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第3話 受付のお姉さんに喜んでもらえた

 とても信じられないような光景だが、直後、俺の身に狼の討伐成功を裏付けるかのような現象が起きた。

 体中にとてつもない力が流れ込んでくるような感覚を覚えたのだ。


 人は魔物を討伐した際、魔物の魂の一部を吸収し、それが魔力やフィジカルの強化に繋がる。

 これは研究によって証明された、冒険者にとっての常識だ。

 とはいえ通常、その「力の流入」は知覚できるようなものではない。

 力の流入は、何百体もの魔物を倒してようやく「前とは変わったな」と思えるかどうかといったくらいの微々たるものだからだ。


 だが……ホーンラビットすらまともに倒せなかった者が、あんな見るからに強そうな獣を倒したら、流石に話は別だろう。

 今の感覚は、魔物討伐時の力の流入だと考えて差し支えないはずだ。


 とすると……あの狼は、今はもう死んでいるということになるな。

 全身の蒼いオーラも消えていて、見た目にも生命力を失ってるっぽいし。


 何の偶然かは知らないが、これはラッキーな収穫だ。

 こんなでかい狼を素材換金所で売れば、相当な収入になるぞ。


 絶望に染まり切っていた心が少し軽くなったのを感じつつ……俺は狼の死体を担ぎ上げた。

 そしてその足で、俺は冒険者ギルド併設の素材換金所へと直行した。


 ◇


 素材換金所にて。


「いらっしゃいま……って、ええ⁉」


 建物の中に入ると……俺を目にした受付のリヒネさんが、目を丸くして裏返った声をあげた。


「ね、ネヴィンさん……そ、その狼はいったい?」


 どうやら最初の奇声は、俺が狼を担いで帰ってきたことへの驚きからきていたようだ。

 まあ、そりゃそうなるよな。

 つい昨日までホーンラビットにさえまともに追いつけなかった奴が、いきなり全然格が違う魔物の死体なんか持ってきたら。


 一瞬、俺はどう説明するか迷った。

 事実をそのまま言うなら「討伐した」でいいのだが、流石に信じてもらえないだろうし、最悪何か悪いことに手を出したと疑われるリスクさえあるだろう。

 こんなミラクルはもう二度と起きないだろうし、ここは「既に死んでた奴を拾ってきた」ということにでもしておいた方が無難だろうか。


「たまたま死体を見つけたから、拾ってきたんだ。ラッキーだったよ」


 俺は狼を担いでいない方の手で頭をポリポリと掻きつつ、笑いながらそう言った。

 ……しかし。


「……本当ですか? ネヴィンさん、結構軽々と狼を担いでいるように見えますが……その重量だと、ネヴィンさんの体力なら引きずることもままならないはずです。どうして急にそんなことが可能に?」


 俺の予想とは裏腹に、リヒネさんには「狼ほどの重い物体を担げていること」の方を訝しまれてしまった。


 あ……そう来たか。

「狼を倒せてしまったこと」に気を取られすぎて、あまり深く考えてなかったけど……確かにこれ、かつての俺が持てる重量じゃないや。


 急にこうなった理由と言われれば……どう考えても、狼を倒した際の力の流入しかないよな。

 魔物一体倒しただけでそこまでパワーが変わるなんて聞いたことも無いが、それを言うなら温かみを知覚できるレベルの力の流入の時点で異常だったし、何より他に要因として考えられるものが何もない。


 こうなるなら最初から素直に事実を話しとけば良かったか。


「すまない。本当のことを言うと逆に疑われると思って嘘言っちゃったけど、実は自分で倒したんだ。近くにいた奴を蹴飛ばしたらなぜか次の瞬間死んでて……うん、自分でもあの時何が起きたのかわけが分からないよ。ただ、コイツを運んでこれた理由については、間違いなくあの時の力の流入が原因だ」


 俺は事情を説明し直した。


「そ、そうだったんですね……。それもまた信じがたい話ですが、ネヴィンさんの腕力が狼を担げるまでに上がった事実がある以上、信じるより他ないですね。きっと、普段の行いを神様が見てて、ネヴィンさんに味方してくれたんですよ!」


 すると意外にも、リヒネさんはあっさりと説明を受け入れてくれて、屈託のない笑顔でそう言ってくれた。

 本当に杞憂だったな。

 しかし……普段の行い、か。

 ずっと極貧生活を送ってきたので、それを清貧と捉える人も中にはいるかもしれないが……俺、取り立ててそんな良い行いしてきたっけな?


「俺って神が味方してくれるような生き方してたか?」


「もちろんですよ。ネヴィンさんは他の冒険者と違って、私どもに横柄な態度を取ったり嫌がってるところを無理やり飲みに誘ってきたりしませんからね。こんなお人柄の方こそ実力者であってくれたらいいのにってずっと思ってたので……奇跡かもしれないにしろ、今日の戦果を上げてくださったのがとっても嬉しいです!」


 聞いてみると、リヒネさんは小さくガッツポーズしながらそう熱弁してくれた。


 そこまで言ってもらえるとなんか照れるな……。

 ていうか、ギルド職員も色々と苦労しているんだな。お疲れ様です。


「それじゃ早速、査定に回させていただきますね! こちらへ置いてください!」


 リヒネさんにそう指示されたので、俺は担いでいた狼をカウンター横に置いてあった荷車に乗せた。

 そしてしばらくの間、待合室の椅子に座って結果が出るのを待つこととなった。

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