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インドパシフィック合同軍編 第2章 時間跳躍

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 北富士演習場。


 サンチェスの背後には、MH-60と第160特殊作戦航空連隊に所属するMH-60L[DAP]が、駐機している。


 MH-60は、在日アメリカ陸軍の航空部隊が運用するブラックホークである。


 因みにMH-60L[DAP]は、M230機関砲とAGM-114[ヘルファイア・ミサイル]又はロケット弾ポットが、武装されている。


 さらにサンチェスたち特使団護衛のために、第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊と第75レンジャー連隊から選抜・編成された即応展開部隊がいる。


「准将」


 サンチェスの随行員として、鶴井が声をかけた。


「どうした少佐?」


「まもなく実行される、そうです」


 サンチェスは、腕時計を見る。


「そうか・・・これまで、何度か実験が行われたが、何回か、タイムスリップの反動があった。貴国でもそうだろう?」


「ええ。私は、その時、産まれていませんでしたが・・・その時は、とんでもない事が起きたようです」


「うむ。1人の少女のためにアメリカ、ロシア、日本が翻弄された・・・それどころか、いいように使われた」





 サンチェスが、1人の少女と、つぶやいた時・・・


「ハックション!」


 防衛局長官直轄部隊海上自衛隊第1空母機動群旗艦である空母[あまぎ]の売店で、1人の女性スタッフが、くしゃみをした。


「風邪ですか・・・?オーナー?」


 店長が、声をかけてきた。


「う~ん、誰かが、噂しているのかな・・・?」


「噂ですか・・・?心当りは?」


「ありすぎて、見当がつかにゃ~い」


「・・・・・・」





 場所は戻り・・・


「今頃、噂をされた彼女は、くしゃみをしていますかな・・・?」


 鶴井が、つぶやく。


「さあ、あの女史も、我々と同様に80年前の時代へ、タイムスリップするそうだ・・・インドパシフィック合同軍だけではなく、他の独立軍(主にアメリカ軍)や、その上部機関であり、地球展開部隊であるニューワールド連合軍を、こき使うだろう・・・頭の痛い事だ・・・」


「それでしたら、私たちも・・・です。防衛装備庁に属している友人の話では、この計画が実行段階になった時、航空自衛隊航空支援集団航空輸送団の新設と、輸送機、空中給油機の増数するように脅された・・・そうです」


「ほぅ~」


「そして、それが出来ない時は、私兵部隊を率いて、官僚たちの首を斬る!と・・・脅された、そうです・・・」


「それは、それは、随分と脅迫されたな・・・」


「アメリカと違って、我が国は貧乏国家です。装備も人員も簡単には増やせません。防衛装備庁も財務省を説得するのに苦労した・・・と」


「おいおい、我が国も、彼女の子息を経由して、無理難題の要求をされたよ・・・」


「まあ、この新計画に参加するアメリカ軍は、全アメリカ常備軍だけでも100万人が参加し、予備役も60万人以上が参加しますからね・・・」


「アメリカ政府としては、世界の警察を自称する必要が無くなり、世界が新しい方向に行く事が出来るという事で、喜び半分、不安が半分・・・という状況だ」


「秘密予算が削減出来ますし、兵器の維持費が、かからなくなりますから・・・」


「国民に公表せず、秘密裏に準備されていた計画だ。秘密予算も無限には無い・・・国民にバレないように秘密予算を確保した財務省の職員には頭が上がらない」


「それは、我が国も同じです・・・」


『これよりタイムスリップを開始する!関係の無い人員は退避せよ!』


 放送が流れる。


「さあ、時間だ・・・」





 パン!


 と、いう手を叩く音と共に何かが起きた・・・





 が・・・それを感じる事は出来なかった。


「成功したのか・・・?」


 サンチェスが、つぶやく。


「在日アメリカ軍司令部との交信が途絶!」


 通信兵が、報告する。


「第7遠征打撃群との交信に、問題無し!」


「ふむ・・・」


「准将。どうやら成功のようです」


「?」


 鶴井が、指を指す。


 恐らくは、自分たちの出迎えのために、編成されたのだろう。


 大日本帝国陸海軍の制服姿の一群がいる。


 その中の、1人の海軍将校を指した。


「あれは・・・」


「写真でしか見た事ありませんが、間違いありません。山本五十六(やまもといそろく)大将です!」


「彼が、海軍元帥、山本五十六大将か・・・?」


「ええ、そうです。ですが、この時は海軍中将だった・・・はずです」


 そのグループから、1人の軍人が歩み寄って来た。


永野(ながの)修身(おさみ)です」


「永野修身・・・あっ!」


 鶴井が、叫ぶ。


「親米派の永野修身大将ですか?」


「親米派と言えば親米派だが、未来では、そこまで認知度があるのかね?」


 永野が頬を掻きながら、つぶやく。


「オ初ニ、オ目ニカカリマス。サンチェス准将デス」


 英語訛りのある日本語で、サンチェスが挨拶する。


「お気になさらず、私も英語は出来る」


 永野が、英語で応対する。


「そうですか・・・私も、日本には留学経験があるのですが、日本語は、完璧ではありません」


「ジェネラル・サンチェスのために通訳を用意した。それと、彼を貴方につけますので、好きに使って下さい」


 永野が言い終えると、1人の海軍軍人が前に出た。


(しま)(はし)英代(ひでよ)少佐」


 島橋と名乗った海軍軍人は、挙手の敬礼をした。


「ところで、アメリカ軍の兵器を見たいのだが・・・いいかね?」


「どうぞ」


 永野が先遣部隊として派遣されているアメリカ陸軍の兵器を眺めた。


 兵器と言っても、大袈裟な物は持って来ていない。


「アメリカ陸軍では、航空機が主力かな・・・?」


「いえ、アメリカ陸軍も陸軍ですので、戦車が主力です。派遣される国にもよりますが、装甲車が、メインの場合もあります」


「ほう」


 先遣部隊が持って来ているのは、MH-60[ブラックホーク]や、AH-64D[アパッチ・ロングボア]や、AH-64E[アパッチ・ガーディアン]等の、ヘリ部隊がメインである。


「海上であれば、海軍と海兵隊がいますが・・・そちらも固定翼航空機を主力とした部隊展開がメインです」


「ふむふむ」


 永野は熱心に、アメリカ陸軍兵器を眺める。


「80年後では、日本はアメリカの最大の同盟国である・・・とある人物から聞いたが、その話を聞いて、理解した・・・アメリカは太平洋の覇権を握り、東アジアを含むアジアの軍事拠点として日本の安全保障を維持する・・・と、いう訳か?」


「提督の予想は、的中しています。しかし、日本も黙っていません。日本も対外外交を行う際に、アメリカの傘の下を利用して、自らは傷つかず、経済の活性化を行っています」


「まあ、そうだろうな・・・外交というのは、お互いの腹を探り合う。嫌な会談だよ」


「閣下」


「そんな時間か・・・」


 島橋が、懐中時計を見せる。


「首相官邸で、詳しい話を聞く事になっている。車を」


「我が国の情勢も理解していただきたい・・・アメリカ軍のマークがある車両が帝国内を動き回ったとなれば、帝国内は蜂の巣をつついたような騒ぎになります。准将と数人の随行員まで・・・という事で」


 島橋の言葉に、サンチェスが頷いた。





 伊豆諸島沖の海域で、臨戦態勢を展開する艦隊があった。


 インドパシフィック合同軍在日アメリカ海軍第7艦隊第76任務部隊第7遠征打撃群である。





 第7遠征打撃群に所属する[アメリカ]級強襲揚陸艦[サラトガ]では、いつでも緊急対応命令が出ても態様出来るように、乗組員及び航空要員、海兵隊員たちが待機している。


 制海任務と海兵空中任務のために、F-35B[ライトニングⅡ]が16機、搭載された状態で、空中給油のためのV-22Bと、空中任務に参加する海兵隊を搭乗させるV-22Bがある。


 艦橋内にある司令官席には、アフリカ系アメリカ人が足を組んで腰掛けている。


 彼は、ラッセル・クレイ・ライズ少将(1つ星)である。


 ライズは、190センチを超える巨人であり、顔つきを見れば、ヘビー級のプロボクサーかと思われる。


 しかし、それは見た目だけで、顔や体格に似合わず極めて温厚な人物であり、無類の猫好きである。


 そのため、彼の部屋には猫の写真が飾られているし、ベッドには猫の枕と、ぬいぐるみが置いてあるらしい・・・


「提督」


「・・・・・・」


「提督・・・?」


 副官が、声をかけるが返事がない・・・耳を澄ませると・・・


 スースーという、寝息が聞こえる。


「・・・・・・」


 居眠り中である。


「また・・・ですか・・・」


 ライズは、基本的には部下に任せて、自分は居眠りに付く事が多い。


 訓練の時も、基本的には眠っている。


「まあ、提督が寝ているという事は平和の証拠か・・・何も起きない、という事であろう」


 副官や艦橋要員の水兵、兵曹、士官たちは馴れているから、誰も突っ込まない・・・


 しかし、1人だけピリピリしている人物がいる。


「キャプテン・カワニシ。気分が優れませんか・・・?」


 艦長の大佐が、声をかける。


 第7遠征打撃群と共に展開する、海上自衛隊の護衛艦や潜水艦等の指揮を行うために、乗艦している河西(かわにし)(ぎん)(せい)1等海佐だ。


「いや・・・同盟国でも無ければ、友好国でも無い他国とも言うべき国を前にして、このような緩み切った空気でいいのか・・・と、思ってな」


「ああ」


 艦長は、人のいい笑みを浮かべる。


「キャプテンは、海外派遣の経験がないのでしたね・・・」


「それが何か・・・?」


「張り詰めた空気だからこそ、緩い空気がいいのです。将校まで張り詰めた空気では、いざ実戦ともなれば、水兵や兵曹たちは役に立ちません。指揮をするのは我々(将校)ですが、実際に操艦や戦闘を行うのは彼らです」


「・・・・・・」


 河西は、納得していない表情をしているが、反論はしない。


 経験者は語る・・・そう言う事で、納得しているのだろう。


 艦長は、心中でため息をついた。


(まったく、自衛隊も正しい人選をしない・・・このような人物が指揮官だったら、下の者が、動けない)


 寝息を立てているライズも、単に居眠りをしている訳では無い・・・


(何も報告が上がって来ないという事は、何も非常事態が起きていない、という事か・・・)


 彼としては、臨戦態勢の命令を下した事に、後悔している。


 タイムスリップが完了したと同時に、帝国海軍の警備部隊が自分たちを包囲すると見ていたが、そのような事態が発生していない・・・


 軍令部、聯合艦隊司令部からの命令が出ているのだろうが・・・他国の軍艦・・・それも臨戦態勢下の艦隊なら、嫌でも警戒態勢を維持するだろう・・・





 大日本帝国海軍横須賀鎮守府では、ライズの予想通りの事態が発生していた。


「未来とは言え・・・アメリカだぞ」


 鎮守府の参謀が、声を上げる。


「艦隊の中には、海軍旗を掲げた日本艦もあった」


「未来では日本海軍は、アメリカ海軍の金魚の糞と言うではないか!いくら、未来の日本人がいるとは言え!信じられるか!」


「とりあえず、横須賀航空隊と横須賀警備戦隊に、出動命令を出すべきです!」


「伏見宮総長と山本長官の指示とはいえ、何もしなかった状態で、もしも何かあれば、我々の責任は重大だ!」


「陸軍は、沿岸部に砲兵部隊と高射部隊を展開している。それに航空隊の戦闘機は出動待機命令が出ている」


 参謀たちは、さまざまな意見を出す。


 コンコンと、作戦室のドアがノックされた。


「会議中だ!何だ!?」


 参謀の1人が、怒鳴る。


「そのような議論では、明日になるぞ」


 作戦室に、1人の男が入って来た。


「ちょ、長官!?」


 作戦室に入ったのは、横須賀鎮守府司令長官の塩沢(しおざわ)幸一(こういち)中将である。


 彼は、参謀たちの会議には出席せず、自由な意見を主張出来る環境を与えた。


 しかし、結果はこの様である。


「少しは、頭を冷やせ」


 塩沢は、手を叩いた。


 水兵たちが、プラスチック製コップに入ったコーヒーを運んで来た。


「アイスコーヒーですか・・・?」


「そうだ。それも未来の日本人から提供された物だ」


「「「・・・・・・」」」


「これが、なかなか美味いぞ」


 塩沢は、ストローに口をつけて飲み始める。

 

「うむ。美味い」


 司令長官が飲んだため、参謀たちもアイスコーヒーに口をつける。


「これは・・・」


「実に美味だ」


 参謀たちが、口々につぶやく。


 熱を帯びた会議の場は、冷たいコーヒーで一息つく事で、落ち着きを取り戻した。


「さあ、会議を再開しよう」


「長官、1つお聞きしたのですか?」


「何だ?」


「長官は、どのように考えていますか?彼らは敵か味方か?そもそも味方であれば、同族に銃を向けるような者たちは、信用出来ません!」


「ふむ・・・」


 塩沢は、会議机に置かれていた緑茶を飲む。


「諸君等は、敵か味方か、そういう物差しでしか、物事を考えられないのか?」


「「「は?」」」


 参謀たちが、首を傾げる。


「では、こう考えよう・・・もしも、時間跳躍が彼らではなく、自分たちだったとしたら、どうした・・・?」


「「「・・・・・・」」」


 参謀たちが、言葉を失った。


「それが答だ。私たちも彼らと同じ事を考える。そして、出来る事なら世界を巻き込んで・・・な」


 塩沢は、緑茶の入った湯呑みを置く。


「ですが・・・だとしたら、彼らの考えている事は、恐ろしい限りではありませんか・・・?」


 参謀の1人が、つぶやく。


「そうだ。問題なのは我々の立場だ」


「「「?」」」


「例えを出そう。スペイン帝国と、アメリカ先住民の遭遇だ。彼らはどうなった・・・?」


「では、我々は勝者の側につき、自分たちの生存権を確保する・・・と?」


「そういう事だ」


 参謀の言葉に、塩沢が頷いた。


 しかし、参謀たちの表情は、不安に満ちていた。


「では、彼らと顔を合わせよう」


「「「は?」」」


「私と何人かが随行員として、彼らの艦に乗り込み、彼らの人となりを理解する」


 塩沢の提案に、しばらくの間、沈黙が続く。

 インドパシフィック合同軍編 第2章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は6月22日を予定しています。

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