17 魔法具を仕入れよう
今回は短めになります。
交易都市で支部長さんと別れた私は再び、マーロィと一緒に魔法都市に戻ってきた。
やっぱり魔法具を仕入れるなら魔法都市が一番だ。品数も多いし、値段も他の都市で買うより安い。
ただ魔法具の品質は、最低から最高まで差が激しいので目利きが出来ないとちょっと厳しい。
私は魔法具の鑑定とか解析とかはあんまり得意じゃないけど、今回はマーロィがいるので安心だ。
彼女は魔法具作りのプロなうえに、魔法具鑑定についてもちゃんと資格を持っている。
たしか魔法具鑑定士第一級とかだった気がする。彼女のローブにキラキラ輝くバッジがその証だ。
私も魔法に関しては一応資格を持っている。だけど称号の持つ効力の方が強くて、役にたつ場面はほとんどなかったりする。せっかく苦手な勉強までして取得したのでちょっと残念。
考えごとをしながら、マーロィの後ろを魔法具の工房が集まる通りを歩く。
階段を登ったり降ったり、右に行ったり左に行ったり、私が一人で来たら絶対に迷いそうな入り組んだ路地をマーロィはするすると猫のように歩いていく。
道幅が狭いので、ときどき翼が石壁にこすれてちょっと痛い。翼を小さくたたみながらなんとかついていくと、マーロィは一つの古めかしい石造りのお店の前で立ち止まった。
「ここ。おすすめのお店」
「マーロィのおすすめなら間違いなさそうですね」
「ん。でも信頼してくれるのは嬉しいけど、ティアラも魔法使いなんだからもっと鑑定眼を鍛えた方がいい」
「うぅ、精進します…」
私は魔力量が多いせいか魔法の制御が大雑把になりがちで、魔法具の鑑定みたいな細かな魔力制御もあまり得意じゃない。ちらりと見ただけで大まかな鑑定が出来るマーロィと比べると、ほぼ素人レベルだ。
そんなマーロィは勝手知ったるといった感じで、ドアベルを鳴らして扉をくぐっていた。
私も「お邪魔します」と言って後に続く。
お店の中は少し薄暗い。
いかにも魔法の道具を扱ってる怪しいお店って感じで雰囲気があって、なんだかワクワクする。
「いらっしゃい」
「ぴゃっ?!」
びっくりした!!
ひときわ薄暗いカウンターの奥からぬっと顔を出したのは、年老いた怪しいおじさんだった。身長からみてたぶんマーロィと同じ小人族かな。
私の魔力探知をかいくぐるとは、いったい何者…!
まぁ例によって私の魔力探知は大物以外引っかからないザルなんだけど。
私が驚きで少し身を固くしていると、マーロィが店主さん?に話しかけた。
「店主、また来た。少しみてく」
「構わないが、前回からそんなに日も経ってないだろう。魔法具は消耗品とはいえ、もう少し丁寧に扱った方がいいぞ」
怪しげな店主さんから怪しまれたマーロィは私を指さした。
「私じゃない、この子が買う」
「ほう、お嬢さん見ない顔……いや、待て、どこかで見たことがあるぞ。はて、どこだったか…」
腕を組んで考え始める店主さんに、私は名乗ってなかったことに気がついて自己紹介をする。
「初めまして、店主さん。私は天使族のティアラ・エルディアです」
「ティアラちゃんか。…どこかで聞いた名だな」
「ん、勇者一行の一人」
「なるほど、お前さんと同類か。それならあの大量購入も納得だ」
一人納得する店主さんだけど、マーロィは少し口をへの字曲げて不満げだ。
魔法都市でのマーロィの評価が気になるけど、自分に飛び火しそうなので黙っておこう。
ひとしきり頷いた店主さんは、「好きにみるといい」と言ってカウンターの奥に腰掛けて本を読み始めた。私とマーロィは棚に置かれた魔法具を見ていく。
今回の予算は歌唱会で稼いだ分、つまり3百万セレス。
その金額で出来れば100個以上は魔法具を買って地球に持っていきたい。
私は赤い装飾の施された魔法具を手に取る。
”火種”の魔法が刻印されており、旅で重宝する魔法具だ。
地球でいうところのチャッ〇マンの魔法版かな。
普段使いできて便利でたぶん地球の道具より燃費はいいけど、似たような道具はすでにあるからインパクトは薄そうだ。お値段は2千セレスくらい。備え付けの魔石に私が魔力を込めれば数年は使えると思う。火は金色になっちゃうけど。
次に見たのは、うねるような刻印が特徴的な”風使い”の魔法具。
小さなつむじ風を自在に操ることができる魔法を刻印してある。使い方は工夫次第でいろいろあるけど、よく見かけるのは箒代わりに使って掃除したりとかかな。いかにも魔法らしくてインパクトはありそうだけど、実用性は掃除機とかお掃除ロボットには負けちゃうかも。
お値段は5千セレスくらい。掃除機を買うと思えば安い…かも?
それから私が地球にいた時から、主力商品になりそうと期待していた魔法具を手に取る。
青と白の精密な刻印が施された魔法具。物理、魔法を問わず「攻撃を意図したあらゆる現象」を防ぐ魔法の壁、”防壁”を生み出す護身用の魔法具だ。
お値段は性能にもよるけど、1万から5万セレスくらい。要人警護が目的なら銃撃とかが防げればいいと思うから、3万セレスの魔法具でも大丈夫なはず。この辺りは試してみないと分からないので、何種類か値段の違うものを買って、地球で検証すればいいかな。
「マーロィは何かおすすめの魔法具はありますか?」
違う棚を見ていたマーロィに声を掛ける。
「んー、これとか?」
「”幻影”ですか。私はあまり使ったことのないタイプの魔法ですけど、どんな感じなんですか?」
「身を隠したり、変装したり、いろいろ使える。あとはティアラがたまに魔法の練習でやってる、光で色々な動物や魚を作って宙に浮かべるとかも出来るはず」
「ふんふん、聞いた感じ”定型詩”の魔法にしては自由度が高いんですね」
「つくれるのは幻で、直接的な効果はないから」
「なるほど…アリかもしれませんね」
幻だから怪我をする心配がないっていうのはいいかも。
それに見た目はまさしく魔法!って感じだから地球では受けがいいと思う。
うん、これは買っておこう。
「え、安いですねこれ!」
「まぁ幻だから」
「……」
エムニアって魔法があるファンタジーな星なのに、魔神や魔物との戦いが日常的だったせいか火力が高いとか、効果が高いとか、実利的な魔法が好まれるんだよね…。
私も戦いで使う魔法は、最終的には攻撃・防御・回復・強化の4種類だけになってたし。
ロマン魔法は実用性がないからロマン魔法なのだ。カッコいいけどね!
それからマーロィに相談しながら、私は歌唱会で得た資金の全額+私の貯金を使って、大量の魔法具を買い込んだ。
お店を出る前に店主さんに声をかけられた。
「ティアラの嬢ちゃん。今回は何とか在庫で数が足りたが、次回も同じ数をうちの店で用意するのはちと難しいぞ」
「やっぱり難しいですか?」
「あぁ難しい。魔法具ってのは一つ一つ職人が作るからな。どうしてもそれなりに時間がかかっちまう。今回、嬢ちゃんが買ったのと同じ数を仕入れるには数か月はかかるだろうな」
「数か月…」
地球に行って、向こうで帰りの転移の魔力を貯めるのにだいたい10日。
こっちでもだいたい同じ日数だから、合わせて20日。色々伸びても1か月くらいだろう。
まさか魔法具を作る職人さんを急かすわけにもいかないし、これは魔法具の仕入れも何か方法を考えないといけないかな。
「今日はありがとうございました! いい品がたくさん買えて嬉しいです!」
「おう、仕入れ先の職人連中に伝えとく」
私は店主さんにお礼を言って、お店を後にした。
魔法具の購入資金に、仕入れ先の問題。
考えなくちゃいけないことはまだまだたくさんあるけど、ひとまず次の地球訪問に向けた準備は出来た。
後のことは地球に行って、エムニアに帰ってくるまでに考えよう。
地球の人を待たせるわけにもいかないからね!
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これでティアラの地球再訪の準備完了です。
次回、地球サイドの準備の話になります。