14 ティアラは新しい装備を手に入れた!
祝5000PV突破!
たくさんの方に読んでいただけて嬉しいです!
今回は、再びマーロィ登場です。
大神殿を後にした私は数時間ほど空を飛んで、エムニアで最も魔法の研究が盛んな通称”魔法都市”にやってきた。
大神殿のある首都も人の多いところだけど、どちらかというと行政都市という印象があって落ち着いた雰囲気だ。
だけど魔法都市はまったく雰囲気が異なる。
空から見るとあちらこちらでさまざまな魔法の輝きや立ち昇る煙が見える、なんというか雑多な雰囲気を感じる。
そんな魔法都市の中心から離れた少し寂れた場所に立つ塔の前に降り立つ。
灰色がかった大小さまざまな石材を組み合わせて作られた塔は、円形で高さにすると4階建てくらいある。
それぞれの階にテラス付きの大きな窓があるので直接そこから中に入りたいが我慢する。
以前に窓からはいって「非常識」と怒られたからね。言われて確かにと思ったけど、私もだいぶ天使族の常識に毒されている気がする。天使族の里ではみんな飛べるから当たり前に窓から出入りするんだよね…。
私は分厚い木製の玄関をノックする。
「マーロィいますか? ティアラです」
そう、ここはマーロィの家だ。
地球から戻った後、すでに天使族の里の実家にマーロィはいなかった。
両親に話を聞くと、私が地球に転移したあとにすぐ魔法都市の家に帰ったそうだ。
魔法の存在しない別の星の話とかマーロィは絶対好きだろうなぁと思っていたので、居ないと聞いて私はすこししょんぼりした。
なので、私は彼女を訪ねることにした。
それに”世界を渡る魔法”の解析や魔法具づくりで彼女にはたくさんお世話になったし、私もマーロィに相談があるからね。
少しすると、ゆっくりと扉が開く。
中から眠そうなマーロィが顔を出した。
「……ティアラ、帰ってきたんだ。おかえり」
「ただいま、マーロィ。 何だかすごく眠そうですけど大丈夫ですか?」
「……大丈夫、魔法具の研究で…ちょっと徹夜しただけ。いいのが出来た」
「そ、そうですか」
まるで魔女のような怪しげな笑いをもらすマーロィ。
何徹目なのマーロィ。目の下にクマも出来てるしぜったい大丈夫じゃないでしょ…。
出直そうかと思ったけど、マーロィはこちらに確認もせず扉を開けたまま中に戻ってしまった。
私も仕方なく彼女の後に続く。
「うわぁ…」
彼女の部屋はだいぶ散らかっていた。
ところ狭しと本が積まれているし、作りかけなのか分解した後なのか魔法具らしきものが床に散乱している。前に来たとき勇者と片付けたのに…。
「マーロィ、またずいぶん散らかしましたね」
「……ん」
「私が部屋を片付けて起きますので、マーロィは少し寝ててください」
「……んぅ」
「……何なら”眠り”の魔法歌でも歌いましょうか?」
「やめて、永遠に起きられなくなる」
「なら早く寝ててください」
私はマーロィを寝室に押しやると部屋を見渡した。
魔法具の扱いは分からないのでどこかにひとまとめにしておくとして、他は棚や引き出しに戻せばいいかな。
先に作業机を片付けて魔法具を並べていく。
魔法で片づけることも出来るけど、魔法具に魔法が干渉するとまずい。特に効果の分からない魔法具は何が起こるか分からないので危険だ。私が魔法具に干渉するとなぜかよく爆発するし。私は丈夫なので怪我しないけど、周囲がさんざんなことになるので注意するに越したことはない。というかマーロィにそう注意された。
一通り魔法具を片づけると後は魔法の出番だ。
「”あるべき場所に戻れ”」
床に散らばる道具や本全体に魔法をかける。
振った手のさきからシーツを広げるように光が広がり、覆いかぶさる。
本や道具はふわりと浮かび上がってひとりでに棚や机の引き出しに収まっていく。
私はそれを見守りながらペンダントから掃除道具を取り出して床に残ったゴミを掃除した。
しばらくすると光が収まった。
「よし! これでいいでしょう」
何冊か棚に帰らず床に取り残されているが、きっとあそこが定位置だったのだろう。どれだけ前から置きっぱなしになっていたのか…。
一通り確認を終えると、私は階段を昇りマーロィの寝室の扉をノックした。
「マーロィ、片付け終わりましたよ」
「ん、いつもありがと」
「次からきちんと片付けしてくださいね?」
「善処する」
これは善処しないやつだ。
私は経験からそう思ったが、言っても仕方がないことも知っているのでため息とつくだけにした。
「それで、どうだった。もう一つの故郷は」
「…そうですね、とても懐かしかったですよ」
勇者一行の仲間の中で、とある事情でマーロィには私の前世の話をしてある。
だから私が地球に行きたがっていたことも、その理由もマーロィは知っていた。
今思うと、だから”世界を渡る魔法”の解析も手伝ってくれたのかもしれない。
「良かったね」
「…うん」
いつも無表情で感情の読めないマーロィにしては珍しい、とても優しい声だった。
「むこうの家族には会えた?」
「……いえ、いろいろドタバタして忙しかったもので」
「そう」
「……」
「……お茶、用意する。いい茶葉貰ったから」
マーロィは空気を変えるようにそういってキッチンへ行ってしまった。
「では私は持ってきたお茶菓子を出しますね」
気を使ってくれたのだろう。
私も声を掛けてから階下に降りて、先ほど片付けたばかりの机に持参した茶菓子を広げる。
マーロィへのお土産用に残しておいた分だ。
「このお茶菓子、地球の日本という国でお土産に貰ったんですよ。とても美味しいのでマーロィもどうぞ」
「ん、…美味しい」
「そうでしょう?」
言葉通りお気に召したのかぱくぱくと食べるマーロィになんだか嬉しくなって、私は自分用にこっそりとっておいた焼き菓子を追加で出した。
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「やっぱりやらかした」
「うぐ」
私が地球と交流することになった、という話をするとそれまで頷いて聞いていたマーロィの口からポロっと言葉が漏れた。
「勝手に交流の話を進めるなんて、越権行為もいいとこ。騎士の耳に入ればティアラでも危ない」
「デスヨネー」
騎士というのはエムニアにおける警察官みたいなものだ。
都市ごとに存在していて犯罪行為や違法行為を取り締まる役割を持つ人達のことである。
信心深い人が多く、セレス様への不敬がバレれば良くて厳重注意、悪ければ投獄されることもある。
ちなみに魔法も剣も一流の超エリート集団なので、一対一ならともかく集団となると私でも逃げるのが精一杯なくらい強い。流石に戦ったことはないけど。
「戦いの話じゃないから、この戦闘狂」
「私べつに戦闘狂じゃないですよっ?!」
「勇者との手合わせで、にっこにこしながら魔法連射する人が?」
「い、いやあの時は技を試せるのが楽しくて、つい」
「ほらやっぱり」
違うんです、魔法は訓練しすぎて気が付いたら歯ごたえのある相手がいなくなってたから、アニメを参考に考えたカッコいい技を試す相手が欲しかっただけなんです…!
私がぐぬぬと唸っていると、マーロィは紙に何かをメモしていた。
「何をしているんです?」
「魔法や魔力がない世界での技術の発達について考えてた。話を聞いただけでも興味深い」
「やはり面白いですか?…私からする慣れ親しんだモノなので、懐かしいとは思いますが」
「魔法なしで空を飛んだり、怪我の治療をしたり。地球人は命知らず?」
なるほど、魔法使いの視点だと、そういう感想になるんだ。
私は逆にマーロィの感想の方が興味深いと思った。
「次はマーロィも一緒に行きますか?」
「”世界を渡る魔法”はお一人様用だから二人は無理」
「そ、そうですけど。……ほら、一人ずつ転移すれば大丈夫じゃないですか?」
「私はティアラと違って、海の中や石の中に転移したらふつうに死ぬから無理」
「え”」
あの転移魔法ってそんな可能性もあったの?!
わりと命がけなことしてたんだけど私?!
…そういえば、転移前にマーロィが「ティアラだったら平気」みたいなこと言ってたけど、そういう事だったの?
私も流石に石の中に転移したら死ぬと思うんだけど!
……いや、即死はしないから、石を吹き飛ばして地上に出ればいけるかも?
あれ?何とかなりそう…。
「だから少なくとも、今の転移魔法のままだと私は行けないし行きたくない」
「それは、そうですね…」
私は肩を落としながら同意した。流石に転移して「石の中にいる」で死にたくはないよね…。
「……でも、今”世界を渡る魔法”の解析進めてるから案外そのうち何とかなるかも」
落ち込んでいる私を慰めるためか、そんな言葉を掛けてくれるマーロィ。
「ありがとうございます。期待して待っていますね!」
本当に期待してるからね!
期待を込めた目でじっとみると、マーロィは任せておけとばかりに頷いた。
その後もお茶をしながら話をしていると、不意にマーロィが席をたった。
「どうしたんですか?」
「これ、渡すの忘れてた」
「これは…? 何かの魔法具ですか?」
手のひらサイズの円盤に、中心から広がる放射状の線が幾重にも描かれた同心円を貫いた模様が描かれている。魔力の導線だろうか。
「転移の補助魔法。小型化出来たから使ってみて」
「えっ、あの家みたいなサイズの魔法具がこれになるんですか?!」
「あれは無駄が多すぎる。というか九割くらい無駄」
「きゅ、九割…」
たしかに私は魔法具に関しては素人だけど、数百分の一サイズまで小型化するとかそれはもはや別物だよね…。流石、魔法都市で一番の才媛、賢者の名は伊達じゃないってことか。
「魔力、通してみて」
「はい、えとこうですか…?」
手のひらに乗せた魔法具に魔力を通す。
すると、魔法具が浮かび上がって変形を始めた。同心円のリングは外から順に大きくなり、それを放射状の線が繋いでいる。ふわりと浮いたそれは私の身長と同じくらいのサイズとなっていた。
「おぉ!カッコいいですね!」
「カッコいいかどうかは分からないけど、ティアラが前に言ってた”変形装備”?っていうのに挑戦してみた。魔法具そのものを変形させる、というのは画期的で面白かった」
「いえ、これはカッコいいですよ!男の子はみんな好きなやつですよ!」
「ティアラは女の子でしょ?」
「いや、そうなんですけど!心の男子がうずくと言いますか」
私の魔力で作動しているので金色を帯びている。見た目は仏像とかにある後光をSFチックにした感じだ。サ○ーウォーズのラ○マシーンみたいと言えばイメージしやすいかもしれない。
「使い方はあの大きい魔法具と同じ。基本は背中側、翼の近くに装備するのが魔力効率がいいからおすすめ」
「まんまラ〇マシーンじゃないですか」
「?」
私は興奮気味に背中に魔法具を装備してみる。魔力のパスを自分と魔法具の間につないで糸で釣る感覚だ。マーロィから姿見を貸してもらって確認すると、天使の背後に後光が指しており、自分のことながらまるで宗教画みたいだった。
「これいいですね」
「喜んでもらえたならよかった。徹夜した甲斐があった」
「これ作るのに徹夜してたんですか?」
「そう、でも気にしないでいい。私は私のやりたいことをやっただけ」
私の口癖を真似て、どこか誇らしげなマーロィ。
ここは素直にお礼をいうべきだろう。
「…ありがとうございます、嬉しいです!」
口元に笑みを浮かべながらマーロィは頷いた。
その後もしばらくクルクルと姿見の前で魔法具を確認しているとマーロィがまた思い出したように呟いた。
「そうだった。それ小型化できたけど、転移位置の精度は少し落ちたから気を付けて」
「え」
え。
石の中に転移しても魔法パワーで解決する系天使。