39 残念令嬢男装が日常になる。
毎日のようにアルフィーのカフェだけでなく招かれたお茶会にも積極的に出向くようになったリリー。
もちろんルパートは婚約解消へのカウントダウン中なので全く同伴しないのがお約束。
そしてリリー本人は男装の麗人として、一人でガンガン出席し始め派閥内では随分有名になってきた・・・
御婦人達や令嬢達のお茶会には、『男装麗人の公爵令嬢リリー』が出席する事が最早派閥貴族としてのステイタス。
それを後押しするかのように『リリー様を愛でる会』だの『リリー様を応援する会』だの『リリーお姉様を語る会』などという怪しい会がアチコチに発足し始めたらしい・・・ゲホゲホ・・・
教会付属の孤児院への奉仕の時も女性であることを子供達に隠すことはやめた。
例の黒髪の男の子は女性であるリリーに負けた事に呆然としていたが、却って真剣に騎士達との鍛錬に取り組むようになった。
女の子達は女性騎士を目指すのが一部ブームになったようで、木剣を握る少女達が増えたらしい。
×××
「心境の変化?」
「うん。もう自分の気持ちを隠すのは止めようって思って。だって刺繍やレース編みばっかりじゃ飽きちゃうし、剣も乗馬も好きだもの。同じ様にドレスもいいけど乗馬服も、タキシードも好きなんだから全部否定しないことにしたの」
屈託なく、そう言うリリーは背負っていた何かを綺麗さっぱり捨てたように明るく笑う。
「昔から木登りも体術の稽古も好きだったわ。一生懸命普通の公爵令嬢らしくとか、立派な侯爵夫人に相応しくならなくちゃって考えて我慢してたのが馬鹿みたいに思えて。それに周りの目をいちいち気にしてたらキリが無いわ」
そう言ってアルフィーの作ったクリームソーダにストローを突っ込むと、サクランボを指で摘んで口に入れるリリー。
「ルパートとの婚約も白紙撤回の申し入れを済ませたわ。陛下への申告も済ませたって兄様が言ってたから、もうすぐ自由になるの」
両手にぐっと力を入れ、握り拳を作るリリー。
「ルパートが何回か面会の申し込みをしてたみたいだけど、全部お断りしてるってお母様も言ってたけど・・・」
「けど?」
「いつも優しいお母様がその話の時は怖い顔になるのよね」
「あ~・・・なるほど・・・」
「きっとルパートの事を怒ってるんだろうなって思って。なんで今まで政略結婚させる為に私を育てたんだって思い込んでたのか、自分でも全然分かんないわ」
肩を竦め眉根を寄せるリリーにアルフィーは頷きながら笑顔を見せる。
リリーの後ろの席に座る常連客がニヤついているのに気が付いてアルフィーが咳払いをした。
「リリー、茶会席での貴族子女達の反応はどうなの?」
「ん? 概ね良好よ。例のケーキカフェと同じできゃーきゃー言う女の子も増えたわね。最近は『残念令嬢』じゃなくて『男装令嬢』って言われてるわね」
「マジでお前、開き直ったな?!」
「『残念』なんかより『男装』の方がずっといいわよ」
首を傾げると、黒髪がサラリと揺れた。
今日も安定の王子様仕様のリリーである。
「そうだ、明日は教会のバザーなの。アルフィーも付き合ってくれる?」
「ん。いいよ、予定空けとくね」
×××
「お嬢様、お帰りなさいませ」
リリーの私室で衣装係達が、一斉にお辞儀をする。
「明日の準備、してくれてるのね。ありがとう」
王子様の如くの甘い微笑みに、若い侍女達が顔を思わず赤くする。
「明日の装いはこちらです」
と一人がトルソーに着せた服をリリーに見せた。
「ん~~、似合うかな?」
リリーが首を傾げると、全員が
「「「「「勿論です!!」」」」
と前のめりになって答えてくれた事に、嬉しくなって微笑むリリー。
「「「「「尊い・・・」」」」」
全員がうっとりした表情になった。




