6 残念令嬢の驚愕。
「ウッソ、何これ?」
「フッフッフ、凄くない? もう俺って超天才でしょ?」
カフェの2階、アルフィーの自宅兼事務所に初めて上がったリリーは大きな姿見の前で自分の姿を思わず二度見した。
「え、何で? どうしてこんなに目がパッチリしてるの? 唇もプルンてして、何か色白に見える! しかも美人!?」
姿見が割れるんじゃないかという勢いで自分の姿を見ようと突っ込みそうな幼馴染みをどうどう、と押し留めるアルフィー。
「ね? 凄くない? リリーは元々顔の造作は整ってるから、ちょっとした工夫でこんなに変わっちゃうんだからさ。なんにもしないのは勿体無いよ」
テーブルの上に広げてあるメイク道具を片付けながら、アルフィーがウィンクをする。
今着ているドレスはアルフィーのクローゼットから、リリーに似合いそうなものを彼が選んだ。
彼によると、今迄着ていたものはリリーにはイマイチ似合わないのだという。
「流行に左右されすぎなのさ。色も形も公爵家のメンツもあるからって最先端のモノをって拘ったらリリーの良いところを台無しにする。リリーには寧ろ古典的でゴージャスなものや体のラインを強調するようなものが似合ってる」
今迄夜会で着ていたようなプリンセスラインのふわふわしたシフォン生地ではなく、どちらかというとカッチリとした光沢のあるシルクタフタで出来上がったトランペットラインのドレスは背の高いリリーにとても似合っていた。
「まあ、このドレスは背の低いちんちくりんには似合わんからな。リリーくらい背丈がないと着こなせないよ。深いグリーンはリリーの肌を白く見せる効果もある」
腰高窓に背を向けて振り返った美女がニンマリ笑う。
「コレなら自分が可愛い、ってか美人だって思えるだろ? ぶっちゃけるとさ、お前くらいの年頃の女の子はみんなこれくらいのメイクはしてるぞ」
「ええ? うそ」
「オマエが天然素材で勝負し過ぎなんだよ」
呆れた様な顔の美女が肩を竦める。
「ええええぇ~」
「胸のある女なんか背中やら腹の肉を寄せて上げてコルセットで閉じ込めて、あるように見せてるだけだよ」
なぜか、はぁ、と溜息をつくアルフィー。
「お母様はそんなことしてないわよ?」
「アレは別格。リリーもコルセットの世話には殆どなってなくてそのスタイルだからな。公爵家の召使いが優秀なんだよ。食事や運動もかなり厳密に管理されてる筈だ」
「そう言われれば・・・」
友人達に比べると、リリーは乗馬や体術、剣技にダンスとかなり忙しいかもしれない、と考える。
一段落したアルフィーがマッチを擦って細い葉巻に火をつけ、それを吸いながら窓の外に煙を吐き出したのを横目でチラリと眺めたリリーは、女装をしているにも関わらず彼が異性なのだと急に意識してドキッとしたが、慌てて目を逸らして忘れることにした。