表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

インドパシフィック合同軍編 第4章 小笠原諸島沖へ 2 第1護衛隊群

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群直轄艦であるヘリコプター搭載護衛艦[いずも]は、麾下の第1護衛隊と第5護衛隊を率いて小笠原諸島沖に向かっていた。


 第1護衛隊は、イージス護衛艦[あかぎ]を基幹として、汎用護衛艦[しらぬい]、汎用護衛艦[むらさめ]、汎用護衛艦[いかづち]。


第5護衛隊は、イージス護衛艦[こんごう]を基幹として汎用護衛艦[あきづき]、汎用護衛艦[あけぼの]、汎用護衛艦[ありあけ]であった。


 第1護衛隊がヘリコプター搭載護衛艦[いずも]の前衛に展開し、後衛に第5護衛隊が展開する。


 最前衛にはイージス艦[あかぎ]が、再後衛にはイージス艦[こんごう]という布陣である。


 菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群・群司令の内村(うちむら)(ただ)(すけ)海将補は、ヘリ搭載護衛艦[いずも]の司令席で、海上を眺めていた。


『CICより、艦橋へ』


 ヘリ搭載護衛艦[いずも]のCIC(戦闘指揮所)から報告が上がった。


「後方より、接近中の機影は、海上自衛隊航空集団第1戦闘航空群第11航空隊第111戦闘飛行隊に所属するF-4EJの編隊です」


 CICの責任者である砲雷長が、報告する。


「内村少将。噴式戦闘機を、この目で見たい」


 ヘリ搭載護衛艦[いずも]に観戦武官として乗艦している大日本帝国海軍の山口多聞少将が、興味津々といった感じで、口を開いた。


「どうぞ」


 内村から許可を得ると、山口は艦橋横のウィングに出た。


 内村以下幹部自衛官の服装は、紺色の作業服又はデジタル迷彩服姿では無く、黒色の制服姿である。


 これは観戦武官として乗艦している帝国海軍軍人や陸軍軍人たちが制服姿であるため、自衛隊側も制服姿なのである。


 海曹及び海士たちは、青色の作業服姿である。


 山口に随行する上級士官と下級士官たちも、ウィングに出た。


「あれが、未来の海軍が運用する噴進戦闘機か・・・」


 山口が、双眼鏡で確認する。


「ですが・・・制空戦闘能力のみを有しているだけで、洋上にいる艦船への攻撃能力が、無い。海軍が運用する戦闘機としては、力不足では無いですか・・・」


 山口に同行している上級士官が、つぶやいた。


「海上自衛隊が、航空自衛隊に匹敵する要撃戦闘機を保有するのにいたるのに、かなりの苦労があったからです」


 ヘリ搭載護衛艦[いずも]の広報係士官の(まつ)()3等海尉が、眼鏡に光を反射させながら、説明を始めた。


「1970年代、海上自衛隊は敵の制空権下での洋上哨戒及び艦隊の上空援護、海自が運用する対潜水艦哨戒機の空中護衛の必要性から、航空自衛隊が運用するF-4EJを導入する計画が持ち上がりました。当時は航空自衛隊からの根強い反対と、国会では日本が強大な海軍力を保有するという事で、野党から猛烈な反対運動がありましたし、世論に流された国民によるデモ活動が頻繁に行われました。ですが、当時の与党と海上幕僚監部の高級幹部及び上級幹部たちは、専守防衛のため、であると主張し、海上自衛隊がジェット戦闘機を運用するメリットを説明しました。しかし、航空自衛隊の根強い反対は収まらず、海自はF-4EJのパイロット候補生たちをアメリカに送り、教育訓練を実施しました。そして、国会と国民の反対を押し切って、海上自衛隊がF-4EJを導入する事が出来たのです!」


「ほぅほぅ」


「空自が運用するF-4EJとは異なり、空中給油機能は外される事は無く、領空侵犯措置能力を犠牲に、要撃能力を強化しました。言わばF-4EJタイプⅡですね」


 松荷からの説明を受けて、山口は上空に展開するF-4EJを眺めた。





「まあ、海幕(海上幕僚監部)が苦労して、導入したF-4EJですが・・・肝心な時に出動出来ませんでした」


 ヘリ搭載護衛艦[いずも]の先任伍長の海曹長が、つぶやく。


「1999年3月下旬に能登半島沖で、不審船が確認されました」


「能登半島沖不審船事件だな」


 山口が、つぶやく。


 帝国陸海軍の軍人たちには、2020年代までの歴史を伝えてある。


 山口が、能登半島沖不審船事件を知っているのはそのためである。


「事件発生から初の海上警備行動が首相から命令されましたが、当時の海上警備行動は、海上自衛隊のみに適用される自衛隊の行動命令でした。そのため、対潜哨戒機が威嚇若しくは警告のための対潜爆弾を搭載し、緊急発進しました。海上自衛隊が運用するF-4EJも緊急発進するはずだったのですが、当時、空自が運用するF-4EJ改で事故が発生したため、F-4EJ及びF-4EJ改が緊急点検されていました。それと同時に海自が運用するF-4EJで、部品の一部に不備が見つかったため、防衛庁から飛行停止処分が命令されていたのです。そのため、海自が運用するF-4EJは、発進出来なかったのです」


「その結果、対潜哨戒機は、戦闘機の護衛無しで、不審船に対処しなければならなかった。当時の海上警備行動は海自のみに提要される出動命令だったため、空自の戦闘機が代わりを務める訳にはいかなかった」


 海曹長の言葉に、山口が付け加えた。


「そうなのです。そして、当時の私はイージス艦[みょうこう]の乗組員でした・・・陸自の普通科部隊にも籍を置いていた経験から、当時の航海長を指揮官とした臨時の臨検部隊の先発隊員に選ばれました。今でも覚えています。航海長から64式7.62ミリ小銃、9ミリ機関拳銃、9ミリ拳銃が並べられて、突入には、どの銃がいいか?と聞かれました」


「その時、貴官は何と答えたのだ?」


「狭い空間での銃撃戦及び格闘戦が想定されるため、自動小銃は専門的な訓練を受けていない者には邪魔になるだけです。扱い易いのは拳銃の方である。と、進言しました」


「ほぅ、当時の指揮官は、どのように判断された?」


「私の主張を素直に聞き入れ、拳銃と9ミリ機関拳銃を主力とした装備で、突入班を組織しました」


「それに当時は、防弾チョッキなんて物はありませんでしたから、週刊誌や月刊誌等の雑誌を身体に巻き付けて臨時の防弾チョッキを作ったのですね」


 松荷が、告げる。


「ええ。現代の雑誌は強度が高く、護身拳銃程度の拳銃弾なら防ぐ事も出来ますし、ナイフ等の刃物攻撃は完全に無力化出来ます」


「無いなら、あるもので対応する・・・まさに、大和魂だ」


 山口が頷く。


「ですが、その後、噴進戦闘機は、どうなったのですか?」


 上級士官が、質問する。


「その後、1機種運用では有事の際に対応出来ない時がある。という事から、2機種運用に変更されました。議論された時には空母運用計画は無かったのですが・・・議論の途中に空母運用計画が持ち上がり、空母艦載機としても運用できる多用途戦闘機が適任と判断されました」


「F-4EJも、アメリカ海軍で運用されているF-4Eを日本仕様にした戦闘機だったな・・・」





「教練、対自爆船対処措置」


 ヘリ搭載護衛艦[いずも]の艦長である1等海佐が艦長席で、訓練の開始を告げた。


「教練、対自爆船対処措置!」


「面舵20度!速力20ノット!」


「教練、対自爆船対処措置!艦載のヴァイパーを発艦させろ!」


 副長兼飛行長の2等海佐が、ヘッドセットに叫ぶ。


「CICより、艦橋!左舷前方より、不審船を多数探知!自爆船と思われる」


 砲雷長が、報告をする。


 飛行甲板上では、格納庫から上げられたAH-1Z[ヴァイパー]が2機、発艦準備を行っていた。


 近年の海自では、海賊対処行動だけでは無く、国際海域での海上警備行動が発令されており、東南アジア、中東、アフリカ等に護衛艦、航空機を派遣している(海上保安庁と共同で、海上警備を行っている)。


 海賊船だけでは無く、国連軍の軍艦を狙った自爆攻撃も度々報告されているため、[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦、[ひゅうが]型ヘリコプター搭載護衛艦の艦載機としてアメリカ海兵隊からAH-1Z[ヴァイパー]を購入し、配備した。


 主な目的としては、海上での自爆船、工作船、不審船対処のためと海上自衛隊の特殊部隊である特別警備隊(SBU)や立入検査隊の資格を有する隊員で構成された乗船隊の近接航空支援である。


 さらに対潜哨戒ヘリコプターや掃海・輸送ヘリコプター、救難ヘリコプターの空中護衛も任されている。


 管制室から管制で2機のAH-1Zが発艦し、目標海域に急行する。


 基本的には、[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦や[ひょうが]型ヘリコプター搭載護衛艦には4機のAH-1Zが搭載され、1機が出動、1機が出動待機、1機が基本整備、1機が本格的整備という態勢をとっている。


 ヘリ搭載護衛艦の飛行甲板上では、さらに慌ただしく行動されている。


 武器庫が開放され、12.7ミリ重機関銃及び7.62ミリ機関銃が排出され、銃座に設置されていく。


 さらに64式7.62ミリ小銃を持った隊員たちが、甲板上に展開する。


 ヘリ搭載護衛艦[いずも]艦内で編成されている乗船隊には、89式5.56ミリ小銃と9ミリ拳銃が渡され、特殊警備艇の前とSH-60Kの付近で待機する。


 自爆船が口頭による警告又は警告射撃で停船した場合、自爆船の脅威を無力化するためである。


「うむ。素早い動きだ」


 山口が、つぶやく。


「艦首CIWS起動!対船舶射撃モード!」


 艦首に搭載されているCIWSが起動する。


 狙撃手も配置され、対物狙撃銃を構えて自爆船に備える。


 艦内でも火災・浸水に備えて、艦内全区画が閉鎖された。


「彼らの記録では、帝国海軍は聯合艦隊が壊滅した後、特攻兵器を主力とした攻撃方法に転換しました。その中にはベニア板で作られたモーターボートで、敵の軍艦に体当たりする、というものがありました」


 山口に随行する上級士官が、つぶやく。


「発想としては悪くないが・・・あれでは、空母や戦艦に打撃を与える事は出来ない。駆逐艦等の小型艦艇に打撃を与えるのが精一杯だ」


「そうですね」


「しかし、未来では、その小型のモーターボートによる体当たりで、行動不能までのダメージを受けた事例があります」


「うむ。時代が進歩した事によって、古典的な方法に対する対応が疎かになった。我々もそうだった」


 山口が頷く。





 夕食の時間前。


 山口以下随行員たちは、観戦武官たちに与えられている士官予備室では無く、ヘリ搭載護衛艦[いずも]の科員食堂に来ていた。


 山口の強い要望により、ヘリ搭載護衛艦[いずも]に乗艦する下士官や水兵と交流するためだ。


「それで、お前たちは山口多聞少将とのツーショット写真を撮ったのか・・・?」


 科員食堂に繋がる通路から、声がする。


「ええ、歴史上の名将である山口多聞少将とのツーショットは、感激しました!」


「あぁ~自分も、ツーショット写真・・・」


「仕方ないですよ~先輩。警衛海曹たちや警務官たちが、俺たちを追い払ったんだから・・・」


「でも、山口多聞少将・・・イケメンを想像していたのに、普通のおっさんだった」


 何やら、失礼な話が聞こえる。


 山口は、苦笑するしかない。


「誰と、間違えているのでしょうか・・・?」


 上級士官の1人が、つぶやく。


「山本長官のお気に入りの中尉が持ってきた。確か・・・終戦70周年記念という事で作成された山本五十六大将の物語で、登場した私を演じた俳優と、混同しているのだろう・・・」


「あぁ~あの映画なら、私も視聴しました・・・かなりの衝撃的な内容でした・・・」


「そうだな・・・」


「まったく、失礼な話です!未来の日本人というのは、失礼な奴しかいなのか!?」


 下級士官が、叫ぶ。


 そして、科員食堂に到着した第1陣の海上自衛官たちと、山口たちが鉢合わせした。


「あ」


「やあ」


 海曹士たちを代表して、先任の海曹長が声を上げた。


「今日は、君たちと交流したいから、ここで夕食をとる事にしたよ」


 山口が、笑みを浮かべた。


「そうだ。しばらくの間、ここにいるから、写真撮影をしても良いよ」


 突然の邂逅に、海曹長たちは言葉を失う。


「そ、そうですか・・・」


 ようやく海曹長が、口を開いた。


「では、あちらに並んでください」


 女性自衛官が、誘導する。


「では並ぼう」


 山口たちが並び、その後に海曹士たちが並ぶ。





 ヘリ搭載護衛艦[いずも]の今日の夕食は、ラーメン、餃子若しくは鶏の唐揚げ、生野菜、中華スープ、デザートに杏仁豆腐である。


 ラーメンの上に乗せるトッピングには、注意書きが書かれている。


「ほぅ~これは美味そうだ」


 山口は適当な席に座ると、年齢や階級を問わず、海曹や海士たちが近くに座る。


「山口少将閣下。隣に座ってもよろしいでしょうか?」


 先ほど、自分たちを誘導した女性自衛官が、声をかける。


「もちろんいいよ。綺麗な花は歓迎だ」


「綺麗な花なんて、照れます」


「名前を聞いても、いいかな?」


「[いずも]第5分隊所属の松本(まつもと)(あや)海士長です。立入検査隊の資格も有するので乗船隊にも所属しています」


「ほぅ、第5分隊という飛行科か・・・」


「そうです。SH-60Kの整備員をしています」


「ですが・・・女が戦闘員とは・・・」


「女は、駄目なのですか・・・?」


 下級士官の言葉に、松本が聞く。


「乗船隊というのは、武装した船舶に乗船する部隊・・・極めて危険な役目では無いか。女をそんな危険に晒すなど、とても考えられない」


「この時代では、危険な仕事は男の仕事という決まりですが・・・実際は女の方が危険な仕事が向いているのです。私の姉も陸上自衛官ですが、レンジャー資格を有し第1空挺団にも所属しています」


「落下傘部隊・・・それはすごい」


 山口が、驚く。


「でも最近は、あまり連絡をくれなくて・・・とても心配しています。彼氏でも出来たのかな・・・」


 松本の言葉に、山口は笑みを浮かべる。

 インドパシフィック合同軍編 第4章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は6月28日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ