インドパシフィック合同軍編 終章 2 優しい嘘 後編
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
桐生が、養父の祖母の元を訪れて、随分と時間が過ぎた。
太陽は、西に傾いている。
「随分と、長居をしてしまいました。そろそろ、お暇をさせていただきます。今日は、大奥様・・・いえ、高祖伯母様にお会い出来て、とても嬉しく思います」
「まぁ。高祖伯母だなんて、他人行儀な。おばあさんで良いのよ。弟の玄孫なら、私にとっても貴女は、孫のようなものなのだから・・・」
かつての旗本の息女であった老婦人は「ホホホ・・・」と、上品に笑いながら告げる。
「はい。お祖母様」
「また、いつでもいらして下さいね。とても、楽しいお話を聞かせてもらえて、嬉しかったですよ・・・そうそう。この屋敷の一角に、お社があるのは、ご存じかしら?江戸幕府の初期の頃に存命していらした、桐生家四代目の当主様の愛刀が祀られているの」
「・・・はい。聞いた事があります」
実はそれ、自分です・・・とは言えない。
「弟は、四代目当主様を、とても尊敬していたの。四代目当主様の事が記された書を、諳んじられるくらい読み込んでいた事が、昨日のように思えます」
(・・・それは、ちょっと・・・出来れば、記憶から消去して欲しい)
老婦人の言う書とは・・・
恐らく、桐生の弟である、五代目当主が書き記した、『俺の兄ちゃんは、超スゲー!』という、トンデモナイ書・・・というか、小説のようなもの事だろう。
冒頭の数行を読んだだけで、赤面して数分間程、撃沈するような破壊力がある、妄想小説である。
さすがに、そんな事は言えないが・・・
「もし、よろしければ社に、お参りして下さいね。貴女と、出会わせてくれたのも、きっと四代目当主様の、お導きがあってこそだと思います」
「・・・お参りさせていただきます」
色々と、言えない事が多すぎる。
あくまでも桐生は、この老婦人の弟に当たる人物の玄孫。
それを演じなければならない。
「こちらでございます」
東鬼に案内されて、桐生は社へ向かった。
広い敷地の片隅に、ポツンと建つ社は周囲の景色に不釣り合いであり、違和感が全開で仕事をしている。
東鬼は、社の扉に掛かっている南京錠に鍵を差し込み、ぐるりと回す。
ガチャリ!
重い音を立てて、錠が外れる音が響く。
「四代目当主様の、愛刀にございます」
社の中には、御神体は無く、一振りの白木の拵えの刀のみが、刀掛けに掛けられていた。
「・・・・・・」
「どうぞ、お持ち下さりませ。桐生様・・・いえ、朱里様」
「何故、わかった?」
桐生の名では無く、四代目当主である、『桐生朱里丞明美』の通名を口にする東鬼に、桐生は問いかけた。
「私の先祖は、貴女様に嘗て、お仕えしていた者でございまする。貴女様の、お父君より、『この国に危機が迫る時、必ずや朱里が、この刀を取りに参る』との、お言葉を賜っておりました。その言葉を心に刻み、桐生家代々の当主様に、お仕えしておりました。私の代で、それが叶い、光栄の至りでございます」
東鬼は、深々と頭を下げる。
「左様か、お主は伝之助の子孫であったのか・・・」
「はい」
「・・・しかして、高祖伯母上は・・・?」
「大奥様も、薄々お気付きになられていらっしゃいます。貴女様に、この刀をお渡しするようにと、申し付かっておりまする」
「左様か・・・なれば、遠慮なくお借りするでござると、伝えて願いたもうぞ」
「心得ましてございまする」
「桐生様。迎えの方が、お待ちでございます」
「へっ?迎え?」
この邸宅を訪れる際は、未来の車では目立ち過ぎるため、宮内庁が手配してくれた、この時代の公用車に乗って来たのだが・・・
「げっ!!?」
門の側に駐車している、白塗りの国産車には見覚えがある。
「何で、お兄様がここに・・・?」
運転席から、こちらを見ているのは、日本共和区統合省保安局陽炎団警察団長である本庄慈警視監である。
そして、その表情は明らかに怒っている。
多分、桐生が宮城(皇居)に不法侵入した事がバレたのだ。
「これって、お説教1時間コース?」
この上ない、大ピンチである。
インドパシフィック合同軍編 終章2をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。




