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転生天使の異世界交流  作者: 水色みなも
第二章 交流準備
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13 星神さまへの報告


 孤児院を後にして、 私と里親、そしてセレスさまは大神殿の一室に移動した。

 先ほどまで御前会議が行われていたその部屋には、白い滑らかな石材で作られたV字のように大きな切れ込みのはいった卓と、その切れ込みの中央、全ての座席から姿が見える位置に白く美しい椅子があった。椅子の背凭れはちょうど翼の生えている高さで絞るようにすぼめられた変わった形をしている。


 どうみてもセレスさま専用の席だったが、セレスさまはそこには座らず指先をついと動かして背凭れのない丸椅子を3つ、私の座るV字卓の方に持ってきた。


 「普通の椅子では翼が当たって痛いでしょう? こちらをどうぞ」


 「あ、ありがとうございます」


 か、神様に椅子を運ばせてしまった!


 私は慌てて椅子を受け取り、元々置いてあった高そうな白い椅子を傷つけないようにどかした。 

 私を挟むように里親とセレスさまが座る。

 式典のようにベールの向こうに座るセレスさまと、膝をついて報告する私。そんな報告の風景を想像していたので、この状況に思わず困惑した。


 「えぇと」


 大勢の前で報告、なんてことにならなくて助かったけど、これはこれでどうすればいいのか分からない。そんな私の困惑を感じ取ったのか、セレスさまは上品に微笑んだ。


 「ふふっ、ティアラとは式典でしか顔を合わせたことがありませんでしたからね。 あまり神様らしくなくてガッカリさせてしまったでしょうか?」


 「い、いえ! そんなことは」


 堅苦しいのは苦手なので、助かったけどこんな状況は考えていなかったのでどうすればいいか分からない。


 「今日は、”星神セレス”としてではなく、セレス個人として貴方のお話を聞こうと思っています」


 「えと、それはどういう…」


 私は首をかしげながら疑問を漏らす。

 するとセレスさまは困ったような顔をされた。

 

 「セレス様、ティアラちゃんは政治的なことは苦手じゃからの、ストレートに言わんと伝わらんよ。魔法の才能はエムニアでも数えるほどなんじゃが、どうにも他がのぅ」

 

 「そこがまた可愛いんじゃがの」と笑って里長はフォローしてくれたっぽい。そこはかとなく貶めらているような気もするけど。

 ちょっと待って、今考えるから…!


 えーと。「星神セレスさま」としてではなく「セレスさま個人」として話を聞く、ということはこの星の指導者として話を聞くと都合が悪い、ということだよね。

 何が都合が悪いのか、と言えばこれからする私の報告の内容。

 私の報告はシンプルに言えば「地球と交流することになりました」だけど、それの何が都合が悪いんだろう…。娯楽のないエムニアには、地球の娯楽は刺激が強すぎるとか?


 あれ、でも娯楽を持ち込みたいという話はこれからするから、そもそもの交流の話が問題?

 地球に着いて自衛隊の人に言われた言葉がきっかけだけど、交流したいのは私の本心だ。

 

 …ん?よく考えたら私、その場の思いつきで勝手に地球との交流の話進めてない?

 これってひょっとしてまずい?


 サッと血の気が引いた。


 「あの」


 「気が付いたかの?」

 「気が付きましたか?」


 何だかダメな子をみると生暖かい視線を向けられていた。

 盛大にやらかした…!


 「あの、今のセレスさまは星神セレスさまではなく一人の個人として報告を聞いてくれるのですよね…?」


 「えぇ。付け加えるなら、報告ではなく私的な”お話”ですね」


 「その…お話聞いてもらえますか?」


 「えぇ、喜んで」


 セレスさまはとても優しい笑顔をしていた。

 笑顔の裏に圧を感じるとか、そういうこともなく本当に優しい自分の子供を見る母親のような雰囲気だ。私はその笑顔の前に、その場の思いつきということも含めて全てお話した。





~~~





 「それは素晴らしいことですね」 


 私の話を聞き終えたセレスさまは手を合わせて朗らかにそう言った。


 「…えーと、私、勝手に決めてきてしまったのですが…お咎めとか、あったりしますか?」


 「いいえ?今は個人的なお話の場なので、そのようなことはありませんよ。 …公的な場であればまた違うかもしれませんが」


 「うぐ」


 笑顔だけど、しっかり釘を刺された。

 次からはもっとよく考えて行動しよう…。


 私が肩を落としていると、里長が肩をたたく。


 「でも良かったのう。ティアラちゃんは小さい頃から、退屈だぁ退屈だぁと言って飛び回っておったからのう…」


 「や、やめてください里長!セレスさまの前ですよ!」


 「あら、何だか意外ですね。式典ではあんなにお淑やかで凛としていますのに」


 「セレスさままで!」


 式典のときはちゃんと猫かぶってるから!

 流石の私でも時と場所は弁えるから!


 「でも、実際のところ娯楽をこの星に持ち込みたいという貴方の願い、私は賛成ですよ」


 先ほどまでの穏やかな笑顔のままだけど、セレスさまはだけどどこか寂しそうだった。


 「昔はこのエムニアにも、音楽や演劇、大きな劇場だってあったのですよ。小説だってたくさんありました。私の幼い頃などはよく恋愛小説を読んで友人たちと語り合ったりもしました」


 「わしの小さい頃も、里の酒場に小さな楽団が来てよく演奏していたものじゃよ。気が付けばすっかりみなくなってしまったのう…」


 「……申し訳ありません、私が不甲斐ないばかりに」


 「そ、そんな!セレスさまのせいじゃありまんせよ!」


 「ありがとうティアラ。 …ですが、一度途絶えた文化をもう一度根付かせることは簡単なことではありません。1000年前を知る者はもうほとんど残っていないのですから」


 セレスさまは、この1000年で娯楽を含むさまざまな文化が絶えてしまった責任が自分にあると思っているようだった。

 この星に生まれ変わってまだ18年だけど、そんなことはないと私は思う。

 セレスさまが浮き島や都市を守ってくれなければ、人類は生きる場所を失って1000年も経たずに滅んでいた。歴史書にそう書いてあったし、実際魔物と戦ってきた経験からもそう思う。


 「ですからティアラ、外から新たな風を吹き込む。地球の娯楽をこの星に広めるという貴方の願いを私は応援していますよ」


 「…セレスさま。 ……はい!私がんばります!」


 いつも優しく微笑んで私たちを見守ってくれているこの人に、何か恩返しをしたいとそう思った。


 私が決意を新たにしていると、セレスさまが何かを閃いたように小さく手を叩いた。


 「ティアラを地球交流の特使に任命しましょう!」


 「え?!」


 「なるほど、良いお考えですな」


 「里長?!」


 「いずれ、正式に星同士で交流する事になるでしょう。その事前調査としてティアラを地球に派遣した、そういう流れにすれば自然ではないかしら」


 「ふむ、とすると地球はセレス様が”呼び声”の魔法で偶然に発見したことにすべきかのう」


 「そうですね、ティアラの事情を考えるとその方がよいでしょう」


 「あの、お二人とも――」


 「私が勇者を探していた時に見つけたことにしましょうか。多様な文化を持つ豊かな星ならば、復興中のエムニアにとって良い交流相手になります」


 為政者モードになってしまい話し込むセレスさまと里長。

 あまり難しい話が得意ではないので、私は内容が右から左へ抜けていってしまう。


 「ティアラ、交易品の品目などはありますか? それからもしあれば実物も確認したいのですが」


 「…あっ、はい! あります!」


 「ほっほ、ティアラちゃんには難しい話だったかのぅ」


 「う、すみません…」


 「気にしなくてよいのですよ。後で里長に伝えて頂くのでティアラは先に帰りますか?次の地球訪問の準備もあるでしょう?」


 「そうですね……。では、すみませんがお先に失礼します」

 

 私は今回の交流で受け取った音楽プレイヤーに書籍(一部だけど頑張ってエムニア語に翻訳した)と、それからお菓子をセレスさまに渡して大神殿を後にした。




 私は大神殿を後にして空の上、大きく伸びをする。

 退散前に二人に確認したら、”特使”と肩書がつくことになったけれど私のやることは基本変わらないようだ。事前調査なので、基本的には私の自由にして問題ないらしい。

 セレスさまには「貴方のほうが詳しいでしょうから」と悪戯っぽく言われてしまった。


 それはともかく。


 私の音楽プレイヤー…、アニソンがぁ…。


 またしばらくお預けかと思うと途端に聞きたくなる。

 次に地球に行ったときにまた貰えるかなぁ?


ティアラ「次は思いつきで行動しないように気をつけます!」

勇者一行「(ダメそうかな…)(絶対またやらかす)(反省出来てえらいぞ)」

ティアラ「?」

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