24 立食パーティーとお誘い
今回は短めです。
国連での会議は魔法具の紹介の後、お昼休憩を挟むことになった。
ちなみにお昼は別室に移動して、立食形式だ。
各国の代表が集う場なのでもっとお堅いものかと思っていたけど、そうでもないらしい。
大きな丸テーブルにはハンバーガーや、ピザ、フライドポテトにフライドチキンと、ファストフードも並んでいた。もちろん、名前は分からないけどお洒落な料理やスイーツも並んでいる。
だけど、私が狙っているのは両手で持つのも難しそうな大きさのハンバーガーだ。
一度、アメリカのハンバーガー食べてみたかったんだよね…!
私は早足でハンバーガーの置かれたテーブルに移動し、ポテトと一緒にお皿に載せてササっと壁際に撤退する。
こういう場はテーブル付近にとどまると話しかけられることが多いのだ。
いやまぁ、異星人との交流も兼ねて立食形式なのかもしれないけど。
そういうのは、せめてこのハンバーガーを食べてからにしたい。
「いただきまーす!」
私は両手でハンバーガーを掴んでかぶりついた。
肉。圧倒的に肉。
すごい、これが本場のハンバーガー!
肉も、野菜も、ソースも、味が濃い。
転生して女の子になったからか、前世の頃よりもはるかに小さくなった口を大きく開けて、かぶりつく。
手も口元をソースや肉汁でベタベタになってるけど、気にならないくらい美味しい。
「美味しい…!」
思わず口からそんな感想をこぼすと、円華さんが口元を拭ってくれた。
「んむっ」
「ティアラお嬢様、口元が汚れておりますよ」
「ありがとうございます円華さん。このハンバーガー、すっごく美味しいですよ! 円華さんも貰ってきた方がいいですよ! 早くしないとなくなっちゃいます!」
「いえ、私は美味しそうに食べるお嬢様を見ているだけで、お腹いっぱいですわ」
「?? そうですか?」
こんなに美味しいのに、もったいない。
でもお腹いっぱいなら仕方ないね。
私は続けてポテトをくわえた。
おー、これも前世の日本でよく食べた某ハンバーガーチェーン店のポテトとはまた違う。
圧倒的、塩味。
ハンバーガーのソースに負けないくらいのしょっぱさだ。
ちょっとはしたないけど、ポテトをつまんだ指先をぺろりと舐めるとザラリと塩の味がした。
肉に油に塩、美味しさの暴力で罪の味って感じがする…。
「お嬢様、お飲み物を頂いてきましたわ。 炭酸飲料もありますがどちらにされますか?」
「炭酸のほうでお願いします!」
ちょっと喉が渇いていたのでありがたく受け取る。
お洒落なグラスに注がれていたのは、炭酸の泡がただよう濃い茶色の液体。
コーラだ。
ハンバーガーにフライドポテト、そしてコーラ。
前世以来、十数年ぶりの組み合わせに感動しながら、私はコーラをぐいと口に含んだ。
「?! ケホッケホッ」
むせた。
炭酸ってこんなに刺激強かったっけ??
常に発動している”状態異常を無効化する魔法”が反応した気がする。
今まであまり比較対象がなくて分からなかったけど、もしかして天使族って味に敏感だったりする??
そういえば日本で食べたカレーもすごく味が濃厚に感じたような?
いや、カレーはそもそも味が濃い料理の代表みたいものだし、それは違うか。
それとも、エムニアの食事が質素で薄味すぎるせい?
基本食べられてお腹いっぱいになればOKって感じだしね…。
うーん、こんなところで地球人とエムニア人の違いを実感することになるとは思わなかった。
今後の交流で持ち帰る食べ物にも少し気をつけよう。
一通り食事を終えた私は食事が並べられたテーブルに戻った。
エムニアにいた頃の私なら、こういった場は勇者エレクに任せて壁の花に徹したけど、流石にそういうわけにはいかない。
今、地球に来ているエムニア人は私だけだし、私が自分で始めた交流だからね。
「ミス・ティアラ、よろしければお伺いしたいことが――」
「エムニア星についてぜひ聞かせて頂きたいわ」
「魔法についてぜひ聞かせて頂きたい! できるなら今この場で見せて頂k――」
そのあとは、入れ替わり立ち替わりに各国の代表に話を聞かれて食事どころではなくなってしまった。
最後の目が爛々と輝いていた顔の近い人は、側近に引きずられていったけど。
次々と聞かれる質問に答えながら、私は思いを馳せた。
あぁ、もう一個くらいハンバーガー食べたかった…。
お持ち帰りとか出来ないかなぁ。
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立食パーティーを終えて会議は再開した。
挨拶のスピーチに魔法具の紹介と、私の話は一通り終わったので今度は地球からエムニアへの交易品について話し合いが行われることになった。
…なったのだけど。
「ミス・ティアラ! ぜひ我が国で大人気のスポーツを観戦して頂きたい!」
スポーツ観戦に招待をしてくる国に。
「私たちの国は古くから多くの音楽家を輩出していますの。近々コンクールが開催されますので、ぜひミス・ティアラにも鑑賞頂きたいのです」
古典音楽のコンクールに招待してくる国。
「我が国では近年格闘技が人気でね! 魔物と戦かった経験があるミス・ティアラならば、必ず興味も持って頂けると思うのだよ!」
格闘技を熱烈に推す熱い首相の国。
「私どもの国は、冬になると湖が厚い氷に覆われてね。それに穴を開けて糸を垂らして釣りをするんだ。大会もあるから良かったらティアラちゃんもどうだい?」
釣りを推す、のんびりとした国もあった。
「スポーツと言えば近年、eスポーツと呼ばれる一風変わったものもあるんです。日本でも力を入れていまして、日本ゲームショウでは大会も開かれる予定です。ティアラさんもよろしければ参加してみませんか?」
日本の伊達さんからもお誘いがあった。
…って日本ゲームショウってJGSのこと?!
新作ゲームの発表とかがある、あの!?
それは行きたい、ぜひ行きたい!
各国の代表から”娯楽”に関する猛アピール合戦になった。
誰に何を誘われたか覚えきれない…と思っていたら伊達さんがあとで一覧にまとめてくれるそうだ。
個人的に気になるお誘いもあったから、後でよく確認しよう。
「皆さん、ご招待ありがとうございます。地球とエムニアの交流について、好意的に考えていただけてとっても嬉しいです! ご招待頂いたものは、順番にはなってしまうと思いますがぜひ出席させて頂きたいです!」
思っていた以上に、地球各国から反応が好意的で本当に嬉しい。
…これなら、用意していた”あれ”はしなくていいかな?
そんな楽観的な私の思考に冷や水を浴びせるように、鋭い目つきをした男性が手を挙げた。
「ミス・ティアラ、一つお尋ねしたい」
ちょっぴり不穏な気配…?