インドパシフィック合同軍編 第0章 前日譚
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
インドパシフィック合同軍合同空軍施設兼ニューワールド連合軍連合空軍施設兼在日アメリカ空軍施設である横田基地。
インドパシフィック合同軍合同空軍司令官兼在日アメリカ軍司令官の、レイ・アッカ―・ブレンバ大将は、基地内に置かれている在日アメリカ軍司令部兼インドパシフィック合同軍合同空軍司令部庁舎の司令官室で、執務椅子に腰掛けていた。
「・・・・・・」
冷めたコーヒーを飲みながら、統合省防衛局自衛隊統合幕僚本部を経由して、菊水総隊自衛隊司令部から提出されたインド太平洋での大日本帝国陸海軍、菊水総隊陸海空自衛隊、インドパシフィック合同軍等の国家軍及び独立軍の作戦行動書を読んでいた。
作戦の立案者は、菊水総隊司令官付特務作戦チームに所属する、石垣達也2等海尉である。
彼とは知らない仲では無いが・・・身内と言う程では無い(石垣自身は、身内と勘違いしているだろうが・・・)。
「ヤッホー!」
司令部庁舎の司令官室で、人の気配がしたかと思うと、顔見知りである少年の様な容姿の女性が、司令官室に設置されている応接用ソファーに腰掛けて、手を振っていた。
「また、不法侵入ですか・・・女史?」
「そうなの・・・レイっち、警備態勢を強化した・・・?ちょっと、侵入には苦労したよ」
「貴女に毎回、侵入されるので、警備責任者が、警備態勢の強化に乗り出しました。配属された警備責任者は、前任者と違って、律儀な人物ですから」
ブレンバが、立ち上がった。
「今日は、何の用ですか・・・?私は、これから予定があります」
「どこに行くの~?」
「菊水総隊司令官である、アドミラル・ミキヤ・ヤマガタとの面会です」
「あぁ~・・・あの、お花畑思想の司令官ね」
「長い間、話すのでしたら、アドミラル・ヤマガタと一緒になりますが・・・?」
「い~や~で~す~」
女史は、ふざけたような口調で、拒否をする。
「馬鹿な人と会ったら、私も、おバカになっちゃうもん!」
容姿に似合う可愛らしい口調(人は、それをぶりっ子と言う)だが、なかなかに辛辣な言葉である。
ブレンバは、苦笑した。
「そのような人物と会いに行く私は、どうなるのでしょうか・・・?」
「さあ~・・・馬鹿が感染しないように、祈っておきますね。神のご加護を。グッドラック!」
甚だ、無責任な祈りである。
「では、30分程で、いいですか・・・?」
「いいよ~今日は単に、レイっちと、お話がしたかっただけだから」
「・・・・・・」
ブレンバが苦笑する。
そのような理由で、警戒が厳重なアメリカ軍施設に、侵入するとは・・・
この女史とは、彼女がハイスクールガール、自分が下級士官として横田基地に配属されていた時に初めて出会ったが・・・その頃と、まったく変わらない(色々な意味で・・・)。
「レイっち。提出された作戦案だけど、どう思う?」
「無謀な作戦です。いかに武器、兵器の性能が圧倒的でも、油断しすぎの作戦案です」
「そう言えば、レイっちは、無謀な作戦案を提出した立案者と、知り合いだよね~?」
「知り合いという程ではありません。私の息子と娘の幼馴染というだけです」
「娘さんは、その人物と結婚を約束したと、公言しているよね・・・?マジ・・・?」
「正直、困っています。彼には、娘以外にも幼馴染がおり、その幼馴染とも結婚を約束しているそうです」
「うわぁ~・・・修羅場確定・・・」
「私の妻が彼と会った事がありますが、妻の話では、あの男は、野放しにすると色々な女性に手を出すと・・・」
「へぇ~」
「まったく、娘も、何故、あのようなチャランポランの男に、恋心を抱くのか・・・」
「でも、お金持ちだよ」
「そこが、悩みの種でもあります」
「そうだよね~」
「しかし貴女も、ハーレムに対して、寛容だと聞いていますよ」
「ハーレムと言うより、一夫多妻制を推しているだけだよ。それなりに地位があって、複数の女性や子供を養育出来る経済力があって、人格的に立派な人なら、社会のために、そうすべきだと思っているから。少子化対策、少子化対策!」
無茶苦茶な理論である。
女史との話を終えたブレンバは、在日アメリカ空軍第5空軍第374空輸航空団第459輸送飛行隊所属のUH-1N[イロコイ]に搭乗した。
デジタル迷彩服姿では無く、紺色の制服姿だ。
「随分と、女史と話していましたね・・・?」
「時間潰しだ。あの女史、顔パスで基地内での行動を自由にしていると言うのに、何故、不法侵入する?」
「女史の兄上の話では、女史は警備厳重の施設への侵入に、情熱を燃やしているそうです」
「その件については承知している。同じ在日アメリカ軍施設である横須賀海軍施設では、横田程甘くない」
「そんな横須賀海軍施設でも、毎日のように不法侵入を繰り返しているようです・・・顔パスなのに」
「横須賀基地の警備責任者が、顔を青くしているのが、想像出来るな・・・頭が痛い事だ・・・」
ブレンバは、目を閉じた。
例の女史は、199X年、過去からタイムスリップして来て以来、問題行動が目立つ。
入港するアメリカ海軍の原子力空母が見たいと思い付いた時は、横須賀海軍施設や補給と休養のために立ち寄った佐世保海軍施設に不法侵入し、原子力空母を見学した他、両海軍施設に侵入し、アメリカ海軍に所属する艦船部隊の行動予定表を盗み見して、その情報を、日本の反戦・反アメリカ団体に、わざと提供している。
反戦団体と言っても・・・下っ端はともかく、幹部たちは、楽して金を稼ぎたいと考える連中であるため、余計な仕事が増え、幹部たちとそれに従う下っ端たちが国会前で、反政府活動及び反戦活動に対する労働時間を決めるようにという、一般人では理解不能なデモを行ったくらいだ。
それに対する、国会議員の答は「言論と政治活動の自由は、刑法に抵触しない限り、憲法で保障している。労働時間云々に付いては、そちらの団体内でのルールを取り決める事を推奨する。労働時間等に不服がある場合は労働基準監督所で相談してはどうか?」である。
それを受けての労働基準監督所の返答は、「一種のボランティア活動の様なデモ活動なら、デモ活動を自粛するという選択肢もあるのでは?言論、思想、政治活動の自由は憲法で保障されているのだから、自分たちでやめるという事を決める自由というのも、当然保障されている」である。
どちらも本音では、「そんな下らん事に巻き込むな、バカヤロー!」と、言いたいところだろう。
ブレンバが目を閉じていると、彼のポケットの中にある、スマホが振動した。
彼は、スマホを確認する。
息子のデリック・シンジ・ブレンバ・ジュニアだった。
「デリック。どうした?」
『父さん。ニューワールド連合軍統合軍インド太平洋軍での作戦行動についての資料を持ってきたのだけど、父さんが留守という事だったんだ』
「ああ、これから、菊水総隊司令官に面会する事になっている」
『そうなんだ。先に言えば良かったな・・・上官から親子水入らずで過ごすのもいいだろうと、という事で、半休を貰ったんだ』
「そうか・・・長い仕事では無いから、お前も指揮艦[クラマ]に来ると良い。部下に指示を出して、ヘリを準備させよう。柱島の食堂で、親子水入らずに過ごすのもいいだろう」
『そう!わかった。すぐに行く!』
「じゃあ、切るぞ。私も仕事がある」
『うん!』
父親と同じくアメリカ空軍士官学校を卒業し、空軍大尉として勤務していると言うのに、父親との応対は幼少期とあまり変わらない。
「ヘリを準備させてくれ」
「承知しました」
副官がヘッドセットから返答し、基地との直通無線機である無線機を取り出した。
「将軍のご子息が、基地に来ている。ヘリを用意して、指揮艦[クラマ]に向かわせろ」
司令部と副官が、何やら打ち合わせをした。
「ヘリの準備が整いました。ただちに、基地から[クラマ]が停泊している柱島泊地に向かいます」
「すまない」
ブレンバは、端末機を開き、再び作戦案を見直した。
彼の今回の役目は、菊水総隊自衛隊司令官である山縣幹也海将(幕僚長たる将)と面談する事だ。
山縣の階級は、アメリカ海軍では大将に相当する階級である。
柱島泊地に投錨している菊水総隊旗艦・指揮艦[くらま]の後部飛行甲板に、ブレンバが搭乗するUH-1Nが着艦した。
「捧げ銃!」
指揮艦[くらま]で編成された儀仗隊が、UH-1Nから降りるブレンバを歓迎する。
彼は、挙手の敬礼をする。
ブレンバを、菊水総隊司令官の山縣幹也海将が、出迎えた。
「お待ちしていました。ジェネラル・ブレンバ」
「アドミラル・ヤマガタ、歓迎の挨拶に感謝する」
ブレンバが、右手を差し出す。
山縣は、差し出された右手を握る。
2人は、しっかりと握手した。
カシャ!
シャッター音が響いた。
1人の青年が、一眼レフのデジタルカメラを構えて、2人を撮影する。
「彼は、息子の春司です」
山縣が、紹介した。
彼は、カメラを下げて、一礼した。
「日本共和区フリージャーナリストの山縣春司です!父がお世話になっています」
「[クラマ]に乗艦している理由は、総隊司令官・アドミラル・ヤマガタへの取材かね?」
「そうです。それと、ジェネラル・ブレンバへの取材も兼ねています」
「ほぅ。私の・・・?では、後で時間用意しよう」
「ありがとうございます」
春司が、頭を下げる。
「では、アドミラル」
「はい、こちらへどうぞ」
山縣が、先に立って案内する。
「随分と、警備が厳重ですね」
ブレンバが、指揮艦[くらま]の警備態勢を確認しながら、つぶやいた。
同盟国軍の高級士官が訪問して来るのだから、その警護のために、海上自衛隊警務隊に所属する警務官(MP)がいるのは理解出来るが、青色を基調したデジタル迷彩服姿で、迷彩服と同じ柄のヘルメットと黒色の防弾チョッキを着込んだ状態で、自動小銃や機関拳銃を武装している海上自衛官もいる。
「ここは他国ですからね・・・大日本帝国人の中には、我々に対して不信感を募らせている者も多いです。漁船等に扮して、工作員が乗り込んだ事もあります。彼らを捕らえてみますと、帝国海軍の水兵だったりしたのです」
「アメリカ軍施設に対する不法行為は、理解出来るが・・・同じ日本人に対してもかね・・・」
「菊水総隊傘下であり警察総監部の監督下である陽炎団や、その他管区警察局・・・さらに、在日米警察機構による売国奴狩りや、外国人狩りで不満や不信感が高まっています。逮捕を免れた者たちは、地下に潜ったり、反社会勢力の自治区に避難した者もいます。そんな彼らに、唆されたのでしょう」
「政府や軍部に潜り込んでいた、連合国アメリカのスパイの協力者たちを、陽炎団警備部と公安部、そしてそれらを支援するために、在日アメリカ警察機構刑事・警備局の警察官が、次々と逮捕・起訴したからね」
「はい・・・逮捕者リストを見た陸軍大臣の東条英機閣下や、天皇陛下が顔を青くしていたのが、昨日の様に思えます」
「あの時は、私も質問攻めだった」
陽炎団警備部及び公安部、管区警察局警備部公安課及び警備課の公安警察官や警備警察官たちは、アメリカのスパイの協力者たちである陸海軍や政府、宮城の高官たちを逮捕した(因みにアメリカのスパイに関しては、在日アメリカ警察機構や在日アメリカ連邦捜査支部の警察官や捜査官たちが逮捕、起訴した)。
逮捕者リストの中には、東条英機の腹心の部下や、天皇陛下が信頼する側近等もいた。
彼らはその事実に驚愕し、絶望した。
アメリカ打倒と主張していた者たちが、実はアメリカのスパイで、大日本帝国を敗戦に導く者たちだったのだから・・・
指揮艦[くらま]の司令官室に案内されたブレンバは、応接用のソファーを勧められた。
「失礼する」
ブレンバが、腰掛ける。
山縣も、ソファーに腰掛けた。
時間を置かず、司令官室のドアがノックされた。
「司令官室係、入ります!」
指揮艦[くらま]の海士が、部屋に入室する。
司令官室係の海士が、コーヒーを置く。
ブレンバは、砂糖とミルクを淹れると一口飲んだ。
山縣も、コーヒーに口をつける。
「部隊行動内容は、見てもらえましたか・・・?」
「作戦内容は、拝見した」
ブレンバが、コーヒーカップを置く。
「いささか、無謀な作戦案に見えるが・・・」
「あくまでも作戦案は、部隊行動の基本となるものです。それを実際の作戦行動にどう落とし込み運用していくか、それに必要な装備は何か、それを決めるのは各幕僚たちの任務です」
「作戦立案者は、アドミラル・ヤマガタの娘と仲がいいと聞いている。娘からの情報か?」
「娘は、立案者について高い評価をしています。私自身も、彼と面会し、第2次世界大戦時、インド太平洋戦域にどのように自衛隊を展開すればいいか、彼と議論しました。なかなかいいと、私は思っています」
山縣からの評価を聞き、ブレンバは、心中で、「マジか?」と思った。
ブレンバ自身、作戦立案者が提出したインド太平洋戦域での自衛隊、大日本帝国陸海軍及びその他の独立軍との共同作戦行動案について、何度も確認した。
彼の作戦案は、史実を元にした作戦行動案であり、アメリカを含む連合国を甘く見ているフシがある。
すでに歴史とは異なる事が起きているため、史実通りになるとは限らない。
すでに、アメリカ合衆国で、活動を実施している諜報機関からの情報では、アメリカ合衆国首都ワシトンDCで、軍民一体となって、対日政策に対する見直しが行われているそうだ。
フィリピンに駐留するアメリカ陸海軍、海兵隊の兵員を増員し、武器、兵器及び資材等も増強している。
ハワイ諸島でも、陸海軍及び海兵隊を配備し、大日本帝国とアメリカ合衆国が戦争に突入した場合、ただちにインド洋や南シナ海に増援部隊を投入できる態勢を構築している。
ハワイ攻略作戦については、アメリカ合衆国首都ワシトンDCの政府、軍部の高官たちも予想していないようだが・・・それを警告している者たちもいる。
数時間前に、会話をした不法侵入者が、山縣の事を毛嫌いするような言動を見せていたが、何となく理由はわかる。
日本人の中で、戦争が持つ本当の恐ろしさを、身を持って理解しているのは、戦前戦中を生きた日本人を除けば、彼女しかいない。
だからこそ、彼女は山縣を嫌っているのだろう。
「作戦立案者は、聯合艦隊司令長官、山本五十六大将の下に出向き、観戦武官兼連絡官として、聯合艦隊の再編に助言をしています」
「聯合艦隊第一航空艦隊を、編成中だな・・・史実と異なり、正規空母6隻では無く、正規空母4隻、艦隊防空と艦隊哨戒のための護衛空母として空母1隻を配備しているのみだ。私は空軍だ。海軍の事はわからない。だが、いくら我々がいるとは言え、史実よりも規模を縮小するのは間違いだ」
「その点に関しましては、同時進行で行われる南方作戦に備えています。南方地方でもイギリス軍、オランダ軍、自由フランス軍が、規模を拡大しています。このための航空戦力が必要だと、大日本帝国海軍軍令部が決定しました」
「どうやら、我々は完全には信用されていないという事か・・・それも当然か・・・」
ブレンバは目を閉じた。
インドパシフィック合同軍編 第0章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は6月14日を予定しています。