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転生天使の異世界交流  作者: 水色みなも
第二章 交流準備
15/43

12 大神殿、再び

第二章、開始です。


 「まるでおとぎ話~、旅を終えた証~」


 天使族の里の実家で私は曲を聞きながら歌詞を口ずさむ。

 日本に行った際に交易品のサンプル兼お土産として貰ったアルバムに含まれていた一曲だ。この曲は前世の頃から好きだったけど、勇者や仲間たちと魔神討伐のためエムニアのあちらこちらを旅した今の私にとっては何だか他人事に思えなくて、以前よりもこの曲が大好きになっていた。


 ふんふんと口ずさみながら、鏡の前でパジャマ代わりのシンプルなワンピースから神殿の礼拝服に着替える。今日は大神殿の星神さまに地球との交流について報告する日だ。


 緊張はするけど、昨日一日大好きなアニソンを聞きながらゆっくり休んだので今の私はとても元気だ

 帰ってきてすぐに報告に行かなかったのは、別に大神殿に行くのが嫌でサボったわけではない。……うん、ちょっとはその気持ちもあったかも。





 エムニア星に帰ってきた日の夜。

 私は夕食の席で、星神様への報告についてどうしたらいいか、両親に相談した。

 星神様はエムニアで一番偉い人なので、当然簡単に会えるわけではないのだ。

 何かアイディアでも貰えれば、と思っていた私にお父さんは「それなら」と提案してくれた。

 

 「もうすぐ里長が御前会議で大神殿に行くからそれに同行したらどうだい?」


 里長、そんな大層な会議に出席するような人だったんだ…。

 まだ40代くらいの見た目で、老人みたいな話し方をする年齢不詳の人物を思い浮かべながら、少し失礼な考えが頭を過った。

 父からの提案を聞いて、私は翌日里長のを尋ねた。


 「御前会議は丁度明日じゃよ。会議の後なら少し時間も取れるじゃろう、わしから星神様に時間を作ってもらえるよう話をしておこうかの」


 「ありがとうございます! …でもいいんですか? そんな簡単に決めて」


 「いいんじゃ、いいんじゃ! いやぁ、孫と一緒にお出掛けなんていつぶりかのぅ」


 事前に星神様に話をしておいてくれるということで、私は里長と一緒に大神殿に行くことになった。

 ちなみに孫といっても私の祖父ではない。この里、住人が少ないからみんな親戚みたいな感覚なんだよね。だからこの里唯一の子供である私はみんなから孫や娘扱いされることが多い。

 最初はむずがゆかったけど、今はそんなあたたかい里のみんなが私は大好きだ。






 「よし、これでいいでしょう」


 鏡の前で私はクルリと一周する。うん、翼の下もしっかり結べてる。

 今着ているのは白と青を基調とした修道女みたいな服で、エムニア星における共通の礼服みたいなものだ。翼を出す部分が窮屈なので私は普段あまり着ないけど、今日は星神様にお会いするので失礼のないようにこれにした。


 「ティアラちゃーん、里長来てるわよー!」


 「はーい! すぐ行きまーす!」


 階下からお母さんの声が聞こえたので、私は翼を羽ばたかせて部屋を飛び出した。




~~~




 里長と一緒に飛んで大神殿に行くと、正門前に立派な服を着た人が何人も集まっていた。

 誰だろう?


 「ティアラちゃん、あれは御前会議に出席する他の里や種族の代表じゃよ」


 「なるほど、あの方たちが…。私も何度か大神殿には来たことがありますけど、初めて見ました」


 「ティアラちゃんが大神殿に来るのは式典の時だけじゃったからのぉ」


 里長があれはどこどこの里のだれだれ、と教えてくれるのを聞きながら大神殿の前に着地する。

 この服は空気を逃がすスリットがないので、ちゃんと手でおさえないとスカートがめくれそうになるので油断できない。

 音もなく着地した里長と私に、視線が集まる。


 「むっ、エルディアの里の」


 「半年ぶりじゃの、鬼人族の」


 里長たちは、顔を合わせた途端に挨拶合戦が始まってしまった。

 私はスッと気配を消して後ろに下がる。

 精神年齢的には大人な私だけど、こう明らかに年齢が上で立場も上な大人なグループに入っていく勇気もコミュ力もない。私は壁の花、壁の花…。


 しばらく挨拶合戦を遠い目をしながら眺めていると、一人がこちらに視線を向けた。


 「そちらのお嬢さんはもしや…」


 「おぉ! (うち)の孫のティアラちゃんじゃ! めんこいじゃろう」


 「では彼女が魔神を討伐したという—」


 また話が盛り上がりそうだったので、私は切り込むことにした。

 とりあえず挨拶だけして撤退しよう。会議が終わればきっと里長が呼んでくれるはず。


 「初めまして、天使族のティアラ・エルディアと申します。どうぞ、よろしくお願いしますね」


 テンプレートな挨拶に、にこりと微笑みを添える。

 …何だか分からないけど、みんな動きが止まった。

 私は里長にササっと近づいて小声で話しかける。


 「里長、私は隣の孤児院に顔だしてきます。会議が終わったら声をかけてください」


 「なんじゃ、急じゃのう」


 「私が人見知りなの、里長はご存知でしょう!」


 「ほっほ、練習じゃよ練習。他の星と交流するならこれぐらい出来んと大変じゃぞ~?」


 「うぐっ」


 確かにそうかも知れないけど!

 私はジト目で里長に向けてから、固まったままの面々に顔を向け「では」と言ってからその場を離れた。頑張るとは決めたけど、苦手なものは苦手なのだ。





 お偉いさんの集団から逃げ出した私は、大神殿に併設された大きな建物の前に降り立った。


 ここは大神殿に併設された孤児院だ。

 長く戦いの続いたエムニアでは、悲しい事だけど戦いで親を亡くした子供が多い。そんな子供たちを引き取って保護するために、大きな都市には必ずいくつか孤児院がある。ここもそんな一つだ。


 旅の間、私はよく孤児院に寄付をしていた。

 慈善のためというよりも、娯楽が乏しいエムニアではたまに豪華な食事をするくらいしか旅の間はお金の使い道がなかったからだ。そんな風に財布に余裕があるときにお腹を空かせた子供を見かけると、何だか申し訳なくなってしまい気がつくと寄付をしていた。


 マーロィからは「お人好し」なんて言われていたけど、見て見ぬふりをする方が精神的にキツイのでどちらかというと自分のためだ。


 そんなこんなで結構な額を寄付していた私は、孤児院にはわりと顔がきく。

 つまりアポなしで急に訪ねても、えらい人に怒られることがあまりないのだ。


 勇者エレクとお偉いさんの会議が長引きそうなときも、抜け出してよく孤児院にお邪魔してたなぁ、なんて考えながら玄関扉のノッカーに手を掛ける。


 「あっ! ティアラ姉ちゃんだ!」


 すると横から元気な声をかけられた。

 振り向くと、私より少し背が小さい赤髪の男の子がいた。


 「お久しぶりです。元気にしていましたか?」


 「おう!俺は元気だぞ!」


 元気良く答えた見知った少年に、思わず顔がほころぶ。

 相変わらず活発な少年だ。私は彼に案内をお願いして、孤児院に入った。


 「レト兄ちゃん、この人だれー?」

 「髪がきらきらしてるー!」

 「あっ、セレスさまと同じ羽根があるよ!」

 「ボク知ってる!お姉様だよ! シスター・ミースが言ってた!」


 中に入ると小さな子供たちがわらわらと集まってきた。

 見たことのない子たちが多い。最近入ったのかな。


 「ティアラ姉ちゃん、今日はどうしたんだ? 遊びにきたのか?」


 「えぇ、大神殿に用事があったので。こちらにも顔を出しておこうかなと思いまして。 …ところで、この子たちは新しく入った子ですか?」


 「そうだぞ、最近別の地方都市から来たんだ。小さい孤児院じゃ食べ物を買うお金が無いんだってさ」


 「……そうですか」


 元気にワイワイしていた子供たちも、少し沈んだ空気を察したのか静かになってしまった。

 き、気まずい。とりあえず甘いモノでも配って空気を変えよう。

 

 私はペンダントに触れて、日本のお土産で貰った焼き菓子を取り出す。

 

 「よろしければ、これ皆さんで分けて食べてください」


 「いいのか? なんかスゲー高そうな箱なんだけど」


 「子供がお金のことなんて気にするんじゃありません」


 遠慮する少年に私は焼き菓子の詰合せを押し付けた。

 後ろで指を加える子供たちの期待の眼差しに負けたか、彼は「ありがと」といってお菓子を配り始めた。



 お菓子を食べ終わる頃、孤児院の奥から一人のシスターが顔を出した。

 彼女は私を見ると飛び上がるような声をあげた。


 「お姉様!? いらしてたなら声をかけてくれれば飛んできましたのに! ちょっとレト!!」


 「うるせぇな! 近くででけぇ声だすなよ!」


 おっとりした外見に似合わない強い口調でレトに詰め寄る彼女は、シスター・ミース。

 私のことを「お姉様」と呼んで慕ってくれている、羊みたいな空色のふわふわした髪の面倒見のいい少女だ。お姉様呼びは、前世が男性の私にとって抵抗があったけど、気が付けば慣れていた。


 ギャーギャーと言い合いを続ける二人を見ていたが、しばらく続きそうな気がしたので話を変えた。


 「そういえばミース、こちらの子供たちは最近大神殿の孤児院に来たそうですね。皆さんとは仲良く出来ていますか?」


 こほん、と恥ずかしそうにシスター・ミースは咳払いをしてから答えた。


 「えぇ、以前から居た子たちはみないい子ですので」


 そこで一度言葉を区切った彼女は、私の耳に顔を寄せてきた。

 耳に息がかかってちょっとこそばゆい。


「最初は人が増えてこの孤児院でも資金繰りが厳しかったのですが、以前ティアラ様から頂いたアイディアで今は何とか持ち直しました」


 「私のアイディア?」


 首を傾げる私に、シスター・ミースは頷く。


 「子供たちでも出来る資金稼ぎ、のことです」


 なるほど、以前提案した職業訓練も兼ねた内職のことだろう。


 「それで皆さんは何を作っているのですか?」


 「手先が器用な子は木製の食器、魔力制御の得意な子なんかは初歩的な魔法具の作成もしていますね」


 「それはすごいですね!」


 私も先日魔法具を初めて作ったので、素直にそう思った。


 魔法具を作るには、魔石を砕いた顔料を使う。

 その顔料を魔力を筆替わりにして、魔法の術式を道具に書き込んでいくのだ。

 例えるなら、息を吹きかけて絵を描く「水彩画の吹き絵」を、息の代わりに魔力で行うようなものなんだけど、これがなかなか難しい。

 私は魔力制御が甘いところがあるので、勢いよく魔力を吹き付けてよく道具そのものを吹き飛ばしてしまった。


 ちょっぴり対抗心が刺激された私は、孤児院の子供たちが作ったという魔法具を見せてもらうことにした。


 「へへん! どんなもんよ!」


 少年(レト)が持ってきた”水創造”の魔法が刻まれた魔法具をしげしげと見る。

 うん、術式に歪みもなくて魔力の通りも悪くない。私が作るより、よく出来ている気がする。

 この年の子供に負けるのか、ちょっとショック…。


 でも、私は大人なのでそんなことは表情に出さない。

 微笑んで素直に感想を伝えた。


 「………とてもよく出来ていますね」


 「だろー! これ一つで二百セレスくらいで売れるんだぜ!」


 出来はいいのに思ったより安い。

 疑問が顔に出ていたのか、シスター・ミースが理由を話してくれた。


 「子供でも作れる初歩的な魔法具ですからね、あまり高値では買っていただけないんです。それでも、この子たちが頑張ってくれているおかげで、それなりの収入になっているんです。 この前なんてお夕飯にデザートを付けられたんですよ!」


 魔神討伐の旅が終わっても、エムニアにはまだまだ課題が残っている。

 改めてそのことを実感しつつ、私は孤児院の子供たちと交流を深めた。




~~~




 『あなたは風のように~、目を開いて夕暮れ~』


 孤児院の中、日本のお土産で貰った音楽プレイヤーで好きなアニメのオープニングを流す。

 子供たちにお土産をせがまれた私は、追加の焼き菓子詰合せをプレゼントした。

 そのあと、思い付きで日本からお土産で貰った曲をみんなに聞かせてみることにした。特殊案件対策室の伊達さんからも、エムニア星での反応をリサーチして欲しいと言われていたし、丁度いいと思ったのだ。


 曲を流し始めると、子供たちはゆらゆら身体を揺らしてみたり、日本語で歌詞の意味なんて分からないはずなのに音を真似して口ずさんでいた。


 「綺麗な音!」

 「何これ~」

 「変なの~」

 「でも何だかワクワクするよ!」

 「ふふんふんふ~ん」


 子供たちの反応が良かったので、嬉しくなって思わず私も口ずさむ。


 「ティアラ姉ちゃんの魔法歌(まほうか)だ!」

 「私、神殿で歌ってるの聞いたことあるよ!」

 「歌って歌って~!」


 子供たちにせがまれて、私はリクエストに応えて何曲か歌った。

 人前で歌うのは恥ずかしいけど、褒められると嬉しくなってついつい調子に乗ってしまう。


 ちなみに、魔法歌というのは儀式で使う歌を媒介にした魔法だ。

 祝福とか健康祈願とかの願いを込めて、式典ではよく歌われるので私もたまに歌わされることがあった。


 気分が乗ってくると、自然と歌声にも薄っすら魔力が乗ってきてしまう。

 これじゃ、ほんとに魔法歌だ。

 まぁ私も楽しいし子供たちも喜んでくれてるからいいや、とカラオケを続けていると急に講堂の扉が開いた。


 「なんだかとても楽しそうですね」


 上品に笑う声に、誰だろうと振り返ると星神セレスさまだった。

 …ってセレスさま?! 何でここに、御前会議があったはずじゃ…?!


 その横にはホッホと笑う里長がいた。


 「会議が終わったのでな、ティアラちゃんを呼びに行こうと思ったら楽しげな歌声が聞こえてのう」


 「えぇ、ティアラが式典以外で歌うのは珍しいことでしたので、思わずこっそり抜け出して来てしまいました」


 悪戯が成功したようにはにかむセレスさま。

 え、外まで聞こえてたの?


 「お主の魔力量で歌声に魔力を乗せたら、そりゃあよく聞こえるじゃろう」


 何を今さら、と里長。

 お風呂で気分よく歌っていたら、近所の人に聞かれていたようなものだ。恥ずかしくて明日から外を歩けないんだけど…?!


 私が悶えていると、子供たちはセレスさまに駆け寄っていく。子供たちの反応を見るに孤児院にはよく顔を出しているようだ。シスター・ミースが知らないことから、恐らく今日みたいにこっそり来ているのだろう。


 式典で見かけたときは超然とした雰囲気でいかにも神様という印象だったけど、どうやらこちらが素のセレスさまらしい。何度か顔を合わせたことがあったのに知らなかった。


 私がセレスさまの意外な一面に驚いていると、子供たちの頭を撫でながらこちらに視線を向ける。


 「先ほどの魔法歌は私も聞いたことのない旋律でした。…もしやそれは異世界の?」


 「は、はい。地球の日本という国の音楽、……えぇと音や歌を楽しむための歌です」


 突然始まった星神様への報告に、思わずしどろもどろになる。

 私の言葉に、セレスさまはどこか懐かしむように目を細めた。


 「音楽、ですか。 ……久しく聞かなかった言葉ですね」


 やはり、昔はエムニア星にも音楽を含めた娯楽はあったらしい。

 セレスさまの表情には、失われた娯楽を思う寂しさとそれを守れなかった悔しさのような、複雑な色がうかがえた。


 エムニアに再び娯楽が戻れば、セレスさまもこんな寂しそうな顔をしなくてすむかもしれない。

 私は気合を入れ直し、セレスさまを見つめた。


 「セレスさま、ご報告したいことがございます。先日授かった”世界を渡る魔法”で渡ったこことは異なる星についてです」


引き続き二日に1度のペースで投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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