閑話 推しとの遭遇?
前世の妹視点の閑話です。
私には今、推しがいる。
今年の兄の命日。
地元の駅へと向かう電車に揺られながら見た夢に出てきた、可愛らしい天使だ。
彼女は私の夢の中だけでなく、東京上空にも現れた。
どうやら天使の少女は異星人だったらしい。
緊急のテロップが表示された記者会見の中継映像の中、翼を広げた彼女は堂々と自己紹介をしていた。
名前はティアラちゃん。
エムニアという魔法の存在する星から娯楽を求めて地球にやってきたそうだ。
背中から生えた純白の大きな一対の翼に、陽の光を浴びてキラキラと輝く黄金色の長い髪と丸い瞳。
小柄な身体で手足を大きく動かして会見をする姿は、どこか小動物みたいでとても可愛らしい。
一生懸命に話すその声も、ふんわりと優しい。
そんな超がつくほどの美少女。
アニメ好きな私が好きにならないはずがなかった。
だけど、私が惹かれたのはそこだけじゃない。
土砂災害があった現場で救助作業を手伝う様子や、そのあとの記者会見で見せるふとした表情や仕草が、不思議と懐かしく感じてなぜだかとっても安心できたのだ。
その不思議な感覚のせいなのか。
ティアラちゃんを目にしたあの日から、私は兄の夢をみるようになった。
「コウ兄さん! テストで百点取ったの! 兄さんが勉強教えてくれたからだよ!」
「それはみつきが頑張ったからだよ。 よし! がんばり屋なみつきにはご褒美にパフェを奢ってやろう!」
「わーい! パフェだぁー! コウ兄さん大好きっ」
それは事故の日の悪夢じゃない、兄と過ごした楽しかった日々の夢だ。
私はそれが嬉しかった。
優しく目を細めて私の頭を撫でてくれる兄に、例え夢だったとしても、もう一度会えるなんて思っていなかったから。
笑われちゃうかもしれないけど、きっとこれは天使の贈り物なんじゃないのかな、なんて思っている。
だから私は夢で彼女に会ったその日から、彼女のファンだ。
激推しだ。
まぁそれがなかったとしてもオタクな私が、彼女を推すまでに時間はかからなかったと思うけどね。
献身的に人助けする優しい美少女がキライなオタクなんていないでしょ。
~~~
私はティアラちゃんを推し始めて気づいたことがあった。
供給が少なすぎる。
ティアラちゃんのグッズなんてもちろんない。
ティアラちゃんを見れるのも、地球来訪の初日にたまたま映りこんだお天気カメラのライブ配信の映像と、土砂災害のニュースの現場リポートに映りこんだ数秒の映像、それから国会議事堂前での記者会見。
ネットのティアラちゃん推しの同志も嘆いているが、圧倒的に供給がない。
できることは録画した映像を見返すことだけ…
は、早く新しいティアラちゃん成分を…
そんな調子で、録画したティアラちゃんの会見を何度も見返していたら、私は一つの発見をした。
魔法具の実演をした黒縁メガネのインテリイケメンが、スーツに不似合いなデフォルメされたぬいぐるみを持っているではないか!
その金色の髪に白い羽根。
まさか、ティアラちゃんのグッズ???
私も欲しいんですけど!
私は即座にズームして切り抜いた画像と共にSNSに呟いた。
みっつー@mittsu_33
# 天使ティアラ
ティアラちゃんのデフォルメぬいぐるみっぽい?
ずるい、私も欲しい
[画像]
○○○○@○○○
いや、そうでしょこれ!
なにこれ、どこから切り抜いてきたの?!
○○○○@○○○
これ、ティアラちゃんのデフォルメぬいぐるみじゃん!
○○○○@○○○
え?
なにこれ欲しい
○○○○@○○○
なになに、ティアラちゃんのグッズってもう売ってるの?!
早すぎない???
○○○○@○○○
このスーツの男性、会見で魔法具使ってた人?
みっつー@mittsu_33
そう、会見の録画観返してたら気づいた
○○○○@○○○
なんだなんだ、政府の人間は自分たちだけグッズを手に入れてるのか
ずるいぞ
○○○○@○○○
許すまじ
ティアラちゃんのグッズの販売を強く希望する!!!
……
…
私が投下した画像はものすごい早さで拡散され、そしてよく燃えた。
SNSコワイネー
ま、まぁ私が悪いことしたわけじゃないし、セーフでしょ。
セーフだよね?
あとで件のスーツの男性から苦情がきたりしないといいな…。
それはそうと、私もティアラちゃんのぬいぐるみ欲しい。
どこに売ってるんだろう…。
~~~
ということで、私は平日の休みを利用して秋葉原に来た。
目的はもちろん、ティアラちゃんのグッズ探しだ。
グッズの取り扱いの豊富さなら、ここが一番だ。
ここならきっと見つかるはず!
私は意気揚々を歩きだす。
それにしても相変わらず人が多い。
少しでも人が少ない日を狙って、フリーランスの強みを活かして敢えて平日に来たのに。
仕方ない。
ここは夏と冬のオタクの祭典で鍛えた、私の移動スキルを駆使してショップを回るとしよう。
私は人の流れに逆らわないよう、順路を頭に思い浮かべながら歩きだした。
~~~
推しの! グッズが! 見当たらない!
歩き回って数時間。
さすがに少し疲れてきたので、私は冷たいドリンクを買って一休みしていた。
考えてみたら当たり前だ。
ティアラちゃんが地球に来たのは、今回を合わせてもまだ2度目だ。
そんなすぐすぐグッズが出るわけがない。
アニメのグッズだって準備には数か月、長いものなら一年掛かることだってあると聞くし。
「はぁー…」
それに気づくと、急にドッと疲れが押し寄せてくる気がした。
あぁ、こういう時こそ推しに癒されたい…。
そういえばティアラちゃん、今はアメリカにいるんだっけ。
日本にも一日だけ立ち寄ったけど、国連の会議に参加するとかですでにいないらしい。
あー、もう一度生で見たいなぁ。
あの日は遠目にしか見れなかったしなぁ。
そんなことを考えていると、急に周囲がガヤガヤと騒がしくなった。
なになに、どうしたの。
みんな揃って同じ方向を見る光景に既視感を覚えて、私もそちらに視線を向ける。
人混みを割りながら、二人組が歩いてきた。
一人はクールな印象を受ける長身の美女。
まだ暑いのに、足首まであるシンプルな紺のワンピースを着ていた。
そんな美女と手をつないで歩くもう一人。
ダークブラウンの髪を金色のリボンでまとめてポニーテールにした鳶色の瞳をした美少女。
水色のセーラー服みたいなワンピースを着て、小さな翼のついたリュックを背負っている。
ポニテ美少女は秋葉原が初めてなのか、きょろきょろと周囲を見ては楽しそうにしており、それを眺めるクール系美女もその様子を微笑ましそうに見ている。
美女と美少女の手つなぎデートが見れるとは…いいものを見た。
私は周囲の人と同じように思わず手を合わせた。なむなむ…
このご利益でティアラちゃんのグッズが見つかったりしないかなぁ。
…ん? ティアラちゃん?
そういえばあのポニテ美少女、どことなくティアラちゃんに似ているような…
まさか、ティアラちゃんが変装してお忍びで秋葉原に遊びに来てるとか?!
娯楽が目的で地球に来たくらいだし、ありえるのでは?
…いや、ないか。
今はアメリカにいるって話だし。
そんな二人組に遭遇できたご利益なのか。
私はその後とあるショップで恐ろしいくらい精巧なティアラちゃんのフィギュアを発見した。
非売品だったのは残念だったけど、写真もたくさん撮れたし満足です。
帰り道、私はメッセージアプリを立ち上げて兄との会話画面に今日撮ったフィギュアの写真を送った。
コウ兄さん、今日もとっても良いことがあったよ。
~~~
その日の夕方。
天使ティアラについて書かれた、とあるネット掲示板はいつも以上に賑わっていた。
どうやら秋葉原に天使ティアラがお忍びで遊びに来ていたらしい。
掲示板には、金髪をポニーテールにまとめて水色のセーラー服風ワンピースを着た天使の少女が載っていた。
104 天使ティアラちゃんを見守り隊
ティアラちゃん、お忍びで秋葉原に来てたらしい
[画像]
105 天使ティアラちゃんを見守り隊
>>104
これマジ?
魔法って髪の色も変えられるのか
106 天使ティアラちゃんを見守り隊
天使衣装じゃないティアラちゃんも可愛いね!
107 天使ティアラちゃんを見守り隊
ちなみにこっちは金髪ポニテバージョン
[画像]
108 天使ティアラちゃんを見守り隊
おいおいおい、美少女すぎるだろ
天使かよ
109 天使ティアラちゃんを見守り隊
>>108
天使だが?
110 天使ティアラちゃんを見守り隊
>>108
天使なんだよなぁ…
111 天使ティアラちゃんを見守り隊
美女と美少女の二人が手つなぎデートしてるかと思ったら、ティアラちゃんだったのか
112 天使ティアラちゃんを見守り隊
>>111
ちょっと待て
113 天使ティアラちゃんを見守り隊
>>111
詳しく聞こうか
……
…
~~~
ベッドに横になりながらスマホを眺めていた私は、ガバッと起き上がり叫んだ。
「ティアラちゃんだったのっ???!!!」
そりゃ似てるよね!?
変装前と変装後の写真を見比べると、翼は隠しているし髪も瞳の色も違うけど、たしかにティアラちゃんだ。
なんで気づかなかったの私…!
あぁもう!
それならもっとじっくり見ておけば良かったのにぃ!!
私はメッセージアプリを立ち上げて、兄との会話画面に地団駄を踏むスタンプを送信した。
コウ兄さんも生きていたら、きっとティアラちゃん推してただろうなぁ。
兄さん、金髪美少女ヒロイン好きだったみたいだからね。
いつもお読みいただきありがとうございます!
第三章は現在こねこねしてますので、もう少しお待ちくださいませ!