【3】オウチノコト①
婚姻の儀は大聖堂で行い、披露宴は王宮の大広間を使うという、王族並みの式の全てを終えた二人は王城の見える新規店舗迄やっと帰って来た。
両家の家族だけではなくアガスティヤの派閥の貴族達まで招いた大掛かりな物だった為、二人共が披露宴の最後には若い貴族女性達にもみくちゃにされる寸前で
『リリーお姉様~~、待って~~』とか『ああ、握手を~~』とか『せめて触らせて~~』とか。
いろんな声が聞こえた気がしたが、そんなもの無視で会場から逃げるようにオープンカーに飛び乗って帰って来たのである。
ここの2階が今日からリリー達の新居。
下はまるでレストランのようなサイズのケーキカフェで、スタッフの控室や厨房なども全て1階に揃っていて開店後は結構賑やかだ。
「ねえ、リリー本当にココでいいの? 商社の方も住めるように改装したんだけど・・・」
そう言って挙式前日まで渋っていたのはアルフィーの方だった。
そして今でも微妙な顔である。
×××
「だって、ここ可愛いんだもの。短期間でもいいからここに住んでみたいのッ! お願いアルフィー」
「えぇ・・・」
アルフィーと婚約した当初から彼の戸惑いを他所に店舗の2階に住む気満々のリリーは彼に連日『お願い攻撃』を続けた。
アガスティヤの領地は王家直轄地のすぐ隣の広大な土地で、そこにバカでかい本邸がある。
そしてタウンハウスは公爵や次期公爵の兄が王城に通う為に住んでいるがリリーも学園に通うために住んでいた場所だ。(オフィーリアは公爵にべったりなので当然そこに居る)王都の中の高級住宅街、つまりこのすぐ近くにあるのだが、当然そこもデカい。
そのような豪邸に住み慣れているリリーは侍女やメイドがいることが当たり前の生活しかして来ていなかったのだ。
それに比べれば猫の額か? と言いたくなるようなこの狭い場所へ住むなど無謀すぎると当然アルフィーは慌てた。
そもそも部屋が少ないのだからメイドやコックを雇っても通いになるだろう。
リリーは以前彼が住んでいた様なマンションやアパルトマンのようなお洒落でコンパクトな場所に住んでみたいという願望があったらしく、この様な事を突然言い出したのである。
×××
アルフィーは父親から爵位を受け取った時に伯爵領の土地の一部を与えられる予定だったが、それは取り止めて爵位と伯爵家の別邸とソレに付随する土地だけを貰い受けた。
建物は勿論貴族の屋敷だがそれをそのまま利用して彼は商社を立ち上げる事にしたのだ。
元々海や港も持っている伯爵領に使用料を払う形で実家は潤い、自分は最小の土地建物で領民は抱えていない為その分の責任や税は発生しない。
会社しか無い小さな持ち土地で利益を上げ商社の利益分で必要な税金を賄うやり方は今までの貴族の在り様からするとかなり斬新だったので最初官吏達と揉めたらしいが、国王が法衣貴族や王宮官吏と同じだという見解を示し宰相が許可を出した為その後はトントン拍子で他の貴族の領地にも店舗を広げる事も簡単だった。
他領に関しては借り土地で建物は買い取りや自費建設の場合もあり場所により税金の計算も違うらしいのだが、リリーは伯爵夫人として全てを把握するのは無理だと思って途中で覚えるのはやめてしまった。
余りにも店舗が多すぎるからだ。
国中に店舗があって1つの領地に単純に2店舗は確実にあり、場所によってはもっと多いのだから把握したところで全店舗の視察すら不可能な上、会社経営なのだから素人が手出しするより専門の税理士を雇った方がずっと安全だとあっさり諦めたのだ。
因みにショップの責任者も税理士も会計士も全て公爵家の諜報員なのはお約束だがリリーは当然知らない・・・
さて、そのアルフィーの固定資産でもある元別邸を自分達夫婦が住む家にし、本社を王都の中心街にある新規店舗の2階に持ってくる予定だったアルフィーは最初は驚き反対した。
元々リリーは婚姻と同時に王位継承権は放棄する事になっているが二人の間に子供が生まれればその子供には継承権が発生する。
王族に連なる血筋の子供がケーキショップの2階に住むというのがどうなのかと悩んだ。
まあ、彼の立場からすると悩むのは当たり前といえば当たり前なのだが・・・なんてったってリリーの実家は自分の主家筋なのである。しかも今はまだ諜報のトップの席に就いているのはアルフィーのままだ・・・リリーに内緒だが・・・
その辺りはアルフィーが常識人だったが、リリーがアガスティヤ家らしい斜め上の発想をしただけで・・・
「だって、伯爵夫人の仕事なんてなんにも無いじゃない? だからさ~、ケーキカフェで働かせてよッ!」
「は?」
当然アルフィーの顔が鳩が豆鉄砲食ったようになったのは仕方がない。




