル活用して神経を研ぎ澄まし、お手本として聞いた音源とのズレを調整している。

 持ち前の器用さと学習能力の高さを活かした、彼らしい再現方法で演奏をしている。


 マーロィは、ティアラが地球から持ち込んだプロの演奏を魔法で模倣(トレース)することで演奏している。

 ”定型詩”の魔法の天才にかかれば、「結果から過程を辿るのは造作もない」ことなのだ。

 もっとも、それは緻密で高度な魔法制御技術があってこそだが。


 大雑把でイメージ頼り魔力頼りで魔法を使うパワータイプのティアラには真似できない演奏方法だった。


 そして三人の真ん中に立つティアラはというと、タンタン、シャンシャン、と控えめにタンバリンを鳴らしていた。

 魔法歌で鍛えたリズム感で、まったくズレを感じさせない演奏だが、絵的に地味である。


 そんな演奏を聞いていたエビンスたちは、「なぜ彼女が真ん中に立っているのだろう」と内心で首を傾げていた。

 三者とも見事な演奏だが、見栄えで言えばエレクかマーロィが中央に立つ方が良いのではないか。


 そんな中、曲は中盤に差し掛かり明るく弾むような音色が徐々に静かになっていく。

 とうとうティアラは手に持っていた楽器(タンバリン)をペンダントにしまい込んでしまった。


 どうしたのだろうか?という疑問は、次の瞬間に吹き飛んだ。



 天使の声が聞こえた。



 それはティアラの声。

 タンバリンをしまった彼女は、祈るように手を組み合わせ瞼を臥せている。


 彼女の小さな口から、透き通るような、それでいて力強い声が旋律となって響いていた。


 そこに詩はなく、純粋に彼女自身の声だけを楽器としている。


 エビンスは思わず口元が緩む。

 これはずるい。


 彼女の歌声は、それそのものが最早魔法の一種といわれるほど美しい。

 それを聞くためだけに騎士になる者がいた、などと噂されたほどだ。


 そんな美声に、一定の法則性を持ち旋律を奏でる楽器の音色が組み合わさることで、一つの曲へと昇華する。


 美しい、とただ息を零すことしかできない。


 なるほど、これは素晴らしい。


 地球の娯楽の一端を肌で感じたエビンスたちは席を立ち、演奏を終えた三人に惜しみない拍手を送った。





~~~





 ふぅ。なんとか最後まで演奏しきれた。


 声を一種の楽器として歌う、スキャットって言うんだっけ。

 歌と違って音程を外すと歌詞で誤魔化しがきかないから、すっごく緊張した。


 思わず目をつぶって歌っちゃったよ。


 でも、がんばった甲斐あって、演奏を聞いたエビンスさんは交渉のときよりも(まぁ練習だったんだけど)地球との交流に乗り気だった。

 エビンスさんの奥さんが感極まったのか抱きついてきたのは、ちょっとびっくりしたけどね。


 うん、喜んでもらえてよかった。


 これで地球との交流で課題だった「魔法具の仕入れ」は何とかなりそうだ。


 よし!魔法具の仕入れが終わったらまた地球に行こー!!


 そんな意気込む私の袖を、マーロィがくいくいと引いた。

 どうしたの?


 「ティアラ、私の研究手伝うの忘れてないよね?」


 「も、もちろんですよー」


 私をすっと視線をそらした。

 そういえばそれがあったね…


 「ははっ マーロィ、ティアラをあんまり苛めないであげてね?」


 「善処する」


 まったく、エレクは他人事だと思って!

 いっそのこと、作業場をエレクの屋敷にして巻き込んであげよっか??


いつもお読みいただきありがとうございます。

音や曲の表現って難しいですね…

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