51【最終話】残念令嬢真実の愛を手に入れる。
広間から誰もいない長い廊下に出て、走っていくリリー。
――王宮の中庭って、確かこっちだったような・・・。
リリーは長い間王宮には来ていなかった為、地理に不安があったが幼い頃の記憶を引っ張り出してその場所へと走っていく。
――お茶会のあった中庭には大きなアーモンドの木があって・・・
紺色の燕尾服の裾が翻り、結んでいた髪紐が解けて長い艶のある黒髪が風を孕んで広がり踊る。
幼い頃の記憶の通りアーモンドの木が見えて、風で終わりかけの白い花弁がヒラヒラと舞い落ちる。
足元には緑の芝生。
花壇のアネモネが風で揺れている。
しかしアルフィーの姿は何処にも見当たらない。
「ここの筈なんだけど・・・
あ、もしかして・・・」
赤や黄色や紫のアネモネが揺れる花壇を抜け、奥の林のようになった場所へ進む。
ずっと走ってきたせいで息が苦しくて汗もかく。
思わず首元のネクタイを緩めながら木の枝を避ける。
「あった」
大きな大きな柳の木が何本か固まって更に大きな木の様になっている思い出の中の柳の木だ。
リリーは迷わず、柳の木の下へと四つん這いになり潜り込む。
「アルフィー?」
寝転がって眠っている彼が見えた。
黒い開襟シャツに黒いトラウザーズ。
どう見ても男性の装いなのに金色の巻き毛が芝生にフワリと広がっていて、まるで眠り姫だ。
「アルフィー? 寝てるの? 大丈夫?」
「ん~~・・・
王家も公爵家も人使いが荒いんだよ・・・」
「アルフィー?」
「ん? リリー?」
寝ぼけた彼が両手を伸ばし、リリーの柔らかな頬に触れる。
榛色の瞳が優しげに細められると
「やあ、今日はリアムなんだ・・・」
そう言いながら頬を両手で包み込むとグイッと寝転がっている自分の胸に引き寄せて抱きしめる。
「~~~~ッ!!!」
「可愛いなぁ。
どんな姿でもリリーは可愛いや・・・」
それだけ言うと、両手で彼女の頭を抱きしめたまま再び目を閉じて寝息を立て始めるアルフィー。
「アルフィー?
起きて、あのね婚約破棄したのよ。
もう私自由なの」
「ふう~ん・・・ 婚約破棄?? 誰が」
「私がッ! リリーよ起きてッ」
「え?!」
リリーの頭を胸に抱き込んだまま目をパチリと開けると、
「え、リリー?」
彼女を捕まえていた手を離し、ガバッと飛び起きた。
「わわッ! ゴメン。
ここんとこ国中の修道・・・ じゃない、マトモに寝てなくて・・・
陛下に中庭で待機しろって言われたんだけど、もう限界だったんでちょっと休んでたんだよ・・・」
あわあわと言い訳をしながら顔が赤くなり、耳までどんどんと赤くなっていくアルフィー。
「フフフッ。疲れてたんだね」
そんなに慌てる彼をリリーは初めて見た気がして何だか可愛いと思ってしまう。
「ん~~まあ、ホントに忙しくて。
教会のバザー以来だねリリー。
元気だった?」
リリーは頷きながら胡座をかいたアルフィーの膝の上に手を置いて、
「うん。あのね。耳貸して」
「ん?」
アルフィーのピンク色に染まった耳に口を近づけるリリー。
「アルフィーのお嫁さんにしてくれる?」
「え」
驚いた顔のアルフィーにいたずらっぽく微笑むリリー。
「ルパートとの婚約は無事に破棄できたの。
だから、昔の約束通りアルフィーのお嫁さんにしてくれる?」
「~~~~~ッ!!」
アルフィーがリリーに力いっぱい抱きついた。
「く、苦しい・・・」
「あ。ゴメンよ。つい嬉しくて」
「こんな格好でゴメン。
でも早くアルフィーにプロポーズ? したかったんだ」
えへへと笑うリリーはパタパタと自分の燕尾服に付いた芝生を払う。
「リリーがどんな格好でも、答えは昔から決まってるから大丈夫」
そう言ってアルフィーはもう一度、今度は力を柔らかく抜いてからリリーを抱きしめた。
「一生一緒に居てくれる?
そんで絶対に幸せになろう」
ニカッと笑うアルフィーの笑顔を彼の腕の中から、リリーは見上げて
「うん。アルフィーと一緒だと絶対に幸せにしかなれないから大丈夫!」
明るく笑い合った後で抱きしめあって。
二人は生まれて初めて、愛している人と幸せなキスをした――
了――
『残念令嬢の逆襲~残念とか言われ続けて嬉しいわけがないでしょう?~』
2023.5.14.sun
by. hazuki.mikado
最後までお読みいただきありがとうございます(_ _)
hazuki.mikado
全51話。お読み頂きありがとうございましたッ✧◝(⁰▿⁰)◜✧




