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インドパシフィック合同軍編 第7章 栗林の慰霊

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 大日本帝国陸軍航空隊に所属する一〇〇式輸送機が、硫黄島基地上空に接近していた。


 輸送機には、大日本帝国陸軍第一騎兵旅団長である、栗林(くりばやし)忠道(ただみち)少将が搭乗していた。


 一〇〇式輸送機は、自衛隊硫黄島航空基地に着陸した。


「閣下。着きました」


 副官の中尉の言葉に、栗林が目を開けた。


「では、降りよう」


 栗林は、立ち上がった。


 一〇〇式輸送機のタラップを降りて、硫黄島に足を着けた。


 上空では、歓迎飛行のために幽霊総隊空軍のブルーインパルスに所属する飛行編隊が、展開していた。


「素晴らしい操縦技術だ」


 栗林たち陸軍軍人の観戦武官たちの出迎えとして、菊水総隊陸上自衛隊副司令官である(ほし)(がき)いさめ陸将が栗林の前に立った。


「お待ちしておりました。栗林少将閣下」


「星柿中将閣下。中将閣下自らによる、お出迎え感謝します」


 栗林が、挙手の敬礼をする。


 星柿が、答礼する。


「海軍の方々も上陸しましたか?」


「はい、軍令部総長及び聯合艦隊司令長官以下幕僚たちは30分前に上陸し、慰霊碑に挨拶に向かいました」


「では、私たちも向かいましょう・・・自分も祀られている慰霊碑に挨拶に向かうのは、何やら、おかしな感じがしますが・・・」


「そうでしょうね・・・」


 星柿が、苦笑する。


「では、車を用意します」


「いえ、歩きましょう。運動のために」


「わかりました」


 栗林と星柿及びそれぞれの随行員たちが、歩き始める。


「中将閣下。アメリカの映画監督が描いた。日米双方の視点から見た硫黄島の戦いについての映画を観ました」


「そうですか、あの映画は名作ですからね」


「それで思ったのですが、私を演じた俳優は、とても素晴らしい方です。幽霊総隊陸海空軍の将兵たちは、その俳優の印象が強いのでは無いか・・・実物の私を見たら、がっかりするのでは無いか・・・?と、心配しています」


 何の心配しているんだ?・・・と星柿は思ったが、ぐっと堪えた。


[いずも]の乗組員たちが、観戦武官として乗艦していた山口多聞少将のイメージが、映画の俳優と違っていた事を噂していた事が、山口の耳に直接届いた・・・という話は知っている。


 山口自身は笑って流したが、彼の随行員たちは流せなかったらしく、クレームとは言えないまでも、苦情が寄せられたそうだ。


 まあ、確かに本物の山口多聞を目にした事で、浮かれてしまったというのは理解出来るが、失礼な話ではある。


「そうはならないと思います。あの映画も古いので、自衛官の中では上級幹部若しくは上級曹クラスです。今の下級幹部や下級曹及び士たちは、その映画自体、観ていない者が多いでしょう」


「そうですか・・・確かに、私にその映画のフィルムを提供してくれた陸軍の婦人将校は、少佐でした・・・な」


「ええ。彼女は、戦史研究の部署に配属されてから、部下からさまざまな戦争映画を観せられたそうです」


「明日から、私たちに対する歓迎祭が開催されると聞きました。どのような手順が用意されているのですか・・・?」


「硫黄島の戦いについての資料館と、硫黄島の戦いを経験した日米の元兵士たちによる体験談発表です」


「それは楽しみです。先日、沖縄に駐留する在日アメリカ空軍による親睦祭が開催されました。そこでは沖縄地上戦についての資料館がありました。陸軍部の中には、それを快く思わない者もいましたが、私は、貴重な体験が出来た・・・と、思います。君たちの世界で・・・遊びの・・・何だ・・・」


「VRゲームですか・・・?」


「そうだ。それだ。それを体験させてもらったが・・・日本軍視点では無く、アメリカ軍視点には不満があったが、貴重な体験をさせてもらったよ」


 家庭用ゲームであるVRゲームのソフトには、太平洋戦争やヨーロッパ戦線の戦いがリアルに表現されている。





 硫黄島の戦いで戦没者たちの慰霊碑は、硫黄島北部の天山に設置されている。


 栗林以下随行員たちが慰霊碑前に到着すると、1人の老人と、その老人を補助する若い男性がいた。


「おじいちゃん。陸軍の方々がお越しですよ」


「・・・・・・」


 孫なのか、若い男性が老人に囁く。


 老人が、振り返った。


「・・・・!?」


 老人は、栗林の顔を見ると、目を見開いた。


 かなりの高齢と思われる老人は、危ない足取りで、姿勢を正した。


 慌てて、若い男性だけでは無く、栗林たちも補助しようとする。


「80年ぶりです。栗林閣下」


 その老人は、挙手の敬礼をする。


 栗林も、答礼する。


「閣下は80年前と、まったくお変わりない・・・それも当然ですかね。ここは80年前の時代・・・」


「貴方は・・・?」


「自分は、当時は一介の上等兵で、硫黄島の戦いに参加しました」


「そうですか・・・あの激戦で、生き残った方ですか?」


「そうです。自分は、栗林中将閣下の従卒の1人として、閣下の側におりました」


「そうですか。それは、ご苦労様です」


 栗林は、老人の肩を叩く。


「閣下」


「何ですか?」


「あの日のお礼を、ずっと申し上げたかった」


「あの日?」


「硫黄島に米軍が上陸し、攻勢を続けて島の8割程を占拠した後・・・閣下は、私に言いました。我々は最後の突撃を実行する。だが、君はまだ若い。この戦いで死んではならない。警備の目は私が誤魔化す。だから、君は米軍に投降しろ。と、おっしゃいました。私は、その指示に従って、米軍に投降しました。お蔭様で、私は生き残る事が出来ました・・・ありがとうございます」


「そうですか・・・よく生き残ってくれました」


 栗林は、頭を下げる。


「戦後、貴方を悪く言う輩が何人もいましたが、私が、後世に伝えました。硫黄島の戦いで、栗林中将以下日本軍守備隊が抵抗したから、今の日本があるのだと・・・栗林中将閣下は、日本の未来を守ったと」


「それは、ご苦労様でした。敗戦という屈辱もあったのに、私の責任にはせず、私のために戦って下さり、ありがとうございます」


 栗林は、再び頭を下げた。


「私も慰霊碑にいる戦友たちも、栗林閣下が訪問して下さり、とても喜んでおります。閣下は、私たちの誇りです」


 老人は、深々と頭を下げた。


「閣下。ご覧ください」


 老人は、指を指した。


「あそこの海岸線に米軍の上陸部隊が上陸したのです。海上からは戦艦や重巡洋艦が艦砲射撃していました。ここに来ると、あの日の事を思い出します」


「今の私は、硫黄島の戦いを経験しておりません。あくまでも記録だけを見ただけです」


「閣下は、米軍の空襲が来ようが、海上からの艦砲射撃が来ようが、落ち着いていました。1日でも長く、米軍に消耗を与えようと奮闘しました。私は側でお仕えし、閣下の奮戦を近くで見ていました」


「・・・・・・」


 栗林は、黙って老人の話を聞く。


「米軍が上陸した時も、冷静に判断され、三方向から砲撃と銃撃を、米軍上陸部隊に浴びせました。摺鉢山に米軍が殺到した時も閣下は、『やはりな』と、つぶやき、米軍に消耗を与える戦術を取りました」


 老人は、涙を流した。


「硫黄島の戦いは、米軍に多大な犠牲と消耗を与えました。そのおかげで米軍の本土上陸を躊躇わせたことになります。閣下、ありがとうございます」


 老人は、再び頭を下げた。





 慰霊碑に挨拶し、老人と別れた栗林は、陸上自衛隊硫黄島駐屯地に移動した。


 硫黄島駐屯地に設置されている来客用宿舎に入ると、栗林は高級幹部であるため、個室が与えられた。


 個室には、ベッドが1つと冷蔵庫、テレビ等が置かれている。


 栗林は荷物を整理すると、部屋を出た。


 宿舎の外を出ると、硫黄島駐屯地を拠点とする硫黄島警備隊や1個歩兵聯隊(普通科連隊戦闘団)が、完全装備で忙しく行動している。


「敵情偵察ですか・・・?」


 傍らから、声をかけられた。


「星柿中将。こんな所で何をしているのですか・・・?」


「いえ、私も暇でしてね・・・ほとんどの準備は硫黄島駐屯地業務隊が主体となって行っていますから、私のやる事が無いのです」


「そうですか・・・」


「どうですか、敵情偵察という事で、装備等を見学しますか?」


「お願いします」


 明日から開催される、装備品展示区に移動した。


「こちらは、陸上自衛隊の拳銃及び自動小銃です」


「貴方方の技術には驚かさられますが・・・拳銃というのは、あまり変わらないのですね。ほとんど進歩していないように思われます」


「そうですね・・・誘導弾等のミサイルは驚かれますが・・・戦車や装甲車等は、あまり驚かれませんね」


「10式戦車や90式戦車を拝見しましたが、電子機器には驚くものですが、戦車の車体、砲塔等は、ドイツ軍戦車に類する・・・どの国もよく似た形状をしています」


「ですが、日本の戦車技術は世界最高峰です。90式戦車も第3世代戦車の中では世界最強の存在でした。10式戦車も第4世代戦車の中では極めて高性能です」


 2人は戦車について解説しているが、硫黄島展示区では、61式戦車、74式戦車、90式戦車、10式戦車という順で展示されている。


「あれ?星柿陸将じゃないですか・・・?」


 10式戦車の車長席から顔を出したのは、芝茉莉(しばまり)()1等陸尉だった。


「芝1尉。戦車の点検か?」


「いえいえ。単なる癖ですよ。戦車の中にいないと、落ち着かないのです」


 芝が、10式戦車から降りる。


「芝茉莉花1等陸尉です。お初にお目にかかります、栗林少将閣下」


「うむ。よろしく」


 栗林が、挙手の敬礼をする。


「あっ!そうでした。栗林閣下。もしよろしければサインを下さい。私の率いる中隊傘下の小隊長が閣下のファンでして、是非、サインが欲しいと言っていました」


「そ、そうか・・・」


 栗林がサインペンと色紙を受け取り、サインする。


「何やら有名人のようだな・・・」


「有名人ですよ。閣下は。硫黄島の戦いで、敗北しか見えていない状況下でも部下たちの士気を高めて、アメリカ軍に一泡も二泡も吹かせたんですから・・・」


「はっはっはっ、栗林忠道という人物は、どのような人物なのだろうかな?」


 栗林は、自分の事であるが、他人のようにつぶやいた。


「それで、1尉。10式戦車の状況は・・・?」


 星柿が、聞く。


「万全です!あ~あ、第7機甲師団が羨ましいな・・・満州に派遣されるのだから・・・」


「彼らには、彼らなりの苦労がある」


 第7機甲師団は、第6機動師団、第12機動旅団、第5機動旅団と共に、満州に派遣される事になった。


 満州は、油田とセットで、中国国民党に返還される事になったのだが、満州国に駐屯している関東軍の一部が離反をするなど、全軍の中でも不満を持つ者が多いという状況だ。


 その対応という事で、派遣されるのだ。





 昼食の時間となり、栗林と星柿は、食堂に向かった。


「ほぅ~今日の昼食は・・・」


 星柿が、メニューを見る。


 陸上・海上・航空自衛隊の共同施設である硫黄島統合基地では食堂は共用であるため、食費に関しても他の施設よりも高い。


「そうか・・・今日は、金曜日だから金曜カレーか・・・」


「我々の時代では、土曜カレーですが・・・未来の海軍では、金曜カレーなのですね」


「ええ。そうです。土日は基本的に休日なので、カレーは金曜日に提供されます」


 星柿と栗林は、トレイに食器を乗せた。


 白米を注ぎ、スタッフからカレールーを注いでもらう。


 昼食のメニューは、鶏肉のカレーライスとサラダ、デザートにフルーツゼリーであった。


「海軍伝統料理であるカレーを継承した、未来の海軍で提供されるカレーか・・・これは楽しみだ」


 星柿と栗林は、適当の席を見つけて座った。


「いただきます」


 栗林が、手を合わせる。


「いただきます」


 星柿も、手を合わせる。


 栗林は、麦茶を飲んだ。


「史実の硫黄島では、水の確保にも苦労するのに、未来では豊富な水が確保されているな・・・」


 海上自衛隊航空部隊が運用しているC-130Rや艦艇部隊の輸送艇で、物資が空輸及び海輸されているため、1940年代の硫黄島のように物資不足になっていない。


 史実の硫黄島では、滅多に振らない雨を、今か今かと待ち続けていた。


 しかし、自衛隊では、その必要が無い。


 さらに海水を濾過し、淡水を作り出す技術も存在する。


 栗林は、カレーライスをスプーンですくい、口に運ぶ。


「うむ。さすがは、海軍のカレーだ。とても美味い」


「陸自でも、カレーが提供されていますが、これもとても美味いです」


 陸自は災害派遣出動で被災者たちにカレーを提供しているため、カレーの味には力を入れている。


 被災者の人たちからも、陸自で提供されたカレーは消防、警察、自治体で提供されているカレーよりも美味いと評判である。


「未来の陸軍では、地震等の自然災害で、出動する実績が多くあり、未来の日本国民からは人命救助の最後の砦と言われていますね」


「我々が優秀な訳ではありません。戦前、戦中・・・戦争経験をした戦後の人々が、異常事態に対して対応出来るよう骨の髄まで染み渡ったからこそ、災害発生後の対応が良いと世界から評価されているのです」


「本土空襲の際、帝国臣民は、空襲の中でも避難せず、バケツリレーで、火災現場の消火活動を行う訓練を行った。君たちの記録では阪神淡路大震災や東日本大震災でも、被災した国民は、軍、消防、警察が到着する前に火災現場での初期消火活動や被災地域での行方不明者の捜索・救助を行いました。我々が経験した関東大震災とは異なる結果を出した。しかし、これは大日本帝国が災害大国だからです。帝国臣民は過去の災害を経験し、同じ失敗を繰り返さないように、さまざまな試行錯誤を軍・官・民で研究、検討した結果です」


「そう言ってもらいますと我々も嬉しいです。我々は過去の結果から、学び、反省し、次の事態には同じ失敗を繰り返さないように努力してきました。そのため、日本は災害に強い国という国家になったのです」

 インドパシフィック合同軍編 第7章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
栗林閣下、硫黄島を訪問。 80年後での再会、感動しました。 閣下は、カレーを満喫し、陸上自衛隊の活動を称える。 満州の関東軍、離反する。どうするかね、賊徒もろとも皆殺しの方が、未来人に逆らえばこう…
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