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転生天使の異世界交流  作者: 水色みなも
第一章 ファーストコンタクト
12/43

11 ファーストコンタクト


 8月某日、日本時間午前10時。

 

 晴天に恵まれたその日、国会議事堂の前には多くの人が集まっていた。 

 3日前、日本政府から「先日の飛行物体について、世紀の重大発表を行う」と異例の告知があったからだ。


 先日の飛行物体。

 それは曇天を吹き飛ばし、東京上空に光と共に現れた巨大なパイプオルガンのような飛行物体のことだ。

 その飛行物体の近くには人影が確認されたと噂があり、実際に気象観測用カメラのライブ配信映像にははっきりと天使のような人影が映っていたという。動画サイトにも複数の配信の切り抜き動画が投稿されたが、翌日には全て削除されていた。


 その翌日には、日本に上陸寸前だった台風が突如消失するという、異常気象というにはいささか無理のある現象が発生した。さらに台風の影響で大規模な土砂災害が発生した地域では「天使が助けてくれた」と証言する人が複数おり、現地を取材していたカメラも空を飛ぶ天使らしき人影を捉えていた。こちらの映像も放送後すぐさま削除され、あからさまに何らかの圧力が加わっているのは明白であった。


 そんなことが続けば、当然人々は謎の飛行物体と天使らしき人影を関連づける。



 ○○○○@○○○

 あの飛行物体はUFOで、ついに宇宙人が地球に侵略に来たんだ!


 ○○○○@○○○

 どうせドローンだろ、政府が隠しているってことは秘密兵器の実験だったとかかもな


 ○○○○@○○○

 ライブ配信の動画見てないの?天使は本当にいたんだよ!美少女天使だよ!


 ○○○○@○○○

 宇宙人とか天使とか映画の見過ぎ、現実にそんなことあるわけないじゃん



 SNSでも瞬く間に話題は拡散され、人々の間ではさまざまな推測が飛び交っていた。


 その答えが今日、日本政府から発表されるのだ。注目を集めないわけがなかった。

 日本国内の各メディアは当然のこと、海外からも多くのメディアが詰めかけていた。

 整理のため、自衛隊が動員されるほどだ。まさしく異例の事態だった。


 告知された時間から数分遅れて、鶴木総理大臣が壇上に上がった。


 「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます。10日ほど前、世間を騒がせた飛行物体についてその正体と所有者について、正式に確認が取れましたので、この場で公表させていただきます」


 集まった人々に驚愕と困惑が広がる。

 飛行物体について正体が分かった、というのは想定の通りだ。UFOなのかドローンなのか、はたまた秘密兵器なのか、色々な推測が出ているがその答えが分かるということだ。

 では所有者が確認できたというのは?

 そんな困惑が広がることは想定通りなのか、総理はにこりと笑って続けた。


 「一つ、前置きをしておきましょう。…今から私が話すことはSF映画や小説でも、ましてや私の妄想などではありません。正真正銘、現実に起きていることです。そしてこれは、地球にとって極めて重大で歴史的な出来事です」


 「まさか」と、驚愕と興奮が人々を包む。


 「紹介しましょう、遠い宇宙からの初めての客人、エムニア星からの来訪者、天使族のティアラ・エルディアさんです」


 大きく右手を振り上げ空を示す。

 つられて人々の視線は宙を向く。


 「おい!あそこ!」


 「あれはこの前の!」


 「まさか本当に宇宙人か?!」


 そこには先日目撃された宙に浮く大きなパイプオルガンのような物体と、それを従える大きな白い翼を羽ばたかせる少女の姿があった。


 少女は上空で一度立ち止まり、背後に従えた物体に手をかざした。

 次の瞬間、パイプオルガンのような物体はパッと光に包まれ、どこかへ姿を消してしまった。


 それを成した少女は、金色の長い髪を靡かせて翼を広げてふわりと壇上の総理の横に着地する。


 先ほどまで騒めいていた人々は、今は息をするのも忘れてしまったように少女のその姿に魅入っていた。


 腰まで届く長く美しい金髪に、煌めく金色の瞳。

 裾に大きなスリットの入った白いワンピースから覗く手足は、色白ですらりとしている。

 全体的に幼さは残るもののその美しく整った顔には、楚々とした柔らかい笑みを浮かべていた。


 その容姿はまさしく天使そのものだった。


 人々が固唾をのんで見守る中、彼女は総理と一言二言話すと総理と入れ替わるように壇上に立った。


 「初めまして地球の皆さん。ご紹介にあずかりました、天使族のティアラ・エルディアと申します。私は地球と交流するため、エムニア星からこの地に参りました。これから、どうぞよろしくお願いします」


 彼女が鈴の転がるような声でそう告げた瞬間、集まった人々から爆発するような歓声が上がった。

 天使は驚いたのか、ぱちくりと目を瞬かせている。


 再び総理が壇上に立ち、よく通る落ち着いた声で未だに興奮の中にいる人々に語りかけた。


 「皆さんは先日発生した大規模な土砂災害を覚えていますでしょうか? あれだけ大規模で広範囲に渡る土砂災害であったにもかかわらず、奇跡的にも死者は出ませんでした。 …そのように報道されましたが、あれは奇跡などではないのです。 ここにいる彼女が魔法を使い、土砂に巻き込まれた人々を救助し治療してくれたからこそ、誰一人の死者も出なかったのです。私はこの場をお借りして、改めて彼女に感謝を伝えたいと思います」


 総理はそう告げて、天使に腰を折る。

 天使はそれに少し困ったような笑みを浮かべながら遠慮がちに小さく頷いた。


 人々の間には「やはりそうだったか」と納得の声と「魔法?」と疑問の声が広がる。

 再びにわかに騒がしくなってきた人々に、正面を向き直った総理が明るい声を上げる。


 「そう、魔法です! みなさん、聞いていただきたい! なんと、彼女の暮らすエムニア星には魔法があるそうです。地球には空想の中にしか存在しない魔法が実在するのです! そんな魔法を、彼女は私たちにもたらしてくれました!」


 そういって会見場の脇を手で示す。そこにはスーツに身を包んだ二人の男性がいた。

 一人の男性が青いマラカスのような道具を振るうと、その先端から水が飛び出す。

 続けてもう一人が灰色の同じような道具を振るうと、飛び出して地面に落ちるかに見えた水が無重力空間に漂うように球となり、ふわふわと空中に留まった。そのまま、男の振るう道具に合わせて空中を移動する。


 人々の間から「おぉっ」と歓声が上がった。


 「これが魔法です! 彼女のもたらしてくれた”魔法具”と呼ばれる道具を使えば、私たち地球人でも魔法を使うことが出来るのです!」


 歓声がさらに大きくなった。

 総理は大きく頷きながら語る。


 「我々日本政府は、これから彼女と彼女の住むエムニアと交流を深めていくつもりです。この交流は、日本や地球の抱える数々の問題を解決に導く、大きな一歩になるでしょう。 …その時には、皆さんの生活の中に当たり前のように魔法が存在している、そんな未来も、もう夢ではないのです!」


 そう締めくくった総理の言葉に、国会議事堂が揺れんばかりの歓声が届いた。



~~~



 その後、記者会見は天使ティアラに対する質疑応答の時間となった。

 異星人への質問など想定していなかった記者たちは、その場で浮かんだ疑問をぶつけていく。



 「今後、エムニア星からさらに多くの人が来る可能性はあるのですか?」


 「えぇと、地球を訪れるには”世界を渡る魔法”を使う必要があります。ですがこの魔法は膨大な魔力を必要とするので気軽には使えません。しばらくは私一人がエムニアと地球を行き来することになると思います」


 天使ティアラは少し寂しそうに答えたり。


 「ティアラさんはおいくつですか」


 「え? …えと、今年で18歳です」


 意図の読めない質問に困惑したり。


 「なぜ最初に日本へ来たのですか?」


 「えぇと、あの…、その…」


 言葉に詰まって答えられなかったり。


 「地球で行ってみたい場所はありますか?」


 「娯楽の多い場所に行きたいです! エムニアには娯楽があまりないので…」


 元気良く答えたりしていた。

 その様子は、最初に会場に舞い降りたときの神秘的で不可侵な雰囲気とは異なり、歳相応の少女のように人々の目に映った。



 その後記者会見は無事終了し、天使ティアラは多くの人とカメラに見守られる中、次回の来訪を約束して、巨大なパイプオルガン型の魔法具と共に地球から姿を消した。






~~~





 エムニア星。

 天使族の里の一角が眩い光に包まれる。


 光がおさまると大きな魔法具と、その中央には仰向けに倒れる少女がいた。


 「つ、つかれたぁ…」


 先ほどまで地球で記者会見に臨んでいたティアラだった。

 記者会見で見せた神秘的な雰囲気は鳴りを潜め、小さな声で疲労を呻くふつうの少女に戻っていた。


 魔神討伐の旅やその後のパレードなどで人前に出ることに慣れてしまったティアラだったが、その本質が変わったわけではない。緊張もするし、本当は誰かに任せて自分はぐうたらしたいのだ。


 しばらくボーっと空を眺めていたティアラだったが、「よいしょ」と掛け声を掛けて起き上がった。


 「お腹も空いたし早く帰ろう…。きっと、お父さんもお母さんも待ってるよね」


 魔法具をペンダントにしまったティアラは、ばさりと翼を広げて我が家を目指す。



 玄関の前で待っていた両親を見つけて、ティアラは空から急降下し飛びついた。


 「ただいまっ! お父さん! お母さん!」


 「おかえり、ティアラ。異世界は楽しかったかい?」


 「ティアラちゃんっ! おかえりなさい! ぜんぜん連絡もないから心配したわよ!」


 「はいっ! 忙しかったけど、とっても楽しかったです!」


 「そうかそうか、魔力をたくさん使ってお腹が空いただろう? 夕食を食べながら話を聞かせてくれるかい?」


 「そうね。昨日からあなたの部屋のぬいぐるみが光ってたから、今日あたり帰ってきそうだと思ってあなたの好きな料理を用意したのよ?」


 「ありがとうお母さん! 私もお土産たくさん貰ったんです! ご飯が食べ終わったら渡しますね!」



 こうして、ティアラとしての初めての地球訪問(ファーストコンタクト)は終わった。


 次の訪問へ向けてやるべきことは山積みだ。

 交流の件を星神様へ報告しなくてはいけないし、交易品の調達もしなくてはいけない。そのための資金も用意する必要がある。


 でもまずはご飯を食べてゆっくり休もう、とティアラは久しぶりの家族団欒を楽しむことにした。


 ワガママな天使による、エムニア星と地球、魔法と科学の交流は、これから始まるのだ。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

これにて第一章の本編は終了です。

次から閑話を少し挟んで、第二章の始まりです。


ご意見ご感想お待ちしております。

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