インドパシフィック合同軍編 第5章 受け入れる者 拒む者
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
インドパシフィック合同軍司令部が置かれている、在日アメリカ海軍横須賀基地。
作戦室に幕僚たちと共に顔を出したフォーリーは、自衛隊から派遣された連絡調整監の山浜政留空将たちと、簡単な挨拶を行った。
「タイムスリップ、30分前だ」
フォーリーの言葉に、山浜は頷く。
「いよいよです」
フォーリーは、指を鳴らした。
「コーヒーを用意してくれ・・・それと軽食を」
「イエス・サー!」
水兵が、返事をする。
「貴官も、食べるだろう?」
「いただきましょう」
フォーリーは、腕時計を確認する。
「提督。第7艦隊及び第3艦隊は、予定通り目的海域に集結しました」
インドパシフィック合同軍合同海軍の指揮下に置かれるのは、第3艦隊と第7艦隊である。
どちらの艦隊にも空母打撃群が置かれており、太平洋、アジア、インド洋をカバーする事になる。
「魔法か何かは知らないが、人知を超えた技術で、横須賀施設を含む施設、艦隊、人員、資材等を1940年代の大日本帝国に、タイムスリップさせる・・・どのような技術だ?」
「はて・・・私には、わかりかねます。ただ1つ言える事は魔法では無い事・・・彼らには、それの言葉の彼らの発音があるようですが、それは我々には発音出来ない。それどころか、どういう原理で我々をタイムスリップさせるかも、我々には理解出来ない・・・と」
「まあ、その事については、ニューワールド連合傘下の研究者たちに任せるか・・・」
「それでも、その研究成果の報告を受けるのは、短く見積もっても3世代先になるそうです」
「3世代先か・・・タイムスリップできる技術があるのなら、不老不死の技術があってもいいのでは無いか・・・?何故、そのような技術は開発されない」
「彼らの話では、不老不死というのは存在しないそうです。全ての生物に誕生があるように終りも必ずある。その法則を無視する事は出来ない・・・と」
「ふむ」
山浜の言葉に、フォーリーは顎を撫でる。
彼は空将であるが、防衛大学出身では無い。
一般大学院から幹部候補生学校を得て、幹部自衛官になった。
一般大学は、理系専門の大学で、天体物理学と宇宙学を専攻していたそうだ。
大学卒業後、大学院に進み、大学院を卒業後、航空自衛隊幹部候補生学校に進んだ。
そのため自衛隊内部では、タイムスリップについて、ある程度に知識がある部類に入る。
因みに彼らからすれば、その知識は人類の歴史で言うと、数字や文字を開発した程度だと言う。
フォーリー自身、そこは馬鹿にされる物では無く、とてつもない大発見だと思っている。
「提督。コーヒーとサンドイッチです」
水兵たちが、大量のサンドイッチとコーヒーを持ってきた。
「すまない」
「後、15分です」
山浜が、つぶやく。
フォーリーと山浜、その幕僚たちがサンドイッチとコーヒーを楽しむ。
「通信室に連絡。各施設及び艦隊との連絡を密にせよ」
副官のレイトンが、司令部作戦室に勤務する士官に告げた。
「イエス・サー」
レイトンは、コーヒーを啜る。
「レイトン。貴官は、第2次世界大戦時代にタイムスリップする事について、何か意見はあるか?」
「いえ、何も」
「何も無いのか?」
「はい。ただ1つあると言えば、敵はいくらでも補充が出来るのに対して、我々には限りがある・・・という事です」
「なるほど」
小笠原諸島沖に集結したインドパシフィック合同軍合同海軍に所属する、第3艦隊と第7艦隊が集まっていた。
さらに、海上自衛隊の護衛艦の姿もある。
インドパシフィック合同軍合同海軍第7艦隊旗艦である揚陸指揮艦[セント・へレンズ]の司令部作戦室で、第7艦隊司令官であるリザ・サーナ・ベイワード中将が、司令官席に腰掛けていた。
海上自衛隊でもイージス護衛艦や汎用護衛艦の艦長に、女性が就く事が多くなった近年、アメリカ海軍でも女性艦長及び女性提督が誕生していた。
ベイワードも女性であり、実戦部隊の指揮官である。
「提督。まもなく、タイムスリップの時刻です」
部下からの報告を受けると、ベイワードは立ち上がった。
「どちらへ?」
「タイムスリップなんて、一生に一度、経験出来るか、わからないわ。タイムスリップの瞬間を、この目で見たい」
ベイワードは、随行員たちと共に艦橋に上がった。
「司令官、上がられます!」
艦橋に詰める先任兵曹が、叫んだ。
艦橋にいる水兵、下士官、士官たちが挙手の敬礼をする。
「そのままで、よい」
ベイワードは、艦橋横のウィングに出た。
「タイムスリップ、1分前!」
部下からの報告に、ベイワードは海上を見回した。
雲1つ無い青空である。
とても、何かが起こるようには思えない。
「タイムスリップ前、10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1・・・」
部下の、カウントが終わった後・・・何か違和感を覚えた。
それも、一瞬だけの事である。
何か、身体が浮いたような感じがした・・・しかし、それも一瞬だけの事であるため、かなり注意していなければ、それを感じる事は出来なかった。
艦内電話が鳴った。
先任士官が、艦内電話の受話器をとる。
「わかった」
先任士官が、艦内電話の受話器を置く。
「提督、艦長。通信室からです。アメリカ本国との交信及び、衛星電波を受信出来ません。ですが、嘉手納、横須賀、横田等の施設との交信は可能です」
「艦隊通信及び、各艦との通信は?」
「それも、問題ありません」
「提督!対空レーダーに反応!時速100ノット以上で、こちらに接近中の航空機群を探知しました」
「全艦に命令、対空警戒」
「アイアイ、提督」
幕僚が、挙手の敬礼をする。
「提督、第3艦隊第30任務部隊第3空母打撃群から、F/A-18Fが1機、発艦!」
見張り員からの報告に、ベイワードは苦笑した。
「相変わらず早いわね・・・100パーセントの確証を得るまで、敵とみなす・・・そのスタイルは、変わらないわね」
第3艦隊司令官は、常に相手を信じない。
最悪の事態を想定した、あらゆる対応策をとってから行動する、そういう指揮官だ。
「発艦したF/A-18Fから、データが送信されています」
「テレビモニターに出して」
ベイワードの指示は、ただちに実行された。
テレビモニターに、F/A-18F[スーパーホーネット]から送信されているビデオカメラの映像が、流される。
接近中の機影を、捕捉した。
「あれは・・・飛行艇か?」
「データ解析」
揚陸指揮艦[セント・へレンズ]に搭載されている、スーパーコンピューターが捉えた機影を確認し、AIが判断する。
アメリカ海軍に所属するすべての艦艇には、スーパーコンピューターとAIが搭載され、1900年代から2020年代までの艦船、航空機等のデータが収められている。
「出ました!九七式飛行艇です」
菊水総隊、破軍集団、インドパシフィック合同軍、ニューワールド連合軍等の連合軍、独立軍等がタイムスリップを成功したと同時に、軍令部に1つの問題が持ち上がった。
「総長。緊急事態です!」
副官部に所属する大佐が、報告した。
「館山航空隊が、叛乱を起こしました!」
「何だと!?」
軍令部総長の伏見宮博泰王大将が、声を上げた。
「先ほど、軍令部に届いた通信文です!」
「よこせ!」
伏見宮が、通信文をとる。
館山航空隊司令の名で通信文が、書かれていた。
『大日本帝国ハ、アジア民族ノ正義ノ名ノ元ニ米英蘭国ニ対シテ開戦スルモノデアル。ニモ関ワラズ、米英蘭国ニ属スル未来人ト呼称スル勢力ニ支配サレヨウトシテイル。本職ハ、ソレヲ無視スル事ハ、デキナイ。ココデ蜂起スルモノデアル』
伏見宮は、その電文を読み上げて、腕を振るわせた。
「やはり・・・こうなったか・・・」
「総長?」
「この件を知っている者は・・・?」
「はっ!横須賀鎮守府と軍令部及び海軍省のみです!」
「よし、この件は他言無用だ。ただちに箝口令を発令しろ!もしも、この事が陸海軍に知られたら、不満分子たちが一斉に蜂起するかも知れん!」
「はっ!」
「行け!」
伏見宮の指示に、副官部に所属する大佐が駆け出す。
横須賀鎮守府作戦室では、参謀たちが対応に追われていた。
「総長から、命令が下った」
参謀長が、参謀たちを見回す。
「事態を穏便に解決しろ、だ。知っての通り、塩沢長官は、インドパシフィック合同軍司令部、ニューワールド連合軍連合海軍東アジア司令部、在日米海軍司令部が置かれている米海軍横須賀基地を訪問する。そのため、私に全権が委ねられた。この件は内密に処理し、未来人たちに、知られないようにしろ」
参謀長の言葉に、参謀たちがうなずく。
「では、どのように対応するか・・・?」
参謀長の言葉に、参謀たちが頭を悩める。
「偵察機による航空偵察ですが・・・叛乱部隊は、基地航空隊に所属する九六式陸上攻撃機及び九七式艦上攻撃機に爆装と雷装しています。さらに基地に所属する地上要員を武装させて、守備態勢を整えています」
「この写真は何十分前だ?」
「三十分前です」
「では、彼らは出撃の準備を整えているという事か・・・」
「どうやら、我々の回答を待っているようです・・・」
「陸軍の動きは・・・?」
「陸軍と東京憲兵本部には、演習だと説明しています」
「それも・・・いつまで、持つか・・・」
「軍使を派遣して、説得するしかありません」
「それはわかっている。だが、誰が行くのだ!?大変な任務だぞ・・・もしも失敗したら・・・」
参謀たちが、静まり返った。
「君らでは、いつまでたっても解決策は見つからん」
作戦室に、声が響いた。
参謀たちは、声がした方向に顔を向ける。
「閣下!?」
彼らに声をかけたのは、海軍予備役の米内光政大将だった。
「軍使には、僕が行きます」
「閣下、お待ちください!」
「叛乱軍は、何をするか、わからないのですよ!」
「何を言っている?叛乱軍と言っても、彼らは私たちと同じ時代に住む日本人。話せば理解される」
「「「・・・・・・」」」
参謀たちが、言葉を失った。
「それに、予備役の海軍軍人が1人や2人、亡くなった所で、痛くも痒くもなかろう」
「「「・・・・・・」」」
館山海軍航空隊では、指揮官である大佐の命令で、基地内に厳戒態勢が敷かれていた。
武器庫から三八式手動装填式小銃や軽機関銃等が出されて、正門前に防衛態勢が維持された。
近くを通る通行人たちは、不審に思った。
しかし、東京憲兵本部に通報すると、「ただの演習です」と、回答された。
「なあ、こんな事をしていいのか・・・?」
水兵の1人が、つぶやく。
「知るか!上官の命令は絶対だ!従わなければならない!」
同僚の水兵が、叫ぶ。
「おい!静かにしろ!」
上等兵曹が、注意する。
「上曹殿!動きがあります!」
目の前に、海軍の公用車が停車した。
公用車から、1人の背広姿の男が降りてきた。
「止まれ!基地内は戒厳令下だ!」
「僕は軍使として、ここに来た。航空隊司令に、面会を申し込む」
背広の男が、そう言う。
「何者だ!?官姓名を名乗れ!」
「海軍予備役大将、米内光政です」
「よ、米内閣下!?」
先任指揮官が、狼狽える。
「僕では駄目かな?」
「いえ、すぐに確認します!」
先任指揮官の下級将校は、内線電話の受話器をとった。
軍使が来た事を伝えると、航空隊司令から、「すぐに通せ」という指示が出た。
「閣下。こちらです」
先任指揮官が、案内する。
米内が司令室に通されると、航空隊司令が待っていた。
「閣下が来るとは思いませんでした・・・それも単身で」
「僕は、予備役だからね」
「どうぞ」
航空隊司令は、ソファーを勧める。
米内が、腰掛ける。
水兵が、熱燗にした日本酒を持って来る。
「まあ、1杯」
「いただきます」
航空隊司令が徳利を持って、お猪口に注ぐ。
米内は、グイッと一息にそれを飲む。
「貴官は、何をする気だ?」
「何も」
「何も?」
「私は、叛乱等・・・大それた事を考えておりません。そのような事をしても、無駄です」
「では、何故、このような事を・・・?」
「私の覚悟と抗議を、知って欲しいのです」
「・・・・・・」
それを聞いて、米内は理解した。
彼は、自決する気なのである。
自分の覚悟と抗議を、上層部に知らせるために・・・
「では、私の最後の酒盛りに付き合っていただきたい」
「よかろう」
米内と航空隊司令は、日本酒を酌み交わした。
2人は、何も語らなかった。
徳利を2本空けると、航空隊司令は立ち上がった。
制服の上着を脱ぐと、短刀を持ち出した。
すると、拳銃を持った上級将校が現れた。
その上級将校は、航空隊司令の背後に立った。
航空隊司令は正座し、短刀を抜いた。
「大日本帝国万歳!天皇陛下万歳!」
航空隊司令は、短刀を己の腹に突き刺した。
それと同時に上級将校が拳銃の引き金を引き、航空隊司令の頭部に銃弾を撃ち込んだ。
航空隊司令は、絶命した。
米内は、45度の敬礼を行った。
「叛乱は鎮圧されました。後の事は宜しくお願いします」
上級将校は、こめかみに銃口を突き付けて、引き金を引いた。
2人の亡骸を眺めながら、米内は黙って、手を合わせた。
ただちに米内は、叛乱は鎮圧された、という電報を打った。
軍令部及び海軍省に、2人の自決の意味を伝えた。
「ここから先は、我々の正義では無い・・・あくまでも非正義の戦いになる・・・」
米内は青空を眺めながら、つぶやいた。
「貴官ら、私に、この役目は荷が重すぎるぞ・・・だが、甘んじて、それを引き受けよう・・・私は、未来人を受け入れた1人だ」
インドパシフィック合同軍編 第5章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。