26 身支度
お待たせいたしました。
第三章、開始です。
私の名前はティアラ。
魔法のあるエムニアという星に生まれた天使族の女の子。
私には前世の記憶がある。
日本に生まれて、アニメやゲーム、マンガなどたくさんの娯楽に囲まれて育って。
そして事故にあって死んでしまった。そんなとある青年の記憶だ。
いわゆる転生者、というものだ。
異星人に転生した私は今、娯楽の少ないエムニアを飛び出して前世の故郷である地球にやってきている。
エムニアの便利な”魔法具”を地球に輸出し、地球の多彩な”娯楽”をエムニアに輸入して、二つの星を笑顔と希望で溢れさせるためだ。
まぁ、本当はそんな大層な志があるわけじゃないけどね。
魔法って便利でとっても楽しいから、前世の故郷である地球におすそ分けしたいな。
それと交換で、アニメのブルーレイとか地球の娯楽を貰ってエムニアでみんなと楽しく過ごせたらいいな。
そんなフワッとした願いが、私の正直な気持ちだ。
こんなこと、エムニアや地球の偉い人に言ったら怒られちゃうかもね。
まぁでも、エムニアの統治者であるセレスさまは、私が地球からの転生者であることを知っている。
だからもしかしたら、私の考えていることもお見通しなのかもしれないけど。
そんな自分の願いを叶えるためにも、今日も地球との交流をがんばっていこう!
~~~
朝。
私はアメリカのホテルの一室で、ごろりと寝そべってスマホをみる。
ニュース番組では、先日の国連でスピーチした私の映像が取り上げられていた。
『——以上がエムニア星からの来訪者、ミス・ティアラのスピーチの様子です』
『まだ幼いのに、ずいぶんしっかりした話しぶりだったね! それに英語で話しているようだけど…宇宙人も英語を話すのかい?』
『えぇ、どうやら今回の訪問のために英語を勉強したそうです』
『それはスゴイ! 前回地球に来てからまだ一月も経ってないだろう? 彼女はとんでもない努力家だね!』
いえ、半分は魔法のおかげです。
自分がニュースで取り上げられているのがなんだかむずがゆくて、私は思わず心の中で呟いた。
というか、幼いって言うけど私はもう18歳だ。地球人基準なら成人年齢のはず。
日本人は幼く見られやすい、というアレの異星人版なのかな?
まぁエムニア星でもお母さんには
「ティアラちゃんは、まだ子供よ。 だって100歳にもなってないでしょう?」
と子供扱いされるんだけどね。長命な種族の時間感覚はいまだによく分からないや。
そんな風に考え事をしながらスマホを抱えてベッドの上をコロコロ転がっていると、ノックの音が聞こえた。
「おはようございます、ティアラお嬢様。円華です。身支度のお手伝いに参りました」
「おはようございます! 今開けますね!」
私はぴょんっとベッドから飛び起き、そのままばさりと飛んで扉を開けた。
こういう時、エムニアで暮らしていた癖でついつい飛んで移動しちゃうけど、アメリカはホテルも広いから、翼がぶつからなくていいね!
扉の前に立っていたのは、紺のワンピースに白いエプロンドレスを身につけた、どこからどう見てもメイドさんな長身の和風美女。
日本政府の紹介で私が地球に滞在している間、私の通訳と護衛をしてくれることになった円華さんだ。
「円華さん、今日の会議は午前中だけで、午後はお出掛けでしたよね?」
鏡台の前に座って、髪を梳かしてもらいながら私はスマホでカレンダーを身ながら円華さんに確認した。
こうやってお世話されるのも、最初は緊張していたのに、なんだか慣れてきちゃった気がする。
鏡越しの私の問いに、「えぇ」と円華さんが頷いた。
「お嬢様の本日のご予定は、午前10時からホテルのサロンで州知事と打合せ。その後、会食をはさんで、東海岸の○○ビーチに移動。午後2時からビーチバレーの試合観戦になっておりますわ」
「私、ビーチバレーは初めてみるので楽しみですっ」
私が振り返りながらそう言うと、円華さんは目を瞬かせてからクスリと笑った。
「?? えと、私なにかおかしなこと言いました?」
「いえ、まるで他のスポーツは見たことがある、みたいな言い方でしたので」
あっ!
「そ、そんなことありませんよ? ただ私も地球のことは勉強しているので、有名なスポーツは動画で見たことあったので」
私は手と翼をわたわたと動かして、しどろもどろになりながら誤魔化す。
円華さんに、微笑ましいものを見る表情をされた。
「勉強熱心で大変よろしいと思いますわ。 それに……スマホもずいぶんと使いこなしているようで」
「え? ……あ?! これは、その!」
私はサッと手に持っていたスマホをポケットにしまった。
よくよく考えれば、たった一週間程度で異星人がスマホを使いこなしてるの、かなり怪しいのでは…?
記憶を振り返ってみると、スマホを受け取った日に電話のかけ方を円華さんに聞いたきりだった気がする。
私、ホテルの部屋や車での移動中に、ふつうにスマホで調べものしたり、ニュース見たり、動画見ちゃってたよ…。
どうりで車内で視線を感じるなぁーと思ったわけだ。
私のアホー!
ど、どうにか誤魔化さないと!
私が頭をフル回転させてどう言い訳しようか考えていると、円華さんはもう一度クスリと笑ってから、私を鏡に向きなおらせた。
「ティアラお嬢様は魔法使いですから。そのようなことも出来るのでしょうね」
ですわよね?と優しい笑みを浮かべた円華さんに鏡越しに覗き込まれて、私は勢いよく頷いた。
「そ、そうなんですよっ 魔法ってホント便利で!!」
良かった、誤魔化せた。
誤魔化せたよね…?
円華さん、なんだかにこにこ満面の笑みなんだけど。
あれ?
もしかして、私からかわれてる??
あの、円華さん???
「さて、今日のお召し物はいかがいたしましょうか、お嬢様?」
声を弾ませた円華さんは、何だかとっても上機嫌だった。
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