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インドパシフィック合同軍編 第2章 嘉手納基地親睦祭 2

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

「お時間になりましたので、講演を行いたいと思います」


 男子高校生が、マイクを片手に告げる。


 石垣及び山本と随行員たち、牛島とその随行員たちが席に着く。他の帝国陸海軍、自衛官、在日アメリカ軍の将兵たち等が、席に着く。


「今回の講師は、沖縄地上戦で少年兵として徴兵された、(じゃ)(はな)三郎(さぶろう)氏に、お越しいただきました。では謝花さん。お願いします」


「先ほど、ご紹介に預かりました。謝花三郎と申します。私は89歳になりますが、この当時では、9歳の少年でした。私は6人兄弟の三男でした、長男である兄は帝国陸軍兵卒として、中国に出兵しました。兄は、中国共産党軍傘下の民兵部隊による非正規戦闘で、戦死しました。民兵の1人が、民間人の振りをして兄に近付き、食べ物と水を提供した兄に、いきなりナイフを突き刺して、絶命させました。次男の兄は、戦艦[武蔵]の機関科水兵でした。レイテ沖海戦で、戦艦[武蔵]は沈没し、2番目の兄は戦艦[武蔵]と共に、沈みました。2人の姉は、沖縄戦勃発と共に、ひめゆり学徒隊に徴兵され、従軍看護婦として、沖縄地上戦を経験しました」


 謝花は、マイクを持って、軍人、自衛官たちに淡々と語りかけた。


「とても過酷な経験を、されたのですね・・・」


 司会者が、率直な感想を述べる。


「自分は、陣地構築班と伝令班に配属されましたが、自分と同じ歳の友人は、斬り込み攻撃班に配属されました。彼は、木箱の中に10キログラム黄色火薬を入れた状態で、アメリカ軍の戦車に体当たりをする班です。正直に言って、自分が選ばれなくて良かったと、思いました。伝令も命を失う可能性がありますが、それでも斬り込み攻撃班の様に、確実に命が無くなる班とは違います・・・アメリカ軍が沖縄県に上陸する前、アメリカ軍は沖縄県全域に戦闘機や爆撃機等の航空機での機銃掃射や爆弾を投下しました。私たちは陸軍の軍曹から竹槍が渡され、これで戦闘機を撃墜しろと言われました。竹槍の先端には爆薬が付けられており、ある程度の時間が経つと爆発する仕掛けになっていました。軍曹は、これを投げれば確実に悪き米軍機を撃墜出来ると言いました。しかし、子供の投げる力で米軍機が飛ぶ高度に竹槍が到達出来る訳がありません。米軍機の標的になり、機銃掃射を受けて絶命する仲間たちが大勢いました。しかし、悪夢はこれで終わりませんでした。米軍機による機銃掃射を含む空襲が終わった後、私たち少年兵たちは一列に並ばされ、軍曹から木製バットで、お尻を叩かれました。軍曹は私たちに言いました。『お前たちのせいで、米軍機の来襲を防げなかった。お前たちのせいで、貴重な軍事物資が破壊された。お前たちの命など、どうでもいい。御国のために死ぬ事が名誉なのだ!お前たちは、生き残った非国民だ!牛島中将も絶望されておられる』と・・・」


 謝花の目から、涙が溢れた。


 彼は、ハンカチで涙を拭う。


「正直に言って、私は思いました。命を軽視する御国に、どのような未来があるのだろうか・・・?このような事が罷り通る世の中等、間違っていると・・・しかし、当時の私たちは、軍曹の理不尽な暴力に耐えなくてはなりませんでした。異議なんて、一言も叫ぶ事は出来ません。このような事を命令する牛島中将は、どんな人なのか?とても恐ろしく感じました」


 謝花の言葉を、牛島は黙って聞いている。





 牛島は、未来から来た沖縄地上戦を経験した元少年兵の言葉を、黙って聞いていた。


 どのような感情になったのか、それは誰もわからない。


 それどころか本人ですら、わからなかっただろう。


 1944年に入り、トラック諸島空襲等の連合軍による太平洋方面での反攻作戦が本格化してくる中、大日本帝国陸海軍は、マリアナ諸島を絶対攻防圏での決戦を構想していた当時の補給拠点として、南西諸島の防衛態勢構築に大日本帝国陸海軍は着手した。


 1944年2月に大日本帝国陸軍は、沖縄防衛を担当する第32軍を編成し、司令官に渡辺(わたなべ)正夫(まさお)中将が任命された。


 この時の第32軍の主任務は、防衛陣地を構築するためでは無く、飛行場を建設する事であり、連合軍によるコマンド攻撃に備えた警備態勢の強化だった。


 海軍も沖縄方面根拠地隊を編成し、同地区に配置したが、指揮官である司令官は、九州と沖縄間のシーレーン防衛・警備を主任務とする第4海上護衛隊司令官が兼任した。


 これらの事からわかるように当初の沖縄防衛は、絶対攻防圏であるマリアナ諸島のための後方支援態勢の構築というのが正しい。


 もしも大本営が、この時にマリアナ諸島の防衛陣地構築と共に沖縄方面の防衛陣地構築を行っていれば、史実と同じ結果にはならなかっただろう。


 菊水総隊自衛隊統合防衛総監部は陸海空総監の監督下で、大日本帝国本土及び硫黄島、沖縄含む領土の防衛陣地構築を行っている。


 陸上自衛隊施設科部隊、海上自衛隊機動施設隊、航空自衛隊航空施設隊と日本共和区統合省国土交通局と経済産業局傘下の土木業者や彼らと契約をとった大日本帝国の土木業者が陣地構築を行っている。


 もちろん、大日本帝国陸軍建築工兵や海軍設営隊も、参加している。


 特に沖縄本島の防衛陣地構築は、未来から派遣された陸上自衛隊第15旅団等が主体となって、派遣された施設科部隊と工兵部隊を指揮下に置いて、防衛陣地構築を行っている。


 当然ながら防衛・警備部隊である沖縄本島守備隊に所属する戦闘部隊の訓練にも力を入れている。


 インドパシフィック合同軍在日アメリカ海兵隊に所属する海兵部隊を仮想敵部隊として陸上自衛隊第15旅団普通科部隊や機甲科部隊、航空科部隊と大日本帝国陸海軍で統合編成された沖縄本島守備隊に、上陸阻止や内陸部に引きずり込んで持久戦に持ち込む戦術の教育や研究を行っている。


 因みに帝国陸軍の司令官は、渡辺正夫中将である。


 山本以下随行員たちも、謝花の話を真剣に聞いていた。


 山本にとっては、自分が死んだ後の、大日本帝国の運命を知る事になった。


 山本は、1943年4月中旬にブーゲンビル島上空で米陸軍戦闘機部隊の襲撃を受けて、戦死してしまう。


 彼は、最後まで日米講和のために尽力していたが、最後まで、それが叶う事は無かった。


 山本は、大東亜戦争を経験した元水兵や元飛行士たちの話を、積極的に聞いた。


 彼が戦死後、米空母に打撃を与える有効な方法として、神風特別攻撃隊による体当たり戦法が構築され、米軍関係者に一泡も二泡も吹かす事が出来た。


 しかし、山本も牛島と同じく、どのような感情になったのか、それは誰にもわからない。


 何といっても、未来は未知数である。





 謝花の講演が終わり、石垣、山本以下随行員たちと牛島以下随行員たちが、体育館の外を出た。


「何と無礼な!」


 牛島の随行員である下級士官が、叫んだ。


「牛島閣下は、そのような人では無い!」


「まあ、そう怒るな」


 牛島は穏やかに、激昂する部下を窘める。


「彼らの1945年は、連合軍による大規模攻勢によって、皇国陸海軍を含めて大本営は追い詰められていた。私とて陸軍軍人だ。大本営や参謀本部の決定には逆らえないだろう・・・」


 沖縄地上戦で牛島が自決した後も、沖縄本島では陸海軍残存部隊と沖縄県民で構成された民兵部隊、少年兵部隊は非正規戦闘を行っていた。


 これは牛島の自決前の最後の命令が、その原因とも言われているが、牛島が出した命令は、彼の命令では無い。


 陸軍参謀本部は、本土決戦のために準備を行っていた。


 九州、四国、関東で大規模な防衛陣地の構築と、正規軍では無い非正規軍の徴兵も行っていた。


 しかし、小銃や機関銃と言った銃器は不足しており、正規軍のみに配備されていた。


 非正規軍は猟銃、家庭で保管している拳銃や旧式の小銃等で武装していた。


 しかし、これでも足りないため、竹槍が導入されていた。


 竹槍の先端に爆薬を取り付け、軽戦車や装甲車、非装甲車輛に体当たりし、それらの車両を行動不能にする体当たり戦法と、林等の森林地帯に潜み米軍の歩兵部隊が現れたと同時に突撃し、1人でも多くの米兵を仕留める突撃戦法があった。


 それらの戦法を行使するのは、女性や少年、少女たちである。


 その準備を行っている最中だったため、沖縄本島では1日でも長く戦闘が長引いてほしいという考えがあった。


 大本営は牛島に対して、沖縄本島での抵抗は1日も長く抵抗をし続けるよう指示を出した。


 牛島は陸軍軍人であり、人生を軍隊生活に捧げていた。


 そのような人物が、大本営からの命令を無視する事は出来ない。


 さらに海軍は、名誉ある講和の為に神風特別攻撃隊を常に出動させて、僅かな可能性の為に米機動部隊に対し体当たり戦法を駆使していた。


 これだけでは無く、海軍に唯一残った潜水艦部隊による潜水艦決戦思想を構築・・・回天を搭載し、米空母や米戦艦に打撃を与え、通常魚雷で、マリアナ諸島から戦略物資を運ぶ輸送船団への阻止攻撃を実施していた。


 陸軍から見捨てられたが、海軍は、沖縄本島のためでは無いが、沖縄沖に展開する米機動部隊への攻撃を実施している。


 そんな中では、牛島自身、降伏という選択肢を選ぶ事は出来ないだろう。


「ですが!兵卒の分際で、高級士官に説教するとは何様のつもりだ!!と、叫びたいです」


「兵卒でも、半世紀以上を生きた証人だ。それに、どのような言い訳をしようとも、私は沖縄を守る事は出来なかった・・・この時代でも、恐らくはそうだろう」


「そんな事は、ありません!」


 石垣が、叫んだ。


「牛島閣下。私たちがいる事をお忘れですか?同じ悲劇を繰り返さないために、私たちはここに来たのです。自衛隊の武器・兵器は、この時代に置いて、最強の武器です。連合軍が原爆を使って来ようと、そんなものは無駄な行動です!海も空も、安全は万全です」


「その通りです」


 髙野が頷いた。


「海軍は本土防衛のために、彼らから託された資料をもとに、様々な防衛計画を構築しました。同じ過ちをするはずがありません!」


「そうか・・・」


 牛島は、空を見上げた。


「代わりに、新たな過ちを犯す事になるだろうな・・・」





「牛島満中将閣下!」


 傍らから、牛島を呼ぶ声がした。


 牛島たちが、振り返る。


 声がした方向には、先ほど講演を行った謝花が立っていた。


「聞かせていただきたい事があります」


 声は冷静であるが、彼の目には怒りのようなものを感じる。


「・・・・・・」


 それに、不穏なものを感じたのか、牛島の随行員たちは庇うように、牛島の前に立つ。


「聞こう」


 片手を上げて、随行員たちを制した牛島が、彼の前に立った。


「閣下は、自決前の最後の命令で、『祖国のため最後まで奮闘せよ、生きて虜囚の辱めを受ける事無く悠久の大義に生くべし』と、言われました。私は少年兵で、部隊の上官から、そのような訓示を受けました。生き残った少年兵たちは、竹槍や即席爆雷を持って、アメリカ軍の駐屯地や宿営地・・・さらには、残存兵狩りにきた米軍部隊に肉弾攻撃を行いました。沖縄戦の勝敗は決まっていた。なのに、何故、生き残った者たちに、生き残るチャンスを与えて下さらなかったのですか!?」


 老人は、怒りの眼差しから涙を零していた。


「謝花氏。貴方の怒りや疑問はもっともだ。しかし、私たちは大和民族なのです。大和民族は誇りを持ち、最後まで戦いの勝利を願って、戦うものなのです。貴方も戦後、二度と戦争を起こさないために平和維持活動に尽力した。これも戦いなのです。貴方は、大和民族に恥じない戦いを戦中から戦後・・・そして2020年代まで戦い続けた。言葉を選ばずに言えば、戦争の事を思い出したくない、二度と関わりたく無いという事で、戦いから逃げる事も出来たのです。でも、貴方は戦いから逃げなかった。当時の私も貴方と同じなのですよ」


「・・・・・・」


 謝花は、黙って聞いている。


「大本営は、連合国との名誉ある講和の為に本土決戦の準備中でした。沖縄は、その時間稼ぎの為に捨て駒にされた・・・それは認めましょう。しかし、名誉ある講和のためです。大和民族が生き残る唯一の方法でした」


「ですが・・・」


 謝花が、口を開いた。


「名誉ある講和と言いますが、結局、日本は無条件降伏し、その後、アメリカに占領されたではありませんか?私たちの行いは無駄だった・・・」


「無駄ではありません」


 牛島が、きっぱりと言った。


「確かに大日本帝国は、無条件降伏しました。しかし、その過程で、外務省及び陸海軍省は、連合国と交渉を行っていました。表向きは無条件降伏ですが、大日本帝国側はある程度に無条件降伏のための条件を、連合国側に突き付けていました。皇統を存続させる事と大日本帝国を将来的に主権国家として認める事です。戦後を生きた貴方なら、その意味がわかるでしょう?」


「・・・・・・」


「そして、戦いを続けさせた事ですが・・・まだ、あります。私たちは貴方がたと違って、負けを経験していないのです。日清戦争でも日露戦争でも大日本帝国に勝算はありませんでした。しかし、戦争に勝利する事が出来た。私たちは負けを知らない。諦めず戦い続ければ、神風が吹くと考えていました。大東亜戦争では、我々に神風が吹く事はありませんでしたが・・・」


「・・・・・・」


 謝花は、沈黙した。


「もういいです」


 老人が、口を開いた。


「私の聞きたい事は聞けた。貴方がたは、単に過去の戦争の勝利に酔っていた・・・という訳ですね」


「まあ、そんなところです。そこは否定しません」


 謝花は、頭を下げた。





 牛島たちを見送った後、立ち尽くす謝花に近付いてくる者がいた。


「お疲れさまです」


 労いの言葉と共に、アイスコーヒーの入った紙コップが差し出される。


 謝花の視線の先には、黒いスーツ姿の少年のような容姿の女性が立っていた。


「牛島閣下に、直接思いを伝えられていかがでしたか?」


 少年のような容姿の女性は、柔らかな微笑を浮かべている。


「・・・正直、満足はしていません。ですが・・・」


「ですが・・・?」


 少年のような容姿の女性は、首を傾げる。


「自分でも、おかしいと思うのですが、妙に清々しい気持ちになっています。本当に変だと思うのですが、あの戦争で亡くなった兄たちや姉たちが報われた・・・そんな気持ちです」


「そうですか・・・では、貴方はご自分の戦後に区切りを付ける事が出来た・・・と、いう事ですか?」


「いいえ」


 謝花は、きっぱりと否定した。


「私の戦後は、まだ終わっていません。世界に恒久平和が訪れるため、そのために私は戦いを止めません。他ならぬ、牛島中将閣下が、認めて下さった事ですから。私は私の戦いを、これからも続けていくつもりです」


 老齢とは思えない、謝花の強い意思が双眸に宿っている。

 インドパシフィック合同軍編 第2章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は6月21日を予定しています。

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