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スーパーアンドレアフロボの日常。

作者: 福水 鏡大

この田舎街ラミドには、アンドレアフというどこか変なまでにさらさらとした山吹髪の貧乳女性型ロボットがいて、技師のセシルとその両親の家に住んでいた。

暑苦しい太陽光線で光沢の出来た木製の波止場で潮風に安心してあたっていたアンドレアフは、そろそろかと、その手前左側縁で視界に入るぴかぴか昭昭とした海面に無感動を抱きながら、ぶらぶらとさせていた両脚を上げると臀部を両手で払った。港湾の反対側にある、鈍色をした街の出入り口付近の、華麗に水芸をする鳥の子色の噴水に背を向けると、全く窮屈にも痛くも、痺れもしない下半身を完全に正座の形にして、灰褐色の敷き煉瓦に座った。

仕事や学業から帰宅して少し休憩してから寄り集まった老幼男女は、夕焼けに着衣を炒られながら、百六十二センチの端座した、黄金色の前髪の何本かが目にかかった、頭頂が照柿色に染まったアンドレアフの周囲の、四隅に出入り口の穴の空いた噴水観賞用の灰茶色の五段の段々を、ほぼ埋め尽くして座り込んで、ぱらぽらお喋りしながら、毎度の如く案外静々と、腰と膝の角度を直角にして、三々五々脚をぶらぶらさせていた。

 握った左手を薄い唇の前に持ってくると、目にかかった金髪の奥から冷静に観衆を見据えて、瞼を下すと、

「ごほん、そろそろ始めますよ」

 白の髪留めゴムで清楚に、うなじのほんの少し上で緑の黒髪を一つ結びにした、初等四年生が、四方の西側の段々の、下から四番目、右端から三番目で、そのままの姿勢で、「わー、アンドレアフちゃんのものまね楽しみー」と朗々と言った。風が吹いて、膝を四分隠すルリマツリの花によく似た薄い瑠璃色のスカートの裾をぱたぱたと動かすと、太腿の中頃に乗せていた両手でその位置を抑えた。襟に一体型のりぼんのある、以水滅火な薄浅葱色の三分袖ブラウスの二部分から外に出た、冬の寒々しい枯れ木のような生白い腕の、右の方の、至極健康な薄いピンク色の五枚の爪が生えた、四年平均の十四センチほどの、紅葉の葉より遙かに大きな右手で、右横から必死に顔を煽ると、その間だけ、ほんの少しだけ涼しかった。街に一校の初等学校の四年全六人で、連綿と受け継がれてきた、幽霊の取り憑いていそうな、元始的な木机と、同様な木椅子を六脚寄せ集め、横長の長方形を形成し、合掌して一様に暗黒に年甲斐もなくむっつりと父母兄姉が調理した弁当をカトラリーで口に運びながら。ぽつんと薄明りで周囲三ミリだけ無意味に仄かに加温しながら、それらの頭上に曇り空で、森閑としているときくらいにだけ上着を盛り上げた、最近膨らんできた乳房の赤子のような二個の乳頭の衣服との接触からの普段の妙な風味を感じながら、右顔を煽った手を戻さずに、そのまま後ろに遣った。特に幼子にちらほらと窺える数か所に分かれて異常に纏まっている前髪に続く頭髪の、純白のヘアゴムの向こうを、何気なしに触っていると、年嵩の幼女が、その背後から、顔を見せずに右側から身を乗り出してきた。間近の濡羽色と同色のミディアムヘアの、強かうねった髪先の、双肩にふわりと大量に鎮座するのを、片方だけ左手で押さえると、若干の間に示指を桜唇に立てた、そこに日方が後ろから当たって、茹だるような猛暑と人いきれに火吹き棒で火種に息吹を吹きかけるほどの効果があった。日本円で、三千三百九十円で帽子専門店で買った、乳白色の、子供用鍔広帽子の陰影に感謝しながら、邪魔にならないようにそっと、傍にしか聞こえないくらいに、

「こら、しーだよ、しーだよ」

 と呟いてから、身体を元に戻した。

 今と同じ、青系の色を基調にした、制服のトップスとボトムスから着替えた、中央にどっしりと胡坐で座った、熊の絵が印刷された、灰色のトレーナと、、朱鷺色の外套と、ありふれたインディゴデニムパンツの、私服で、眼鏡屋で、人工的な色合いだなあ、と思い浮かべながらも、横長で角がある、標準のスクエア型の眼鏡を、謹厳でどこか寒々しい真っ黒を避けて、紅葉色のリムを精選し仙姿玉質の未来と幾分洒落た気分で試しに掛けてみると、平々七分通り憂いなく。帰宅してからの独習に精勤しすぎて衰弱した視力を、眼科でまず、専用の装置の画面に映った指標を、検眼用のごつい器具の遮蔽板の左右を入れ替えながらテストレンズから透かし見て、計測した必要度数でレンズを注文し、六日後に受け取った完成品で、アンドレアフと。中央から水を噴き出して十六方にぽちゃぽちゃと拡散させながら水芸を続ける噴水を望んで。一応の紫外線対策に黒にした帽子の、前方にしかない鍔を少し上げてから、自宅学習のときよりかは明明と、「アンドレアフちゃん、ごめんなさ~い」と児女は笑いながら両手を合わせた。

 岩に結跏趺坐したように不動で、下半身を折り畳んで低視線のまま、可憐というよりかは美少女が麦畑として管理されながら清熱薬の金風と混じり合い、山吹茶色にお洒落に眉目好く、粛然とただ揺れている如き普段の表情で、だいぶ声高に、「えっと、応援ありがとうね。楽しんでいってね」

 音声を増幅させる機能を有効にしてから、そして顔を俯けると、「これは私の家の隣の家のラミィちゃんが、学校の友達によく話している事です」と、三人の初等学生たちが、小さな公園で屋根付きの平たい木製のベンチに、一人腰掛けその前に二人で一応疲れもない様子で立ちっぱなしで、噂していたときに、同じ屋根の下のすぐ隣のベンチに座り込みながら、仕入れた情報を喋った。

 今度は誰も喋らなかった。アンドレアフは徐々に顔を上げて、ゆっくりと目を輝かせると、胸の左右で握りこぶしを作って、言った。「わたし絶対にセシルお兄ちゃんがいいの、将来はセシルお兄ちゃんと結婚するのっ」

 アンドレアフは指を開かずに両手を太腿に置いて、瞼を下ろすとまた顔を俯けて、「でした」と言った。

 観衆から、お定まりの拍手が起こった。

 西側の段々の人々と、その背後の、雑多多彩な木骨煉瓦造りの街並みの向こうの、茜色に染まるちょぼちょぼと浮かぶ雲と空を視界に入れて、今度は左の握り拳を唇の前に持ってこずに、「ごほん、次に行きます」

 観衆たちの静々と穏やかな興味に晒されて、そっとした落日に皆で炒られながら、頭頂を夕陽の方角へ向けて、「これは近所のパン屋のライズさんの話です」。

 今度はあの行き遅れの一人娘の話の筈、とおいしいパン屋という意味のこの世界の言葉に苗字をそのまま付けた店名と一生に何度も味わってみたいパンという宣伝を思い浮かべながらとか、ライズって誰、とか、口上の人物の従甥の同級生である六年男児に、ライズさんの話か、とか、その左隣の、手巾で両頬の汗雫を拭う線が細い、男児の母親に、へーライズちゃんの話ね、最近全然会ってないけど、とか思われながら、涙が溢れそうな眼で、麗色と霧に霞むこの街並みを見るような瞳で。

 内心、自宅の自室の、ものまね芸で稼いだお金で集めた、左上隅の紋切り型なベッドの、純白の枕と枕カバーの右隣りと、藍緑色の敷布団と掛け布団の左端に並んだ、ぬいぐるみたちとの会話を、偶然に回顧しながら、両手の示指と拇指で頬と口元の境界線の僅か上を摘まんで、「はー、わたしも歳を取ったわ」

 北側の段々一段目右から四番目で足を伸ばして、灰褐色の敷き煉瓦に踵を置いて、紺色のローキャップで、ショートパートビジネスショートの墨染めの頭髪を、隠した、アイボリーの夏専用テーパードパンツとクルーネックの黒Tシャツを着た、三十八歳の壮年の男性から、「へー」と、一つ声が上がった。

 アンドレアフは、首の後ろの付け根までのロブの金髪を、温風に揺らされながら、頭を下げると、

「でした」と言って、拍手の後に、次に行きますと話の準備を始めた。

 月々に一度アンドレアフは、こうして観衆から、一人百円一回四万円ほどのお金を稼いで、月々に三万円のお小遣いと合わせて、映画を見たり、一枚六十円の収集カードを玩具屋で一日十枚購入したり、この街に引っ越してくる前から、ずっと使っているレコードプレーヤーで、聴くための器楽曲をレコード屋に買いに行ったり、していた。

 波止場の近くにある、全てオフホワイトの煉瓦外壁の三階建ての自宅に帰ると、アンドレアフは土間で革靴を脱いで、出掛ける所のセシルと、「あ、セシルくん」「本屋に行ってくる」と言葉を交わすと、自室のセミシングルサイズの木製ベッドの、アクアマリン色の布団の上で、学生生活を想像して、ぬいぐるみと会話をして遊んだ。

 暫くして家長のロロコが呼びに来て、ぬいぐるみを元に戻して仰向けに寝ているアンドレアフと、一階の一室を使った整備室に向かったが、その途中で、妻のロクサーヌに「今日も頑張ってね、二人とも」と言われた。

 整備では各部の動作の良否や、外出しての、波止場での、兵器を装着した状態での上空への試射が、行われたが、「ばっちりだよっ、お疲れ様」と、解放されると「は、はい。いつもお疲れ様です」と、がくんと流れるように、お腹の上辺りまでお辞儀すると、背中の追加兵器のフェニックスと一緒に、身体と一体型の濃紺色の長袖デニムシャツを着用した、上半身を元に戻した。

 

 一か月後、いつものように、水を噴き上げる中央を、鳥の子色の子供たちの像が等間隔に囲む噴水の、その前の灰褐色の敷き煉瓦に正座して、アンドレアフがものまねをしていた。四方の東側の段々の二段目左端に腰掛けたセシルが、芝居の終わりに、誰も居なくなるとのろのろと立ち上がって、左右の手でホワイトのパンタロンのお尻の部分を払い、噴水の地を這うように低い囲いの向こうの、アンドレアフの端座してくっ付けた両膝の前の敷き煉瓦に置いた、藤編手提げ籠に、鳥の子色の囲いを徒歩で若干の急ぎ足で迂回して、焦茶色の手提げ鞄に最後の見物代の硬貨を、腰を折って投げ入れると、跪座の姿勢から立ち上がったアンドレアフを、小首を傾げて、右から覗き込んで、「お疲れ様」「はい」首の位置を戻したセシルが、「一緒に帰ろうか」「はい」

 セシルが右手の五指で、重めサラサラマッシュの後ろ髪を掻くと、「ずっと言いたかったんですけど、ロロコさんと同じで、会話が終わると、ほぼ確実に後ろ髪を触りますね」

 セシルは、困り顔にほぼ似た表情で、

「あ、うん。でも僕、母さんに似すぎていて、父さん似って言われたこと殆どないのに、な」

 指を開いた右手を口に当てて、あははとにこにこすると、

「確かに、顔はロクサーヌさんに、よく似ています」

「やっぱり。よく言われる」

 母親ロクサーヌに似た、少しだけ白人寄りの肌色の肌の、セシルのなんとなく母性すら感じる卵型の四分の女顔を、覗き込みながら、たまに家族や街人と話すときのように、平穏長閑に、

「嬉しいんですか、嬉しくないんですか」

 黒色のTシャツの胸部分を,拇指と示指と環指で摘まんで、ぱたぱたとして,暑い空気で涼むと、ぶっきらぼうではなく、

「べつに、どっちでもないよ」

 アンドレアフに、感情というものは無いに等しいが、セシルの言葉を認識すると、はいと言った。

 

 夜中の九時十六分に、ベージュ色の煉瓦造りの玩具屋の:::右端近くにある木製の低い棚の、雑踏は完全に居なくなっていた。二つの翼と二つの長筒を備えた飛行物体――追加兵器のフェニックス――と一体となったアンドレアフロボは仮の名前でスーパーアンドレアフロボと命名されていた。空を飛んだアンドレアフは避難の済んだ街を一目見ると西に向かった。背後の片方の翼に固定された、先に二つ穴の開いたモーゲルという巨大な銃型の、銀色の武器を構えると、丁度前方から真っ黒な生物が距離にしては速く飛来すると、モーゲルから二つの雷球が発射されたが、簡単に回避された。生物は明らかにドラゴンの形をしていたが、アンドレアフの瞳でないとこの闇の中では認識すら困難な筈だった。相手の動きはそれ程ではなくいつものように戦えば三十分は掛からずにぬいぐるみたちと遊んでいられる予定だった。いつものようにモーゲルと背中の追加兵器フェニックスの長筒から雷球をとにかく打ち続ける作戦で、それを掠らせると、アンドレアフの胸部奥に内蔵された主兵器を開放するとエネルギーの充填が始まった。発射まで最低約一分だが、先程の雷球が命中した相手は暫くは動けない筈だった。発明者の名前からルーニー砲と名付けられた主兵装は、即座に再生を繰り返し続ける肉体を一瞬で再生不能まで焼き切る為に開発されたもので、現在でもそれを超える機構は無いとされていた。胸の穴よりも大きく充填された球体を解き放つと、それをフェニックスの飛行音よりも煩いと認識しながら敵の消滅を確認した。


 玄関前に手を振るセシルを見付けると、アンドレアフはにこっと笑った。

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