インドパシフィック合同軍編 第3章 駆引き
おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
インドパシフィック合同軍合同海軍インドパシフィック合同任務艦隊司令官である板谷定司海将は、合同任務艦隊旗艦・ヘリコプター搭載護衛艦[いわて]の統合任務部隊司令部として使われている、多目的室の司令官席に腰掛けている。
インドパシフィック合同任務艦隊は、傘下に第171合同任務部隊指揮下に置き、第171合同任務部隊司令部は、第7艦隊第76任務部隊第7遠征打撃群司令部が兼務する。
海上自衛隊、韓国統合軍、[世宗大王軍]傘下の海軍、台湾統合軍、[孫文軍]傘下の海軍、アメリカ海軍及び海兵隊から派遣された高級士官、上級士官が幕僚として、下級士官がスタッフとして統合任務部隊司令部に勤務している。
日本語、韓国語、英語、台湾語が使われているため、それぞれの通訳を担当する技官も、派遣されている。
板谷は、タイムスリップ前の役職は護衛艦隊司令官であり、横須賀基地にある護衛艦隊司令部で勤務していた。
「特使団からの連絡は・・・?」
板谷の問いに、通信担当の幕僚が報告する。
「大日本帝国側の使節団と合流、首相官邸に到着した・・・と、いう事です」
「無人機の情報通りだな・・・」
無人偵察機を発進させ、目視では視認出来ない高度から、地上の監視を行っている。
万が一にも非常事態が発生した場合、板谷の指示で、ただちに即応展開部隊が出動する。
「加淵担当大臣。予定通りに物事が進行中です」
「はい」
板谷は、統合任務部隊司令部に同行した政治家に顔を向けた。
彼は、内閣官房副長官を務めていた加)淵靖久である。
元の時代で首相から、内閣官房副長官から、インドパシフィック合同軍付担当大臣に任命された。
40代半ばである加淵は、政治家3世であり、祖父と父親のコネで政治家になった。
しかし、お坊ちゃん政治屋では無い。
政治家3世の中では、かなり稀にみる改革派である。
それも、かなりの能力がある。
「板谷海将。万が一にも非常事態が発生した場合の対応は、万全ですか?」
「ご安心ください。準備は万端です」
万が一の事態が発生した場合・・・政治的判断が行える加淵の決断によって、板谷が全部隊に命令を出す。
第171合同任務部隊傘下の第7艦隊第76任務部隊第7遠征打撃群[サラトガ]からF-35Bが、発艦する。
大日本帝国首都圏の制空権を確保するために・・・F-35Bが発艦したと同時に、大日本帝国首都圏に接近した第171合同任務部隊派遣部隊であるイージス護衛艦[なち]が搭載する巡航ミサイル[タクティカル・トマホーク]を発射する。
もちろん、随伴の[アーレイバーク]級ミサイル駆逐艦も、タクティカル・トマホークを発射する。
無人偵察機による誘導により、発射されたトマホークは、首都圏の防空担当である飛行場、高射砲陣地、横須賀軍港を破壊する。
さらに無人攻撃機によるヘルファイア・ミサイルで、宮城(皇居)を、攻撃する(ただし、信管と弾頭を外した状態)。
攻撃場所は、元の時代の宮内庁が保有している当時の皇居の見取り図から、どうでもいい場所に着弾させる事になっていた。
現人神であられる天皇陛下のお住まいが攻撃されれば、首都防衛を担当する陸軍の方面軍は混乱する。
その段階で、ヘリ搭載護衛艦[いわて]と強襲揚陸艦[サラトガ]から地上部隊を乗せたV-22Bが発艦する。
もちろん、護衛戦闘機として、F-35Bが発艦する。
そして、特使団を救出する手筈だ。
但し・・・これは、あくまでも最悪の事態となった場合・・・である。
出来れば、そんな事態に陥ったりはしないで欲しいと願うばかりだ。
インドパシフィック合同軍合同海軍インドパシフィック合同任務艦隊第171合同任務部隊派遣隊所属のイージス護衛艦[なち]は、対水上レーダーで、接近中の艦影を捉えた。
「・・・・・・」
報告を聞いた隊司令の鏑城正志海将補は、腕を組んだ。
「どう思う?」
首席幕僚の1等海佐に、聞いた。
「1隻という事は、我々に対して、戦闘行為の意思は無い・・・と、いう事でしょう」
「うむ・・・」
「ソナーには・・・」
「ピンガ―を発射しましたが、[ロサンゼルス]級原潜等の味方の潜水艦を探知しただけです」
鏑城は、腕を組んだ。
「司令、首席幕僚!接近中の不明艦から通信です」
通信幕僚が、報告する。
鏑城が、通信文を受け取る。
彼は、通信文に目を通す。
「読んでみろ」
鏑城が、通信文を首席幕僚に渡す。
「発、横須賀鎮守府司令長官、塩沢幸一、宛、インドパシフィック合同任務艦隊司令官、旗艦[いわて]での面会を申し込む。面会のため、面会人を派遣する・・・」
「どう思う・・・?」
「打つべき手を打ってきた、という事でしょう・・・」
「まあ、通信文を中継だ。旗艦[いわて]に通信」
鏑城が、指示を出す。
旗艦・ヘリ搭載護衛艦[いわて]の統合任務部隊司令部では、イージス護衛艦[なち]からを経由して、横須賀鎮守府からの通信文が届いた。
「司令官、どうされますか?」
幕僚の質問に、板谷は答えた。
「乗艦を許可すべきだろう・・・ここで、拒否すれば、我々は味方では無い、という事を決定的にする事になる」
「そうですね・・・では、武器の携帯は認めないという事を・・・」
「駄目だ!」
武器の携帯について、異議を唱えたのは、アメリカ海軍から派遣された幕僚だ。
「面会者たちは捕虜では無い。客人だ。客人に対して武器類の持ち込みを禁止した場合、帝国海軍に、疑念を持たせる事になる。礼儀として、武器の携行は認めさせるべきだ。しかし、こちらも警戒要員及び警護要員を配置するのは問題ない」
アメリカ海軍の幕僚の言葉に、板谷は頷いた。
「艦長に連絡して、警戒要員には白兵戦の備えを、警護要員には拳銃の携帯を命じた上で後方に配置を」
「わかりました」
幕僚が、頷く。
板谷の要請を受諾した、ヘリ搭載護衛艦[いわて]の艦長は、ただちに警戒配置命令を出した。
警戒要員として配置されている乗組員たちは、作業服からデジタル迷彩服に着替え、黒色の防弾チョッキ及び黒色のヘルメットを被った。
武器庫が開放され、64式7.62ミリ小銃や、9ミリ機関拳銃が出された。
実弾が配られ、64式7.62ミリ小銃や、9ミリ機関拳銃に装填される。
万が一にも強襲された場合に備えて、ヘリ搭載護衛艦[いわて]に乗艦している特別警備隊(SBU)にも、出動待機命令が出された。
他の護衛艦にも警戒態勢が発令され、護衛艦付立入検査隊で編成されている乗船隊にも、出動待機命令が出された。
もちろん、89式5.56ミリ小銃(折曲式銃床)が武器庫から出されて、実弾が装填される。
12.7ミリ重機関銃も武器庫から出されて、ヘリ搭載護衛艦[いわて]の銃座に装着された。
実弾が出されて、12.7ミリ重機関銃に装填された。
予備機として待機しているSH-60Kも不審船対策の装備がされて、発艦する。
特設巡洋艦[能代丸]に乗艦した塩沢は、自身に同行する随行員と共に、未来から来た戦闘艦に案内されていた。
「駆逐艦サイズですか・・・」
塩沢に随行する参謀が、案内役の艦を眺めながら、つぶやく。
「それにしても・・・砲が一門というのは何と貧弱な・・・あれでは、特設艦や特設艇と戦うのが、やっとでは無いですか?」
「情報によれば・・・」
若手の参謀たち雑談に、年長者の参謀である大佐が、口を開いた。
「遠くの目標を探知する電探と、無数の噴進弾を搭載しているそうだ」
「噴進弾ですか・・・?」
「欧州の戦場で、野砲と同じ戦法で使われている兵器ですか・・・?」
「いや、それよりも威力が高いそうだ」
塩沢が、口を開いた。
「考えてもみたまえ・・・我々の時代から、80年前の艦艇は、今の艦艇と比べれば貧弱だった。小銃も野砲も、今とは比べ物にならない程、性能が低かった」
「はい、戦車や戦闘機、潜水艦が登場したのは欧州大戦です。あの大戦で、戦争は変わりました・・・」
「そうだ。大量破壊兵器が登場し、戦闘は軍人や兵士だけではなく、無抵抗な民衆にも被害が出るようになった」
「化学兵器や、生物兵器ですね」
「うむ」
「では・・・あの艦は貧弱そうに見えて、とんでもない戦闘能力を持っていると・・・」
「海軍上層部の噂ではあるが・・・80年後の時代では、新型爆弾をさらに強力にした爆弾があるそうだ」
「まさか!ドイツが研究・開発中であるという、新型爆弾ですか?」
「そうだ。上層部の噂では、ドイツは新型爆弾の開発は間に合わず、米国が開発するそうだ。それが、大日本帝国の都市に落とされるそうだ」
「ですが・・・新型爆弾といっても、戦略爆撃に使用される爆弾よりも威力が高いだけで、それほど脅威では無いと聞いた事がありますが・・・」
若手の参謀の言葉に、塩沢と大佐は何も言わなかった。
(研究論文では、その程度では無いのだが・・・)
1発の爆弾で、都市1つを壊滅させる事が出来る威力・・・しかし、この当時の者たちには一部の者たちにしか、それは知らされておらず、それを知らされている者たちも、眉唾物として聞いていた。
「ですが・・・」
大佐が、口を開いた。
「未来の蘭国海軍の駆逐艦に案内されるというのは、何とも言えないですね・・・」
これから米国、英国、蘭国、仏国等と戦争を始めるというのに、未来とは言え、敵性国家の軍隊と肩を並べなければならないのは、何とも言えないだろう・・・
「山本長官も、何を考えているのか・・・」
若手の参謀が、つぶやく。
「ああ、ドイツと手を組んでいたら、大日本帝国は無敵である。確かに、米国は強大な国だが、欧州でドイツが連合国に対して劇的に勝利をすれば米国に隙が生まれ、我が国に有利な条件で、講和条約を締結する事が出来る」
若手の参謀たちの雑談に、塩沢や大佐は、言葉が出なかった。
(そんな都合よくいく訳が無いだろう・・・確かに、ドイツは、新兵器を開発しているが、それだけで、戦争に勝てたら苦労は無い)
塩沢が、心中でつぶやく。
兵器だけで、戦争に勝てた例は無い。
日清戦争では、清国軍の方が最新鋭の兵器を取り揃えており、大日本帝国側は圧倒的に不利だった。
それでも、勝利する事が出来た。
その後の日露戦争、欧州大戦でも敵側の方が有利だった。
特設巡洋艦[能代丸]が、インドパシフィック合同任務艦隊旗艦の横に停船した。
内火艇が下ろされ、塩沢と随行員たちが乗り込む。
内火艇が走り出し、海軍旗を掲げた日本艦に向かった。
「空母[赤城]程では無いが・・・正規空母に匹敵する規模だな」
塩沢が、旗艦である空母らしき艦影を見上げながら、つぶやいた。
「長官。どうか用心して下さい」
内火艇の操作員が、告げる。
「ああ」
内火艇が、ラッタルの横につけられる。
塩沢が、ラッタルを上った。
ラッタルを上ると、黒色のセーラー服を着た水兵たちが、見慣れない小銃を掲げた。
その周囲では、海での迷彩効果を発揮出来そうな迷彩服を着込んだ水兵たちが、小銃を肩にかけている。
塩沢の目の前に、黒色の制服を着た男が立った。
「[いわて]艦長の、飯山公義1等海佐です」
「横須賀鎮守府司令長官の塩沢幸一中将。艦の最高責任者と、お会いできて光栄だ。飯山大佐」
「警備が厳重で申し訳ありません。一応、貴方方は味方ではありませんので・・・」
「それについては承知している。私も軍人だ。貴方の立場なら、同じ対応を行っただろう」
「では、こちらに」
飯山は、先導に立った。
その後ろに塩沢たち面会者、その後ろに自動拳銃で武装した警戒要員が、配置につく。
「こちらが、司令官室です」
飯山が、ドアをノックする。
「入れ」
司令官室にいる主から許可が出ると、飯山はドアを開けた。
塩沢が部屋に入ると、1人の男が立っていた。
「お待ちしておりました」
その男が、挨拶する。
「インドパシフィック合同軍合同海軍インドパシフィック合同任務艦隊司令官、板谷定司海将です」
「横須賀鎮守府司令長官の、塩沢幸一です」
会談は、2人だけで行う事になっていたため、随行員たちは、士官予備室に案内された。
司令官室係の海士が、コーヒーを2つ持って来る。
「それで、今回はどのような用件で、来艦したのですか・・・?」
板谷が、尋ねる。
「友好と平和のためです」
「友好と平和・・・?」
「先ほど、この艦の艦長が申していました。私たちは味方では無いと・・・インドパシフィック合同任務艦隊は、さまざまな国が参加しているようですが・・・その艦隊の旗艦と司令官は日本・・・ならば、話し合いが可能という事です」
「なるほど・・・」
「貴艦隊が臨戦態勢をとっているのは、大日本帝国にいる特使団のため・・・ですが、陸海軍の将兵の中に、彼らに害を加える者たちはいません」
「塩沢長官。気を悪くしないで聞いて下さい。例え、陸海軍首脳部及び統帥権を持つ陛下の指示があったとしても、それに従わない者たちが一定数います。貴方方の時代で分かりやすく言えば五・一五事件や二・二六事件が有名ですね・・・日米開戦後も陛下の命に従わなかった事件も、複数存在します」
「なるほど、貴方方は80年後の時代から来た・・・我々の知らない歴史を知っている・・・ですが、これだけは信じてもらいたい・・・陸海軍首脳部又は陛下の命に従わなかった者たちがいれば、彼らはテロリスト又は叛乱軍として扱います。我々が責任を持って討伐します。ですから、行動を起こすのであれば、少し待っていただきたい」
「もちろん、ある程度の時間的猶予と我々も状況を判断しなければなりませんので、その分の時間的猶予はあります。その間に大日本帝国側の返答を待って判断します」
「感謝します」
塩沢は、頭を下げた。
インドパシフィック合同軍編 第3章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は6月29日を予定しています。