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転生天使の異世界交流  作者: 水色みなも
第三章 エムニアに娯楽を
36/43

30 スポーツをしませんか?


 星神セレスさまへの報告の帰り道、私は大神殿から続く回廊の木陰でサボり中の騎士さんを見つけた。


 話を聞くと、どうやら私たちが魔神を倒してから魔物もいなくなってきたので、騎士団は暇を持て余しているそうだ。


 ふむふむ。

 騎士団には手が空いている人が多いんだね。

 これはちょうどいいかも?


 「あの、ハインさん。他の騎士さんも手が空いている方は多いんですよね?」


 「仮にも騎士が暇です、というのもどうかと思いますが…まぁ暇ですね」


 灰髪を短く刈り込んだ騎士、ハインさんは苦笑しながらそう言った。


 「それなら少しお願いあるのですが…」


 「聖女様のお願いとあらば喜んでお聞きいたしましょう」


 私がそう言うと、きらきらとした瞳で胸に拳を当てるハインさん。

 あの、まだお願いの内容も言っていないんだけど…?


 「それでは、ほかの手の空いている方を集めていただけますか? 皆さんに試して頂きたいスポーツがあるのです」


 「はぁ…すぽーつ、ですか? よく分かりませんが、分かりました!」


 分かってないのに引き受けちゃって本当に大丈夫?

 いや、私としては助かるからいいんだけども。


 あれ、騎士ってもっとお堅い職業の人じゃなかったっけ?

 なんか前に戦場でお話した騎士さんは「いつでも死ぬ覚悟は出来ています、どうぞご命令をっ」みたいな覚悟ガンギマリな人ばかりだったので、めちゃくちゃ怖いイメージがあったんだけど、こんな親しみやすい人もいるんだね。


 「あ、それから、その…聖女と呼ばれるのは何だかこそばゆいので、ティアラと呼んで頂けたら嬉しいです」


 以前は何度お願いしても「そんな!畏れ多いです!」と即拒否されていたけど、この人なら大丈夫そうだと思って、そうお願いしてみる。


 ハインさんはしばらく大きな口を開けて、呆けていた。


 「……俺なんかが、聖女様を名前で呼んでもいいんでしょうか? あとで隊長に斬られたりしません?」


 「え、ダメってことはないと思いますが…私本人がお願いしたわけですし…」


 え、名前を呼ぶだけでそんなことになるの?

 私って名前を口にしたらいけない妖怪だったりする??

 やっぱり騎士はこわい…?


 私とハインさんはお互いに首をかしげあってから「ま、いっか!」というように頷きあった。


 「それではティアラ様! 俺、ほかの暇そうな連中呼んできますね! えーっと第二訓練場で待っていてもらえますか?」


 「はい、分かりました。お願いしますね」


 ハインさんはそう言ってから走って訓練場の方に消えていった。






~~~





 「さて、こんなものかな?」


 私は固く踏みしめられた第二訓練場の一角を、魔法でサラサラの砂地に変えて手触りを確認する。

 うん、色は土っぽいけどちゃんと砂浜っぽくなってる。

 エムニアの首都は内陸なので、海はないけどね。


 「ティアラ様ー! 連れて来ましたよ~!」


 「ありがとうございますっ!」


 第二訓練場の入り口から手を振って入ってくるハインさんに、私も大きな声で手を振り返す。

 ハインさんの後ろにはぞろぞろと、インナーと厚手のズボンを履いた練習着姿の騎士が続いていた。


 …って、人数多いね?!


 「ハインさん? 何人連れてきたんですか??」


 「えーっと30人くらい?」


 多い、多いよ、ハインさんっ


 いやぁまぁいいんだけど!

 私がちょっと緊張するだけだから、いいんだけど!


 ハインさんに連れられてきた騎士さんたちは何だか騒がしい。


 「…本当に聖女様だ」

 「おい、どうすんだ?! 聖女様の前でこんな格好してたら隊長に斬られるんじゃないのか?!」

 「ハインのやつ、適当言ってたんじゃなかったのかよ!」


 私は、なんとなく普段のハインさんの言動を察した。

 ちらりと視線を向けると顔を背けていた。

 自覚はあるんだね、ハインさん…


 私はわざとらしく「コホン」と小さく咳払いをした。

 瞬間、騎士たちはびしりと直立不動で整列した。


 「初めまして…ではないかもしれませんが、天使族のティアラです。どうぞ気軽にティアラとお呼びくださいね。 皆さんにお願いがあって、ハインさんに手の空いている方を集めて頂きました」 


 そう言って私は胸のペンダントに触れて、地球でもらったお土産を取り出す。

 青、白、黄色のカラフルなビーチバレー用のボールだ。


 「今私は星神セレスさまからとある任務を受けています」


 ということにするって、セレスさまと里長が言ってた。


 「おぉ!」

 「流石、聖女様だっ」

 「魔神を討伐された後もエムニアの民のために…」


 そんな私の言葉に、騎士さんたちは歓声と共に私を褒め称える言葉を口にする。


 その、半分以上…というかほとんど個人的な願望なので、あんまり褒められると申し訳なくなっちゃうので、その辺で……


 私は誤魔化すように、コホンとまた咳払いをする。

 途端に静かになる騎士さんたち。


 「えっと、それでとあるスポーツを皆さんに試していただきたくて」


 「はいっ!」


 ハインさんがびしりと手をあげる。


 「はい、ハインさんどうぞ」


 「はい! ティアラ様、先ほども言っておられましたが、スポーツ、というのは何でしょうか?」


 元気よく質問してくれたハインさんは、横の騎士さんたちに「それをこれから説明してくださるんだろうっ」と小声で小突かれていた。

 ハッとした顔をするハインさん。


 私は前世の知識があるので、つい気にせずエムニア語には存在しない単語も話してしまうので、分からないことを聞いてくれるのはありがたい。

 私は苦笑しながら彼をフォローすることにした。


 「かまいませんよ、気になることがあれば遠慮せず聞いてください。その方が私の任務の助けにもなりますので!」


 「「「ハッ」」」


 びしりと胸に拳をあてて敬礼された。


 うーん、もっと友人に話しかけるみたいに接して欲しいんだけどなぁ。

 こればっかりは時間がかかるので仕方ない。


 「それで、スポーツとは何か?でしたね」


 あらためて考えると、説明するの難しいかも。

 えーっと、えーと…


 「そうですね……騎士の皆さんは、普段訓練で身体を動かしていると思います。それは魔物と戦うための体力づくりだったり、技や型の練習のためですよね。でも、平和になった今のエムニアでは魔物と戦うことは減ったと思います。恐らく、これからもっと減ると思います」


 一つ一つ考えながら発した私の言葉に、目を伏せる騎士さんたち。


 この人たちは、街はそこに住む人々を身体をはって守ってきた人たちだ。

 だけど今、その役割は終わりに近づいてきている。


 「何のために訓練をするのか? 体力をつけて、技を磨いて、それをどこで発揮するのか? 意味はあるのか? ……目的のない努力はとても退屈です」


 うんうん、と頷ずく騎士と、それを横目にジトっとした目をを向ける騎士。


 「そこでスポーツです」


 私は努めて明るい声をだして、顔の横にボールを持ち上げる。


 「スポーツは戦いのもう一つの形です。ですが魔物との闘いのように、どちらかが滅ぶまで続けるような戦いではありません。 仲間同士で競い合い、戦いの後は、お互いの健闘をたたえあうような、技の競い合い、”競技です」


 私は騎士さんたちに視線を巡らせてから、ボールを差し出すようにしてニコリと笑顔を浮かべる。


 「平和になった今のエムニアにピッタリだと思いませんか?」


 そう締めくくると、騎士さんたちは一瞬の静寂の後、大きな歓声を上げた。

 

 「うおぉぉー!!」

 「誰も死なない戦いってことか!」

 「そいつはいいや!」

 「俺のこの鍛えた二頭筋をみせる時がきたか…」

 「ハインには負けねーぞ!」


 うんうん、前振りとしてはまずは成功、かな?

 人前が苦手な私にしては上出来だと思う。


 「では今からスポーツの一つ、”ビーチバレー”のルールを説明しますねっ」




~~~




 「…うん、まぁこうなりますよね」


 私はクレーターのように陥没した第二訓練場の一角を見て、そう呟いた。


 訓練場を囲む石壁に目を向ければ、ボールがめり込んだ跡と、焦げたような跡。



 「次いくぞぉー!」


 「俺の爆裂サーブが受けられると思うなよっ」


 「ふははっ、俺の砂巨人を崩せるとでもっ?!」


 「おりゃぁっ!!!」


 「「あっ」」


 ボンッと、またボールが弾ける音が聞こえた。

 魔力で強度を上げたけど、足らなかったみたいだ。


 「魔法は使わないでくださいって言ったのに…」


 最初はルールを守って、魔法なし身体強化ありの、ぎりぎりビーチバレーになってたんだけどね…


 途中からは、ボールが炎をまとったり、砂を操って作った巨人でレシーブしたり、氷で作った防壁でブロックしたり…やりたい放題の超次元魔法ビーチバレー(?)になっていた。


 まぁ、気持ちは分かるけどね。

 私も勇者エレクやマーロィとの手合わせだと、つい熱くなって大規模魔法使っちゃうこともあったし。


 「ティアラ様~! すみません、ボール壊れてしまったので直して頂けますかー?」


 大きな声で手を振りながら駆け寄ってくる砂まみれのハインさん。

 私は黄金色の魔力の糸を操って、受け取った弾けたトマトみたいになっているボールを元に戻す。


 それからボールが塵になる寸前くらいまで魔力を込めて、苦笑しながら新しいボールをハインさんに手渡した。


 「楽しんでいただけているようで何よりです」


 「えぇ! スポーツって楽しいですね! 教えてくださってありがとうございます、ティアラ様!」


 ハインさんはそう言って、木陰にごろりと転がって無気力な表情をしていた人とは思えないほど、晴れやかな笑顔を浮かべていた。


 …うん、まぁいっか、楽しそうだし!

 地球のスポーツそのままだと、エムニアで遊ぶには難しいっていうのも分かったし、良しとしよう!


 「私もまぜてくださーい!」


 ひとまず今は、私も騎士さんたちとビーチバレー(?)を楽しむことにした。


エムニア人の平均的な身体能力は、地球人の十倍くらい(エムニア上位勢はさらにその数倍)

なので一部のルールは身体能力でゴリ押し出来てしまい、勝負がつかなくなります。

魔力で身体強化するともっとひどいことに…

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― 新着の感想 ―
サッカーとか野球じゃないのか・・・ テニスとかだとリアルにテニプリごっこもできそうだけれどww
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