表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生天使の異世界交流  作者: 水色みなも
第一章 ファーストコンタクト
2/43

1 天使の少女

本日、二話目の投稿です。



 惑星エムニア。

 その星には不思議な力の源である魔力と、魔法という技術があった。



 意識を失った”俺”が、次に目を覚ますと二人の天使に囲まれていた。


 アニメでしか見たことのない鮮やかな色の髪と瞳をしていて、背中から白い翼の生えた美男美女がそこにいた。


 最初にそれを見たとき、天国って本当にあるんだなぁ、なんて呑気な感想を抱いたものだ。


 だから自分が転生したことに気づいたのは、周囲の言葉が何となく分かるようになってきた、生まれてから半年ぐらい経った頃だった。


 桃色の髪と瞳をした美女は、私のお母さん。

 水色の髪と瞳をしたイケメンは、私のお父さんだった。


 生まれ変わった私の名前は、ティアラ。

 何だかお姫様みたいな名前だな、なんて思っていたら、今世の私は両親と同じ白い翼が背中から生えた天使の女の子だった。

 髪と瞳は金色で、どこかキラキラと光って見えるし、顔も両親譲りなのかかなり整っており、自分のことながら将来は相当な美人になりそうだと思った。



 私が生まれ変わった種族は天使族というそうだ。


 特徴は、一目で分かる背中から生えた大きな一対の白い翼。

 もちろん飾りなんかじゃなくて、空も自由に飛べる。

 翼が生えているので、男女とも背中の開いた解放感のある服をよく着ていて、容姿と相まって見た目は地球人のイメージする天使にそっくりだ。

 こんな華奢な身体で空を飛べるとか筋力どうなってるの?と不思議に思ったけど、魔法がある星なので深くは考えないことにした。


 もう一つの特徴は、とても長生きであること。

 なんと寿命は1000年以上あるらしい。


 「お父さんも私も、まだ二百代後半なのよ~」


 と、お母さんが自慢げに言っていたが、スケールが違いすぎて反応に困った。ちなみに一番長生きなのは天使族の里長で、1000歳以上は確実だと言っていた。

 ただ逆に長命なせいか、子供は滅多に生まれないらしく私は里で百年振りの子供だったそうだ。



 両親は、私が生まれ変わりで前世の記憶を持っていることを、私が打ち明ける前に既に知っていた。生まれたばかりの私に祝福を授けるため、大神殿を訪れた際にこの星を治める星神(ほしがみ)様に告げられたそうだ。

 ちなみに、私はその時お昼寝中だったので覚えがない。


 両親は、私が前世の記憶を持った生まれ変わりだと知っても、気味悪がらず自分たちの娘として愛情を注いでくれた。

 私が一人称や口調を変えたのは、そんな優しい両親へのせめてもの恩返しのつもりだ。両親はとやかく言わなかったけど、私なりのケジメでもあったので、最初のうちは慣れなかったけど押し通した。


 私はそんな優しい両親の元ですくすく育った。




 そんな私だけど、一つだけ不満があった。


 それは、この星の文明に娯楽と呼べるものがほとんどないことだ。

 私にとって唯一娯楽と呼べたのは前世の地球にはなかった魔法だったが、それも先日に魔法を教えてくれていた里長から「もうお前に教えることは何もない」と満足げに言われてしまったので、いよいよやることがなくなってしまった。


 文明が発達していないわけでもないのに、なぜ娯楽がないのか?


 それもこれも、魔神とかいう奴が原因だ。


 魔神はエムニア星を治める星神セレス様の敵で、天使族も含めたエムニア星に暮らす全人類の共通の敵だ。

 魔神はその膨大な魔力で、ファンタジーでお馴染みのワイバーンとかコボルトみたいな、魔物と呼ばれる怪物を生み出して人類を襲ってくる。

 人類はそんな魔物に対抗するために魔法を発展させたが、魔法を使えば使うほどどういう訳か魔神は強くなるし、魔物もジャンジャン生まれるらしい。

 そんな相手との戦いがもう1000年以上続いていると、里長が言っていた。

 その話を聞いたときは、よく滅びなかったなぁ、と妙な感心をしてしまった。


 そして、1000年以上も人類vs魔物との戦いが続くとどうなるか。

 

 悲しいことに、戦いに必要なもの以外は淘汰されてしまった。

 もうこの星の文明を構成する要素は、衣・食・住・戦以外はないの?ってくらい娯楽のごの字もない。


 娯楽は生活に余裕があって生まれるものだから、当然と言えば当然なんだけど、娯楽に溢れた前世の生活を知っている身としては絶望しかない。



 許すまじ魔神、と思いながら里の周辺を飛び回り、たまに飛んでくるワイバーンや空飛ぶワニみたいな魔物を倒す日々を過ごしていたある日、とある噂を耳にした。



 曰く、魔神討伐のため星神様が異世界より勇者を召喚した、と。

 曰く、召喚された勇者は共に魔神に立ち向かう仲間を募っている、と。

 曰く、魔神討伐を成し遂げた者には星神様が何でも一つ願いを叶えてくれる、と。



 これだ!

 異世界から召喚された勇者っていうのは、きっと日本人に違いない。私はアニメで観たから詳しいんだ。

 それに、何でも一つ願い叶えてくれるって星神様が仰ってるんだ。地球に行って漫画やアニメのDVDを買ってくることが出来るかも!


 私は早速、家にいたお父さんとお母さんに相談した。

 

 「お父さん! お母さん! 私、勇者と魔神を倒しに行きたいです!」


 「だめよ」


 お母さんに即答された。

 思わずムッとして子供みたいに言い返してしまう。


 「何でですか!」


 「ティアラちゃん、あなたまだ12歳でしょ。子供がそんな危ないことしてはダメよ」


 えー。

 里の周辺に飛んでくる魔物を倒すのはいいのに?

 私の不満を察したのか、お母さんは溜息をつきながら答える。


 「里の周りなら、何かあってもお父さんや守備隊の大人が駆けつけられるでしょ? でもね、里を出たらすぐ助けには行けないのよ。危ないわ」


 うーん、正論だけど、私はそんなに弱くないよ?

 里長にだって「教えることはない」って言われたくらいだよ?

 ワイバーンだって片手間に一捻りだよ?


 「いくら強くても、ダメなものはダメよ。 ティアラちゃん、目を離すとすぐに危ないことにするんだから」


 「うっ……」


 それを言われると弱い。

 天使族は地球人に比べてびっくりするくらい身体が丈夫なので、ついつい調子に乗って無茶をしてしまうのだ。

 大人に混じって参加した飛行の訓練を兼ねたレースで、着地に失敗して地面にめり込んだことも何度もあるし。無傷だったけど。

 近所のお兄さんと一緒にこっそりワイバーン退治に行って、道に迷って遭難したこともある。ワイバーンは無傷で倒したけど。


 「とにかく私は反対です」


 「えー」


 お母さんは怒ってますとポーズを取った。

 ぷんぷんと明らかにポーズだけなので、全然怖くない。

 私は先ほどから微笑ましく見守っているお父さんに話を振った。


 「お父さんはどう思いますか?」


 「そうだねぇ…。 ティアラは何で勇者と魔神討伐に行きたいんだい?」


 「それは…」


 日本のアニメが見れる可能性があるから。

 二人に嘘はつきたくないけど、本当のことを言ってもたぶん伝わらない気がする。

 少し考えて、私は別の理由を答えた。


 「私が前世の記憶を持っているのは知ってますよね?」


 「うん、知ってるよ。 そんなこと関係なく、ティアラは私たちの可愛い娘だね」


 「……うん、ありがと」


 嬉しいけど、そうじゃなくて。

 自分の頬が熱くなるのを自覚しながら私は続ける。


 「前世の、もう一つの故郷に行けるかもしれないんです」


 瞬間、二人が息をのむ音が聞こえた気がした。


 「異世界から勇者が召喚されたと聞きました。別の世界から人が移動できる魔法です。これを使えれば、前世の故郷、地球という星にもう一度行けるかもしれないんです」


 一度言葉を切って、両親のようすを伺う。

 お母さんはどこか寂しそうな顔をしていたが、お父さんは優しく微笑んで黙って続きを促しているようだった。


 「魔神を討伐すれば、星神様に何でも願いを一つ叶えて貰えるそうです。私は”世界を渡る魔法”を教えてください、とお願いするつもりです」


 「地球という星に帰りたい、ではないんだね?」


 落ち着いた声で確認するお父さんに私は頷いた。


 「はい。”私”の帰る場所は、エムニアのお父さんとお母さんの居るこの家ですから」


 うんうん、と満足げに頷いたお父さんはお母さんに向き直る。

 お父さんは「少しお母さんと話をするから、ティアラはもう寝ていなさい」と言って、お母さんと部屋を出て行った。



 次の日。

 朝ごはんを食べ終わった後、すっかり日課になった魔法の練習をしようとすると、お父さんがきた。昨日、魔神討伐に行きたいと言った件だろう。


 「魔神討伐の話、それに昔の故郷の話だけど。 行ってもいい、とお母さんは言ってくれたよ。…納得はしていないみたいだったけどね」


 苦笑しながらお父さんはそう言った。

 やっぱりあの後、お母さんを説得してくれていたらしい。


 「お父さんはいいんですか?」


 「僕は最初から止めるつもりはなかったよ。 あんまり危ないことはして欲しくないけどね」


 そう言って肩をすくめて見せる。

 私は思わず問いかけた。


 「どうしてですか?」


 「子供を危険から守るのは親の役目だけど、子供を送り出すのもまた、親の役目だからね」


 そういうものなんだろうか。

 前世も今世も、子供がいた経験なんてない私にはよく分からなかった。

 俯いていた私の頭にぽんと手が置かれる。


 「ティアラ。僕たちの可愛い娘。君は君のやりたいことをやっていいんだよ」


 顔を上げた私に、お父さんは優しく微笑んでくれた。



 数日後、私はお父さんとお母さんから送られた天使族の正装に身を包んでいた。

 背中の大きく開いた白いワンピースで、裾には片方だけ大きなスリットが入っている。ここから風を逃がすことで空を飛んだ時に裾が裏返らないよう工夫された、天使族ならではの衣装だ。


 これを着ることが出来るのは、本来は成人した天使族のみ。

 天使族の成人は150歳なので、12歳の私には本当はまだまだ先だけど、里を旅立つならと準備してくれたのだ。


 「行ってきます!」


 今世の実家の前で、優しく微笑んで手を振るお父さんとお母さんに見送られて、私は里を旅立った。



 お父さんが言ってくれたように、私は私のやりたいことやろう。

 そう決意して、前世で未練を残して死んだ”俺”は、今世ではワガママになることにした。

 もう未練を残して死ぬなんていやだからね。


読んで頂きありがとうございます。

以降は二日に一回のペースで投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 主人公 ティアラ  娯楽が無いなら作ればいい・・と主人公を行動させないのが気になります。 昭和の遊び的な娯楽なら前世の記憶で作れるでしょうに。(オセロことリバーシ、将棋の異世界版の亜種、スゴロク、ト…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ