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転生天使の異世界交流  作者: 水色みなも
第三章 エムニアに娯楽を
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27 交流と手品

 

 身支度を整えてホテルのロビーに降りると、すでに知事さんが待っていた。


 「お待たせしてしまって申し訳ありませんっ、エムニア特使のティアラ・エルディアです!」


 「やぁ、初めましてミス・ティアラ。カリフォルニア州知事のカール・フィルマです」


 ソファから立ち上がったカール知事と笑顔で握手を交わす。

 カール知事は、灰色の髪を綺麗に整えたスーツ姿の老紳士って感じの人物だった。


 「それにしても、ミス・ティアラはどんな衣装も似合うね。いつも来ているエムニアの衣装も素敵だけど、今日の衣装もとってもキュートだ」


 「えへへ、ありがとうございます」


 アメリカ人はストレートに褒めてくるね、ちょっと照れちゃうよ。


 私は照れて赤くなった頬を隠すように、円華さんを紹介した。


 「こちらは私の通訳をしてくれている円華さんです。今日の衣装も円華さんがコーディネートしてくれたんですよ」


 「ほう! 彼女はいいセンスをしているんだね」


 「ありがとうございます、円華と申します」


 そう言って円華さんはお澄まし顔で控えめな挨拶をした。


 だけど横に立っていた私には、一瞬浮かべた誇らしげな顔が見えた。

 「そうでしょう!そうでしょう! わたくしの推しは可愛いのですわ!」と幻聴が聞こえるような気がする。


 そんな今日の円華さんコーディネートによる私の服装はこんな感じ。


 上は、胸元のフリルが可愛い白を基調としたノースリーブのブラウス。

 下は、ふわりと広がるフレアスカート風の藍色のキュロット。

 カジュアルで爽やかな印象を受けるけど、色合いが落ち着いているのでフォーマルでもありって感じで、絶妙なバランスだと思う。


 シンプルに可愛い。

 どこのアニメの清楚系ヒロイン?って感じだ。


 着ているのは私だけど。


 まぁでも、こういう可愛い服を着ることに抵抗はもうほとんどない。

 エムニアで女の子として過ごした十数年で慣れてしまったというのもあるけど、そもそも可愛い服は嫌いじゃないからね。


 私は元々、ゲームで主人公の性別が選べるなら女性キャラを選ぶし、装備に課金するよりお洒落に課金して楽しむタイプだったので、可愛い服装は好きなのだ。カッコイイのも好きだけど。


 おっといけない。

 褒められるとすぐ嬉しくなって思考があっちこっちいっちゃう。



 そのあと、ホテルの一室を貸切って州知事と会議を行った。

 会議とは言っても、基本は世間話だけどね。


 どうやら国連から、私と個別に取引することにストップがかかっているらしい。

 円華さんからコッソリ教えてもらった。


 「昨夜はゆっくり休めたかな?」


 「はい、とって頂いたお部屋も広くて羽根を伸ばしてゆっくり休めました。その、急にお邪魔してしまって、すみません」


 本当は国連の会議が終わった後、ニューヨーク周辺を観光する予定だったんだけど、ちょっと予定変更があって、急遽カリフォルニアにお邪魔することになったのだ。

 ナンデダロウネー。


 「いやいや、構わないよ。ミス・ティアラは大切なお客人だ。それに、私も貴方と話をしてみたかったんだ。地球の外からやってきた人と話せる機会なんてそうそうないからね」


 あとで孫にも自慢するつもりだよ、とカール知事はパチリとウィンクして見せた。

 意外とお茶目なおじいさんだ。


 「それで、ミス・ティアラ。もし良かったら、なんだけどね」


 「はい、何でしょう?」


 「魔法を見てみたいんだが、今この場で使ってもらうことは出来るかな?」


 ソワソワを見るからに期待した眼差しで言われたら、ノーとは言えない。

 国連の会議で魔法具を渡すのはやめてほしいと言われているけど、魔法は使っちゃダメなんて言われていないし。

 それに美味しい食事に、広々としたベッドのお礼もしたかったからね。


 「いいですよ」


 「本当かい?! ははっ、言ってみるものだね…ちなみに撮影しても?」


 「はい、どうぞ。良かったらお孫さんにも見せてあげてくださいね」


 「もちろんだとも!」


 そう言うとカール知事はスーツからいそいそとスマホを取り出して構えた。

 私は会議前に配られた空になったペットボトルを手に席を立つ。


 「それでは、これを使ってちょっとしたショーをお見せいたします」


 「ほう!本物のマジック・ショーだねっ」


 意外かもしれないけど、私はこういうパフォーマンスには慣れている。

 旅の間の暇つぶしに考えたちょっとした魔法を、エムニアの子供たちによく披露していたからね。


 私は芝居がかったお辞儀をしてから、ひょいとペットボトルを宙に投げる。

 クルクルと回って落ちてきたそれを、両手でパンッと潰した。


 「「おぉ!」」


 「あ、まだ魔法は使ってませんよ」


 「「お、おぉ」」


 おせんべいのように平たくつぶれたそれを、両手のひらの中でこねこねと丸めて、魔力を込める。

 すると、指の隙間からうっすら黄金色の光が溢れた。


 それからパッと手を広げる。


 「おぉ! 美しい!」

 「すごい、まるでクリスタルのようだ…」


 現れたのは、水晶のように透き通った大きな花弁の花。

 いつも魔石とかその辺の石ころでやってたけど、ペットボトルでやると透明になるんだね。

 きらきらと光を反射して、なかなか綺麗だ。


 それから私は透明な花の茎を手に持って、横に薙ぐようにその場でターンをした。

 透明な花は黄金色の光に包まれてすらりと伸び、水晶のレイピアに姿を変える。


 「花が剣になったぞっ」

 「なんと可憐なレイピアか…」

 「おいくらですの?」


 ふふん、きれいでしょ!

 ちなみに、(つば)に先ほどの透明な花をあしらってあるのが私のこだわりだ。


 まぁベースになった素材の強度とあんまり変わらないから実用性はないけどね。あくまで見た目だけだ。

 もちろん魔力を注ぎ込めば竜退治の魔剣クラスの武器にも出来るけど、ふつうの素材だと一瞬で蒸発しちゃうのでパフォーマンス向きではない。


 私は胸の前にレイピアを構えて、突き、薙ぎ払い、振り下ろす。

 勇者エレクの見よう見まねで覚えた、なんちゃって剣術だ。

 レイピアの軌跡には黄金色の魔力の粒子がわずか残り、流線型の模様を描いた。


 そして最後に、身体の前で納刀するように反対の手のひらにレイピアを突き立てる。

 そのままずっとレイピアを手のひらに押し込む私をみて、会議室に息を呑む音が聞こえた。


 大丈夫、大丈夫。

 この程度なら私の身体に傷一つつかないから。


 心配そうな視線を送る円華さんに微笑みを返してから、私は傷一つないことを見せつけるように手を掲げてみせる。

 掲げた手のひら、その指の間には宝石のように綺麗にカットされた石が挟まれていた。


 「はい、良かったらお孫さんのお土産にどうぞ」


 私はスマホを構えたまま「ワォ」と感嘆の声をあげるだけになっていたカール知事に、その石を手渡す。

 石を受け取ってハッと我に返ったカール知事は、自分の手の中をじっと見た。


 「も、貰ってしまっていいのかい? 貴重なものでは…」

 

 「はい、いいですよ。 魔法で形や性質を変えたので見た目は宝石みたいですけど、素材はプラスチックなので」


 たぶん。

 地球の素材でやったことはないから、分からないけど。 


 私の魔力が残っているので、暗いところで光ったり、ほんのり暖かかったりするかもしれないけど、ふつうのプラスチックの固まりのはず。



 「いやぁ、やはり魔法はすごいね! 見ていて楽しかったよ!」


 「ありがとうございます!」


 その後、にこにこのカール知事や彼の秘書さんは興奮気味に感想を伝えてくれた。

 よかった、楽しんでもらえたみたいだ。


 「それにしても随分手馴れていたね。先ほどのマジックショーは何度かやったことがあるのかい?」


 「はい、エムニアの子供たちによく披露していましたので」

 

 「そうか、君は優しいお姉さんなんだね。きっと子供たちにも大人気なんだろう」


 「そ、そんなことないですよ」




 そのあともカール知事と会議というの名の雑談をして、お昼はホテルのレストランで一緒にカリフォルニアロールを頂いた。


 「ごちそうさまでした! 何だか不思議な見た目でしたけど、美味しかったです!」


 アボカドをご飯と海苔で巻いているんだけど、思ったよりもアボカドと醤油がマッチしていて、思わず沢山食べてしまった。


 横で座っている円華さんも、満足そうな表情をしている。


 「円華さん、美味しかったですね!」


 「えぇ、ごちそうさまでした」


 円華さん、なんで私に向かって手を合わせてるの?


いつもお読みいただきありがとうございます!

ご意見・ご感想お待ちしております!

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