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転生天使の異世界交流  作者: 水色みなも
第一章 ファーストコンタクト
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9 初めての会談 その1

長くなったので分割しました。その1です。


 日本の総理大臣と初めて言葉を交わしてから数日後。


 私は山本さん率いる自衛隊の皆さんに囲まれて、東京に来ていた。地球に来てから数日しか経っていないのに、東京に来るのも何だか久しぶりに感じた。

 それもそのはず、今回は自分で飛んで移動しているわけではなく、自衛隊のトラックでの移動だ。飛んで移動するのは目立つし、騒ぎになるので控えて欲しいと言われてしまった。


 移動中の社内で、私がそわそわと落ち着きなく翼を動かしていると山本さんが話しかけてきた。


 「緊張しているのかい?」


 「そ、それはそうですよ! だって相手は一国の代表ですよ、私みたいな一般人には荷が重いです…」


 エムニアではちょっと活躍したかもしれないけど、それでも私は何の役職もないただの一般天使だ。間違っても国を相手に交渉するような立場の人間ではない。


 「大丈夫だよ。まっすぐ君の言葉で思いを話せば伝わるさ。それにこの数日、夜遅くまで準備していたじゃないか」


 「そうですけど…」


 準備、と山本さんは言ったけど、正直たいしたことは出来なかった。

 そもそも地球とエムニアで交流しようと決めたのは、地球に来てからだ。着いたらアニメが見たいなぁ、くらいしか考えてなかった私はほぼ手ぶらだった。


 それに交流すると言っても、何をすればいいのか良く分からなかった。エムニアでは都市間でまともな交流が出来るようになったのは魔神討伐後で、それまでは護衛を付けた輸送部隊が行き来していた程度だ。街の外に出ればRPGを思わせる頻度で魔物とエンカウントしていたので仕方がないんだけど。


 まさか、これから交流しようとしている地球の人に「どうすればいいですか」なんて聞けるはずもなかったので、私は前世の記憶を必死に思い出した。中学校か高校のたぶん歴史の授業で、国交樹立の話を習ったはず…と思い出したのは、黒船来航とか金印がうんたらとか。

 …なんか違う気がする。


 ひとまず、手土産は必ず持参していたような気がするし、これからの交流で交換出来るモノのサンプルとして手持ちの魔法具からいくつかプレゼントしようと考えた。


 「ティアラさん、着きましたよ」


 「は、はい!」


 会談に向けて考え事をしていると目的地に着いた。私は翼を隠すために借りているパーカーのフードをかぶり、トラックから降りる。ここは永田町にある大きなビルだ。 会談場所を聞かされたときは「国会議事堂じゃないんだ」と思ったけど、私の来訪は国としてはまだ正式に公表していないので今は目立つのは避けたいらしい。

 救助をお手伝いをしている最中、取材時にきていたリポーターの人のカメラにがっつり撮られていたので、今さらな気がする。


 ビルの入り口にはスーツをビシッと着こなした眼鏡をかけた男性が立っていた。何だか真面目そうな人だ。


 「ご案内、ご苦労様です。ここからは私どもが責任を持ってご案内いたしますので、どうぞお任せください」


 山本さんたちと言葉を交わした男性は、フードで顔を隠した私にちらりと視線を送ってきた。


 「そちらの方が?」


 「はい、こちらがエムニアからのご客人です」


 「なるほど。 …初めまして、ティアラさん。私は特殊案件対策室所属の伊達と申します。私も会談には同席させて頂きますので、今日はよろしくお願いいたします」


 「はい、こちらこそ今日はよろしくお願いします!」


 そう言って伊達と名乗った男性は手を差し出してきた。私が手を握り返して挨拶をすると少し驚かれた。たぶん普通に日本語を話しているからだろう。

 ……翻訳魔法です。


 「ではご案内いたしますので、こちらにお越しください」


 伊達さんに手で建物の中を示された私は、一度後ろを振り返る。

 ここまで送ってくれた皆さんにぺこりと頭を下げた。


 「ここまでありがとうございました。……初対面でそのうえ異星人なのに、親切にして頂いてとても嬉しかったです!」


 「こちらこそ、色々貴重な経験をさせて貰ったよ。 …君の思いがこの国の人に伝わることを願っているよ」


 「はい! 頑張ります!」


 その後、敬礼をしてから自衛隊の皆さんはトラックに乗り込んで来た道を戻っていった。

 残された私は、伊達さんに案内されてビルの中に入った。


 案内された会議室には、すでに総理大臣を含めた出席者が揃っていたようだった。思っていたよりも同席者は少なかったが、だからと言って私の精神的な負担が軽くなるわけではない。私は深呼吸して気合を入れて会議室に足を踏み入れた。




 「初めまして、エムニア星から参りました天使族のティアラ・エルディアと申します。どうぞ、よろしくお願いしますね」


 にこりと微笑みを添えて翼を広げる。 …表情、引き攣ってないといいな。

 私の緊張とは裏腹に、翼を見て何人かから息を吞むような気配を感じた。

 実物を目にしても本物の翼だとは思えなかったのかも。ちゃんと背中から生えてるよ。


 その後、日本側の出席者のそれぞれの挨拶を終えて席に着いた。

 出席者は、鶴木総理、外務省の人、大学教授、伊達さん含む特殊案件対策室の人たちだった。総理はにこにこしているが、外務省の人たちからは鋭い視線、大学教授たちからは好奇の視線を感じた。それと、なぜか特殊案件対策室の人達は、私と同じくらいに緊張しているように見えた。


 会談は、先日の土砂災害救助の手伝いに対するお礼から始まった。


 「先日もお伝えさせて頂きましたが、改めて国民を代表してお礼を言わせてください。この度は災害救助へのご助力、誠にありがとうございました。 貴方の支援があったからこそ、我々は今回の大規模な土砂災害を、ただの一人も死者を出すこともなく乗り切ることが出来ました。…重ねてお礼申し上げます」


 「……皆さまからのお気持ち、確かに受け取りました。 私がやりたくてやったことですので、どうかあまりお気になさらないでください」


 お礼を言ってくれるのは嬉しいけど、ホントに私が勝手にやりたくてやったことなのであまり恩を感じられると、むしろこちらが申し訳なくなってしまう。


 皆さんに頭を上げて貰い、今日の会談について話を戻してもらった。


 「そうですね、いつまでもこうしていては話が進みませんね。 …では、早速ですがティアラさんは何のために地球、ひいては日本にいらっしゃったのでしょうか?」


 私の来訪の目的は、山本さんの報告で伝わっているはずだから、この質問はきっとただの確認なのだろう。 私は前回山本さんに答えたときよりも、強い意志を込めて答えた。


 「エムニアと地球の明るい未来のため、交流に参りました。 ……少し長くなりますが、私がなぜ交流を求めるのか、その理由をどうかお聞きください」


 私は一度言葉を区切って深呼吸する。


 「私たちの暮らすエムニア星では、人類の敵対者である魔神とその配下の魔物との戦いが1000年もの長い間続いておりました。 数か月前、その戦いは人類の勝利で終わりましたが、戦いの傷跡はまだ色濃く残っております。 生きるために必要な衣食住、それらは戦いの中で鍛えた魔法を活用して解決することが出来ました。 ……ですがそれ以外、”日々を生きる楽しみ”とでも呼べるモノを私たちは失ってしまっていたのです。 私はそんな状況を変えるため、エムニアでは失われてしまったモノ(娯楽)を求めてこの地球にやって参りました」


 一息に話し、静かに聞いてくれている出席者の皆さんを見渡して、締めくくる。


 「交流を通じて、皆が笑顔になれるような、楽しく日々を過ごせるような、そんな素敵な娯楽をエムニアに広められたらと考えています」


 よし、ちゃんと日和らずに言えた。 


 この数日、エムニアと地球で交流しつつ、私の願望を叶えるにはどうしたらいいか、必死に考えて出した結論がこれだ。わざわざ他の星から来て交流する理由が「娯楽」とかふざけてるの? バカじゃないの? と笑われるかもしれないけど、これは私の噓偽りない本音だ。


 言い切った後、反応を見るのが怖くて私は思わず目を閉じてしまった。

 沈黙が場に広がる。もう数分くらい経っただろうか。それともまだ数秒?


 胸の前で握りしめた手に、じっとり嫌な汗がにじみ始めた頃。

 聞こえてきた穏やかな声に、私はゆっくりと目を開けた。


 「ティアラさん、そんなに怖がらないで大丈夫ですよ。ここには貴方の願いを笑うような人はいません」


 声を掛けてくれたのは、鶴木(つるき)総理だった。

 初めてあった時に見せた仮面のような笑顔ではなく、今はただ穏やかで優しい笑みを浮かべていた。


 「まったく、君たちも黙りこくっていたら彼女が可哀そうではないですか」


 「…いや、これは失礼しました。ティアラさんの思いがあまりにも真っ直ぐで眩しかったもので」


 「そうだな、異星人にどんな無理難題を押し付けられるかと身構えていたところに、娯楽ときた。ほれみろ、予想予測など出来るわけがないのだ」


 「教授っ、控えてください! 本人の前ですよ?!」


 「ふんっ、身構えていたのは事実だろう?」


 「あれ(台風を消したの)を見て、身構えるなというのはムリな話でしょう…」


 な、何だか分からないけど、ひとまず上手くいったってことでいいのかな? よ、よかったぁ。

 私が一安心していると、ここまで案内をしてくれた伊達さんが声を上げた。


 「娯楽、となるとかなり範囲が広いですね。まずは文化の違いがあっても手に取りやすいもの、そうですね…。スポーツ、音楽あたりが良いのではないでしょうか?」


 ちらりと私に視線を送ってくる。これは私に意見を求めているってことでいいのだろうか。

 私は少し考えてから答える。


 「は、はい、そうですね。スポーツであれば戦闘訓練で行う模擬戦の延長として、理解しやすいと思います。音楽も歌を媒介にする魔法もありますので、分かりやすいと思います」


 「歌を使った魔法か、興味深いですね」


 その後は思ったより議論が盛り上がってしまい、総理の秘書さんに咳払いされるまで続いた。

 気を取り直して、今度はエムニアから提供出来るモノの話だ。折角乗り気になってくれているんだから、頑張らないと。


 「エムニアからは”魔法具”を交易品として持ち込みたいと考えています」


 「おぉ!」


 「魔法具、というと魔法の品か」


 皆さんの反応を確認してから私はペンダントに触れて、サンプルに選んだ魔法具を取り出していく。


 「そのペンダントも魔法具かね?」


 「はい、”収納”の魔法が込められた魔法具です。便利ですが、常に魔力を消費するので地球の方には扱いづらいと思います。なので、今回お渡しするサンプルにもありません」


 取り出した魔法具を並べながら私がそう答えると、教授の面々は見るからに落胆していた。

 まぁ、収納魔法はエムニアでも扱いづらい高度な魔法だし、収納の魔法具はお高いので我慢して欲しい。私のペンダントも自分で購入した訳じゃなくて、魔神討伐の旅に出るときに両親がプレゼントしてくれたものだ。


 「これが、魔法具のサンプルになります」


 「マラカス…?」


 うん、そう見えるよね。

 私がサンプルとして取り出したのは色とりどりの模様が描かれた、マスカラをスリムにしたような形状の魔法具だ。上半分の真ん中あたりが膨らんでいて、その中に魔石が入っており、下半分が取っ手になっている。魔石は強い衝撃を加えるとふつうに割れるので、こんな風に魔法具は魔石を覆う構造が多いんだよね。


 私が今回のサンプルとして渡そうと考えているのは次の2つ。


 物体を宙に浮かべる、”浮遊”の魔法具。

 何もないところから水を生み出す、”水創造”の魔法具。


 ”浮遊”の魔法具は、空飛ぶパイプオルガン型の魔法具の部品の一部だ。作る時に余分に買い込んだものの、結局使わなかったので余っていた。”水創造”の魔法具はペンダントに入れっぱなしになっていた私の旅道具の一部である。


 決して、余った在庫や不要になった物を処分しようとか、そういうわけではない。

 手元にあって渡せそうな魔法具で使いやすそうなものがこれしかなかったのだ。私は悪くないと思う。

 ……うん、次に来るときはもう少し便利な物を持ってこよう。


 それぞれの魔法具について効果と使い方を説明して、実際に使って見せる。


 「こちらは”浮遊”の魔法具です。この魔法具で触れた物体を宙に浮かべることが出来ます」


 そう言って、近くにあった重そうな革張りの椅子を魔法具でポンと叩く。すると金色の光が椅子を包み込んだ。


 「おぉっ!?」


 「浮いたぞっ!」


 「すごい!これが魔法か!」


 皆さんいいリアクションをしてくれるので、私も少し得意になって使い方を説明した。そのまま椅子に向けていた魔法具を上に向ける。


 「このように、魔法具を指示棒のようにして浮遊させた物体を操作することも出来ます。 エムニアでは重い荷物を運んだり、物体を浮かべておくのに使ったりしますね」


私の説明に、顎に手を当てていた教授の一人が疑問の声を上げた。


 「これは私たちでも使えるのかね?」


 「えぇ、この魔法具には魔力を貯める性質を持つ結晶の”魔石”が入っています。 この魔石に魔力を貯めておくことで、魔力のない人でも魔法を使うことが出来ます。 魔法を使うと魔石の魔力は消費されますが、取り出して魔力を貯めれば何度でも使えます」


 「ふむ…、バッテリーのようなものか」


 私は魔法具の膨らんだ部分をねじって開けると、中から魔石を取り出して見せる。


 「この魔石のサイズだと、そうですね…。人が数人乗れる乗り物くらいのサイズなら一月、私たちの今いるビルなら半日程度は浮遊させることが出来ます」


 「このサイズでそれほどのことが出来るのか!」

 

 「凄まじいエネルギー密度だな…」


 魔力の籠った魔石を凝視して、教授たちは呻く。それに対して、外務省の人達は別の視点で魔石を観察しているようだった。


 「これが魔石か、金色に輝いていてまるで宝石のようだな」


 「魔石単体でも美しい…。宝石としての価値も十分あるだろう」


 「ティアラさん、魔石は全てこれと同じ金色の結晶なのですか? 他の色はないのですか?」


 魔石に宝石としての価値を見出しているようだ。エムニアでは完全に資源扱いなのでなんだか新鮮な感想だ。確かに綺麗だけど、綺麗に見えている部分ってほとんど魔力の光なんだよね。魔石本体は少しくすんだ灰色の石でしかない。


 「いいえ、この魔石は私が魔力を込めたので金色に光っています。魔石自体の色は少しくすんだ灰色で、別の魔法使いが魔力を込めればその方の魔力の色になりますよ」


 「なるほど…」


 全員の視線が私の手のひらの上の魔石に集中していて、何だかちょっと落ち着かない。

 視線を遮るようにさっと魔法具の中に戻して、説明の続きをすることにした。


 「えぇと、こんな感じで魔石の魔力がある限りですが地球の方でも魔法具は使えますので、こういった魔法具を皆さんにお渡し出来ればと思っています」


 その後、もう一つの”水創造”魔法具の実演で床を水浸しにしたり、”浮遊”の魔法具を使って自分を浮かべていた教授がうっかり落っこちて腰を痛めたので魔法で治癒したりと少しトラブルはあったけど、無事に魔法具の紹介を終えることが出来た。


その2に続きます。

話数が前後しないよう、少し時間をおいて投稿いたします。

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