3 世界を渡る魔法
数日後、私はまだ大神殿にいた。
無事、”世界を渡る魔法”を授かった私だったけど、授けられた知識があまりに膨大であの後倒れて、数日寝込むことになったのだ。
まさか知恵熱で寝込むことになるとは思わなかったよ…。
「大丈夫?」
「何とか…」
休憩室で寝ていた私のもとに、マーロィが訪ねてきた。
彼女が一番にお見舞いに来てくれるなんて珍しい、と内心喜んで彼女に椅子を進める。
彼女はベッドの側に置いてあった椅子を持ってくると、ちょこんと座りこちらを見た。
「それでどうなの?」
「どうって何がです?」
「”世界を渡る魔法”のこと」
「あー」
どうやら彼女の目的は私のお見舞いではなく、まだ見ぬ魔法の知識だったらしい。
お見舞いにきてくれた、と喜んでいた私は少し落ち込む。
そんな私をマーロィはジトっとした目で見てきた。
「お見舞いに来たのも本当」
「あ、ありがとうございます」
「それで?」
どうやら私が話すまで帰るつもりはないようだ。
まだ少し痛む頭を抑えながら、今理解できている範囲のことを伝える。
「ふーん、面白いね。基本は”自由詩”なのに、根幹は”定型詩”の通信魔法みたい」
「そうですね」
話を聞き終えたマーロィは呟いた。
私もそれに頷いて同意する。
今さらだけど、魔法には大きく2種類ある。
一つは”自由詩”と呼ばれる魔法。
創作でよく見るイメージを具現化する方法で、必要な魔力としっかりしたイメージが出来れば、どんな事でも出来る。ただし、必要な魔力は多く、発動した魔法も精度にもバラつきがある。
もう一つは”定型詩”と呼ばれる方法。
これは、先人達が編み出しや魔法を術式にしたもので、道具などに刻み込んで使う。
”自由詩”みたいな自由度はないけど、必要な魔力があれば誰でも同じ魔法を使うことが出来る。
この”定型詩”の魔法を刻印した道具を”魔法具”と呼び、エムニアで一般的に魔法というとこちらの「魔法具で使う魔法」を指すことが多い。
ちなみに、私が普段使うのは”自由詩”の魔法で、マーロィが使うのは”定型詩”の魔法だ。
膨大な魔力量によるゴリ押し魔法を使う脳筋な私に対して、マーロィは本型の魔法具に刻印された魔法を巧みに使い分ける頭脳派なのである。
それはともかく、マーロィの言うように”世界を渡る魔法”は不思議なつくりをしていた。
ざっくり説明すると、世界すら超えて声を届ける魔法”呼び声”で相手を探し、その相手が応じることで道が繋がり、その道を通って世界を渡ることが出来るのである。
「呼びかけて、答える」という部分は、確か魔力で会話する通信魔法に似ているかも。
ただ星神様から授かった知識では別名、”絆の魔法”とも言うらしい。
謎は深まるばかりだ。
「マーロィ、魔法の解析手伝ってもらえますか?」
「ん、言われなくてもそのつもり」
そのあと、私は大司祭に休憩室を借してくれたことのお礼を伝えてから、マーロィと二人で大神殿の後にしてお父さんとお母さんの待つ天使族の里に帰った。
それから一か月が経った。
”世界を渡る魔法”の解析を始めた早い段階で、魔法の発動に尋常じゃない魔力が必要だと判明した。
神様の使う魔法なので、人間が使えるようには出来ていなかったのだ。
いくら私の魔力量がちょっと人よりも多いと言っても、限度がある。
そこで私はマーロィに相談して、一つの魔法具を作った。
「マーロィ、そちらの調整はどうですか?」
「ん、もう少しで終わる」
私が声をかけると、マーロィは一軒家ほどもある巨大な魔法具の中に、ゴソゴソと上半身を突っ込んだまま返事をした。
マーロィ監修のもと、私が初めて自作した魔法具は巨大で不格好なモノになってしまった。
見た目は金色に輝く空飛ぶパイプオルガンである。
魔力を溜め込んで放出するバッテリーのような性質を持つ結晶の「魔石」を、魔法具の内部に大量に埋め込んである。
この魔石には予め私10人分くらいの魔力が込めてあるので、これをバッテリー代わりにして足りない魔力を補い、”世界を渡る魔法”を使うつもりだ。
この魔法具を作るのに、部品の魔道具やドラム缶サイズの魔石を何個も購入していたら、魔神討伐の褒美で貰ったお金はほとんど使い切ってしまった。お金の使い道に後悔はないけど、ドラム缶サイズの魔石が一つで100万セレス、日本円換算でおよそ1000万円もするとは思わなかった。
そんな高価なモノを何個も購入した日の夜は、謎の高揚感と緊張でほとんど眠れなかったよ…。
「終わった」
私が魔法具の制作費用に思いを馳せていると、マーロィが魔法具から顔を出した。
「最終調整ありがとうございます。私、細かな魔力制御はどうにも苦手なので助かりました!」
「知ってる。いつも魔力でゴリ押しばかりしてるから、そうなる」
私がお礼をいうと、白けた目で見られた。
思わず乾いた笑いが漏れる。
「と、ともかく!これで明日には魔法が発動出来るんですよねっ!」
「うん、そのはず。……やっぱり試運転はしない?」
「もちろん! 試運転なんてしたら、次に使えるのは10日後じゃないですか! もう我慢の限界です、本当は今日のうちに使いたいくらいなんですからね!」
「……まぁ、ティアラなら怪我はしないと思う」
マーロィが何だか気になることを言っていた気がするが、それよりも今日も一日作業をしてお腹が空いた。魔力をたくさん使った日はお腹が空くんだよね。
「マーロィ、今日もうちでご飯食べていくでしょう?」
「…ん、迷惑じゃないなら」
「お父さんとお母さんも迷惑なんて思いませんよっ! ほら早く帰りましょう? 私お腹ペコペコ何です」
私はマーロィの手を引いて、空を飛ぶ。
マーロィも”浮遊”の魔法を使ってついてきてくれた。
その日の夜は両親とマーロィと楽しく夕ご飯を食べてから、眠りについた。
遠足の前日のような気分で中々眠れなかったけど、きちんと寝ないと魔法に影響が出るかもしれないからね。
そして翌日。
お父さんとお母さんとマーロィに見守られる中、私は”世界を渡る魔法”を使う。
まずは”呼び声”の魔法で私の呼びかけに応えてくれる相手を探す。
こちらか音波のように魔力の呼びかけを投げかけると、呼応してくる影を複数感じた。
気分は潜水艦のソナーを監視するオペレーターだ。
相手から帰ってくる魔力の反射を整理して、大きく呼応する対象を絞り込んでいく。
……3つ、…いや4つかな。明確な反応が返ってきた。
その中でも一番強い反応を返す相手に、呼びかけて道を繋ぐ。
風に揺られる蜘蛛の糸のような不安定な細い道が、徐々に太く確かなものになるのを感じる。
うん、これなら大丈夫そうだ。
私の意思に呼応して、魔法具から立ち昇る金色の魔力が私を包む。
自分の中で渦巻く魔力が形を作ろうとしている感覚に、私は顔をあげた。
「いってきますっ!」
次の瞬間、私は金色の光と共にエムニア星から姿を消した。
次回、ついに地球訪問です。
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