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インドパシフィック合同軍編 第6章 半月の夜

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです

 戦艦[長門]以下第一艦隊派遣部隊が小笠原諸島沖に到着する前日の夜、硫黄島近空に接近する機影があった。


 統合任務部隊航空自衛隊航空開発実験集団飛行開発実験団飛行実験群飛行隊飛行班所属の風間(かざま)雪子(ゆきこ)空将補は、自身が操縦するF-15FX[アドバンストイーグル]の飛行席で、夜空を眺めていた。


「なかなか綺麗ですね・・・」


 同部隊所属のエースパイロットである大上(おおがみ)百合(ゆり)()1等空尉が、後席の席でつぶやく。


「そうだな・・・」


「月も綺麗ですね」


 風間が、半月を見る。


「あの時も、半月だった・・・」


「あの時とは・・・?」


「気にするな。お前たちの世代では、わからない事だ」


 風間は、笑みを浮かべた。


 風間雪子。


 彼女は航空自衛隊では、女性飛行隊長初の実戦経験のあるパイロットとして認識されている。


 2010年代。


 中国国内で国民運動活動が本格化し、当時の政権を握っていた中国共産党は、崩壊寸前だった。


 中国史の歴代の王朝が辿った末路・・・それは、共産主義をもってしても、回避する事は不可能だったようだ。


 どんなに優れた宗教であれ、思想であれ、主義であれ、それを扱うのは人間である。


 その中枢を担う人間たちが腐敗すれば、それは瞬く間に全体を腐敗させる。


 色々と欠陥はあるにせよ、国民選挙というもので、ある程度には自浄作用がある民主主義との決定的な違いがここにはある。


 軍部と政府が分裂し、軍部だけで独断専行が目立つようになった中国で、一部の中国海上民兵と航空民兵が、尖閣諸島を武力で占拠した。


 当時の日本政府は、占拠された尖閣諸島の島嶼を奪還するために陸海空自衛隊に命令による治安出動命令を発令した。


 何故、防衛出動命令が発令されなかったと言うと、与野党を問わず防衛出動命令には、反対意見が相次いだからだ。


 治安出動命令下、風間は自身が率いる飛行隊で、航空民兵が運用するジェット戦闘機と戦った。


 中国航空民兵は殲撃七型や殲撃十型を運用し、航空自衛隊航空総隊傘下の航空団が運用するF-15JやF-4EJ改と空中戦を行った。


 彼女の率いる飛行隊は南西航空方面隊第9航空団に所属していたため、中国航空民兵の戦闘機が日本の防空識別圏に侵入すると、領空侵犯処置という事で、緊急(スクラ)発進(ンブル)した。


「尖閣諸島事件ですね・・・当時の私は高校生でした。テレビのニュースでは、すべての放送局が尖閣諸島事件について放送していました」


「ああ、そうだ。当時の政権は臆病者の集まりという事であったが、紛争の回避のために沖縄本島だけでは無く、先島諸島も航空基地化し、航空団や航空隊を配備していた。そのおかげで、尖閣諸島事件を日本側が有利な条件で解決する事が出来た」


「ニュースでは、陸上自衛隊西部方面隊西部方面普通科連隊や海上自衛隊自衛艦隊特別警備隊のヘルメット搭載カメラの映像が流されていました。当時の私は国の防衛については素人でしたが、そのような映像を流したら、中国民兵にバレるのでは無いか、と思いました」


「世論の圧力だな・・・当時の自衛隊では、治安出動でもハードルの高い出動命令だった。自衛隊が戦争犯罪をするのでは無いか、そのような憶測が世論の中で飛び回っていた」


「私の小学校時代の先生は、自衛隊は人を殺すだけの暴力集団だ。そのような人たちや、その家族を自分たちと同じ人間扱いしてはならないと叫んでいました」


「阪神淡路大震災や新興宗教団体の毒ガステロで、自衛隊への風当たりが変わってきたが、そのような事を叫ぶ教員が、まだいるのだな・・・」


「結構いますよ。自衛官や警察官、刑務官たちを悪く言う小学校教師は・・・」


「刑務官は、死刑を執行するからな。差別する人間がいるのは仕方の無い事かも知れない。公開処刑が当たり前だった時代でも、死刑執行人は白眼視されていた・・・だが、だからといって、刑務官を差別するような発言なんかは、納得は出来ないがな」





 風間が操縦するF-15FXが、硫黄島自衛隊航空基地に着陸した。


 そのまま誘導員に誘導され、格納庫に入った。


 F-15FXは、航空自衛隊でも極秘中の極秘扱いの機体であるため、収容される格納庫も極めて機密性が高い格納庫である。


 航空自衛隊基地警備隊から、完全装備の航空自衛官1個分隊クラスが派遣され、格納庫周辺を警備する。


 派遣されている整備班たちも、航空自衛隊航空開発実験開発集団飛行開発実験団飛行実験群整備群所属である。


 さらに、陸上自衛隊硫黄島警備隊には、厳戒態勢が発令され、硫黄島警備隊普通科中隊は、島内を軽装甲機動車や高機動車を使って警備を実施する。


 F―15FXから降りた風間は、2人の高級幹部及び高級士官から、出迎えを受けた。


 菊水総隊航空自衛隊副司令官である吉満(よしみち)寿史(ひさし)空将と、インドパシフィック合同軍合同空軍在日アメリカ空軍第5空軍司令官のエイブラハム・アルフィー・ベイカー少将であった。


「吉満空将、ジェネラル・ベイカー。お出迎え感謝します」


 風間が、挙手の敬礼をする。


 2人の将は、答礼する。


「ミス・カザマ。これが日本国航空自衛隊のF-15後継機である、F-15の発展型か・・・?」


「そうです。F-15E[ストライクイーグル]と同様、戦闘爆撃機に分類されますが、F-15FXは多用途戦闘機として、対空、対地、対艦攻撃が可能です。F-15Eとは異なり、対地攻撃能力よりも対空攻撃能力・・・要撃能力を高めています」


「うむ。日本の空の事情に合わせた仕様に、なっているのだな」


「君の役目は重大だ」


 吉満の言葉に、風間が頷いた。


「わかっています。この機体の性能試験をパスする事と、明日に到着する第10航空団第205飛行隊のF-15J改隊に所属する、エースパイロット・高居(たかい)(なお)()1等空尉と嘉村慶彦(きむらよしひこ)1等空尉の両名に喝を入れる事」


「そうだ。あの2人は、航空自衛隊パイロットの10本の指に入るエースパイロットだ。そのため、彼らに匹敵する腕を持つパイロットを、練度向上のために引き抜くのは難しい・・・そこで、彼らの教官であった貴官に、彼ら2人の練度向上を頼みたい」


「腕が鳴ります。あの2人は、元の時代では航空戦術教導団飛行教導群教導隊飛行班に、配属されていました。その後、一般の飛行隊に戻りましたので、怠けていると思います。師匠として、弟子たちに喝を入れたいと思います」


 風間の言葉に、ベイカーは笑みを浮かべた。


「君が教官兼指揮官として、アメリカに来た時を思い出すよ・・・それに嘉村大尉と高居大尉が・・・あの時は、伍長だったな。彼らを含む10人が、後の航空自衛隊のエースパイロットとは、私も鼻が高い」


 ベイカーは、嬉しそうに話す。


 風間以下、高居と嘉村及び8人の男女のパイロット候補生たちは、アメリカ本国で、アメリカ空軍籍に在籍した状態で、マルチパイロットとして訓練を受けた。


 その時のアメリカ側の指揮官だったのが、ベイカーだった。


 因みにベイカーは、アメリカ人ではあるがアメリカ本国で産まれた訳では無い。


 アメリカ空軍の国外基地がある、沖縄出身である。


 当時の沖縄は、アメリカ統治下であった。


 彼の父親は、在日アメリカ空軍の戦闘機のパイロットだった。


 妻と共に、アメリカ統治下の沖縄に赴任していたのだった。





「どうだな、この後、軽く飲みに行かないか?」


 ベイカーが、提案する。


「ええ、いいですよ。官舎でシャワーを浴びて、着替えてから硫黄島居酒屋に顔を出します」


「そうか・・・では、先に始めている」


「君もどうかね・・・?」


 吉満が、空気の様に控えていた大上を誘った。


「いいのですか!?ゴチになります!」


「彼女は、大酒飲みですよ。空将と少将の財布の中身が、心配になります」


「そうか!なら、どんどん飲みなさい。私等を破産させてみたまえ」


 ベイカーが、上機嫌に挑発する。


「後で泣いても、知りませんよ~!」


 大上は、風間の手を取った。


「早く行きましょう!官舎で、パッパッとシャワーを浴びて、着替えて、居酒屋にレッツゴーです!」


 大上に手を引っ張られて、風間が格納庫を出た。


 吉満とベイカーも、続けて格納庫を出た。


 格納庫の出入口前には、9ミリ機関拳銃と9ミリ拳銃を装備した基地警備隊の女性隊員が立哨していた。


 彼女は2人に気付くと、挙手の敬礼をした。


 吉満とベイカーが、答礼する。


 2人も、官舎に向かった。


 自衛隊でも公務外での飲酒に対する規制があり、制服姿若しくは作業服姿では、飲酒をする事を禁じられている。


 これは、一般企業と同じく、公務終了後に社員が同僚や後輩、先輩等を誘って飲酒する事は、ハラスメントに該当するという事で、飲酒をする場合は公務終了後に自宅に帰宅し、ラフな格好で、待ち合わせをし、アルコール飲料を提供する飲食店に出向く・・・つまり、完全なプライベートでなければならない。


 警察等の機関でも同じ事であり、このような面倒な手順を踏まなければならない。


 駐機場では、陽炎団硫黄島警察駐在所の応援に派遣された硫黄島派遣警察隊を搭乗させた、陽炎団警備部航空隊に所属する固定翼機の輸送機が着陸し、警察官たちが降りてきている。


 硫黄島全域は自衛隊の敷地内であるが、一定数の民間人が居住している。


 陸海空自衛官向けの娯楽施設の運用スタッフや、そのスタッフを支援する業者、硫黄島は火山島であるため、火山活動を調査する調査官及び調査員たちがいる。


 そのため、犯罪防止及び犯罪抑止のために、硫黄島警察駐在所が設置された。


 警察官は2名態勢であり、他の駐在所とは異なり、家族で赴任する事は無い。


 何故なら硫黄島では学校等の教育施設が存在しないため、子供のいる家庭の警察官が赴任するのは問題であるからだ。


 さらに、今回、聯合艦隊第一艦隊派遣部隊と戦艦[長門]と戦艦[陸奥]に乗艦した陸海軍の観戦武官たちとの、3日間にも及ぶ歓迎式典が開かれる予定であるため、民間人たちが増員されている。


 そのため治安維持のために警察官が応援で派遣されたのだ。


 派遣された警察官は50人程度であり、警視を指揮官として2人の警部が置かれている。


 帝国陸海軍が硫黄島に上陸するため、陸軍憲兵隊の憲兵たちも陸軍航空隊が保有する固定翼機の輸送機で、硫黄島統合基地に派遣されている。


 因みに硫黄島統合基地には、統合省保安局海上保安本部硫黄島航空隊が配置されており、広大な海上の捜索救難及び海上警備を実施している。


 インドパシフィック合同軍合同海軍在日アメリカ海軍硫黄島施設及び合同沿岸警備隊在日アメリカ沿岸警備隊施設も設置されている。


 こちらも、捜索救難及び海上警備が主な任務である。





 私服に着替えた吉満とベイカーは、硫黄島統合基地内に設置されている娯楽エリアの居酒屋に顔を出した。


「大将!女将!4人ね。後の2人は、後から来るから」


「あいよ。奥の席にどうぞ」


 女将が、席に案内する。


 店内は、陸上自衛官、海上自衛官、航空自衛官たちで賑わっていた。


「何にしましょう?」


「とりあえずビールで」


「あいよ!」


 女将が冷蔵庫から瓶ビールを取り出し、ガラスコップを4つ用意する。


「女将。明日から忙しくなるな」


「ええ。そうですよ。海上・航空自衛隊で大規模な演習を行うという事で、多くの自衛官さん、帝国陸海軍人さんが島に来るから、娯楽地区はてんてこ舞いですよ」


 女将が、コップ4個と瓶ビールを置く。


 吉満とベイカーは、瓶ビールを持ち、自分のコップに注ぐ。


「では、乾杯」


「チアーズ」


 コップが重なり合い音を立てる。


「うむ。日本のビールはとても美味い。アメリカのビールとは、えらい違いだ」


「俺は、日本のビールしか飲んだ事がないから、当然だろうと思うが、日本のビールは世界に君臨するか?」


「ああ。ここまで美味いビールを安く提供するのは日本ぐらいなものだ」


「早速だが、貴官の意見を聞きたい。ハワイ攻略作戦に参加する航空団の制空戦闘機部隊に実戦的な空中戦を行わせるのは、アメリカ陸軍航空軍や海軍航空隊、海兵隊航空団を警戒してか?」


「そうだ。我々はともかく、第9航空団第205飛行隊には、実戦経験を積んでいるパイロットはいない。尖閣諸島事件、先島諸島事件で実戦を経験した日本国航空自衛隊のパイロットは、沖縄、九州地方に配置された航空団・航空隊だけだ。第205飛行隊は、若手パイロットを集めた・・・腕が確かなのは認めるが、実戦経験が無い」


「仕方ない。この計画を考えた戦史マニアの2等海尉は、当時のアメリカ軍のレシプロ戦闘機を撃墜するのに空自に実戦経験は、不要だと言い切った。帝国海軍聯合艦隊第一航空艦隊の護衛も、第1護衛隊群と海上自衛隊航空団飛行隊F-4EJ班1個班と対潜哨戒機飛行隊1個飛行班だけで、十分に艦隊を守れると叫んだ」


「第一航空艦隊だけでは無く、陸海軍上陸部隊を乗せた輸送船団の護衛や支援もある。それだけでは無理があるだろう」


「俺もそう思う・・・だが、総隊司令官は、彼に一目を置いている・・・」


「お花畑思想の総隊司令官の海将か・・・彼は、戦時下に向かない将だ」


「総隊司令官は、政治家や官僚たちへの助言をする補佐役こそが向いているのに、実戦部隊の指揮官ときた。誰が、こんな人事を行ったのか・・・?俺も疑問に思う」


 吉満とベイカーは、お通しの枝豆を食べる。


「しかし、あのお花畑思想の2等海尉だけは、目を覚まさなければ駄目だ。このまま行けば、自衛官、アメリカ軍人だけでは無く、世界各国の軍人の生命を危険に晒しかねない・・・自分の意見が通らない時は、兄の名前を出して、無理やりにでも意見を通している。悪い意味で、兄の七光りを利用している。恐らくは無自覚なのだろうが、それが周囲との軋轢を生むという事に気付かなくてはならない」


「それが出来れば苦労はしない。アメリカ軍か他の軍で、彼の目を覚ます事が出来る人材はいるか?」


「検討しよう・・・だが、すぐに答は出ない。かなり難しい人選だ」


 そう言った後、ベイカーの手が止まった。


「いや、待てよ」


「誰か、いるのか?」


「いるにはいる」


「どんな人物だ?」


「ニューワールド連合軍総司令部のスタッフである総参謀長と、同連合軍連合海軍艦隊総軍司令官を父と伯父に持つ下級の婦人将校がいた。彼女なら、可能性があるかも知れない・・・」


「では、早速準備に取り掛かろう」





 ちょうど、そのタイミングで連れである2人の女性自衛官が、暖簾を潜って店に入って来るのが見えた。


 2人の話は、そこで終わる。

 インドパシフィック合同軍編 第6章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は7月5日を予定しています。

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