インドパシフィック合同軍編 第4章 平和への道 茨の道
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
大日本帝国首都東京府にある首相官邸の控室で待たされているサンチェスは、出された緑茶を飲んでいた。
コンコン。
控室のドアが、ノックされる。
「サンチェス准将。首相がお呼びです」
首相付の秘書官の言葉に、サンチェスは湯呑みを置いて、立ち上がった。
「では、案内してくれ」
サンチェスと随行員たちは、秘書官の後に従って、会議室に通された。
会議室には、首相の近衛文麿、陸軍大臣の東条英機中将、海軍大臣の及川古志郎大将、陸軍参謀本部総長の杉山元大将、海軍軍令部総長の伏見宮博奏王大将、聯合艦隊司令長官の山本五十六中将、そして管理世界の住人であるザムエルの姿もある。
「貴方方の事については、ザムエル氏から聞いている」
近衛が、口を開いた。
「未来の時代では、この時代での新しい世界の構築をする為に、準備が行われている」
近衛は、淡々と言葉を走らせる。
「だが1つだけわからないのが、ここまでの準備をするのであれば、アメリカ、イギリス等の連合国に、我々と同じ様に話を持ち掛けた方がいいのでは無いか・・・?」
近衛の質問に、サンチェスは頷いた。
「それは、貴国が一番理解しているのではないですか・・・?」
サンチェスは、答える。
「大日本帝国は、戦争を回避するためにあらゆる外交工作を行って来ました。しかし、アメリカ、イギリス、オランダ等は、経済的制裁を行うだけで、交渉を先延ばし、大日本帝国に戦争という選択肢を与えて来ました。そのような国が、平和的な交渉で応じると思いますか・・・?」
「「「・・・・・・」」」
会議室にいる者たちが、言葉を失った。
「彼らと、新世界構築のためのテーブルを用意するには、戦争をする必要があるのです。平和というものは、大量の血を流して初めて得られるものです。それは、先ほど自衛官たちが貴方がたに見せた歴史で、理解出来るでしょう」
サンチェスの言葉に、会議室は静まり返る。
「アメリカを含むヨーロッパの歴史を思い返せば、平和的な交渉では話にならないという事は必然でしょう」
「貴官等は・・・」
これまで話を聞いていた山本が、口を開いた。
「我々に、何を望む・・・?」
「それは、我々の質問ですね」
サンチェスは、会議室にいる者たちを見回した。
「貴国は、我々に何を望む・・・?何をして欲しいですか・・・?」
サンチェスの質問に、近衛たちは顔を見合わせた。
「どうやら、我々を騙す事が目的ではないようだ・・・」
近衛が、つぶやく。
「申し訳なかった。何せ、未来人とは言え、敵性国家の人間であるからな。用心に越した事は無い」
「当然です」
「我が国の要求は、ザムエル氏に話した通りだ。それを守ってくれるのであれば、貴方がたを全面的に受け入れよう」
「承知しています。貴方がたの要求に関しては、ザムエル氏を通して、受け入れる旨を伝えています」
「承知している」
近衛は、立ち上がった。
彼はサンチェスの前に立ち、手を差し出した。
サンチェスと近衛は、固く握手した。
「長い道のりで、そこには障害物だらけではあるが、共に前に進もう」
近衛の言葉に、サンチェスが頷いた。
「我々の方は問題ありませんが、貴国では、意識改革や思想改革等で多くの軍民からの反発があるでしょう。これからは厳しい試練の道が待っています」
近衛とサンチェスが握手を交わした後、アメリカ軍等の説明が行われる事になった。
「陸海空自衛隊についてはある程度に理解したが・・・我々の想像を超える物であるため、それを理解するのは難しい・・・アメリカ軍も同じであろう・・・」
東條が口を開く。
「はい、ではアメリカ軍の説明に入ります」
サンチェスは、プロジェクターに自身のパソコンを繋いだ。
「アメリカ軍は陸軍、海軍、空軍、海兵隊、宇宙軍の5軍で構成されています。未来のアメリカ軍は世界最大の存在であり、世界の警察であると認識しています」
「アメリカは第2次世界大戦後、自分たちとは関係の無い戦争にも介入していると聞いた」
山本が、口を開く。
「アメリカ合衆国は西側諸国の宗主国として、民主主義陣営の守護者として君臨しています。そのため海外のあらゆるところに基地や施設を構築し、部隊を展開配備しています。特に空軍基地は充実しており、命令が出れば、すぐに地球上のあらゆる場所を空爆出来るように、配備されています」
「それも、大東亜戦争での教訓か・・・?」
東條が聞く。
「そうです。太平洋戦争及びヨーロッパ大戦で、アメリカ軍は空軍基地を前線に展開し、戦略爆撃による都市攻撃で、敵の戦意を奪う。それが基本戦略になりました」
「空軍の戦略は理解した。戦闘機や爆撃機等は?」
「はい、戦闘機に関しては、制空権を確保する戦闘機と対地攻撃、対艦攻撃も可能な多用途戦闘機が配備されています。さらに戦闘機としての機能を維持した状態で、爆撃機としての機能を持った戦闘爆撃機が配備されています。これらの戦闘機は、1991年に勃発した湾岸戦争で数多くの実績を残しています。例えば、F-15E[ストライク・イーグル]は、2機だけでイラク陸軍の戦車中隊16輌の主力戦車を16発の精密誘導爆弾で、撃破した事があります」
この説明には、大日本帝国陸海軍の出席者たちが驚いた。
高速で走行する戦車に対して、戦闘爆撃機が投下した爆弾を確実に直撃させるのは、不可能な事である。
実際、この時代でも爆撃機は戦車への攻撃を仕掛けるが、基本的には爆弾は戦車の近辺に着撃するだけで、正確に戦車に直撃させる事は出来ない。
あくまでも爆風と熱風で、対象の戦車を破壊するのである。
「何と!それでは、戦車のような小さい目標を攻撃出来るのであれば、軍事施設等の攻撃はさらに正確に出来るという事か・・・?」
東條が、聞く。
「そうです。戦闘爆撃機や多用途戦闘機が搭載する精密誘導爆弾は、爆弾自体に知能があり、自由落下しながら、目標を特定し、そこに命中するために微調整を繰り返し、直撃します」
「では、誤爆の可能性は無い・・・?」
「そこまでは言えません。どんなに兵器が進歩しても使用するのは人間ですから、確実は、ありません。地上部隊の誘導ミスやパイロットが誤認した場合、精密誘導爆弾は、その正確さから確実に、間違った目標を破壊してしまいます」
陸海軍の出席者の表情が、青くなった。
戦場では誤爆や誤射等は日常的に発生する・・・しかし、それも発作的な物であるため、いくらでも対応は出来るし、被害を最小限度に止める事も出来る。
だが、未来兵器の正確さ理解すると、被害を最小限度にする事は困難だろう。
南鳥島航空基地。
タイムスリップ先遣部隊の司令部が置かれている南鳥島航空基地では、大日本帝国派遣の特使団から作戦が成功した事を知らされると、司令部スタッフたちで歓声の声が上げられた。
「どうやら、成功したようだ・・・」
先遣部隊特使団の指揮官である久保田肇海将補が、ほっとした表情で椅子に深く腰掛けた。
「成功と言っても、第1段階の前段階が、成功しただけだ」
新世界連合軍から派遣された特使団指揮官のケンジ・デーヴィッド・クルシマ・ジョーダン海軍少将(1つ星)が、つぶやいた。
「理解している。だが、最悪の事態が回避出来たために、ホッとしているのだ」
「確かに、その気持ちは理解出来る。もしも、うまく行かなければ・・・プランBに移行しなければならなかった」
「ああ。奇襲攻撃になるとはいえ・・・我々の存在が、この段階で、明るみに出るのは避けたい」
当然ではあるが・・・特使団が失敗した場合のプランも、用意されていた。
特使団の者たちには一部の者にしか教えられていないが、極秘事項として1隻の戦略原子力潜水艦(予備艦は除く)が、太平洋側で弾頭ミサイルの発射準備を行っていた。
[オハイオ]級弾頭ミサイル原子力潜水艦[カメハメハ]は、24基のトライデント弾頭ミサイルの発射準備を維持したまま待機している状態だった。
若しも特使団が失敗した場合、24基のトライデント弾頭ミサイルが発射され、大日本帝国、韓半島、台湾に撃ち込まれる予定であった。
攻撃目標は主要軍事施設であり、この第1波攻撃によって、大日本帝国の陸海軍力を30パーセントまで無力化出来るとされていた。
使用弾頭は核弾頭であり、事実上、大日本帝国、韓半島、台湾は壊滅する。
「核攻撃というのは、日本人としては絶対に避けたい戦法だ」
久保田は、スタッフが淹れたコーヒーのカップを手に取った。
「貴官たちの新世界計画では、大日本帝国が拒否し、特使団の生命が危険に晒された方が、良かったのでは・・・?」
久保田の問いに、ジョーダンは苦笑した。
「きつい冗談だな・・・ハジメ。そんな事をすれば、大日本帝国の復興と大量虐殺した勢力を討伐するという大義に燃えた世界と、戦う事になる」
「だが、その方が新世界計画の実行が、早く出来るのでは無いか・・・?」
「それでは、ここまで準備した意味が無い・・・確かに、計画準備中の中には核攻撃で世界を壊滅させて、新しい世界を創る、という物が議論されたが・・・そもそも、それを実行するのであれば、我々だけで足りるでは無いか・・・」
「確かに・・・な」
「俺たちは、困難な道を選んだ。そして、その困難な道を達成するために、準備を行った。後は、それらを実行する我々が、どこまでの器か、それを証明するために困難な道を歩く・・・だ」
「その困難な道に、どれだけの量の血が流れるか・・・俺は、思った事がある。核攻撃で文明を破壊すれば、その分の血は流れるが、後は流れないかもしれない・・・そんな事を思った」
「危険な発想だな・・・それを、俺以外に話したか・・・?」
「いや」
「ならば、この話はこれで終わりだ。その話は絶対に誰にもするなよ。これは親族としての忠告だ」
大日本帝国海軍聯合艦隊司令長官である山本五十六は、未来人たちとの会談を終えた後、その日に、聯合艦隊旗艦である戦艦[長門]に、戻っていた。
戦艦[長門]の長官室で、山本は椅子に腰かけていた。
「・・・・・・」
山本は立ち上がり、棚からスコッチウィスキーのボトルを取り出した。
グラスを、手に取った。
彼は、スコッチをグラスに注いだ。
山本は下戸であるため、よほどでなければアルコール飲料を飲まない。
海軍省で次官を務めていた時、各国海軍の駐在武官たちと懇親会が開かれた時も、ウィスキーと見せて、ただのお茶を飲んでいた程だ。
「飲まないと駄目だな・・・」
山本は、ストレートのスコッチを、飲み干した。
そして、再びグラスに注ぐ。
山本は、椅子に腰かけた。
帰路の途中、何度も目に通した未来の情報が記載されたファイル。
彼は、再びページをめくった。
1941年12月8日。
大日本帝国は、真珠湾攻撃を実施、飛行場と停泊中の軍艦を壊滅させた。
しかし、空母と湾内の燃料タンクは無傷であり、アメリカの太平洋作戦に打撃を与える事は出来なかった。
さらに、破壊された艦艇は真珠湾軍港内であったため、ほとんどの艦艇が修理可能であった。
その後、大日本帝国は南方作戦を実施し、南方の油田地帯を確保する。
しかし、ミッドウェー島攻撃で、アメリカに大敗し、以降の形勢は逆転した。
アメリカは、ガダルカナル島に上陸し、同島に配備されている海軍設営隊を圧倒した。
山本は、ブーゲンビル島上空で、アメリカ陸軍航空軍所属の戦闘機部隊の来襲を受けて、戦死する。
そこまで読んだ後・・・山本はファイルを閉じた。
「・・・・・・」
自分は、軍人である。
軍人である以上は、常に死と隣り合わせである。
だから、死を恐れない。
聯合艦隊司令長官としての職責を全うする以上は、敵の命だけでは無く、味方の命も奪う。
命を奪う以上は、自分の命が奪われるのも仕方ない・・・
「しかし・・・」
山本は、つぶやいた。
「未来では、俺の運命は決まっている・・・だが、その運命に逆らった事によって、これほど残酷な世の中になるとは・・・」
第2次世界大戦は、これまでの戦争とは大きく変わり、まったく新しい戦争へと変貌する。
そして、その後の戦争も変わる。
山本は、再び立ち上がった。
長官室を、出た。
「どちらへ?」
長官付少尉に、声をかけられた。
「今日は非番だからな。町に出る」
「1人だけで、ですか?」
「そうだ。たまには1人だけで、町に出たい」
「わかりました」
山本が戦艦[長門]の甲板に出た時、太陽は高く登っていた。
戦艦[長門]の内火艇に乗り込み、柱島に上陸する。
柱島に上陸すると、団子屋が目に止まった。
「すまん」
「は~い」
暖簾をくぐると、若い娘が顔を出す。
「団子を1つくれ」
「かしこまりました」
山本は、屋内の席に腰掛ける。
「団子です」
若い娘が、団子の皿と茶の入った湯呑みを置く。
山本は団子の串を1つ取り、1個を食べる。
「う~ん。美味い」
山本は満足そうに、つぶやく。
その後、緑茶を飲む。
団子のタレの甘辛さと、緑茶の苦味が絶妙に合う。
山本は、周囲を見渡す。
店の前では、女将や若い娘が掃除をしている。
その周囲で、男児や女児が遊んでいる。
「平和だな・・・」
山本が、つぶやく。
軍人の務めは、戦争をする事では無い。
こういった、のどかで当たり前の日常を守るためにある。
インドパシフィック合同軍編 第4章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
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