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転生天使の異世界交流  作者: 水色みなも
第一章 ファーストコンタクト
13/43

閑話 Side:地球 晴天の霹靂

閑話です。

書きたいこと欲張りセットになっております。


 天使の少女が地球を去って数日後。

 地球は彼女の話題で持ちきりだった。


 特殊案件対策室に所属する私、伊達政人(だて まさひと)は久しぶりに我が家でゆっくりとしていた。




 自衛隊から異星人の来訪という衝撃の報告があった、その二日後のこと。

 いつも通り登庁した私を待っていたのは「特殊案件対策室」への異動の辞令だった。

 たしかに、異星人への対応や政府内での連携のため各省庁から人を集めていることは聞いていたが、まさか自分が関わることになるとは思わなかった。


 「私が特殊案件対策室の室長に、ですか…?」


 しかも、そこのトップは私らしい。


 まだ30代も前半な私にそんな大役が務まるのかと不安だったが、どうやら総理の意向だそうだ。何でも前代未聞の異星人の相手は経験に凝り固まったベテランよりも柔軟な若手の方がいいだろう、とのことらしい。


 実際は、「異星人」や「天使」、果ては「魔法」なんてファンタジー染みた言葉に困惑して動きの鈍い上層部に痺れを切らした総理が強権を振るった結果だと知ったのは、しばらくしてからだった。


 そんな急ごしらえの対策室は、彼女の滞在中は寝る間もないほど忙しかった。

 情報の収集に精査、各省庁の連携、総理への報告。先日の記者会見の調整なども私たちの担当だった。


 彼女の帰還後、会見内容をまとめて公表した後は全員で休暇を取ることにした。

 対応しなくてはいけない案件は山積みだったが、彼女が再訪すればそれこそ休む間もなくなる。


 総理からも「一度休みなさい」と言葉を貰った私たちはそろって休暇を取得した。




 朝起きると、すでに妻は家を出ていた。娘を保育園に預けてそのまま仕事にいったようだ。

 対策室に異動になってから家事も育児も任せきりになっており申し訳ないと思いつつ、リビングを見るとテーブルに朝食とメモ書きが置いてあった。


 メモに書かれた「ゆっくり休んでね」との暖かい言葉に感謝しつつ、用意してくれた朝食を温める。

 待っている間、コーヒーを飲みながらスマホでニュースを確認した。


 やはり、異星人の彼女の話題ばかりだ。


 『未知との遭遇! 異星人は天使だった!?』


 『魔法は存在した? 災害現場での天使の活躍に迫る!』


 『美少女すぎる天使、地球に降臨!』


 多くは好意的な印象を彼女に持っているようだ。

 あの容姿に加えて、災害現場で熱心に救助する姿。好感を持つなという方が難しいだろう。


 しかし、少数ではあるが彼女を危険視する記事も書かれていた。


 『一人で台風を消し飛ばす? 異星人の魔法の脅威』


 『天使な顔した侵略者? 異星人の目的とは』



 私は思わず苦笑する。

 なるほど、確かにあの魔法は脅威だろう。

 私も直接目にしたわけではないが、気象庁から「台風消失」を報告されたときは目を疑った。上陸すれば今回発生した土砂崩れと同等の被害が各地で発生する、と警告されていた巨大な台風が一瞬で消失したのだ。


 台風をもし人間の力でどうにかしようとするなら、膨大な量のドライアイスや薬剤を上空から投下したり、それこそ核ミサイルで吹き飛ばすとか、いずれにしても莫大な予算と尋常ではない資材を必要とする。それを彼女はたった一人で解決出来る。これが脅威でないはずがない。


 もちろん私もそう思うし、実際に政府の中にはそう考える者も少なくはない。

 過激な人物に至っては今のうちに排除するべきだ、などと言う者もいたくらいだ。


 ただ、直接彼女と接した私からすれば、それは要らぬ心配だと思う。

 たしかに彼女はとてつもない力を持つが、彼女は嘘が下手なごく普通の心優しい少女だ。


 総理に同行した土砂災害の現場で見た彼女は、泥だらけになりながら自分に出来ることを精一杯頑張る一人の女の子だった。

 初会談でも、総理を含めた我々相手にひどく緊張していた。それでも声や握りしめた手を振るわせながら「交流したい」と言い切ってみせた彼女はとても眩しく、私は彼女を脅威などとは思えなかった。


 強いて疑うというか不可解に感じたのは記者会見に向けた打合せでのことくらいだろうか。



 例えば、今回彼女に持ち帰ってもらう予定の物品一覧を確認してもらおうと、タブレット端末を渡した時だ。


 いつもくせでついそのまま渡してしまったが、彼女は異星人。

 操作方法の分からない端末を渡されても困るだろう、と思い直して口頭で説明しようしたら、彼女はタブレットを片手に持ちもう一方の指先でスイスイと操作していた。


 「…エムニア星にも似た道具があるのでしょうか?」


 思わずそう問いかけた私に彼女は、


 「? いえ、タブレットなんて便利なものエムニアにはありませんよ?」


 と、不思議そうに首を傾げていた。

 いや不思議なのはこっちです、と思わず口から出そうになった。


 「アニソン20xxベストアルバムっ!?」


 そのあとも、一覧を確認していた彼女は何度か驚きの声を上げたりしていた。

 ティアラさん、実は日本人だったりしませんか?




 ふと、口につけたマグカップが空になっていたことに気づく。

 見れば温めたはずの朝食も、すっかり冷めてしまっていた。


 考え始めると、つい時間を忘れて思索に耽るのは私の悪い癖だ。

 ……今日は休みなのだから、妻の言う通りゆっくり休もう。






~~~






 天使ティアラの記者会見後、とあるSNSでも好意的な意見が溢れていた。



 ○○○@○○○○

 すげー! 本物の宇宙人だ!


 ○○○@○○○○

 宇宙人ってほんとにいたんだ


 ○○○@○○○○

 異星人、とんでもない美少女だな


 ○○○@○○○○

 何だあの微笑み、天使か? 天使だったわ


 ○○○@○○○○

 肩だし生足って露出多くない?

 政府の関係者はあれでよくOKだしたね?

 いや大好物ですけども


 ○○○@○○○○

 衣装が清楚えっちで大変よろしい

 分かってるねティアラちゃん!


 ○○○@○○○○

 宇宙人ってもっと化け物みたいな見た目してると思ってた

 こんな美少女なら宇宙人でも大歓迎!


 ○○○@○○○○

 娯楽が好き?

 もしかしてだから日本に来たの?


 ○○○@○○○○

 ティアラちゃんって言うんだね

 あの時はお礼言えなかったけど、お母さんを助けてくれてありがとう!


 ○○○@○○○○

 魔法が使えるようになるってマジか!?


 ○○○@○○○○

 無重力みたい

 魔法具すげー!


 ○○○@○○○○

 最初はお澄まし顔だったのに、質問にたじたじになってるの可愛すぎるw


 ○○○@○○○○

 年齢聞いたやつは何だったんだ

 ロリコンか?


 ○○○@○○○○

 18歳? ぎり高校生くらいにしか見えなかったよ?


 ○○○@○○○○

 はえー

 これから定期的に地球に来るのか


 ○○○@○○○○

 次はいつ来るんだろう

 早く来ないかなー





~~~





 記者会見後。

 日本から遠く離れたアメリカ合衆国、ホワイトハウスでは二人の男が静かに話し合っていた。




 「異星人とのファーストコンタクトは、我が国が最初だと思っていたのだがね。やはりフィクションはフィクションか」


 そう零した大統領に補佐官は肩をすくめた。


 「ですが初来訪した国が日本だったのは幸いですな。かの国は我が国と懇意にしていますから、やりようはいくらでもあります」


 「まったくだ。もしロースア連邦や唐華だったら、今後の我が国の行く末に一抹の不安を覚えたというものだな。取り急ぎ日本には次にミス・ティアラが来訪したら我が国に招待したいと伝えておいてくれ」


 「承知しました、大統領」

 

 頷いた補佐官に、大統領は目を細めて問う。


 「それで、その二国の動向は?」


 「ロースア連邦は今のところ何の声明も発表していません。あの国は戦争でかなりの国力を費やしましたからな。それに今の大統領は慎重な男です、そうそう大胆な行動には出ないでしょう」


 大統領は顎に手を当てて「だといいがね」と漏らす。


 「それで、唐華は?」


 「はい。異星人の接触に対して『歴史的な出来事』と声明は発表していますが、明確に賛否は述べていませんね。様子見といったところでしょう」


 「そうか。利に敏い国だ、魔法具について把握しているなら飛びつくかと思っていたが…、自分たちが試金石になる気はないということか」


 「これまでの常識も経験も何もかも通用しない手探りの交流ですか。……やはり日本が最初の来訪場所だったことは地球にとっても、かの異星人にとっても幸運だったのかも知れませんな。 あの国は食事以外には寛容な国です、交流を始めるには最適でしょう」


 「あぁ、そうだな。我が国も寛容さでは負けていないがいささか自由が過ぎる。そのせいか、どうしてもいらぬ邪魔が入るからな」


 「妨害しそうな勢力については調査済みです。こちらを」


 うむ、と頷いた大統領は手元の資料に目を通し始める。


 「……やはり宗教団体もか」


 「えぇ、ミス・ティアラは美しい少女ですがあの容姿(白い翼)ですからね。問題視する者、さらには神聖視する者も出るでしょう」


 「国内の動向にも注意を払わねばな…。そちらは任せたぞ」


 「お任せを」


 補佐官は新たな任務を遂行するため、静かに退室した。

 それを確認して大統領は一つ息を吐く。


 「この来訪は地球にとって福音となるかどうか…。いや私たち(地球人)次第だな」






 異星人の来訪。

 それにより各々の思惑で動き出した各国。

 地球は大きな転換期を迎えることを、ベッドでスヤスヤと眠る天使はまだ知らない。


読んでいただきありがとうございます。

もう一話、閑話があります。

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