【7】リリーノヤボウ②
「で? 俺の奥さんは、何で男性給仕の格好で店に出たいのか、教えてくれるかな?」
色気ムンムンの流し目をリリーに向けてニンマリ微笑むアルフィーは彼女のサラサラの黒髪を愛おしげに撫でている。
リリーはそれに答えたくても枕に突っ伏していて、現在腕すら上げられない状態である。
「ちゃんと理由を教えてくれないと、もう一回戦・・・」
「言う、言うからぁ・・・チョットだけ待ってくらさい・・・」
慌てて答えても呂律が回らないリリー・・・
「ん~~、じゃあ、水飲む? あ、それともお腹すいた? 俺は平気だけど」
ううう・・・
『体力オバケ・・・しかも食欲中枢がおかしくない?』
「ん? なんか言った?」
「水くだしゃい・・・出来ればナニか食べたいれしゅ・・・」
ニコニコ顔でリリーの頬に『チュウ~ッ』とキスをしてから
「可愛いなぁ。じゃあなんか持ってくるね~」
と言い残し、ルンルンと寝室から出ていく夫の背中を『多分、丸一日は何も口にしていない筈・・・』と思いながら、横目で見送るリリーである。
×××
そもそも披露宴でうっかり口を滑らした自分がいけないのだ、というのは分かっている。
リリーだって新婚旅行先にまさか知人や両親が付いてくるなんて望んでないし、まさか本当に付いてくるはずがないと『高を括っていた』のだ。
それをまさかこんな形でお仕置き? をされるとは・・・
成人した後はお酒も飲めるようになったがリリーは自主的には飲みたいとも思わなかった為、結婚披露宴でカクテルを飲んだのが正真正銘生まれて初めてで、多分酔っ払いになっていたんだと今なら解る。
「お酒コワイ・・・」
うっかり口を滑らしたせいで何やら不穏な空気を纏ったアルフィーに閨であーんなことやこーんな事をされ続け、枕元の水差しが空っぽになるまで水も飲ませられたのに、未だに声が枯れてるって・・・
「どんだけしたのよおぉ・・・」
立ち上がろうとしても脚が動かない為トイレにも行けずお姫様抱っこで連れて行かれ、身体が汚れたと言われて風呂場に連れて行かれて散々洗われて又そこで・・・
「もうイィ・・・」
穴があったら一昨日の自分を埋めて封印したい・・・何であんなに事細かに口滑らすかな自分。
でも自分を埋めたらアルフィーに掘り起こされるから、酒を埋めよう。そうしよう・・・
「おまたせリリー。サンドイッチ作ってきたよ?」
くだらない事をウダウダ考えているとあっという間に時間が経っていたらしく、サンドイッチと果実水の入ったグラスの載ったトレイを片手で持ったアルフィーが帰って来た。
「ありがとぅ・・・」
と、受け取るためにモゾモゾとベッドから降りようとしたが何故か眼の前に一口大のサンドイッチが差し出され、思わずパクリと彼の指ごと口にするリリー。
因みに起き上がる為にコロリと横に転がっただけでまだ寝そべったままである。
「おいし・・・」
「ンフフ。ブロッコリーとハムのサンドイッチ。好きでしょ?」
ニコニコ笑う美形が見える・・・
「ふあぃ」
ムグムグ口を動かすリリー。
「で? せっかく可愛い女性給仕の制服を作ったのに、何で着ないの? 嫌だった?」
「え?」
「似合ってたのに。気に入らなかったのかな?」
チョットだけ眉を下げたアルフィーの表情に慌てるリリー。
「ちっ、違うよ! アレはすごく気に入ってるの」
「じゃあ、何で?」
「うぅ・・・それは、アルがね、お店に来るお客さんに凄くモテてるのを見てね・・・」
「え? モテてる?」
「年齢関係なくだよ。アルが店のホールを歩くと、皆がジロジロ見てウットリしてるの・・・」
「・・・? わからんけど。で?」
「だからね、私が一緒に働いたらいいんじゃないかって思ったの」
「???」
「自慢じゃないけど男装したら私、女の人にモテるでしょ? だから・・・」
ホイッと口元にサンドイッチを持って来られて又もや思わず食べてしまうリリー。
「うぅ・・・お行儀悪い・・・おいしい・・・」
「つまり、リリーが虫除けになろうとしてたの? 俺のために?」
「うん。ていうか他の人にアルを見られるのがいやだったの。だから私の為? かなぁ・・・」
「あ。焼きもち?!」
そういわれて更に顔が赤くなるリリー。
「うん・・・まぁ・・・」
よしよしと、横になるリリーの頭を撫でるアルフィーにチョットだけムッとして口を尖らせるリリー。
「あ~~、可愛いぃ」
「・・・呆れた?」
「んにゃ、ぜ~んぜん。嬉しいよ」
「・・・う。浅はかでした・・・」
「ま、売り上げは上がるだろうけどね」
「え。じゃあ」
のそり、とリリーは上半身を持ち上げた。




