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転生天使の異世界交流  作者: 水色みなも
第三章 エムニアに娯楽を
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28 砂浜の天使


 カルフォルニア州のカール知事と昼食をとった私たちは、車で移動していた。


 目的地は、ビーチバレーの試合をするという広いビーチだ。



 「ビーチバレーはカリフォルニア発祥のスポーツなんだよ。元々はそこまで有名な競技ではなかったんだけどね、世界的なスポーツの祭典で競技種目に加わってから注目を浴びるようになったんだ。 シンプルなルールのスポーツだから、きっとエムニアでも楽しんで貰えるんじゃないかな」


 「へぇ、そうなんですね! 楽しみです!」


 カリフォルニアが発祥だったんだ。

 知らなかった。


 前世はアニメやゲームに夢中で、スポーツ観戦はほとんどしたことがなかったからなぁ。

 スポーツで知っていることなんて、ニュースでたまに見かけるピッチャーとバッターの二刀流で活躍する有名な野球選手とかくらいだった。


 前世の記憶があって元地球人だから地球のことを知った気になっていたけど、地球に暮らす人々や国や文化について、知らないことばかりなのかも。


 そう思うと、転生なんてしなくても、すぐ近くに異世界はあったのかもしれないね。


 窓の外を流れるヤシの木みたいな南国風の木々の生えた異国情緒溢れる景色を見ていると、そう思った。




 そんな風に景色を楽しんでいると、あっという間に会場があるというビーチに到着した。


 車から降りて、先導するカール知事の後ろを円華さんと一緒に歩く。


 「あれ、そういえば伊達さんは? 今朝から見ていないような…」


 私が首を傾げると、すまし顔で円華さんが答えてくれた。


 「彼なら今頃、ニューヨークですよ」


 「え?!」


 なんで?!


 「ティアラお嬢様の秋葉原のお出掛けについて、国連の皆さまに説明をされるとおっしゃっていましたわ」


 私のせいだった。

 す、すみません伊達さん…!


 これはあとで絶対にお詫びの品を渡さないと!


 「あぁ、それから後でお伝えしようと思っていたのですが、エムニアに帰られる前に日本に立ち寄って欲しいともおっしゃっていましたわ。なんでも、頼まれていたお土産を用意したのでぜひ持ち帰って頂きたい、と」


 「伊達さん、用意してくれたのですね!」


 迷惑ばかり掛けてるのに、ありがとうございます…!

 お詫びの品に加えて、お礼の品も渡さなくては!!



 そんなやりとりをしながら歩いていると、カラフルなパラソルやシートで囲まれた場所が見えてきた。

 足場を組んで少し高くなった観客席も見える。


 「ミス・ティアラ、あそこが会場だよ!」


 カール知事は大きな声でそう言って振り返った。

 

 「にぎやかですねっ もう試合が始まっているのでしょうか?」


 周囲の喧騒に負けないように、私も少し大きな声を出す。


 「いやまだのはずだよ。 …どうやらミス・ティアラの来訪をどこからか聞きつけて人が集まったようだね」


 そうして示した先には「WELCOME ANGLE! Ms. Tiare!」と書かれたカラフルな横断幕があった。

 わーぉ、すっごい派手だね。


 そちらを見るとブンブンと手を振る人や飛び上がっている人が見える。


 私も向こうから見えるように大きく両手を振り、英語であいさつを返した。


 「こんにちわ! エムニアから来たティアラです! ビーチバレーの観戦にきました!」


 ワァッと大きな歓声があがる。


 「夏の砂浜でやるビーチバレーは最高だぞっ!」


 「ルールも簡単だから、エムニアでもやってみてくれ!」


 「ビーチバレーは観るのも楽しいわよっ! 今日は楽しんでいってね!」


 「はい! 楽しみにしています!」

 


 私が返事を返すと、みんな大きな声に大きな手ぶりでリアクションを返してくれた。

 すっごい歓迎されてるって感じだ。

 アメリカでは私の地球訪問に反対する人も多いと聞いていたので、ちょっと身構えていたけど、そんな必要はなかったのかも。


 嬉しくなって思わず頬が緩んだ私に、円華さんとカール知事はそろって「よかったね(ですわね)」と言った。


 私はそれに、元気よく頷いた。




~~~




 私たちの観戦席は、コートをぐるりと囲んだシートの外側、少し高くなった位置にあった。

 ほかの席は階段状に横一列の座席が連なっているのに対して、私たちの席はお立ち台みたいな平らな床の上にリゾートチェアにクッションが乗せられていた。


 フェンスにも囲まれて、いかにもVIPといった感じだ。


 え、ここに座るの?

 私が? これ来賓とか、偉い人が座るところじゃないの?


 あ、そっか。

 今回は来賓みたいなものだから、いいのかな?


 そうだよね、せっかく用意してくれたんだから座らないのも失礼だよね。



 特別待遇に慣れていない私がそんな風に悩んでいると、どこからか泣き声が聞こえた。


 小さな子供の、女の子の声だ。


 「ティアラお嬢様、どうかされましたか?」


 「いえ、子供の泣き声が聞こえた気がしたので…」


 フェンスに身を乗り出すと、席の下、コートに近い観戦席にクマのぬいぐるみを抱えて泣いている女の子がいた。

 横には、その女の子の兄らしきオロオロと困った顔の少年もいる。


 その周囲を見ても、二人の親らしき大人はいなさそうだ。

 他の観客も、私に向かって歓声をあげる人々の声にかき消されて二人の子供には気づいていないみたい。


 あ、女の子の泣き声がトーンアップした。

 どうにかなだめようとしてた男の子が、失敗したみたいだ。


 まったく、仕方ないなぁ。


 「ちょっと行ってきます!」


 「え?! ミス・ティアラ?!」


 驚くカール知事を尻目に私はぴょんとフェンスを飛び越え、翼を広げる。

 円華さんは「仕方ありませんわね」と言いたげに苦笑していたので、対応は任せてもよさそうだ。



 ふわりと着地して私は泣き止まない女の子に近づく。


 こちらに気づいて、ポカンと口を開けていた少年が慌てて間に入ってきた。


 「なんだお前! 妹に何のようだ!」


 やっぱりお兄ちゃんだったみたいだ。


 「大きな声で泣いていたから、心配になって。私はティアラと言います。あなたのお名前は?」


 「テオ」


 「カッコイイ名前ですね! …テオくん、妹さんと何かあったのですか?」


 私がそう言うと、ウッと声を詰まらせたあと「別に…」ともにょもにょ口を動かした。

 ははーん、お兄ちゃんが原因だね?



 私はペンダントに触れてティアぬいを取り出すと、泣いているテオくんの妹さんの前に立った。

 それから、膝をついて目線を合わせて、ティアぬいを顔の前に持ち上げる。


 「初めまして! 私はティアラ! あなたのお名前は?」


 「ぐすっ……メリア」


 「とっても素敵なお名前ですね! メリアちゃんは、何か悲しいことがあったの?」


 「テオがミルクちゃんをいじめたの」


 「ミルクちゃん?」


 「この子」


 そう言って、ギュッと抱きしめたのは白い毛並みの熊のぬいぐるみ。

 よくよく見ればぬいぐるみの肩がほつれて取れかかっている。


 「テオくん?」


 「ち、ちがうわざとじゃないぞ! 席に座ろうって言ったのに、メリアがやだって言うから!」


 「だって今日はママ、いっしょにおでかけするって言ったもん! なのに試合があるからまたこんどねって! だから私とミルクちゃんだけで遊びにいくんだもん! そしたらテオがダメってひっぱるからっ」


 「ダメに決まってるだろ! メリアだけなんて危ないし、俺がママに怒られるだろ!」


 そうしてまた兄妹の言い合いが始まってしまった。


 だけど、私はメリアちゃんの言葉が気になってそれどころじゃない。


 急に試合が入ってお出掛け出来なくなったって、それって…


 「テオくん、あなたのお母さんって…」


 「なんだよっ、ビーチバレーの選手だよっ」


 「……」


 わぁ、これってそもそもの原因、私だったりする?

 私が急にここに来たから、予定になかったビーチバレーの試合を開催することになったりとか??

 

 「…メリアちゃん、私がミルクちゃんの怪我、治してあげますね!」


 「ほんと? おねえちゃんがミルクちゃん治してくれるの?」


 ウルウルと丸い目に涙を溜めて私をみるメリアちゃん。

 うん、申し訳なさ過ぎるので治させて欲しい。


 私は大きく頷いた。


 「はい、任せてください!」


 その言葉にメリアちゃんは一瞬顔を明るくしたけど、すぐに暗い顔になってしまった。


 「でも、お道具箱ないよ? まえにママがミルクちゃんを治すにはお道具箱がひつようなのよって。だからおうちにかえってからねって」


 お道具箱、裁縫道具のことかな。


 「大丈夫! 私、こう見えて魔法使いなんです! だからお道具箱がなくても治せますよ!」


 やめてテオくん、「何言ってんだこいつ」って顔で見ないで。

 子供に呆れた顔されるのは結構心にくるから!

 私ほんとに魔法使いだから!


 テオくんに疑わしそうな目を向けられた私は、メリアちゃんからぬいぐるみのミルクちゃんを受け取る。


 それから一目で分かるように、ちょっと過剰演出な魔法を使う。


 「”糸紡ぐ光”」


 エムニアの言葉で呪文を唱えて、ピッと立てた指先に光を灯す。


 それからクルクルと指先を回せば、それを追いかけるように灯した光から黄金色の糸が現れた。

 テオくんとメリアちゃんは二人そろって目を見開き、私の指先を目で追いかける。


 私は現れた糸を引き連れて、指先をぬいぐるみのほつれた場所に向ける。


 黄金色の光は、時間を巻き戻すようにぬいぐるみの肩を縫い合わせた。

 

 「はい! これでミルクちゃんは元気になりましたよ!」


 「すごいすごい! おねえちゃんすごい! ほんものの魔法使いさんだ!」


 メリアちゃんはぬいぐるみのミルクちゃんを抱きしめてぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 驚きで涙も引っ込んだみたい。よかったぁ。


 「ま、魔法…本物…?」


 テオくんは大きな口を開けたまま、未だに信じられない様子。

 そうだよ少年。噓じゃないよ!



 それから私は、タイミングを見計らって迎えに来てくれた円華さんの後に続いて、メリアちゃんとテオくんと一緒にVIP席に戻った。

 テオくんは遠慮したかったみたいだけど、涙を浮かべかけた妹には勝てなかったみたい。


 テオくんはおっかなびっくりだったけど、メリアちゃんは魔法を見てテンションが上がっているのか、ずっと「すごい!」と言っていた。

 

 そのあと、私の膝にのったメリアちゃんの解説を聞きながらビーチバレーを観戦した。


 さすがお母さんがビーチバレーの選手だけあって、解説もとても分かりやすかった。

 というか、まだ幼いメリアちゃんの解説なので難しい英単語や文法が少なかったので、英語初心者な私には聞きやすかったのだ。

 もちろん、お兄ちゃんのテオくんもところどころで補足をしてくれた。



 試合後は兄妹のお母さんにお礼を言われて、手を振って別れた。


 「ティアラおねえちゃん、またお話しようね! 今度はいっしょにビーチバレーしたいなっ」


 「はい! その時を楽しみにしていますね! テオくんも今日はありがとうございました!」


 「別にオレは何も…」


 そう言いつつもテオくんも手を振り返してくれた。


 そんな兄妹との別れを惜しみつつ、カリフォルニアでの私の観光は終わった。





~~~





 次の日にはニューヨークに(文字通り)飛んで、国連所属の各国からのお土産を受け取った。

 伊達さんはまだお仕事があるらしく鶴木総理と一緒に日本へ帰国するそうなので、私は円華さんと一緒に一足先に日本に立ち寄ることにした。

 それから特殊案件対策室にお邪魔して、伊達さんの用意してくれたお土産を受け取る。


 「円華さん、今回はありがとうございました。いろいろ相談にのって貰えて助かりました。 それに一緒に観光できて楽しかったです! また次回もよろしくお願いしますね!」


 「ティアラお嬢様、こちらこそとても楽しい時間を過ごさせて頂きましたわ。 お嬢様が帰ってしまうのは寂しいですが、またいらっしゃるのを楽しみにお待ちしております」


 「はい、必ずまた来ます!」


 私は大きく手を振って、後光のような光を放つ魔法具から魔力の供給を受けて転移の魔法を使った。

 黄金色の光に包まれて、私は姿が地球から消える。


 またね、地球!


2回目の地球訪問はこれにて終了です。

次回は、エムニアでのお話になります。

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