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48 愚か者達の輪舞曲4

 置かれているベッドやソファー等は、脱走を防ぐ為に床にボルトでガッチリとめられていて動かすことは一切出来ないし、衣装を入れる様なチェストや食事の為のテーブルは置かれていない。


 一見豪華に見えるその部屋には窓は無く、もし小さな電燈の灯火を消されたら真っ暗闇になる。


 そのまま灯りを取り上げられてしまうと暗闇の中に取り残され、気が狂ってしまいそうになるくらい物音さえしない。



 それが貴族牢である。



 その貴族牢の一つに憔悴しきった表情で歳老いた貴族服を着た老人がソファーに座って頭を抱えている。



「だから儂が止めたんじゃ、あれ程手出しはするなと・・・何故耳を貸さんのだ」


「其れは、25年前の事実を知らないからですよ」



 ドアを開けてゆらりと入ってきた特徴のない見た目の青年はその問いに答えながら老人の前に据えてあるもう一つのソファーに座った。



「賢いアガスティヤは手柄を全て隠してしもうた。箝口令を敷いて重鎮達は歴史に蓋をした。だが、貴族たるもの正しい情報を掴む手立てはいくらでもある。それを怠ったのは儂の息子達だ。国王派筆頭とはいえ一公爵家(アガスティヤ)をあれ程までに王家がなんの指図もせず動きを黙認しているのか、考えれば裏があるに決まっておる」


「まあ、国が健康体でいるには病巣は定期的に取り除かなきゃいけませんから」


「そうじゃな。今回は貴族派だっただけじゃ。前回は中立派を装っていた隣国派。これからも国は健康体で存続するじゃろう」



 はぁ~、と重い溜息をついたのはいつぞやの紳士クラブの密会で怒鳴っていた老人だ。



「王家は大した動きをせずに国を動かして豊かさを享受しているだけだと思っているんでしょう。公爵家に下った王族の血を取り込めば、自分達が利権を握ることも出来ると、ね。王家は唯の貴族の代表でしか無い。貴族は平民の代表でしかない。その仕組みを忘れるからおかしな事を始める」


「国が平和で贅沢に馴れると(ロク)な事を考えん若いもんが増えるのは、ちっとも変わらんな」



 頭を抱えたままで苦しそうに話す老人。



「前侯爵閣下。不思議なんですが、どうしてあんな連中のお仲間になったんで?」


「息子がのう・・・気が付いた時は、止められ無いところまで進んでいたんじゃよ」


「ふ~ん、毒喰らわば皿までって感じスかね。もう閣下も爵位譲っちゃってるから権限少ないですもんね」



 肩を竦める青年に視線を向ける老人。



「アレらはどうなる?」



 顔色一つ変えずに、淡々と喋る青年。



「裏王家の姫に直接手出しした連中は島流し。まあ一生猛獣に追っかけられて鍛えても船がないと帰って来れないとこ行きです。その指示をした侯爵は領地取り上げですが、夫婦揃って外交に励んでもらいますよ」



 老人は意外に緩いな、と思ったが



「まあ、行先は敵対国なんで大変でしょうな。人喰いの歴史もある国ですから」


「あそこか・・・」



 顔色が悪くなる。



「そうですね。前任も頑張ってたようですけど席が空になったらしくって。夫人には太らないようダイエットをオススメしといてから送り出すよう指示しときます」


「喰われたのか・・・」


「アッチの王妃の機嫌損ねたっぽいです。旦那は出汁にされたみたいですわ」



 頭を搔く青年。



「・・・」


「姫の教育歪めた伯爵家は、一番重い罪なんで一緒にソレに同行させます。外交官としては伯爵位じゃ役に立たないんで夫婦揃って侯爵夫妻の世話係ですね。アッチは侍従どころか下男や下女も居ないんで。娘は才女っぽいんで通訳くらい出来そうなんで丁度いいでしょう。まあ、世の中連帯責任っていう便利な言葉もありますしね」



 生まれた時から貴族として過ごして来た者が使用人、しかも下男や下女の真似事をするのは、いか程の屈辱だろうか・・・


 侯爵夫妻とて、食人の伝統のある国で正気をいつまで保っていられるのか謎である。



 しかも白人は美味いとまでいう国である・・・



「あちらの国も外交官を喜んで受け入れてくれてる間はお互いに平和なんで。前任は26年生きてましたから、もうちょい頑張って欲しいですねぇ。まあ、人数も多いから期待大ですわ」


「・・・他は?」


「他は姫の裁量ですね~。罪ってほどじゃないけどプライドを傷つけられてきましたからどうするのかは俺等にはわかりませんよ」


「そうか・・・」


「まあこの国、死刑がないんで却って辛いですよねぇ~因みに前侯爵閣下はお咎めらしいお咎めじゃ無いですけど、隠居する土地が変わります」


「其れだけか?」


「辺境伯の隣接地」


「・・・獅子の次は虎の近くか」


「ま、ペラペラ喋られても困るんで。国は、健康で平和で上っ面だけでも善人が多い国がいいんすよ」


「そうじゃな・・・」



 貴族牢に大きな溜息が響く。



「アガスティヤの令嬢が幸せになれるといいがのう」


「あ、大丈夫ッス。ウチのボスがめっちゃ姫を幸せにするんで」



 穏やかな雰囲気の青年が、ニヤッと笑いながらウィンクをした。




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