2 私の願いごと
短めです。
私が天使族の里を飛び出し、勇者たちと共に旅をして6年。
激闘の末、ついに魔神を討伐した。
私は18歳になっていた。
勇者一行なんて呼ばれ方をしていた旅の仲間は、私を含めて4人。
一人目は、異世界から召喚された”勇者”のエレク。
黒髪黒目の好青年で、弁が立ち気配り上手なので旅の間の交渉事はほとんど彼に任せていた。
残念ながら、日本人どころか地球人ですらなく、別の惑星の人間だった。
二人目は、小人族の”賢者”マーロィ。
大きなローブに三角帽子がトレードマークの魔女みたいな恰好をした無口な少女。見た目は完全にロリっ子だけど、仲間の中では一番の年長者で時折するどい発言をする。
彼女は魔法や魔法具の扱いに精通しているので、私もよく彼女に教わっていた。
三人目は、鬼人族の”戦鬼”ガドー。
赤褐色の肌に額からは二本の角が生えており、厳つい見た目をしているけど穏やかな気性の武人だ。
料理上手で、旅の間の食事当番はほとんど彼に任せてしまっていた。
そして最後に私、天使族のティアラ。
私の通り名は、自分で名乗るのは気恥ずかしいので控えさせてほしい。
魔法が得意で、魔物との戦いでは攻撃に防御に回復にと、基本何でもこなせる万能型の魔法使いだ。
代わりに生活能力とサバイバル能力は皆無なので、旅の間はみんなのお世話になりっぱなしだった。
そんな私たち勇者一行の4人は魔神を討伐した後、大忙しだった。
エムニア星に点在する各都市で開催される祝勝パレードに参加したり、有力者の集まるパーティに出席したり、闘技大会にゲストとして参加したり、と休む暇もなかった。
今日はようやく最後のイベントで、私の旅の目的でもあった大神殿で星神様との対面だ。
大司祭の目録の読み上げが終わり、ついに星神様に願いごとを言う時がきた。
私たちは一人ずつ、それぞれの願いを口にする。
「僕の願いは、大切な人とともにこの星で静かに暮らすことです」
「それでは、”浮島”を一つ与えましょう。魔石には私自ら”浮遊”の術を込めておきます、どこに行くのも自由自在ですよ」
「星神様自らとは、光栄です」
勇者エレクは余生を過ごす場所を求め、魔法で空に浮かぶ島である”浮島”を貰った。
その若さで楽隠居とは、と思わない事ないけど彼らしい。
「まだ見ぬ知識、出来れば本だと嬉しい」
「ふふ、相変わらずですね。いいでしょう、私の蔵書から一つ選びなさい」
「やった」
賢者マーロィは、知識を求めた。
本好きな彼女らしい願い事だ。今度彼女自慢の書庫にお邪魔させてもらおう。
「俺の願いはエレクとティアラに恩を返すことだ。誰かに願うものではない故、貴方様に願うことはない」
「あら、それは困りましたね」
「………そういえば星神様の持つ酒は大変美味と聞く。一度、飲んでみたいものだ」
「構いませんよ、後で届けさせましょう」
戦鬼ガドーは、恩を返すことが願いだと言い断ったが、神殿の端に控える大司祭の眼力に屈したのだろう。渋々、酒を要求していた。
目だけで「星神様を困らせるな」と訴える大司祭コワイ。
そしてついに私の番がやってきた。
私の願い事は決まっている。そのために魔神討伐の旅に出たのだから。
「私の願いは”世界を渡る魔法”、その知識を授けて頂くことです」
緊張しながらそう告げた私は、しばし星神様と視線を交わした。
じっと何かを確認するように見ていた星神様は、不意に優しく微笑む。
「……行くのですね。ご両親を悲しませてはいけませんよ?」
「はい、もちろんです」
そうだった。星神様は私が前世の記憶を持っていることを両親に伝えた張本人だ。
当然、私が何のために”世界を渡る魔法”を求めたのかも、すぐに察したのだろう。
星神様は「必ず、帰ってくるのですよ」と言って、私の頭に手をかざした。
Q:どうやって魔神を倒したの?
A:魔法を当てると回復されるので、限界まで身体強化してぶん殴った。