5 残念令嬢、幼馴染みに励まされる。
「まぁ、確かに小さい頃から活発なお子様だったよなオマエ。気が付きゃ木の上に秘密基地だとか言って毛布を引っ張り上げてマーサ(侍女長)に怒られてたり・・・」
「・・・」
「捕まえたザリガニを焚き火で焼いてセバスチャン(侍従長)に怒られたり」
「・・・・」
「乗馬だっつって、鞍も着いてない馬によじ登ろうとしてエヴァンス(護衛騎士団長)に泣かれたり」
「・・・・・」
「どう考えても深窓の御令嬢じゃあなかったよなぁ」
「・・・・・・悪かったわね」
頬をプクッと膨らませて睨むリリーに、困り顔になるアルフィー。
「まぁ、そんなアバウトな生活を許してた公爵家もどうかと思うけど、それを全開で楽しんでたお嬢様が急にドレスを着てお茶会に現れてもさ、一緒になって楽しんでた悪ガキのフィルバート(第3王子)殿下が呆然となっても仕方ないよ。男って阿呆な生き物だからさ急な変化について行けないからな。まぁ『残念』っていうのはお前とお茶会から抜け出して遊ぶ気満々だったから、ついポロッと出たんだろ?」
きれいな顔の上部で眉だけがまるで生き物のように情けない形に動くアルフィー。
「そりゃあ、そのことは大きくなってから説明されたから頭では分かってるけどさ・・・」
そう言って又俯きそうになるリリー。
だって王家の茶会で周りの貴族達に聞こえる様な大声でフィルバートが言ったせいで、嫌な思いを10年以上してきたのである。
許せるかと言われたら、頭で分かっていても気持ちは許したくないというのが本音だ。
「いや、分からんでもいいし、許さなくてもいいんじゃねーの? 第一オマエんとこの一家が揃って10年経った今でも未だに許してね~じゃん」
肩を竦めるアルフィー。
「・・・まぁ、そうなんだけど」
「でさ、思うんだけどぉ~」
急にオネエ口調になったな、と訝しむリリー。
「リリーって今迄お洒落に全然興味無かったの?」
「・・・うーん、興味が無かったわけじゃないのよ」
又、俯き加減になるリリー。
「ただ『残念令嬢』が今更何してるのよって、結局陰口言われて嫌な思いするもの」
「成る程。変化が怖いって事よねえ」
「うん。似合わないって言われるのも嫌だし・・・」
その言葉で、ううんと天井に目をやり考え込むアルフィー。
金色の巻き毛がふわりと動く。
「じゃあさ、ココで変身してみたら? 全然違う人になったら嫌な渾名を言う奴らにも会わないだろ?」
「違う人?」
「オマエ、今の俺を見て幼馴染みのアルフィーってすぐ分かる?」
「あ」
確かに面影は残っていないわけではないが、それはリリーがアルフィーの正体を知っているからだ。
全く知らないまま会えば、きっとすれ違ってもわからないだろう。
「確かに分からないかも・・・」
目の前の美女がニッコリ笑って頷いた。