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インドパシフィック合同軍編 第5章 山本の懸念

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 菊水総隊航空自衛隊第10航空団第11飛行隊に所属する岡場(おかば)(ゆう)(いち)1等空尉は、3機のF-2改を率いて、硫黄島近空に接近していた。


「下方に聯合艦隊!」


 ウィングマンである2等空尉からの報告に、岡場は視線を下ろす。


「さすがに戦艦は、デカいな・・・」


 岡場は、つぶやく。


「格好の獲物ですね」


 4機編隊の3番機に搭乗するF-2改の2等空尉が、つぶやく。


「本機が搭載するASM(空対艦誘導弾)でも戦艦は、かなり厳しいぞ。戦艦どころか重巡洋艦も、きつい。ASMで、打撃を与える事が出来るのは、軽巡洋艦クラスか駆逐艦クラスだ」


 岡場が、つぶやく。


 F-2改が搭載するASM-2(93式空対艦誘導弾)は、射程150キロメートルという射程距離を有しているが、1940年代ではGPS衛星が存在しないため、それなりに接近する必要がある。


「この時代の戦艦や重巡洋艦クラスが装備する対空砲では、音速で飛行するジェット多用途戦闘機に命中させる事は、不可能に近いです。撃たれるだけ、やられるだけです」


「戦艦[長門]と戦艦[陸奥]には、旧海軍の要人が乗り込んでいる。ブルーインパルスの連中が、歓迎飛行を行ったようだが、俺たちもやるか?」


「やりましょう!」


「異議な~し」


「まずいんじゃ・・・」


「大丈夫だ。菊水総隊航空自衛隊司令部から、旧海軍の軍人たちの、固い頭を砕け。という指示を受けている。行くぞ!」


 岡場が、操縦桿を左に倒す。


 F-2改の4機編隊が左に旋回し、そのまま高度を下げる。


「いいか、聯合艦隊には、護衛の航空戦隊が同行している。迎撃戦闘機に捕捉されるなよ!」


「そんなヘマをする奴がいたら、二度とバイパードライバーにはなれませんよ!」


 4機のF-2改は、加速する。


 聯合艦隊の上空警戒中の九六式艦上戦闘機が、F-2改を捕捉するために加速し、増槽を放棄するが、それでもF-2改の速度には敵わなかった。


 4機のF-2改は海面スレスレを飛行し、そのまま戦艦[長門]に向かった。


 ぐんぐんと視界に捕らえる戦艦[長門]が、大きくなる。


 戦艦[長門]の甲板上では、慌てる水兵たちの姿が確認出来る。


 戦艦[長門]へ衝突する、「あわや」というギリギリの距離で、急上昇した。


「やったぜ!戦艦[長門]に乗艦する旧海軍の、お偉方たちは肝を冷やしただろう」


「俺たちF-2改隊は、洋上艦への攻撃も任務の1つである。このような飛行方法も、お手の物だ!」


『そこの坊ちゃんたち』


 岡場のヘッドセットから、声がした。


「どうした、トルネード編隊長?」


『お遊びは、そこまでだ。戦艦[長門]の乗組員たちには、刺激が強すぎる。それにブルーインパルスの1件もある。第一艦隊の上空警戒、艦隊防空等を任されている第一航空戦隊の空母搭載機である艦上戦闘機のパイロットたちは、ピリピリしているぞ。若しかしたら指が滑ったという言い訳で、銃撃を受けるぞ』


 岡場が所属する、F-2改隊に所属する4機編隊の編隊長が、注意する。


「ちょっとしたサプライズだ。それに、我々の歓迎を、ありがたく受け取ってくれたさ」


『そんなもんかね・・・後で、問題になっても知らないぞ』


「さて、硫黄島航空基地に向かうか・・・燃料がまずい」


『おいおい・・・』


「クロウ編隊。寄り道はそれまでだ。これより、硫黄島航空基地に向かう。燃料に注意しろ。じゃないと、搭載する誘導弾や増槽を、投棄しなければならないからな」


 それが、一番恥ずかしい・・・





 戦艦[長門]の艦橋。


「石垣君。まもなく硫黄島近海だ」


「はい」


「君の資料では、1945年3月下旬に、アメリカ軍が硫黄島に上陸し、それ以降、硫黄島の戦いが勃発する」


「そうです」


「君たちの協定通り、硫黄島を譲渡したが、自衛隊の硫黄島防衛態勢は、貧弱のような気がする。それについて説明する事はあるか?」


「山本長官。小笠原諸島の防衛態勢は万全です。海上部隊は、小笠原諸島・父島に海上自衛隊父島分遣隊が配置され、哨戒艦、哨戒艇、ミサイル艇を配備し、多用途護衛艦や沿海護衛艦・・・さらには、旧式の汎用護衛艦を配備しています。連合軍が小笠原諸島に近付けば、間違いなく艦対艦誘導弾の餌食になります。硫黄島には、陸上自衛隊硫黄島駐屯地、海上自衛隊硫黄島航空基地、航空自衛隊硫黄島航空基地が置かれており、陸上自衛隊は、88式地対艦誘導弾を装備した第11地対艦ミサイル連隊を配置し、1個普通科連隊基幹とした普通科戦闘団を配置しています。海上自衛隊は、P-3C対潜哨戒機部隊から1個飛行班と整備班等を配置し、基地要員及び陸警隊も増員しています。航空自衛隊は、F-2改隊1個隊を配置し、制空及び要撃任務としてF-4EJ隊1個隊が配備されています。それと基地要員及び基地警備隊の要員を増員しています。アメリカ軍を含む連合軍は、上陸作戦を行う前に洋上で誘導弾による攻撃で海の藻屑になるでしょう」


「万全態勢という事か・・・史実の硫黄島の戦いでは、硫黄島守備隊は陸軍を基幹として海軍陸戦隊を含めて2万人規模がいた。それでも守る事が出来なかった。5000人程度の兵員で、連合軍からの攻勢に耐える事が出来るのか・・・?」


「それは保障します!」


 石垣が、断言した。


「右舷より!噴進機が接近中!」


 見張り員の報告が、上がる。


「何だと!?」


 宇垣が、叫ぶ。


 山本以下聯合艦隊司令部要員と戦艦[長門]の艦長以下艦橋要員が、双眼鏡を覗く。


「あれは・・・」


「F-2改です」


 黒島が接近中の機影の機種を思い出していると、統合幕僚本部航空自衛隊広報室に所属する広報官である穹井が、つぶやいた。


「F-2改は、戦闘攻撃機と聞く。対艦兵装を搭載しているのか?」


 山本が、聞く。


「はい、主翼下に93式空対艦誘導弾を4発、搭載している事を確認しました。4機ですから16発の誘導弾があります」


「ほぅ・・・つまり、戦艦[長門]、戦艦[陸奥]、戦艦[金剛]、戦艦[榛名]に、それぞれ4発ずつ対艦誘導噴進弾を撃ち込む事が出来るな・・・」


 山本が、顎を撫でる。


「このままでは、ぶつかるぞ!」


「か、回避行動!!」


 戦艦[長門]の艦橋要員である兵曹や、水兵たちが叫ぶ。


「狼狽えるな!あれは友軍機!あの飛行は、我々に対する歓迎飛行だ!慌てふためくと彼らの笑いものになるぞ!!」


 戦艦[長門]の艦橋要員である特務士官が、狼狽える水兵や兵曹たちに怒鳴った。


 そのままF-2改は、衝撃波で戦艦[長門]の艦体を揺らしながら、急上昇した。


 ビリビリという轟音が、艦橋内に響く。


「幽霊総隊空軍による歓迎は、すごいものですな・・・」


 戦艦[長門]の艦長が、つぶやく。


「まったく、馬鹿にしおって!!」


 宇垣が、顔を赤くしながら叫んだ。


「彼らが敵であれば、海の藻屑になっていたのは、我々の方でした・・・」


 航空参謀が、冷静につぶやく。





 聯合艦隊第一艦隊第一航空戦隊・空母[赤城]の艦橋で、戸塚(とづか)(みち)太郎(たろう)少将は、菊水総隊空軍に所属する戦闘攻撃機である噴進機が、旗艦・戦艦[長門]の横を急上昇した光景を双眼鏡で確認した。


「ふむ」


 戸塚は、双眼鏡を下ろす。


「昨日もそうだったが、80年後の噴進機には、我が海軍航空隊が誇る九六式艦上戦闘機では話にならないな」


「ええ。今回の噴進機の操縦技術は、昨日の噴進機の操縦技術と比べると、それに匹敵するものではありませんが、あれ程の機体で何の躊躇もなく海面スレスレで飛行し、急上昇する」


「彼らが、我々の敵にならなく良かったです」


 戸塚の幕僚たちが、つぶやく。


「彼らが我々の敵にならなくて良かったのは事実だが、彼らの敵になる連合軍は、気の毒としか言えない」


「しかし・・・本当に戦争は、三次元になったのですね・・・」


 空母[赤城]艦長の大佐が、つぶやく。


「未来人の話によれば、大日本帝国海軍は世界初の空母機動部隊運用を行い。真珠湾奇襲攻撃で、世界・・・特に米海軍に空母が海戦の主役である事を証明する。何とも皮肉な事だな・・・米海軍太平洋艦隊を壊滅させ、日米戦争を大日本帝国側に有利にしようとした事が、逆に米国を強大にしてしまった・・・」


「その結果、米国からの根強い攻勢を受けて、帝国本土への大空襲を許してしまう・・・」


「現在、陸海軍は本土の防空態勢の強化の為に高射砲や対空砲の整備、地上基地用の電探の開発・量産を行っている」


「そのために空軍の前身独立軍のための航空予備軍を陸軍省の傘下で創設中との事です」


「ああ。陸軍だけでは無く、海軍からも飛行士を引き抜いて、航空予備軍航空部隊を充実させようとしている」


「それだけでは無く、未来技術を積極的に受け入れて、噴進戦闘機の運用も視野にいれているという事です」


「第一航空戦隊も第一艦隊から引き抜かれ、新設された航空機動艦隊第一航空艦隊に編入される。司令長官も内定している」


「第一航空艦隊は、第一航空戦隊と空母[飛龍]と空母[蒼龍]で編成された第五航空戦隊で編成された空母機動部隊ですね」


 参謀からの言葉に、戸塚は振り返った。


「その頃には私は、海軍から航空予備軍に転向する。新世界連合軍が大日本帝国に売却した超正規空母の空母航空団司令官として、トラック諸島で研修を受ける事になる」


「我が帝国海軍は、未来人に匹敵する武力を保有する事になるのですね」


「そう簡単に、上手くいくものではないぞ」


 楽観的な参謀の意見に、艦長が釘を刺した。


「未来人たちが、自分たちの兵器に匹敵する兵器を提供する訳が無い。恐らく性能低下した兵器を売却するはずだ」


「旗艦[長門]から、発光信号!」


 見張り員からの報告に、艦長と戸塚は双眼鏡を構えた。


「読め!」


「はっ!聯合艦隊司令長官以下幕僚及び随行員を、貴艦に派遣する、以上です」


「旗艦[長門]に返信!了解した」


 戸塚は、双眼鏡を下ろした。


 そのまま艦橋の横の、ウィングに出た。


 そして、飛行甲板を見下ろした。


 先ほど、噴進機を追跡した九六式艦上戦闘機が着艦している。


「彼らもよくやった・・・だが、相手が悪かった」


 80年後の機体と80年前の機体では、その差は歴然だった。





 戦艦[長門]から内火艇が降ろされ、空母[赤城]に横付けされた。


 そのまま降ろされた梯子を上り、山本たちが乗艦した。


「戸塚君。早速だが、君と2人で話したい」


「わかりました。司令官室で、お話ししましょう」


「君たちは、話が終わるまで、空母[赤城]で自由にしてくれたまえ」


 山本が、宇垣以下幕僚たちに告げる。


 因みに石垣以下2人の広報官も、同行している。


「長官。まもなく昼食の時間ですが?こちらでお召し上がりになられますか?」


「いや、[長門]で食事が用意されている。話が終わったら、すぐに[長門]に戻るよ」


「そうですか・・・」


「では、行こう」


「こちらへ」


 戸塚は、山本を案内する。


 空母[赤城]の司令官室に入室すると、山本が切り出した。


「ウィスキーは、あるかね?飲まないと、やっていられない」


 下戸の山本が、アルコールを要求する事に戸塚は驚いたが、すぐに従った。


 戸塚は棚からバーボンを取り出し、2つのグラスをテーブルに置いた。


 そのままバーボンをグラスに淹れた。


「どうぞ」


「うむ」


 山本は、注がれたバーボンを少し飲む。


「長官。どのようなご用件でしょうか・・・?」


「うむ。率直に聞きたい。我が海軍は、未来人に対して武力で勝てるか・・・?」


「非常に難しい質問です。戦いの勝敗は時の運です」


「そうだ。だが、君から見た我が海軍で、未来人と戦って勝算があると思うか・・・?」


「・・・・・・」


 戸塚はバーボンを一口飲み、考えた。


「率直に申し上げれば・・・昨日と今回の未来人が運用する噴進機を見ますに、噴進機の性能はもちろんの事、それを操縦する飛行士の技術も高いです。現在、正式配備される予定の零式艦上戦闘機でも、彼らの戦闘機の足元にも及びません。戦うというのであれば、彼らの資料にあった特攻しかありません」


「やはり、そうか・・・」


 山本が頷く。


「私も彼らを観察しながら、考えていたよ。彼らと戦って勝算があるのか・・・どんなに考えても、我々の敗北しか予想出来ない」


「彼らが1隻や2隻で来ているのなら、勝算はありますが・・・大規模な軍勢で来ているとなると、話は変わります」


「米英軍は、どのような行動をとる・・・?」


「彼から提出された作戦案で、予想した場合・・・緒戦の段階は、彼の予想通りの結末になるでしょう。しかし、その後は、米英軍は対策を練って、彼らと我々に挑んで来るでしょう」


「独国と伊国の動きはどうなる?」


「彼らも考えるでしょう・・・新たな覇権勢力に屈するか、戦うか・・・と」


「彼らと我々は、最悪、世界を相手に戦争をしなければならない・・・か」


 山本は、バーボンを飲み干す。


 実際、聯合艦隊司令部、軍令部、海軍省でも米英蘭国だけでは無く、世界を相手に戦争をしなければならないと考える者はいる。


 中には、独国以上の強大な勢力を味方に出来た・・・と、喜ぶ者たちもいるが、山本は、そこまで喜ぶ事は出来ない。


 今回、彼らが自分たちに対して、彼らが保有する兵器を見せるための実弾演習を実施すると言うが・・・実際は、彼らの力にひれ伏せというメッセージである。


 資料を見る限り、彼らの力は強大である。


 それは、実弾演習で決定的になる。


 彼らについて、脅威を持つ上級士官や高級士官が増えるだろうが・・・誰も口には出さないだろう。


 インドパシフィック合同軍編 第5章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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